29 / 34
28
しおりを挟む
すでに三匹の鬼をほふっていた。
暗闇の中にいるが、昼のように敵の姿だけはうかがえた。
金棒を手にした、二本の角を頭に生やし、山犬のような牙をはやし、屈強な肉体を持った妖(あやかし)が彼を十重二十重に包囲していた。
川原で、川の側は空いているが、飛び込むのを異形たちが許してくれるとは思えない。
そして金砕棒は打ちあうことなど許さず、当たれば身を砕くのは目に見えていた。
斬り落としや摺り上げを許されず、隙間を縫う油虫のように攻撃の間隙を縫う。
すれ違い様に、足、脇、首を裂いた。
が、すぐに太刀の切れ味がにぶる。
刺突に攻撃を切り替えた。
十匹以上の鬼を仕留める。そこで剣尖が折れた。
金砕棒が間近に唸る。
半身、半身の切り替えで切り抜けた。
同時に腰刀を抜いて攻撃を送っている。二体の鬼の悲鳴があがった。
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、やがて切れ味が鈍り、突く、突く、突く。
が、史郎も無事ではいられない。
ところどころ、金砕棒がかすめている。
いや、右手に至ってはすでに攻撃を受けて折れていた。
やがげ、攻撃を前、左右に避けきれず後ろに躱す。が、後退は悪手だ、重心が後ろにさがると次の斬撃を避けきれない。
唸る、金砕棒の横殴りの一撃がきた。
とたん、史郎は仰向けに倒れ、さらに横に転がった。続けて攻撃してきた鬼の攻撃を避けた。
膝立ち、から立ち上がる。腰刀は取り落とした。
とたん、手首に雷が落ちたような痛みを感じた。折れた上に捩じってどうしようもない傷を悪化させた。
もう――駄目だろう、と冷めた心で思う。
いや、心の奥底で声があがった。
嫌だ、と。
今の俺には背負う物がある、と声が脳裏にひびいた。
「そうだ、俺は」
史郎は短刀を鞘ぐるみで取り出し、鞘を口にくえて抜く。
諦められない、諦める訳にはいかない。
そう思った瞬間、目の前に人魂が現れた。
刹那、その形が人のものへと変わる。
「鳶丸」
その名を史郎は呼んだ。
彼はこちらを肩越しに見てほほ笑む。
そして、彼が太刀を抜いて一閃すると、鬼のことごとくが地面に伏した。
「兄上、前へ」
鳶丸の言葉に、自然と前に一歩出た。
『俺はお前の背中、前に進む姿を見て世を去りたい』
という真海の言葉が脳裏に浮かぶ。
次の瞬間、史郎は漁師小屋の天井を見上げていた。
まるで、胸のうちで火の球が燃えているように熱いものを感じる。
「前へ」
史郎はつぶやいた。
六
都合よく漁師小屋の近くには竹林があった。
そこから二本の竹を借用し、夜が明ける前に四千は史郎と三間の距離を置いて向かい合った。
瞬間、四千は悟る。
史郎の中の何かが変わった、と。
躊躇はないが殺しのための荒んだ剣とは違う、迷いのなさがあった。
冬の澄んだ空気のような混じりっけのなさを感じる。
ならばかき乱す、と四千は剣を右手の片手握りとなり、もう一方の手を伸ばして史郎に迫った。
閃、限界まで近づいたところで、史郎の竹が降った。
刹那、四千はもう一方の腕をふるう。
片手は誘いのために捨てた。実戦から斬られている。
それでも、斬撃を史郎に食らわせた。
はず、だった。
四千の剣に対し、同じ軌道で史郎が斬り上げる。
交刃、嚙み合った竹が制止した。
いや、四千の手首へと史郎の竹が伸びる。竹独特の撓りの利いた痛みが走った。
「たぶん、今日が最後になるだろう」
史郎の言う通り、沖合の富島へは泳いで一日といった具合だ。
「あの、凄まじい剣技の男には出会っていない。海か、島で戦いとなるだろう」
「そうだな」
四千は神妙にうなずく。
「おまえが見守っている、それだけで心強かった」
「そうか。用立てられたなら、よかった」
ほほ笑む史郎に、四千も微笑を浮かべた。
「神仏の加護よりも頼もしかった」
「そうか、神より仏よりもか」
幼馴染の言葉にうれしくなる。
暗闇の中にいるが、昼のように敵の姿だけはうかがえた。
金棒を手にした、二本の角を頭に生やし、山犬のような牙をはやし、屈強な肉体を持った妖(あやかし)が彼を十重二十重に包囲していた。
川原で、川の側は空いているが、飛び込むのを異形たちが許してくれるとは思えない。
そして金砕棒は打ちあうことなど許さず、当たれば身を砕くのは目に見えていた。
斬り落としや摺り上げを許されず、隙間を縫う油虫のように攻撃の間隙を縫う。
すれ違い様に、足、脇、首を裂いた。
が、すぐに太刀の切れ味がにぶる。
刺突に攻撃を切り替えた。
十匹以上の鬼を仕留める。そこで剣尖が折れた。
金砕棒が間近に唸る。
半身、半身の切り替えで切り抜けた。
同時に腰刀を抜いて攻撃を送っている。二体の鬼の悲鳴があがった。
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、やがて切れ味が鈍り、突く、突く、突く。
が、史郎も無事ではいられない。
ところどころ、金砕棒がかすめている。
いや、右手に至ってはすでに攻撃を受けて折れていた。
やがげ、攻撃を前、左右に避けきれず後ろに躱す。が、後退は悪手だ、重心が後ろにさがると次の斬撃を避けきれない。
唸る、金砕棒の横殴りの一撃がきた。
とたん、史郎は仰向けに倒れ、さらに横に転がった。続けて攻撃してきた鬼の攻撃を避けた。
膝立ち、から立ち上がる。腰刀は取り落とした。
とたん、手首に雷が落ちたような痛みを感じた。折れた上に捩じってどうしようもない傷を悪化させた。
もう――駄目だろう、と冷めた心で思う。
いや、心の奥底で声があがった。
嫌だ、と。
今の俺には背負う物がある、と声が脳裏にひびいた。
「そうだ、俺は」
史郎は短刀を鞘ぐるみで取り出し、鞘を口にくえて抜く。
諦められない、諦める訳にはいかない。
そう思った瞬間、目の前に人魂が現れた。
刹那、その形が人のものへと変わる。
「鳶丸」
その名を史郎は呼んだ。
彼はこちらを肩越しに見てほほ笑む。
そして、彼が太刀を抜いて一閃すると、鬼のことごとくが地面に伏した。
「兄上、前へ」
鳶丸の言葉に、自然と前に一歩出た。
『俺はお前の背中、前に進む姿を見て世を去りたい』
という真海の言葉が脳裏に浮かぶ。
次の瞬間、史郎は漁師小屋の天井を見上げていた。
まるで、胸のうちで火の球が燃えているように熱いものを感じる。
「前へ」
史郎はつぶやいた。
六
都合よく漁師小屋の近くには竹林があった。
そこから二本の竹を借用し、夜が明ける前に四千は史郎と三間の距離を置いて向かい合った。
瞬間、四千は悟る。
史郎の中の何かが変わった、と。
躊躇はないが殺しのための荒んだ剣とは違う、迷いのなさがあった。
冬の澄んだ空気のような混じりっけのなさを感じる。
ならばかき乱す、と四千は剣を右手の片手握りとなり、もう一方の手を伸ばして史郎に迫った。
閃、限界まで近づいたところで、史郎の竹が降った。
刹那、四千はもう一方の腕をふるう。
片手は誘いのために捨てた。実戦から斬られている。
それでも、斬撃を史郎に食らわせた。
はず、だった。
四千の剣に対し、同じ軌道で史郎が斬り上げる。
交刃、嚙み合った竹が制止した。
いや、四千の手首へと史郎の竹が伸びる。竹独特の撓りの利いた痛みが走った。
「たぶん、今日が最後になるだろう」
史郎の言う通り、沖合の富島へは泳いで一日といった具合だ。
「あの、凄まじい剣技の男には出会っていない。海か、島で戦いとなるだろう」
「そうだな」
四千は神妙にうなずく。
「おまえが見守っている、それだけで心強かった」
「そうか。用立てられたなら、よかった」
ほほ笑む史郎に、四千も微笑を浮かべた。
「神仏の加護よりも頼もしかった」
「そうか、神より仏よりもか」
幼馴染の言葉にうれしくなる。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる