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11話 始めの一歩
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部屋に入ると、柔らかそうな長椅子に腰をおろしているエリザベートが、ジェラールとジェラールに抱えられている私を見て、数秒ほど停止する。
きっと理解が追い付いていないのだろう。私もジェラールとエリザベートが二人そろって自室に訪問してきたら固まる自信があります。
数秒ほど固まったエリザベートは、ハッとして立ち上がり国王であるジェラールに向かって頭を下げた。元悪役令嬢とはいえ、さすがに国王に対しては貴族らしく振舞うのですね。でもジェラールは、夫として扱われたいからそれ逆効果です。
高飛車で自分を一番だと信じていた学生時代と比べれば、間違いなく大人しい。こんな形で悪役令嬢の成長を見ることになるとは思いもしなかったけど、王妃になったとなれば、いつまでも子供のままではいられないのね。
「楽にしろ。そもそもここは君の家だ」
「お言葉ですが陛下。私は実家である公爵家の屋敷で、当主に対して礼を尽くすのは当然でした。そのように育てられ、そしてそれが正しいと信じています。ここが家だというのであれば、家主である陛下に対して無礼を働くわけにはいきません」
固い。固すぎる。仲良し家族になれる気がしない。悪役令嬢でも夫と娘くらいには心を開くと信じていたけど、これは想像とは少し違うベクトルでハードルが高そうだ。この世界にハードルってあるのかな?
「君が父親に対してそのようにすることはあるだろうが、俺に対しては不要だ。どうしても気になるのであれば公の場だけで良い」
他人行儀をなくすのに何年かけていたんだこの夫婦。私が産まれて五年は経過しているでしょ? 私がジェラールに対してお母様のところに行きたいと言わなかったら、一生このままだったんじゃないだろうか。
「わかりました。それで本日はどのようなつもりで? クリスティーンまで連れてきて何か話でもあるのかしら?」
「話はない。今日は君の予定を大きく空けた。君のことだから気付いていたかもしれんが、あれは俺の仕業だ」
さすが国王。王妃のスケジュールを勝手に変更だなんて他の誰もできない所業。てゆうか、二日前にやることではないですね。
「構いません、急ぎの用事は手元に来たうちに終わらせるので。それより私の質問は?」
改めてエリザベートが優秀だったんだなと思う。それもそうか。公爵家の英才教育もあるけどそれだけじゃない。彼女は乙女ゲーム内でも優秀な成績を収めていた生徒だ。私みたいに嫌なことを後回しにして夏休みを宿題を最終日にまとめて終わらせるようなタイプではないだろう。
「すまない。このあいだクリスティーンに好きな場所に連れて行ってやると言ったら、お母様のところと言われてしまってね」
ジェラールがほぼ無表情でそういうと、エリザベートはジェラールに抱えられている私に視線を向けた。やっと見てくれた。さきほどまではずっとジェラールを見ていたから、こっちに視線を向けられたことがすぐわかる。
「ご迷惑だったでしょうか?」
私が少し悲しそうにエリザベートに向けて言うと、エリザベートは表情を崩すことなく、淡々と答える。
「不思議なことに、今日は予定がなくなったから、迷惑だなんてことはないわ。仮にしわ寄せがくるとしたら、勝手に私の予定を空けた誰かが何とかしてくれるはずよ」
エリザベートがそういうと、ジェラールがそれで構わないと呟きます。二人とも表情が固いまま。どうにかしたいと考えても、エリザベートに対してはどうすれば心を開くか見当もつかない。
立ちっぱなしであることをエリザベートに指摘されたジェラールは、彼女の隣に私を座らせ、私の隣に自分も座る。これで親子三人並んで座ることになったが、ここから何をすればいいのか全然わからない。助けてお母さん。……この世界のお母さん隣にいたわ。
「クリスティーン。何か不満でも? 貴女が私に会いたいだなんて言いたいことがあるのでしょう?」
なるほど、不満をぶつけに来たと思われているのか。
「言いたいことですか? それでは、抱きしめて貰えますか?」
とにかくストレートに甘えてみよう。これに対してどういう反応をするかどうかだ。私がそういうと、エリザベートはこいつ何言っているんだという顔をしていた。嫌悪感とかなさそうですけど、理解されていない感じですね。
「甘えたいのだろう。抱きしめることもできないのか?」
ジェラールに言われ、エリザベートの手が私に伸びる。彼女の胸にすっぽりと収まると、私はジェラールに向けて手を伸ばした。
「お父様はお母様ごと私を抱きしめてください」
「何言っているのクリスティーン!」
「いいだろう」
エリザベートがあからさまに焦り始める。ですが、それも一瞬の出来事。ジェラールは表情こそ大きく変化させないが、私をエリザベートごと抱きしめた。ああ、ジェラールに抱きしめられた時以上に、エリザベートに抱きしめられた時以上に、二人の腕の中にいることは幸せだ。
最終的に顔を真っ赤にさせたエリザベートが自室にあるにも関わらず退室してしまい、その日の家族の時間は早々に終了してしまった。でも、改めてこの両親のいる国を護ろうと強く思う様になれた。
心なしか、ジェラールも少し気恥ずかしそうにしていたような気がします。
きっと理解が追い付いていないのだろう。私もジェラールとエリザベートが二人そろって自室に訪問してきたら固まる自信があります。
数秒ほど固まったエリザベートは、ハッとして立ち上がり国王であるジェラールに向かって頭を下げた。元悪役令嬢とはいえ、さすがに国王に対しては貴族らしく振舞うのですね。でもジェラールは、夫として扱われたいからそれ逆効果です。
高飛車で自分を一番だと信じていた学生時代と比べれば、間違いなく大人しい。こんな形で悪役令嬢の成長を見ることになるとは思いもしなかったけど、王妃になったとなれば、いつまでも子供のままではいられないのね。
「楽にしろ。そもそもここは君の家だ」
「お言葉ですが陛下。私は実家である公爵家の屋敷で、当主に対して礼を尽くすのは当然でした。そのように育てられ、そしてそれが正しいと信じています。ここが家だというのであれば、家主である陛下に対して無礼を働くわけにはいきません」
固い。固すぎる。仲良し家族になれる気がしない。悪役令嬢でも夫と娘くらいには心を開くと信じていたけど、これは想像とは少し違うベクトルでハードルが高そうだ。この世界にハードルってあるのかな?
「君が父親に対してそのようにすることはあるだろうが、俺に対しては不要だ。どうしても気になるのであれば公の場だけで良い」
他人行儀をなくすのに何年かけていたんだこの夫婦。私が産まれて五年は経過しているでしょ? 私がジェラールに対してお母様のところに行きたいと言わなかったら、一生このままだったんじゃないだろうか。
「わかりました。それで本日はどのようなつもりで? クリスティーンまで連れてきて何か話でもあるのかしら?」
「話はない。今日は君の予定を大きく空けた。君のことだから気付いていたかもしれんが、あれは俺の仕業だ」
さすが国王。王妃のスケジュールを勝手に変更だなんて他の誰もできない所業。てゆうか、二日前にやることではないですね。
「構いません、急ぎの用事は手元に来たうちに終わらせるので。それより私の質問は?」
改めてエリザベートが優秀だったんだなと思う。それもそうか。公爵家の英才教育もあるけどそれだけじゃない。彼女は乙女ゲーム内でも優秀な成績を収めていた生徒だ。私みたいに嫌なことを後回しにして夏休みを宿題を最終日にまとめて終わらせるようなタイプではないだろう。
「すまない。このあいだクリスティーンに好きな場所に連れて行ってやると言ったら、お母様のところと言われてしまってね」
ジェラールがほぼ無表情でそういうと、エリザベートはジェラールに抱えられている私に視線を向けた。やっと見てくれた。さきほどまではずっとジェラールを見ていたから、こっちに視線を向けられたことがすぐわかる。
「ご迷惑だったでしょうか?」
私が少し悲しそうにエリザベートに向けて言うと、エリザベートは表情を崩すことなく、淡々と答える。
「不思議なことに、今日は予定がなくなったから、迷惑だなんてことはないわ。仮にしわ寄せがくるとしたら、勝手に私の予定を空けた誰かが何とかしてくれるはずよ」
エリザベートがそういうと、ジェラールがそれで構わないと呟きます。二人とも表情が固いまま。どうにかしたいと考えても、エリザベートに対してはどうすれば心を開くか見当もつかない。
立ちっぱなしであることをエリザベートに指摘されたジェラールは、彼女の隣に私を座らせ、私の隣に自分も座る。これで親子三人並んで座ることになったが、ここから何をすればいいのか全然わからない。助けてお母さん。……この世界のお母さん隣にいたわ。
「クリスティーン。何か不満でも? 貴女が私に会いたいだなんて言いたいことがあるのでしょう?」
なるほど、不満をぶつけに来たと思われているのか。
「言いたいことですか? それでは、抱きしめて貰えますか?」
とにかくストレートに甘えてみよう。これに対してどういう反応をするかどうかだ。私がそういうと、エリザベートはこいつ何言っているんだという顔をしていた。嫌悪感とかなさそうですけど、理解されていない感じですね。
「甘えたいのだろう。抱きしめることもできないのか?」
ジェラールに言われ、エリザベートの手が私に伸びる。彼女の胸にすっぽりと収まると、私はジェラールに向けて手を伸ばした。
「お父様はお母様ごと私を抱きしめてください」
「何言っているのクリスティーン!」
「いいだろう」
エリザベートがあからさまに焦り始める。ですが、それも一瞬の出来事。ジェラールは表情こそ大きく変化させないが、私をエリザベートごと抱きしめた。ああ、ジェラールに抱きしめられた時以上に、エリザベートに抱きしめられた時以上に、二人の腕の中にいることは幸せだ。
最終的に顔を真っ赤にさせたエリザベートが自室にあるにも関わらず退室してしまい、その日の家族の時間は早々に終了してしまった。でも、改めてこの両親のいる国を護ろうと強く思う様になれた。
心なしか、ジェラールも少し気恥ずかしそうにしていたような気がします。
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