渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 銀光一閃、とっさに宙を走る剣光に自分のそれをぶつける。重い、単に鉈の重量の問題ではなく、舞いの動きを利用することで体重そのものを一撃に“乗せて”いた。
 攻撃を見舞った菊と同程度以上に態勢を崩される。平太の背中には冷や汗がつたっていた。相手は女と侮る心持ちがすこしもなかったといえば嘘になる。しかも、閃、閃、閃と立てつづけに銀光が襲ってきた。
 あまり刃を合わせると鉈に刀身をへし折られてしまうため、体捌きで必死になって平太は攻撃を躱す。
 その間になんとか間隙を見い出し、一閃を送った。足を薙ぐ一撃だ。
 疾風(はやて)と化して、敵は遠ざかる。人としての重量をそなえているのかが疑いたくなるような動きだ。
 こりゃあ完全に兵法の足運び――平太は胸のうちで呻く。自分が手に入れられなかった技術だ。
「どうだい、神楽流拳法は? 神への奉納の舞いから編み出されたこの兵法、侮れたもんじゃないだろう」
 菊の言葉に皮肉を返す余裕は今の平太にはない。
 日の本でもっとの古い鹿島の太刀もまた、軍神への奉納の舞いから生みだされたという。ならば、菊の修めたような流儀があっても不思議ではなかった。問題は、
 強い、まことの静御前よりもあるいは――。
 と思わせる業前だ。
「兄ちゃん」
 そこに源太郎丸の緊張した声が届く。
 危険を承知で、そちらに目を向けると集落の家屋の陰から無数の破落戸たちがわき出てきたのが見えた。手には各々、手槍をたずさえている。当世、無宿が槍を携えることもめずらしくはないが、揃って長柄をにぎっているのは面妖だった。
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