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13-獣の自分を…
「ありがとう」
一緒に職員室から出た海斗にお礼を言った。
明日から、またヒートがくる。
番契約を済ませていないカップルが二人で過ごす場合は、学校側に二人そろって申請する事、と、教育委員会で決められている。校内のα達にΩが無理強いされていないか判断し、場合によっては保護施設を紹介される。
そう、法律でそんな風に監視しなければならないほど、ヒート中のΩは搾取されやすいのだ。
教員が複数のαから寸志を貰ってΩを斡旋したという事件まで起きている。幸い、ウチの学校にはそんな腐った教員はいないけれど。
「あの二人、これからヒート休暇だとさ。良いよな、ヤりまくってるだけなのに出席扱い」
私に聞こえる様に、けれど話しかけられない距離を取って男の子が言った。
「寧ろ、毎日授業に出ていてDクラスにいる君が不思議でならない。代返でもさせているのか?ならばテストこそ代理を依頼したほうがいいぞ。効率的な判断をしろ」
屈辱に顔を歪める男の子を尻目に、海斗が私を姫抱きにして言う。
「ハネムーンだな」
きゃあと周囲から歓声があがる。
「………ありがとう」
海斗の胸に顔を埋めて呟く。気にするな、私だけに聞こえる様な小さな声で海斗が返した。
その腕に、一瞬だが力が入った気がしたのは私の願望だろうか。……そうだろう、海斗は私と過ごさない。ただ、私を中傷から守る為に同じ期間学校を休むだけ。
初ヒート明け、海斗は私を迎えにきた。一緒に登校する為に。そして私の手首にある擦過傷を見て眉を顰めた。長袖で隠してはいるものの、動けば見えてしまう事もある。海斗は「我慢しろ」とだけ言って私の手首を歯型が残るほど強く噛んだ。
……ねぇ、我慢しろとは何を?痛み?それとも貴方のその行為に揺れる私の心?
その跡のおかげで、私の初ヒートは割と好意的に受け止められた。海斗にはサディストとか不名誉な認識が広がってしまったけれど。
そして、優実。彼女も動いてくれたらしい。オメ友が濁しながらも教えてくれた。
……一人ではないのだ。
そう、思うのに……
ヒートの前には全てが儚い。
海斗…
身体の奥から押し寄せる熱に、私は布団をかぶって必死に震えていた。
頭の中が霞んで、皮膚が焼けるように熱い。心臓の鼓動がやけに大きく響いて、呼吸もままならない。
――いやだ。いやだいやだ。
『番を求めろ』
『子を産め』
『それが生きる意味だ』
本能が叫ぶ。勝手に体が反応する。
唇を噛み締めても隙間から、うう~と声が漏れる。獣だ、人の皮を被ったケダモノ……。
「……菫、大丈夫か?」
ヒートの波が一時的に引いたのを見計らってダディが入ってくる。
ぐちゃぐちゃになったシーツを男親に見られて居た堪れなくなる。放っておいてとお願いしても、後ろ手に縛ったロープを解かないと身体に悪いからと取り合ってくれないのだ。
拘束具で擦れた手首に軟膏を塗りながら、
ダディがいつもの穏やかな声で続ける。
「ヒートは獣の所業なんかじゃない。これは、菫の体が成長してる証なんだよ」
これが、成長だというなら成長なんてしたくない。
「私、もう耐えられない。自分が気持ち悪い……」
かすれる声でそう言うと、ダディの顔が曇った。静かに息をつき、決断するように立ち上がった。
「……少し待っていて。君に会わせたい人がいる」
入ってきたのは、ダディの友人であり、私も小さい頃からよく知っているβの女性だった。落ち着いた雰囲気の人で、いつも優しく笑っている人。前世の母に似ている人…。
「菫ちゃん、苦しいね。怖いね」
その一言で、胸の奥がぐらりと揺れた。ママ…彼女は泣き出した私を抱きしめてダディに出て行く様に言った。
「……頼んだ…」
ダディがポツリと呟きながら、部屋を出て行った。
「……わたし、獣みたい」
涙声で告げると、彼女は首を横に振った。
「獣だなんて思わないよ。……これはね、菫ちゃんが“菫ちゃんとして生きるために必要なこと”なの。人間の体が、人間として未来を準備してるだけ」
「そんな事ない。人ならこんな狂った様な熱に支配されたりしない」
「獣か…でもね、私たちβ女性にも、身体に抗えない時期はあるの。妊娠のために、毎月生理がある。血が出て痛くて、気分も落ち込んで……それでも、それは生きるための証なの。ねえ、私の生理は気持ち悪い?」
きかれて反射的に叫んだ
「そんなことあるわけない!」
自分でも驚くほど力強い声だった。
生理は、前世の私にもあった。病弱で、入退院ばかりだったけど……それでも生理が来てくれると、私は生きてるんだ、妊娠できる身体なんだって思えた。価値があるんだって思えた。
彼女が私の手を取り、優しく微笑んだ。
「そうでしょう?なら、あなたのヒートも同じよ。生きるために、未来へつなぐために、身体が教えてくれていること。恥じるものじゃない」
「………」
ヒートをまだ完全には受け入れられない。手が伸びる自分が嫌だ。だけど……そう、前世の私が妊娠出来る身体に価値を感じた様に、Ωのこれも許せる日が、来るのかもしれない。
~~~~~~~~~~~
浮上しました、コンちゃん♪
でも、落下させるのが、作者。
次回、ついに……!?
一緒に職員室から出た海斗にお礼を言った。
明日から、またヒートがくる。
番契約を済ませていないカップルが二人で過ごす場合は、学校側に二人そろって申請する事、と、教育委員会で決められている。校内のα達にΩが無理強いされていないか判断し、場合によっては保護施設を紹介される。
そう、法律でそんな風に監視しなければならないほど、ヒート中のΩは搾取されやすいのだ。
教員が複数のαから寸志を貰ってΩを斡旋したという事件まで起きている。幸い、ウチの学校にはそんな腐った教員はいないけれど。
「あの二人、これからヒート休暇だとさ。良いよな、ヤりまくってるだけなのに出席扱い」
私に聞こえる様に、けれど話しかけられない距離を取って男の子が言った。
「寧ろ、毎日授業に出ていてDクラスにいる君が不思議でならない。代返でもさせているのか?ならばテストこそ代理を依頼したほうがいいぞ。効率的な判断をしろ」
屈辱に顔を歪める男の子を尻目に、海斗が私を姫抱きにして言う。
「ハネムーンだな」
きゃあと周囲から歓声があがる。
「………ありがとう」
海斗の胸に顔を埋めて呟く。気にするな、私だけに聞こえる様な小さな声で海斗が返した。
その腕に、一瞬だが力が入った気がしたのは私の願望だろうか。……そうだろう、海斗は私と過ごさない。ただ、私を中傷から守る為に同じ期間学校を休むだけ。
初ヒート明け、海斗は私を迎えにきた。一緒に登校する為に。そして私の手首にある擦過傷を見て眉を顰めた。長袖で隠してはいるものの、動けば見えてしまう事もある。海斗は「我慢しろ」とだけ言って私の手首を歯型が残るほど強く噛んだ。
……ねぇ、我慢しろとは何を?痛み?それとも貴方のその行為に揺れる私の心?
その跡のおかげで、私の初ヒートは割と好意的に受け止められた。海斗にはサディストとか不名誉な認識が広がってしまったけれど。
そして、優実。彼女も動いてくれたらしい。オメ友が濁しながらも教えてくれた。
……一人ではないのだ。
そう、思うのに……
ヒートの前には全てが儚い。
海斗…
身体の奥から押し寄せる熱に、私は布団をかぶって必死に震えていた。
頭の中が霞んで、皮膚が焼けるように熱い。心臓の鼓動がやけに大きく響いて、呼吸もままならない。
――いやだ。いやだいやだ。
『番を求めろ』
『子を産め』
『それが生きる意味だ』
本能が叫ぶ。勝手に体が反応する。
唇を噛み締めても隙間から、うう~と声が漏れる。獣だ、人の皮を被ったケダモノ……。
「……菫、大丈夫か?」
ヒートの波が一時的に引いたのを見計らってダディが入ってくる。
ぐちゃぐちゃになったシーツを男親に見られて居た堪れなくなる。放っておいてとお願いしても、後ろ手に縛ったロープを解かないと身体に悪いからと取り合ってくれないのだ。
拘束具で擦れた手首に軟膏を塗りながら、
ダディがいつもの穏やかな声で続ける。
「ヒートは獣の所業なんかじゃない。これは、菫の体が成長してる証なんだよ」
これが、成長だというなら成長なんてしたくない。
「私、もう耐えられない。自分が気持ち悪い……」
かすれる声でそう言うと、ダディの顔が曇った。静かに息をつき、決断するように立ち上がった。
「……少し待っていて。君に会わせたい人がいる」
入ってきたのは、ダディの友人であり、私も小さい頃からよく知っているβの女性だった。落ち着いた雰囲気の人で、いつも優しく笑っている人。前世の母に似ている人…。
「菫ちゃん、苦しいね。怖いね」
その一言で、胸の奥がぐらりと揺れた。ママ…彼女は泣き出した私を抱きしめてダディに出て行く様に言った。
「……頼んだ…」
ダディがポツリと呟きながら、部屋を出て行った。
「……わたし、獣みたい」
涙声で告げると、彼女は首を横に振った。
「獣だなんて思わないよ。……これはね、菫ちゃんが“菫ちゃんとして生きるために必要なこと”なの。人間の体が、人間として未来を準備してるだけ」
「そんな事ない。人ならこんな狂った様な熱に支配されたりしない」
「獣か…でもね、私たちβ女性にも、身体に抗えない時期はあるの。妊娠のために、毎月生理がある。血が出て痛くて、気分も落ち込んで……それでも、それは生きるための証なの。ねえ、私の生理は気持ち悪い?」
きかれて反射的に叫んだ
「そんなことあるわけない!」
自分でも驚くほど力強い声だった。
生理は、前世の私にもあった。病弱で、入退院ばかりだったけど……それでも生理が来てくれると、私は生きてるんだ、妊娠できる身体なんだって思えた。価値があるんだって思えた。
彼女が私の手を取り、優しく微笑んだ。
「そうでしょう?なら、あなたのヒートも同じよ。生きるために、未来へつなぐために、身体が教えてくれていること。恥じるものじゃない」
「………」
ヒートをまだ完全には受け入れられない。手が伸びる自分が嫌だ。だけど……そう、前世の私が妊娠出来る身体に価値を感じた様に、Ωのこれも許せる日が、来るのかもしれない。
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でも、落下させるのが、作者。
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