【完結】聖騎士団長で婚約者な幼馴染に唐突に別れを告げられました。

空月

文字の大きさ
11 / 21

11.声なき誘いに乗りまして。

しおりを挟む


 そうしてまたもエッドの魔術によって移動し、降り立ったのは、エッド曰く、西にある『儀式』の場――と表すのが正しいのかはわからないけれど、その近くだということだった。


「――来ると思っていた」

「来るように仕向けた、の間違いじゃないのかしら。――スヴェン・エルニル・ロード二位魔術師さま?」

 そこでエリシュカたちを静かに佇み待っていたのは、闇に沈む黒色の髪に、星の瞬く夜空のような瞳を持つ、浮世離れした雰囲気を纏った青年だった。

 降り立った瞬間に向けられた第一声に、皮肉で返す。
 二度目の移動なので、魔術の感覚が掴めていてよかったとエリシュカは思う。強気なことを言いながら目を瞑っているのはかなり体裁が悪い。というかとても格好がつかない。


「エリシュカ・アーデルハイド、レーナクロードの婚約者」

「私はもうレナクの婚約者ではないわ」

「だが、レーナクロードは君を慕っている。今も」

「…………」


 目が覚めて、エッドからレーナクロードの動向を――エリシュカに魔術をかけ眠らせ、その間にエリシュカに運命づけられた『国の贄』という役割を『異世界の少女』に肩代わりさせようとしていると推測した瞬間から、わかっていなかったとは言わない。
 けれど、他者に断言されるのは、思っていた以上に衝撃だった。


「……それについては、今は論議するつもりはないわ。貴方も、そんなことを話したくて、私が――私とエッドが、ここに来るように仕向けたのではないでしょう」

「それは肯定する。だが、……いや、後にしよう。そちらの、エッドと呼んだか――彼が『初代王の再来』か?」

「…………エッド、貴方、そんな通り名があったの?」


 何やら後回しにされた話も気になるには気になるが、『初代王の再来』などというご大層な呼び名がエッドにあったらしいことへの疑問が先立った。


「さぁてね。そんな呼ばれ方もしたことがあったかもしれませんし、ないかもしれません」

「どっちなの」

「できればなかったことにしたい感じですかね。買いかぶりもいいところで好きじゃないんで」

「つまり、あったのね。……知らなかったわ」


 エッドというのが偽名、というか仮名であることは知っていたが、そういえばエッドに纏わる噂についてエリシュカは詳しくないのだ。
 まさしくその名の通りの『何でも屋』が存在するらしいという、雲を掴むような噂だけでエッドを探そうとしたくらいである。結局、エッドの方から接触してきたので、それ以上の情報を得る機会も理由もなかった。

 ちなみに『エッド』という名前は、「名前は長生きの代償に喪(な)くした」などと言うので、呼びかけるのに不便だと告げたら、エリシュカの姓名の最初と最後をもじって、じゃあこれで、と言われたのだ。なんとも適当な話だが、残念ながら事実である。


「話を続けていいだろうか」


 つい横道にそれたエリシュカとエッドの会話に、発端となってしまった形のスヴェンが割り込む。
 この人、この場面で続けていいかなんて訊くような人だったのね、とエリシュカは多少スヴェンの印象を改めた。もっと我が道を行く系統だと思っていたのだが、違ったらしい。


「話を促した私が、横道にそれさせてしまってごめんなさい。……ええと、それで、結局貴方はなんで、私たちをここに誘い込んだのかしら」

「ひとつは、『初代王の再来』への興味。古に失われた数多の術を会得し、現代魔術の最高峰を軽々と超える、そういう魔術を使うという、不老不死の『初代王の再来』を見てみたかった」

「……エッド、貴方、不老不死じゃあなかったわよね?」


 なんだか先程の繰り返しのようだと思いながら、エッドを振り仰ぎ訊ねると、肩をすくめて否定される。


「ええ、違いますね。期間限定で死なないふうになってるだけです」

「不老……はどうなの? 貴方、見た目はそれだけど、実際は相応に老いてるの?」

「相応に老いてちゃあ、俺は今頃白骨化してますよ、嬢さん。詳しい説明は面倒なので省きますが、名前と同じで俺の時は喪われてるんですよ。だから逆に、どんな姿にでもなれる」

「ふぅん、そうだったの」

「どうでもよさそうですねぇ、嬢さん。あっちの二位魔術師サンは興味津々ってぇ目をしてますが」


 言われてスヴェンに視線を戻すが、エリシュカの知る限りでの常である無表情と変わらないように見えた。観察力が足りないというか、人生経験の差が原因かもしれない、と思いつつ、エリシュカは当たり障りない言葉を紡ぐ。


「とりあえず、会えてよかった……わね?」


 疑問形になってしまうのも仕方ないだろう。ただ会いたかっただけなのかそうでないのかはともかく、エリシュカには他に向けられる言葉が思いつかなかった。

 気を取り直して、エリシュカは話を続ける。


「ひとつは、って言ったからには、他にも理由があるのよね?」

「肯定だ。もうひとつは、君の在り様に興味があったからだ。エリシュカ・アーデルハイド」


 いまいち真意の掴めない答えに、エリシュカはやや考えた末に問いを重ねた。


「……それは、どういう意味で、かしら?」

「君は己の死という運命を、泣くことも喚くこともなく受け入れたと聞いていた。それが、果たして本当に君の意思なのか、それとも『国の贄』として選ばれたからそうなったのか、気になった」

「それで、私とこうして接触して、何かわかった?」

「いいや。『初代王の再来』は君に随分と過保護らしい。用意していた術は全て破棄された」


 言われ、目線だけでエッドを見遣る。エッドは口の片端だけを上げる性格の悪そうな笑みを返してきた。
 どうやらスヴェンの言うことは事実らしい。過保護かどうかは置いておくが。


「――だが、そうだな。恐らくは、君は自らの意思でそれを受け入れたのだろう。……否、この言い方は正しくはないな。泣くことも喚くことも、無意味であると悟ったから、そうしなかったのだろう」

「どうしてそう思うの?」

「君の瞳が迷っていないからだ。強い意志で成し遂げようとしているのがわかる。だからこそ、君は『初代王の再来』と共にいるのだろう?」

「……魔術師っていうのは、みんなそういうふうに物事を勝手に理解するものなのかしら」

「多少、見えるものは違うらしい。それがどうかしたか、エリシュカ・アーデルハイド」


 エリシュカは溜息を吐きたいのをこらえた。
 スヴェンのような人間はエリシュカの周りにはいなかったので、どうにも会話の勝手が掴めない。


「それと、先程言おうとしたことだが」


 淡々と、スヴェンは先程言いかけた事柄に言及する。やっぱりこの人我が道を行く系で間違ってなかったわね、とエリシュカが考えていることなど露知らず、スヴェンは続けた。


「君には一度、レーナクロードの居ない場で、問うてみたかった」

「何を?」

「レーナクロードが、君を喪うという運命を、諾々と受け入れると本当に思っていたのかを」

「……それは、貴方に答える必要があることかしら」

「それももっともだ。これはただの、レーナクロードの友人である僕の、君への非難といえる」


 つまり、答えを期待してではなく、ただそれを告げることで、エリシュカに考えさせたいということなのだろう。

 今更だ、とエリシュカは思う。
 エリシュカは疾うに自分の身の振り方を選んだし、それにレーナクロードを関わらせないと決めた。

 それは正しいとか間違っているとかそういうものではなかったけれど、その結果として今があるなら――多分、エリシュカは少しだけ失敗したのだ。ただそれだけの話だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...