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16-妄想か、それとも……
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息が、浅くなる。
心臓が、胸の奥で暴れていた。
どうして。
どうして、こんな時に――。
校庭の片隅、放課後の光が揺れていた。
その中で、少年は無邪気に笑っていた。
風に髪がなびいて、まだ幼さの残る横顔が光を掬う。
「やだ……私、どうして……」
膝が笑う。
吐き気にも似た熱がこみ上げて、
自分の中に潜む“獣”が目を覚ます。
理性が泣いている。
人としての心が、Ωとしての本能に押し潰されていく。
――ああ…化け物みたいだ。違う、化け物、獣だ
小さな背中を見つめながら、ゆっくりと後ずさる。これ以上、この子を汚したくない。妄想だけでも赦されない事なのに、実行してしまったら……!
心臓が悲鳴を上げても、身体が壊れそうでも、彼に触れることだけは、絶対にしてはいけない。
なのに
気がついて!私を見て!腕を伸ばす私……
「いやー!!」
自分の悲鳴で目が覚めた。
乱れて濡れているシーツ。
私が昨日、どれだけケダモノだったかを突き付けられて苦笑した。緊急抑制薬の反動とはいえ……酷いな
どれだけ落ち込んでもお腹は減る。
私が望んだ生とはそういうものなのか。
キッチンに行くとダディがいた
「菫」
返事をしようとしてふとダディのお腹に目がいった。男なのに孕み子を産んだ…。
突然、胃を鷲掴みされてトイレに駆け込んだ。吐くものも無く胃液だけが逆流した。苦しい、気持ち悪い
「菫…」
手が伸ばされる気配に悍ましいさを感じて思わず振り払った。
「触らないで!気色悪い!」
パリン、と陶器の割れる音。驚いたように丸くなる目。床に広がる水…私が口を濯げるように持ってきてくれたのに…。
「あ……」
傷つけた、傷つけた…!
「ご、ごめ…」
言葉が続かずにダディから逃げて自室に籠もった。
この世界では異常な事じゃない。Ωのダディが妊娠するのは当たり前の事なのに!受け入れられない私の方が変なのだ。私の方がこの世界において異物なのだ。
「帰りたいよ……ママ…」
ベッドの下で膝を抱えていると優実がやってきた。私を心配してダディが呼んだのだろう。けれど…私はより絶望した。
誰も、この異常さを分かってくれない。
ペドフィリア(幼児性愛)は、悪だ。私には嫌悪感しかない。
『運命なのだから、そういうものでしょう?』
何を言っているの?
前世では、ペドフィリアはGPS管理される程の事だった。地域社会に公表され監視される。当然だ。まだ個として確立してない子供への性的接触を、純粋な愛情だとか相手も望んでいるなんて、都合の良く解釈する輩だ。吐き気がする
なのに、この世界では認められるの?
『何人もの幼児αにだったら問題だけど、運命だよ?その人限定だよ?』
ああ…
私は異物だ。
この世界において私の価値観の方が狂っているのだ。狂っている私なんて……
『死なないで!ママをおいていかないで!』
『生きて生きて生き抜いてよ!』
ママ達の声が聞こえる。
分かってる、今の生は親より先に死んだ私への罰。生きなきゃ…
でも……ねぇ、私が狂っているなら、この声も私の妄想なの?
『コンちゃん頑張って!大学行くんでしょ!?』
そうだよ……
リビングのドアの隙間からダッドの声がした。
「京極家から招待状が届いた。30歳未満の未契約Ωまたは13才未満の子供がいる良家に声をかけているらしい」
……京極家。優秀なα一族で、世界的にも有名な京極ホールディングスを所有している。初めてCMを見た時は、小説で読んだ極悪αが経営している会社名と同じだから驚いた。けれど、それを言い出したらきりが無い事に気がついた。だって、前世で見た会社名なんて腐る程ある。
「婚約者を確定させるため?長男は幾つになったんだっけ?」
「ああ、運命と出会えるなら早いにこした事は無いからな。確か5歳位だったかな…」
吐き気がする。幼稚園児に成人Ωをあてがうと?それを平然と話す両親が嫌でしょうがない。
「長男が運命に出会っていたら、こんな呑気な事はしない。ならば、菫の運命は京極ではない。それなら、ウチは不参加で良いだろう。……菫の運命は、誰だか聞いたか?」
「分からない。優実ちゃんも教えてくれなかった」
……優実、黙っていてくれたんだ。私の葛藤は誰にも共感はされない。だから同じΩのダディには伝えていると思ってた…。
「九頭君が、『菫さんの運命のαは僕より上です』と言ってヒートの相手もしてくれなかった位だから、だから京極貴嗣かとも思って不安だったのだけど、この招待状にのお陰で安心したね。あんな魑魅魍魎のところに嫁入りしたら大変だ」
……え?
京極貴嗣?
京極という姓は今世でもレアだ。
それこそ、3万人集めたら一人いる、それくらいレアな姓だ。それなのに、京極貴嗣?
箱アル?
………ついに私は本格的に狂ってしまったのだろうか。
この世界が、小説の中の世界だなんて、そんな馬鹿な事を考えてしまう位、狂ったのか。
自分がΩという事を受け入れられないから、前世だのなんだのとそんな風に言っているのか。死ぬ勇気を持ち合わせてないから妄想のママを作り出して死なないでと言っているのか……。
心臓が、胸の奥で暴れていた。
どうして。
どうして、こんな時に――。
校庭の片隅、放課後の光が揺れていた。
その中で、少年は無邪気に笑っていた。
風に髪がなびいて、まだ幼さの残る横顔が光を掬う。
「やだ……私、どうして……」
膝が笑う。
吐き気にも似た熱がこみ上げて、
自分の中に潜む“獣”が目を覚ます。
理性が泣いている。
人としての心が、Ωとしての本能に押し潰されていく。
――ああ…化け物みたいだ。違う、化け物、獣だ
小さな背中を見つめながら、ゆっくりと後ずさる。これ以上、この子を汚したくない。妄想だけでも赦されない事なのに、実行してしまったら……!
心臓が悲鳴を上げても、身体が壊れそうでも、彼に触れることだけは、絶対にしてはいけない。
なのに
気がついて!私を見て!腕を伸ばす私……
「いやー!!」
自分の悲鳴で目が覚めた。
乱れて濡れているシーツ。
私が昨日、どれだけケダモノだったかを突き付けられて苦笑した。緊急抑制薬の反動とはいえ……酷いな
どれだけ落ち込んでもお腹は減る。
私が望んだ生とはそういうものなのか。
キッチンに行くとダディがいた
「菫」
返事をしようとしてふとダディのお腹に目がいった。男なのに孕み子を産んだ…。
突然、胃を鷲掴みされてトイレに駆け込んだ。吐くものも無く胃液だけが逆流した。苦しい、気持ち悪い
「菫…」
手が伸ばされる気配に悍ましいさを感じて思わず振り払った。
「触らないで!気色悪い!」
パリン、と陶器の割れる音。驚いたように丸くなる目。床に広がる水…私が口を濯げるように持ってきてくれたのに…。
「あ……」
傷つけた、傷つけた…!
「ご、ごめ…」
言葉が続かずにダディから逃げて自室に籠もった。
この世界では異常な事じゃない。Ωのダディが妊娠するのは当たり前の事なのに!受け入れられない私の方が変なのだ。私の方がこの世界において異物なのだ。
「帰りたいよ……ママ…」
ベッドの下で膝を抱えていると優実がやってきた。私を心配してダディが呼んだのだろう。けれど…私はより絶望した。
誰も、この異常さを分かってくれない。
ペドフィリア(幼児性愛)は、悪だ。私には嫌悪感しかない。
『運命なのだから、そういうものでしょう?』
何を言っているの?
前世では、ペドフィリアはGPS管理される程の事だった。地域社会に公表され監視される。当然だ。まだ個として確立してない子供への性的接触を、純粋な愛情だとか相手も望んでいるなんて、都合の良く解釈する輩だ。吐き気がする
なのに、この世界では認められるの?
『何人もの幼児αにだったら問題だけど、運命だよ?その人限定だよ?』
ああ…
私は異物だ。
この世界において私の価値観の方が狂っているのだ。狂っている私なんて……
『死なないで!ママをおいていかないで!』
『生きて生きて生き抜いてよ!』
ママ達の声が聞こえる。
分かってる、今の生は親より先に死んだ私への罰。生きなきゃ…
でも……ねぇ、私が狂っているなら、この声も私の妄想なの?
『コンちゃん頑張って!大学行くんでしょ!?』
そうだよ……
リビングのドアの隙間からダッドの声がした。
「京極家から招待状が届いた。30歳未満の未契約Ωまたは13才未満の子供がいる良家に声をかけているらしい」
……京極家。優秀なα一族で、世界的にも有名な京極ホールディングスを所有している。初めてCMを見た時は、小説で読んだ極悪αが経営している会社名と同じだから驚いた。けれど、それを言い出したらきりが無い事に気がついた。だって、前世で見た会社名なんて腐る程ある。
「婚約者を確定させるため?長男は幾つになったんだっけ?」
「ああ、運命と出会えるなら早いにこした事は無いからな。確か5歳位だったかな…」
吐き気がする。幼稚園児に成人Ωをあてがうと?それを平然と話す両親が嫌でしょうがない。
「長男が運命に出会っていたら、こんな呑気な事はしない。ならば、菫の運命は京極ではない。それなら、ウチは不参加で良いだろう。……菫の運命は、誰だか聞いたか?」
「分からない。優実ちゃんも教えてくれなかった」
……優実、黙っていてくれたんだ。私の葛藤は誰にも共感はされない。だから同じΩのダディには伝えていると思ってた…。
「九頭君が、『菫さんの運命のαは僕より上です』と言ってヒートの相手もしてくれなかった位だから、だから京極貴嗣かとも思って不安だったのだけど、この招待状にのお陰で安心したね。あんな魑魅魍魎のところに嫁入りしたら大変だ」
……え?
京極貴嗣?
京極という姓は今世でもレアだ。
それこそ、3万人集めたら一人いる、それくらいレアな姓だ。それなのに、京極貴嗣?
箱アル?
………ついに私は本格的に狂ってしまったのだろうか。
この世界が、小説の中の世界だなんて、そんな馬鹿な事を考えてしまう位、狂ったのか。
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