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15-ダイヤモンドみたいな人…優実
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カフェへと移動していると、菫ちゃんのお母様から連絡が入った。
菫ちゃんは母親の事をダディと呼ぶ。Ω男性が子を成した時の呼び方は、お母さんとかお父さん(その場合ツレは大抵親父)とかダディとか、とにかく家庭それぞれなのだ。
『菫が突然ヒートになりました。車を用意するから菫を保護してほしい。地図をおくります』
慌てて向かえば、菫ちゃんがボタボタと汗をかきながら何とか歩いている状態だった。とにかく安全な所に避難しなければと、駆け寄って肩を貸す。九頭君のマーキングなんてヒート時のフェロモンにかきけされてお守りにもなりはしないのだから。
電話で指示を受けながら車へとたどり着いた。
安堵したのだろう、「ママ…帰りたいよ…」そう呟いて菫ちゃんが意識を失った。
後部座席に菫ちゃんを寝かせ私は助手席に座る。菫ちゃんの家までは30分弱。速効性抑制薬の副反応が出始める前に何とか着く、はずだ。
時計を睨んでいると、後ろから力なく「まま…」と菫ちゃんの声が聞こえてくる「もう許して」「帰りたい…」
菫ちゃんのこんなにもか細い声は初めて聞いた。
いつも凛としている菫ちゃん。
誰かを護りつつも、その手が微かに震えている事に気付いているのは私と九頭君位だろう。
ママ、もう許して、か。
菫ちゃんのお母さんが厳しいイメージはない。さっきだってパニックりながらも、『菫をよろしくお願いします』と電話越しでも土下座しているのではと思える位の様相だった。何の赦しを乞うているのだろう…。
やがて、菫ちゃんの家が見えてきた。車で玄関前まで行くと、菫ちゃんのお母さんが待っていた。
「ありがとう」
菫ちゃんを抱きあげて寝室へと直行する。同じΩだから、この後の副作用の発現まで時間がない事もお互い分かっている。だから、お辞儀だけして去る。私に謝辞をのべる時間すら勿体ない。
そして、翌日、菫ちゃんのお母さんに家へと招かれた。
お母さんは昨日以上に憔悴していた。
「私が伺うのが筋なのですが…今の菫からは目が離せなくて…。突然ヒートが起きてしまった事にショックを受けているんです。俺には……Ωでも男の俺には顔もあわせてくれなくて…優実さん、菫と話して貰えませんか?俺は……菫の力になれない。情けない親だ…」
涙を流すお母さんがあまりにも気の毒だった。
「そんな事はありません!昨日、菫ちゃんは車の中でママ助けてって言ってました!」
そう言うと、お母さんは、「そう……」と力なく呟いた。そして俯いたまま私を菫ちゃんの部屋に案内してくれた。
「菫ちゃん…」
ベッドの下、膝を抱えて座り込んでいる菫ちゃんが顔を上げた。
ドキリとした。
たった1日で人はこんなにも変わるのか。
窶れた、そう思う一方で、怖い程綺麗だと感じた。
……たった一日で退いたヒートは、通常のモノでない事位わかる。無理矢理引き起こされたものだ。それが薬物なのかそれとも…運命なのか。犯罪なのか偶然なのか判断がつかなかったから菫ちゃんのお母さんは私を呼んだのだろう。犯罪ならば一刻も早く警察に届け出なければ、犯人に証拠隠滅や再犯の時間を与えてしまう。
でも…菫ちゃんのこの変化は犯罪ではおきえない。菫ちゃんは運命に出会ったんだ!出逢う確率は隕石に当たるより低いとされる運命の人に…!
「優実……」
涙が頬を伝う。美しい…。
「運命の人に出会ったんだね」
「うん…小学生だった」
「?うん」
何で泣いてるの?
運命のαに出会ったんでしょ?Ωにとって夢のような事だ。αは複数の番を持てるのに、Ωは違う。現在がラブラブでも未来永劫愛情が続くとは限らない。そして噛まれたのにもかかわらず捨てられたら、いずれヒートの苦しみで心身を病む。けれど…αが運命のΩを棄てる事はない、何にかえても守ろうとする。それが、九頭君ですら遠慮する程の高位αならもうΩは安泰だ。
「小学生だよ?小学生に会ってヒート起こしたんだよ」
「?運命でしょ?未契約のαとΩだったらヒートになるよ?え?」
菫ちゃんの言いたい事がわからない。運命と出逢うと脳内で祝福のベルが鳴る。二人は神々から祝われ、祝福の子を得るのだ。
「子供相手に発情したのよ!?異常者よ!?」
「?βならそうだけど、運命だよ?本能が求めあうんだよ?」
信じられない、そんな目で見られた。
失敗した
そうだった、菫ちゃんはまだバースを受け入れられてないんだ。
「もう……こんな世界から消えてしまいたい…」
余りにもか細い声で、ドキリとした。
「す、菫ちゃん…」
Ωの自殺率は他のバースよりも数倍高い。
ポッキリと折れてしまった菫ちゃんは……
「大丈夫、自殺はしないよ…これが私の罰だから…」
菫ちゃんが淡く笑った。
「来てくれてありがとう。でも、一人でいたいんだ」
「……分かった」
ドアを閉める時、「まま…」と菫ちゃんの呟きが聞こえた。
リビングに行くとすみれちゃんのお母さんが立ったり座ったりをくり返していた。気になって部屋に行こうか迷っていたのだろう。
『ママ、許して…』
昨日、菫ちゃんが車の中で呟いてた。こんなにも菫ちゃんを心配する人が罰などを与えるはずがない。詳しい事はわからないけれど、菫ちゃんの言うママは私の目の前にいるこの人のことではないのだ。知らなかったとはいえ、私の先程の一言はこのひとを傷つけたろう…。
「すみれちゃんは自殺はしないと言っていました。だから…見守ってくれる人をつけて下さい」
自殺はしないと言っていた。つまり、自殺でなければいいのだ。自ら殺されに行くのも自殺になるが、駅のホームの端を歩いていてそして誰かにぶつかられて落下する分には自殺にはならない……
菫ちゃんのお母さんが頷いた。
「ありがとう、その言葉だけで少し安心しました」
淡く笑う様子に菫ちゃんが重なった。
「うん!俺がしっかりしないとな!」
自分の頬を軽く叩いて気合いを入れるお母さん。菫ちゃんもよくやる仕草だ。
凹んでも笑みを浮かべ皆を導く菫ちゃん。誰よりも輝いて、その輝きに魅せられて私達はついていってた。
でも……脆い人だったのだ。
まるでダイヤモンドみたい。
誰よりも強く輝き、硬く、けれど脆い人……。
~~~~~~~~
BL祭のエントリ締切が近い……。
更新がままならなさそうだけど、エントリーするかどうするか……悩みますなぁ。
菫ちゃんは母親の事をダディと呼ぶ。Ω男性が子を成した時の呼び方は、お母さんとかお父さん(その場合ツレは大抵親父)とかダディとか、とにかく家庭それぞれなのだ。
『菫が突然ヒートになりました。車を用意するから菫を保護してほしい。地図をおくります』
慌てて向かえば、菫ちゃんがボタボタと汗をかきながら何とか歩いている状態だった。とにかく安全な所に避難しなければと、駆け寄って肩を貸す。九頭君のマーキングなんてヒート時のフェロモンにかきけされてお守りにもなりはしないのだから。
電話で指示を受けながら車へとたどり着いた。
安堵したのだろう、「ママ…帰りたいよ…」そう呟いて菫ちゃんが意識を失った。
後部座席に菫ちゃんを寝かせ私は助手席に座る。菫ちゃんの家までは30分弱。速効性抑制薬の副反応が出始める前に何とか着く、はずだ。
時計を睨んでいると、後ろから力なく「まま…」と菫ちゃんの声が聞こえてくる「もう許して」「帰りたい…」
菫ちゃんのこんなにもか細い声は初めて聞いた。
いつも凛としている菫ちゃん。
誰かを護りつつも、その手が微かに震えている事に気付いているのは私と九頭君位だろう。
ママ、もう許して、か。
菫ちゃんのお母さんが厳しいイメージはない。さっきだってパニックりながらも、『菫をよろしくお願いします』と電話越しでも土下座しているのではと思える位の様相だった。何の赦しを乞うているのだろう…。
やがて、菫ちゃんの家が見えてきた。車で玄関前まで行くと、菫ちゃんのお母さんが待っていた。
「ありがとう」
菫ちゃんを抱きあげて寝室へと直行する。同じΩだから、この後の副作用の発現まで時間がない事もお互い分かっている。だから、お辞儀だけして去る。私に謝辞をのべる時間すら勿体ない。
そして、翌日、菫ちゃんのお母さんに家へと招かれた。
お母さんは昨日以上に憔悴していた。
「私が伺うのが筋なのですが…今の菫からは目が離せなくて…。突然ヒートが起きてしまった事にショックを受けているんです。俺には……Ωでも男の俺には顔もあわせてくれなくて…優実さん、菫と話して貰えませんか?俺は……菫の力になれない。情けない親だ…」
涙を流すお母さんがあまりにも気の毒だった。
「そんな事はありません!昨日、菫ちゃんは車の中でママ助けてって言ってました!」
そう言うと、お母さんは、「そう……」と力なく呟いた。そして俯いたまま私を菫ちゃんの部屋に案内してくれた。
「菫ちゃん…」
ベッドの下、膝を抱えて座り込んでいる菫ちゃんが顔を上げた。
ドキリとした。
たった1日で人はこんなにも変わるのか。
窶れた、そう思う一方で、怖い程綺麗だと感じた。
……たった一日で退いたヒートは、通常のモノでない事位わかる。無理矢理引き起こされたものだ。それが薬物なのかそれとも…運命なのか。犯罪なのか偶然なのか判断がつかなかったから菫ちゃんのお母さんは私を呼んだのだろう。犯罪ならば一刻も早く警察に届け出なければ、犯人に証拠隠滅や再犯の時間を与えてしまう。
でも…菫ちゃんのこの変化は犯罪ではおきえない。菫ちゃんは運命に出会ったんだ!出逢う確率は隕石に当たるより低いとされる運命の人に…!
「優実……」
涙が頬を伝う。美しい…。
「運命の人に出会ったんだね」
「うん…小学生だった」
「?うん」
何で泣いてるの?
運命のαに出会ったんでしょ?Ωにとって夢のような事だ。αは複数の番を持てるのに、Ωは違う。現在がラブラブでも未来永劫愛情が続くとは限らない。そして噛まれたのにもかかわらず捨てられたら、いずれヒートの苦しみで心身を病む。けれど…αが運命のΩを棄てる事はない、何にかえても守ろうとする。それが、九頭君ですら遠慮する程の高位αならもうΩは安泰だ。
「小学生だよ?小学生に会ってヒート起こしたんだよ」
「?運命でしょ?未契約のαとΩだったらヒートになるよ?え?」
菫ちゃんの言いたい事がわからない。運命と出逢うと脳内で祝福のベルが鳴る。二人は神々から祝われ、祝福の子を得るのだ。
「子供相手に発情したのよ!?異常者よ!?」
「?βならそうだけど、運命だよ?本能が求めあうんだよ?」
信じられない、そんな目で見られた。
失敗した
そうだった、菫ちゃんはまだバースを受け入れられてないんだ。
「もう……こんな世界から消えてしまいたい…」
余りにもか細い声で、ドキリとした。
「す、菫ちゃん…」
Ωの自殺率は他のバースよりも数倍高い。
ポッキリと折れてしまった菫ちゃんは……
「大丈夫、自殺はしないよ…これが私の罰だから…」
菫ちゃんが淡く笑った。
「来てくれてありがとう。でも、一人でいたいんだ」
「……分かった」
ドアを閉める時、「まま…」と菫ちゃんの呟きが聞こえた。
リビングに行くとすみれちゃんのお母さんが立ったり座ったりをくり返していた。気になって部屋に行こうか迷っていたのだろう。
『ママ、許して…』
昨日、菫ちゃんが車の中で呟いてた。こんなにも菫ちゃんを心配する人が罰などを与えるはずがない。詳しい事はわからないけれど、菫ちゃんの言うママは私の目の前にいるこの人のことではないのだ。知らなかったとはいえ、私の先程の一言はこのひとを傷つけたろう…。
「すみれちゃんは自殺はしないと言っていました。だから…見守ってくれる人をつけて下さい」
自殺はしないと言っていた。つまり、自殺でなければいいのだ。自ら殺されに行くのも自殺になるが、駅のホームの端を歩いていてそして誰かにぶつかられて落下する分には自殺にはならない……
菫ちゃんのお母さんが頷いた。
「ありがとう、その言葉だけで少し安心しました」
淡く笑う様子に菫ちゃんが重なった。
「うん!俺がしっかりしないとな!」
自分の頬を軽く叩いて気合いを入れるお母さん。菫ちゃんもよくやる仕草だ。
凹んでも笑みを浮かべ皆を導く菫ちゃん。誰よりも輝いて、その輝きに魅せられて私達はついていってた。
でも……脆い人だったのだ。
まるでダイヤモンドみたい。
誰よりも強く輝き、硬く、けれど脆い人……。
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更新がままならなさそうだけど、エントリーするかどうするか……悩みますなぁ。
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