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四
金清は街道に人影を認めた。
片方がもう片方に肩を貸した双子だ。腰に剣を帯びていた。金清は走者だと読んだ。
走っているとあっという間に距離が縮む。
すれ違う瞬間、金清は足を止めた。
紫電一閃、旋回する動きで足を引きずるほうの首を薙いだ。
肩を貸している方が瞠目する。他方、首から血を噴いたほうが前のめりになる。後者が枷となり、もう一方が身動きできない。
刺突、金清は軽く開かれた相手の口に刀身を送った。
そのまま、背骨まで刺す。
貫かれた女人が痙攣し、双子の姉から妹から手を離した。結果、骸と化したふたりがほぼ同時に、前のめり、後ろに仰け反って倒れる。
残身、ふたりが反撃しないのを確認し、金清は手前のほうの骸の着物で刀身の血を拭って鞘に納めた。
「貴殿、なにゆえにその女子(おなご)を斬った?」
街道脇の巨木の影から人影が現れる。
ふむ、と金清は目を細めた。気配を感じなかった――こんな経験、初めてだ。
「視野に入った邪魔者だから斬った」
近づいてくる法師を注視しながら金清は告げる。
「されど、なんの手出しもしなかったではないか」
「なれど、邪魔者だった」
金清の言葉に、法師が眉をひそめた。
「なぜ、貴殿は人を殺める?」
ふむ、と金清は片眉をひそめる。
「よかろう、教えてやろう」
「ああ、教えてくだされ」
法師が三間と少し距離を置いて首肯した。
「こちは元はもののふの生まれだったという」
これは幼い時分に母に聞いた、と告げる。
「母はこちの元服を待たずして鬼籍に入った。なれど、父がいた。実の父ではないが、戒律を破ってまで母とともにこちを元に置いてくれた法師がいた」
「それで」
法師が神妙な声で話をうながした。
「こちが元服の歳、寺に盗人が入った。法師は殺された。こちは寺から遠ざかる盗人を見送り、そして寺で住職が倒れているのを目にした」
幾度も斬られた惨い姿だった、と金清は声をかすかに低める。
「それで悟った。善行など無意味だと。殺す側と殺される側に立つなら、殺す側に立つのほうに利がある」
爾来、剣の腕を鍛えてきたのだ、と告げた。
「それを悪鬼の所業、ともうすと承知しておるか?」
法師が表情を厳しくする。
「かもな」
金清は白く歯を見せて笑った。
「仏罰に処されるぞ」
「やってみろ」
法師の低い声に、金清は傲岸不遜にこたえる。
刹那、法師が迅影と化した。
片手で杖を突き出す。と同時に、仕込み杖の腰刀を抜いた。
金清は半身になって初撃を交わす。
とたん、二の太刀、仕込み杖の刃がきた。袈裟斬りの一線に、同じ軌道で斬撃を返す。
瞬間、法師の身勢が崩れる。
それでも仕込みの鞘を逆袈裟にふるった。
苦し紛れ――金清は相手の懐に踏み込んだ。法師の首を鍔元で掻き切る。
「愚禿が死ぬ番が訪れたか」
法師が苦笑を浮かべ、倒れた。
その表情は安堵しているように見える。
「そのうち、こちも番が回るだろうな」
殺す側に回ったところで、いつかは寿命や病で死ぬ。
それを理解したところで、他に身の処しようもない。
この当時、生きる意味など、宗教者でもなければ大抵の人間は考えなかったろうが、金清はそのことを考えることはある。
女を抱くまえに、極上の酒食のためか。
だが、いくら快楽を得ようと金清の“空白”は埋められない。
きっと、それは埋めようのないものだ。
土器が欠けたら元通りにはならないように、牛われてしまった。
なれば、ただ生きるのみ――そして、殺すのみだ、金清は走りを再開する。
● ● ●
金清は街道に人影を認めた。
片方がもう片方に肩を貸した双子だ。腰に剣を帯びていた。金清は走者だと読んだ。
走っているとあっという間に距離が縮む。
すれ違う瞬間、金清は足を止めた。
紫電一閃、旋回する動きで足を引きずるほうの首を薙いだ。
肩を貸している方が瞠目する。他方、首から血を噴いたほうが前のめりになる。後者が枷となり、もう一方が身動きできない。
刺突、金清は軽く開かれた相手の口に刀身を送った。
そのまま、背骨まで刺す。
貫かれた女人が痙攣し、双子の姉から妹から手を離した。結果、骸と化したふたりがほぼ同時に、前のめり、後ろに仰け反って倒れる。
残身、ふたりが反撃しないのを確認し、金清は手前のほうの骸の着物で刀身の血を拭って鞘に納めた。
「貴殿、なにゆえにその女子(おなご)を斬った?」
街道脇の巨木の影から人影が現れる。
ふむ、と金清は目を細めた。気配を感じなかった――こんな経験、初めてだ。
「視野に入った邪魔者だから斬った」
近づいてくる法師を注視しながら金清は告げる。
「されど、なんの手出しもしなかったではないか」
「なれど、邪魔者だった」
金清の言葉に、法師が眉をひそめた。
「なぜ、貴殿は人を殺める?」
ふむ、と金清は片眉をひそめる。
「よかろう、教えてやろう」
「ああ、教えてくだされ」
法師が三間と少し距離を置いて首肯した。
「こちは元はもののふの生まれだったという」
これは幼い時分に母に聞いた、と告げる。
「母はこちの元服を待たずして鬼籍に入った。なれど、父がいた。実の父ではないが、戒律を破ってまで母とともにこちを元に置いてくれた法師がいた」
「それで」
法師が神妙な声で話をうながした。
「こちが元服の歳、寺に盗人が入った。法師は殺された。こちは寺から遠ざかる盗人を見送り、そして寺で住職が倒れているのを目にした」
幾度も斬られた惨い姿だった、と金清は声をかすかに低める。
「それで悟った。善行など無意味だと。殺す側と殺される側に立つなら、殺す側に立つのほうに利がある」
爾来、剣の腕を鍛えてきたのだ、と告げた。
「それを悪鬼の所業、ともうすと承知しておるか?」
法師が表情を厳しくする。
「かもな」
金清は白く歯を見せて笑った。
「仏罰に処されるぞ」
「やってみろ」
法師の低い声に、金清は傲岸不遜にこたえる。
刹那、法師が迅影と化した。
片手で杖を突き出す。と同時に、仕込み杖の腰刀を抜いた。
金清は半身になって初撃を交わす。
とたん、二の太刀、仕込み杖の刃がきた。袈裟斬りの一線に、同じ軌道で斬撃を返す。
瞬間、法師の身勢が崩れる。
それでも仕込みの鞘を逆袈裟にふるった。
苦し紛れ――金清は相手の懐に踏み込んだ。法師の首を鍔元で掻き切る。
「愚禿が死ぬ番が訪れたか」
法師が苦笑を浮かべ、倒れた。
その表情は安堵しているように見える。
「そのうち、こちも番が回るだろうな」
殺す側に回ったところで、いつかは寿命や病で死ぬ。
それを理解したところで、他に身の処しようもない。
この当時、生きる意味など、宗教者でもなければ大抵の人間は考えなかったろうが、金清はそのことを考えることはある。
女を抱くまえに、極上の酒食のためか。
だが、いくら快楽を得ようと金清の“空白”は埋められない。
きっと、それは埋めようのないものだ。
土器が欠けたら元通りにはならないように、牛われてしまった。
なれば、ただ生きるのみ――そして、殺すのみだ、金清は走りを再開する。
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