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第1章 無理やり転校編
第14話 天然ほど厄介なものはない
しおりを挟むとにもかくにも時間が惜しい。
幼馴染み組と浅見さんを適当に宥めてごまかして向かった先。
少しの時間をかけて戻った私を、三笠さんが迎えた。
「あ、お帰り嬢さん。収穫はあった?」
「まあそれなりに。付き合わせてすみません、三笠さん」
幼馴染み組も浅見さんも向かない案内役を三笠さんに頼んだのだ。
「三笠さんお願いします」って言ったときの四人の顔、すごかったな……。
「いーっていーって。あいつらのあんな顔見れただけでお釣りがくるし。あれは傑作だったなー」
思いを馳せていたら、三笠さんもそれを思い返していたようだった。完全に面白がっている。
「……悪趣味ですね」
「あっはは、よく言われる。で、もう戻るわけ?」
「ええ、とりあえずは。……これ以上時間をかけると色々と心配ですし」
残してきた5人は適当になだめすかしたわけだけど、そんなに『待て』はできないだろう。そう思っての言葉に、三笠さんも頷いた。
「それは確かに。じゃあご案内いたしますよ、お嬢さま」
「お願いします――けどそのうすら寒い口調はやめてください」
完全にからかう口調で口にされたそれに目を眇めて抗議する。
三笠さんは目をぱちくりとして、それからちょっと笑った。
「……嬢さん、だんだん遠慮なくなってきたよな?」
「遠慮する必要性を感じなくなってきたので」
三笠さんのような手合いには、遠慮は相性が悪い。経験則で知っているそれを実践しているだけだ。
「ま、いーけど。そんじゃ――」
「あ、いたー!」
戻るか、と言いかけたであろう三笠さんの声に被せて響き渡った元気な声に、思わず顔を見合わせて無言になる。
「……戻るまでもなく向こうから来たな?」
「……そうですね」
そんな会話をしているうちに、響いた声の主以外も現れた。
「なかなか戻ってこないから、迎えに来たよ。危険な目には合わなかった? 主にこいつのせいで」
「なかなかも何も二十分と経ってない上に待っとけって言ったの忘れたのかこの馬鹿。あとその発言は色々と三笠さんに失礼だ」
「でも授業が終わるまでは待ちましたよ。それから探したんですから大目に見てください」
「『戻るまで』待てって注釈付けたの忘れたわけ? 待てもできないのか犬以下かお前ら。――っていうか浅見さん、一体どんな授業をしたらこんなに早く終わるんです。そもそもなに一緒にうろうろしてるんですか」
幼馴染みズとともに当然のごとく現れた浅見さんに水を向けてみれば。
「最初に言ったとおり、作品解説込みの作品鑑賞しただけだよー? ちゃんと興味持ってくれるような題材選んだし」
「興味持ってくれるような題材……?」
なんだろう。なんかそこはかとなくいやな予感が。
「うん。いつも持ち歩いててよかった~」
「なんかすごくヤな予感がするんですが、もしやアレを人目に触れさせたんじゃないでしょうね」
「アレ? どれのこと?」
浅見さんが手に持っていた見覚えのあるスケッチブックをパラパラと見せてくる。そこに描かれているのは、心から認めたくないし見間違いだと思いたかったけれど――私だった。
「――っ出すな開くな空気読めこの天然ー‼」
「怒った顔もいいね女神っ。スケッチしていい?」
「いいわけないでしょう本当空気読んでください、っていうかまさかソレ中身全部見せたんじゃ」
「全部じゃないよ~。奏ちゃんにも怒られちゃうし」
「まあそれなら良……くない全然良くない結局見せてるんじゃないですか何してくれやがってるんです浅見さん」
一瞬安堵したけど、よく考えなくても見せてるのには変わりない。ホントこの人何やってくれてんだろう。
「嬢さん嬢さん、口調乱れてる」
「今そんなことにかかずらってられないんですほっといてください」
三笠さんがつっこんできたけど、口調の乱れなんて些細な問題だ。浅見さんがそのスケッチブックの中身をどれだけ他人に見せたのかが大問題すぎて。
「……これはまた、すっごく動揺してますね」
「オレたちとしては良いもの見れたけどねっ」
「見せてもらったのは1冊分だけだったけど、あれって多分奏さんのコレクションからスケッチ起こしたんだろうね。すごい再現率だったし」
「…………」
「わかりますよレンリ。貰えるものなら貰いたいですよねぇ。羨ましい」
「――詳しいことはわからないけど、お前らがなんかギリギリの発言してんだろうなーってのはわかった」
わちゃわちゃとした会話にも聞き捨てならない言葉が多々含まれていて、本当に何をやってくれてんだ浅見さん……! あと三笠さんの発言も聞き捨てならない。多分に誤解が含まれている気がする。
「待ってください三笠さん、その言い方もしや誤解してませんか。確かにある意味ギリギリの発言ですが。……っていうか何血迷ってるんだお前ら」
「だって君、写真嫌いで昔のってほとんど残ってないから。この際絵でもいいかなって」
「まず何で欲しがるのかがわかんないがいろんな意味で却下だ却下」
却下だが、おそらく概ね幼少時の写真の模写をしたやつしか見てなさそうだという確証が持てたのでちょっと胸を撫で下ろす。
「その人はOKなのに不公平だと思います! 異議ありっ」
「こっちだって事後承諾だったんだっての。これ以上拡散されるのは御免被る。っつーかこれ以上意味のない会話で時間を浪費したくないんだけど」
また本題忘れてるだろうこいつら。いや私も動揺で一瞬とんでたけど。
「意味がない会話だなんてひどいじゃないですか」
「ひどくないし意味ないものは意味ない。せっかくこっちがそれなりに手助けしてさっさとお役御免しようとしてんのに邪魔してんのはお前らだろうがこの鳥頭ども。そもそもの発端意図的に忘れてんのかこの脳みそスッカラカン。次脱線したら問答無用で帰るぞ知り合いも現れたことだしな?」
この話題を引きずりたくもないし本題に戻りたいのでちょっと脅しをまぶしたら、さすがに本気度が伝わったらしく即座に謝罪が返ってきた。
「ごめん」
「すみません」
「ごめんなさいー!」
「……ごめんなさい」
「わあスゲエ見事な手綱さばき。慣れてんなー嬢さん」
「不本意ながら。付き合いは長いですからね。……というわけでもしものときは頼みます、浅見さん」
感心したように言う三笠さんに返しながら、浅見さんにもお願いを通しておく。浅見さんは心得た!とばかりに頷いた。
「帰りのアシになってってことでしょ? いいよ~。ただしそのままウチにお持ち帰りさせてくれるならねっ!」
「誤解どころじゃない爆弾発言は止めてください。これだから天然は」
「でも断らないよね? ギブ&テイクが女神のポリシーだもんね?」
「ポリシーなんて大それたものじゃありませんが。まあいいですよ。今日中に家に帰してさえくれれば」
諸々の意味で浅見さん宅にお泊まりだけは勘弁してほしい。
まあ、常々念押ししていることなので、浅見さんも無理やり押してはこないとわかっているのだけど。
「大丈夫だよ~。女神のご飯食べて女神と一緒に過ごして女神観察したいだけだから!」
「観察とか本人目の前にして言わないでください。いいかげん言葉のチョイスの仕方を学ぶべきだと思います」
「一番しゃべるのがみっちゃんな時点で無理だよ~」
なるほどそれは無理だな。言葉のチョイスがどんどん悪化するばかりだな。
「……納得してしまう自分が嫌ですが、それなら仕方ありません。でもこれ以上ヤツに染まらないでくださいね」
元気よく言う浅見さんにちらつくあの人の影に、これ以上心労を溜めたくない。
私の心からの言葉に、浅見さんは「善処しまーす」ときゃらきゃら笑うばかりだった。
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