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18話 少年と十個の質問
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私はセシルから建国祭の話を聞いてどうしても行ってみたいと思い、いっそ抜け出してしまおうかと考えました。しかし、宮殿の外に出る方法を知らない私は、最初から手詰まりの状態でした。
聞くところによると、建国祭は三日間続き、今日はその初日。しかしもう日も暮れるだろう。なんとか明日には出ていけたらよいのですけど。
建国祭の間にミゲルでもビルジニでも遊びに来てくれれば良いのですけど、一応みんな伯爵家以上の家系ですし、親御さんとご一緒ですよね。つまり、私が頼ることができる人はいない。ジェラールやエリザベートはどうせスケジュールが埋まっているでしょうし、あてにできない。あと私の知り合いと言ったら…………
「あれ? もしかして今、俺のことを考えていなかったかい?」
不意に後ろから聞こえた少年の声に、私は勢いよく振り返る。ロングストレートの髪がたなびく中、視界には黒ずくめの少年が私のベッドに座っていた。
「貴方、もしかしていつも私の部屋にいるの?」
「さすがにそれはないかな」
私も四六時中この部屋にいますとか言われたら、今すぐ大声出して人を呼びましたよ。黒ずくめの少年は黒いローブで頭まで隠し、顔も華より下が見えるくらいでした。こないだは月明かり程度でしかなく、ほとんど確認できませんでしたが、フードからはみ出ている髪の色は白で間違いなさそうです。
「どうして顔を隠しているのですか?」
「…………姫様の部屋に出入りできる人間だ。素性は明かせないよ」
確かに冷静に考えれば重罪ね。そもそもアラサー生活の方が長いせいで、未だに自分のことが姫だという自覚は薄い。それでも赤子の頃から幼児の今まで姫として育てられた事実も間違いではない。
「協力を一方的に求めておいて、対価を払う気がない貴方に質問をしてもいいかしら?」
「その質問が対価かい? 答えられる範囲で答えようか」
よし、これでひとまず何かしら質問ができる。まずはこいつの素性は…………聞くだけ無駄よね。でもワンダーオーブが必要な理由は聞いてみたいわ。それから他にはこないだの魔法もよね。幻惑魔法かそれとも別の魔法か。
「いくつか質問をするのだけれど、最低三つ答えてくれるかしら?」
「それじゃ質問は最低十個出してくれ。同じ答えになる質問はダメ」
「ぐっ…………わかったわ。ただし、貴方がわからないものは無回答にするわ」
「だったら僕に関する質問だけを質問にすることだね」
こいつ頭の回転が速い。本当に知りたい質問を必ず答えさせるようにするのは難しそうね。
「一つ目、貴方の名前は? あ、これも答え得られなかったらあだ名でも良いから呼び方を指定して。ただし、呼び方のお願いは質問に含めないわ。単純に呼び方が定まっていないと不便だから本名が言えないなら偽名くらい名乗ってってこと」
「ふむ、本名はダメだね。これで君の質問が一回、僕の回答がゼロ回。あだ名はブランクでどうかな?」
ブランクね。完全に偽名じゃない。まあ、いいわ次の質問。
「二つ目、ワンダーオーブを手に入れてどうするつもり?」
「取り戻したいものがある。その為にワンダーオーブが必要なんだ」
これで私の質問は二回目、彼の回答は一回目ね。取り戻したいものがあるから力が欲しい。私も護りたいものがあるからワンダーオーブが必要になる。私もブランクもワンダーオーブに求めているのは一時だけの力のようね。それだったら多少は協力もできるかしら。
「三つ目、あなたが求めているワンダーオーブは何色かしら?」
もしこれで【赤】だなんて言われたら入手不可もいいところ。だってそのワンダーオーブは最強最悪の元ヒロインが持っているのだもの。
「色? …………色? わからないな」
これはわからないと言うことかしら。もしかしたらブランクは、ワンダーオーブが数種類あることも知らない。では、何故ワンダーオーブのことを知っているのかしら。文献か何かで名前だけ目にしたというのが妥当でしょう。彼がわからない質問はカウントしないのよね。
「改めて三つ目良いかしら? ブランクはどのようにこの部屋を出入りしているの?」
「答えられないね」
「四つ目、こないだ消えた時に使用した魔法は幻惑魔法かしら?」
「それも答えられない」
ほとんど答えられないんじゃないの。どうすればいいのよ。
「五つ目、貴方の出身は?」
「…………答えられないな」
「まだ一つしか答えていないじゃないの。六つ目、いつまでにワンダーオーブが必要?」
「そうだね…………君が魔術師として成長するくらいまでなら待てるかな。学園に通い始めるくらいとか?」
「学園のことも知っているのね」
「知っているよ」
さて、お次は何を質問しようかしら。とりあえず二つ回答を貰えましたし、あと一個は答えてくれるはず。
「七つ目、貴方の得意な魔法は?」
「答えられないよ」
「くっ…………八つ目、今日ここに来た理由は?」
「答えられないな」
これも答えらないの。本当に何が目的でここにいるっていうのよ。とにかくあと一回はこたえてくれるはず。何か質問しなければ。
「九つ目、貴方はワンダーオーブを手に入れて取り戻したいものがあると言ったわね。それは何かしら?」
「答えられないね。はいこれで質問十回に回答三回は終了」
「え? 待ちなさいよ。まだ質問が九回で回答が二回でしょ?」
「学校のことをしっているのねに僕は知っているよと答えただろう?」
確かに私がそう呟いて、ブランクはそう答えた。事実だ。そしてそれはブランクの仲では質問一回と回答一回としてカウントされてしまったらしい。余計なことを呟かなければ良かった。確かにある程度のことを知ることはできたけど、全然足りない。こんなんじゃブランクの手伝いなんて一ミリもできないわ。
「不満そうだね」
「当たり前でしょ」
「よし、君が行きたがっていた建国祭、連れて出してあげようか」
「え?」
ブランクは顔こそ見えませんが、口元が笑っていることがよくわかりました。そして彼、私の部屋に侵入する罪と、誘拐まで罪状が…………まあ、いいか。どうせ、私も抜け出すつもりでしたし。
聞くところによると、建国祭は三日間続き、今日はその初日。しかしもう日も暮れるだろう。なんとか明日には出ていけたらよいのですけど。
建国祭の間にミゲルでもビルジニでも遊びに来てくれれば良いのですけど、一応みんな伯爵家以上の家系ですし、親御さんとご一緒ですよね。つまり、私が頼ることができる人はいない。ジェラールやエリザベートはどうせスケジュールが埋まっているでしょうし、あてにできない。あと私の知り合いと言ったら…………
「あれ? もしかして今、俺のことを考えていなかったかい?」
不意に後ろから聞こえた少年の声に、私は勢いよく振り返る。ロングストレートの髪がたなびく中、視界には黒ずくめの少年が私のベッドに座っていた。
「貴方、もしかしていつも私の部屋にいるの?」
「さすがにそれはないかな」
私も四六時中この部屋にいますとか言われたら、今すぐ大声出して人を呼びましたよ。黒ずくめの少年は黒いローブで頭まで隠し、顔も華より下が見えるくらいでした。こないだは月明かり程度でしかなく、ほとんど確認できませんでしたが、フードからはみ出ている髪の色は白で間違いなさそうです。
「どうして顔を隠しているのですか?」
「…………姫様の部屋に出入りできる人間だ。素性は明かせないよ」
確かに冷静に考えれば重罪ね。そもそもアラサー生活の方が長いせいで、未だに自分のことが姫だという自覚は薄い。それでも赤子の頃から幼児の今まで姫として育てられた事実も間違いではない。
「協力を一方的に求めておいて、対価を払う気がない貴方に質問をしてもいいかしら?」
「その質問が対価かい? 答えられる範囲で答えようか」
よし、これでひとまず何かしら質問ができる。まずはこいつの素性は…………聞くだけ無駄よね。でもワンダーオーブが必要な理由は聞いてみたいわ。それから他にはこないだの魔法もよね。幻惑魔法かそれとも別の魔法か。
「いくつか質問をするのだけれど、最低三つ答えてくれるかしら?」
「それじゃ質問は最低十個出してくれ。同じ答えになる質問はダメ」
「ぐっ…………わかったわ。ただし、貴方がわからないものは無回答にするわ」
「だったら僕に関する質問だけを質問にすることだね」
こいつ頭の回転が速い。本当に知りたい質問を必ず答えさせるようにするのは難しそうね。
「一つ目、貴方の名前は? あ、これも答え得られなかったらあだ名でも良いから呼び方を指定して。ただし、呼び方のお願いは質問に含めないわ。単純に呼び方が定まっていないと不便だから本名が言えないなら偽名くらい名乗ってってこと」
「ふむ、本名はダメだね。これで君の質問が一回、僕の回答がゼロ回。あだ名はブランクでどうかな?」
ブランクね。完全に偽名じゃない。まあ、いいわ次の質問。
「二つ目、ワンダーオーブを手に入れてどうするつもり?」
「取り戻したいものがある。その為にワンダーオーブが必要なんだ」
これで私の質問は二回目、彼の回答は一回目ね。取り戻したいものがあるから力が欲しい。私も護りたいものがあるからワンダーオーブが必要になる。私もブランクもワンダーオーブに求めているのは一時だけの力のようね。それだったら多少は協力もできるかしら。
「三つ目、あなたが求めているワンダーオーブは何色かしら?」
もしこれで【赤】だなんて言われたら入手不可もいいところ。だってそのワンダーオーブは最強最悪の元ヒロインが持っているのだもの。
「色? …………色? わからないな」
これはわからないと言うことかしら。もしかしたらブランクは、ワンダーオーブが数種類あることも知らない。では、何故ワンダーオーブのことを知っているのかしら。文献か何かで名前だけ目にしたというのが妥当でしょう。彼がわからない質問はカウントしないのよね。
「改めて三つ目良いかしら? ブランクはどのようにこの部屋を出入りしているの?」
「答えられないね」
「四つ目、こないだ消えた時に使用した魔法は幻惑魔法かしら?」
「それも答えられない」
ほとんど答えられないんじゃないの。どうすればいいのよ。
「五つ目、貴方の出身は?」
「…………答えられないな」
「まだ一つしか答えていないじゃないの。六つ目、いつまでにワンダーオーブが必要?」
「そうだね…………君が魔術師として成長するくらいまでなら待てるかな。学園に通い始めるくらいとか?」
「学園のことも知っているのね」
「知っているよ」
さて、お次は何を質問しようかしら。とりあえず二つ回答を貰えましたし、あと一個は答えてくれるはず。
「七つ目、貴方の得意な魔法は?」
「答えられないよ」
「くっ…………八つ目、今日ここに来た理由は?」
「答えられないな」
これも答えらないの。本当に何が目的でここにいるっていうのよ。とにかくあと一回はこたえてくれるはず。何か質問しなければ。
「九つ目、貴方はワンダーオーブを手に入れて取り戻したいものがあると言ったわね。それは何かしら?」
「答えられないね。はいこれで質問十回に回答三回は終了」
「え? 待ちなさいよ。まだ質問が九回で回答が二回でしょ?」
「学校のことをしっているのねに僕は知っているよと答えただろう?」
確かに私がそう呟いて、ブランクはそう答えた。事実だ。そしてそれはブランクの仲では質問一回と回答一回としてカウントされてしまったらしい。余計なことを呟かなければ良かった。確かにある程度のことを知ることはできたけど、全然足りない。こんなんじゃブランクの手伝いなんて一ミリもできないわ。
「不満そうだね」
「当たり前でしょ」
「よし、君が行きたがっていた建国祭、連れて出してあげようか」
「え?」
ブランクは顔こそ見えませんが、口元が笑っていることがよくわかりました。そして彼、私の部屋に侵入する罪と、誘拐まで罪状が…………まあ、いいか。どうせ、私も抜け出すつもりでしたし。
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