BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

文字の大きさ
77 / 228

番外編・クリスティーン六歳 ジェラールの照れ隠し

しおりを挟む
 これは私がまだ六歳の時の話。母の妊娠が発覚してから私達の身の回りは激変しました。私付の侍女だったセシルは主に母とともに行動するようになり、私の元には小さな小さなメイドがやってきました。

 茶髪にツインテール。緑眼の幼女。年も私と同じ六歳。幼女サイズのメイド服はこないだセシルが作っていたものに見えます。

「初めまして。スザンヌと申します」

「よろしくスザンヌ。知っていると思いますが、私はクリスティーンです」

「ええ、存じています」

 緊張しているのかな? カチンコチンにも見える彼女を見て微笑ましくも、どこかあれ? もしかしてわざとかなと言いたくなる冷たい態度。それでも、まだ幼い彼女に厳しくしようとも思わないし、なんなら今くらいの距離間の方がちょっと新鮮で楽しいと思えました。

 まだ幼い彼女って人から見たら私も六歳だったわね。

「お母様のところに行きましょう? 付いて来て頂戴」

「畏まりました」

 ロボットかな? まあ、これから仲良くやっていけますよね? あのジェラールやエリザベートとも仲良くなれた私ですし、不可能ではないはず。

 両親の住む宮殿に向かうと、お腹を大きくしたエリザベートが少し疲れた表情でベッドに横になっていました。

「お母様!」

 私の入室に気付いた彼女は、少しだけ微笑むも、まだ無理していることが伝わります。別に私は構いませんが、エリザベートが辛そうなのは頂けないわね。

「おいで」

 エリザベートはいつもの睨みつけるような表情ではなく、じーっと弱々しく私を見つめて私に向けて両手を伸ばしてきました。可愛いなおい。

 私は小さい体でトテトテと歩き、ベッドによじ登ろうとすると、母の傍に控えていたセシルに抱き上げられてベッドに乗せて貰いました。

「お母様、私にできることはありますか?」

「貴女は隣にいてくれるだけでいいわ」

 辛そうにしているエリザベートが、ベッドに座る私の体に手を伸ばし、手が触れたとこから適当に撫で始めます。大体腕ですけど。

「そういえば陛下も時期に戻られますよ」

 セシルがそういうと、エリザベートは突然飛び起きようとする。慌てて私やセシル、周囲のメイド達がエリザベートを抑え込みます。

「落ち着いてください王妃様!」

「嫌! ちょっとすぐに髪とメイクをなんとかして!」

「いつもご一緒に眠っているじゃないですか!!」

「夜間と昼間は違うのよ!!」

 突然暴れだす母をなんとかなだめ、慌ててメイクと髪を整え直しています。私とスザンヌは特にできることもなくジェラールが部屋に早く入ってこない様に部屋の外で見張っていました。

「王妃様はなぜあそこまで?」

「貴女にもわかる時が来るわスザンヌ」

「姫様は同い年ですよね?」

 …………やめてくれ。その発言はアラサーに効く。まあ、恋愛経験ないけどね。

 しばらくしてものすごい速足でジェラールがこちらに接近してきましたが、私に気付いた途端、いきなり普通の歩き方に戻りました。うちの両親可愛すぎないか?

「どうされましたお父様?」

「クリスティーンか? 今日の執務がかなり、とても、結構前に終わったからゆったりと歩いて自室に戻ってきたところだ。ついでに妊娠しているエリザベートの様子も見に来た」

 なるほど、今日の執務はめちゃくちゃ早く終わらせて、走り出したいところを我慢して速足で自室に戻ってエリザベートとの時間を確保しようとしていたのね。しっかし、そんなツンデレみたいな発言をするのなら、もう少し照れた表情で言いなさいよね。まあ、その無表情に近いところがジェラールらしいんですけどね。

 私とスザンヌとジェラールの三人で適当に会話をしていたところで、部屋の扉が開きセシルが顔を覗き込んできました。

「あらあらお騒がしいと思いましたら、陛下、姫様どうぞお部屋に」

 どうやら母のメイクが終わったようです。なんの断りもなく私を抱きかかえたジェラールは、そのまま入室し、セシルとスザンヌもあとに続きました。

「エリザベート。調子はどうだ? クリスティーンがものすごく気にしていたぞ」

「え? クリスティーンがですか?」

 エリザベートは、私を見て、貴女さっきまでいたじゃないと言いたげな目で私を見つめます。いえ、お母様。お父様は恥ずかしいから私が気にしていたことにしたいのですよ?

「ええ、大丈夫よクリスティーン」

 エリザベートはジェラールに抱きかかえられた私の頭を優しく撫でます。いや、だから気にしているのは貴女の夫で私の父です。

 だめだ、想い合っているのに、まるでお互いの気持ちを理解できていない。でもそんな両親を見ていて、温かい気持ちになる私は、それでもいいかと思いました。

 いつか互いが素直になれる日が来てしまうと、きっと私は無糖の紅茶しか飲めなくなります。そんな甘々な二人も見てみたいなと思いつつも、今の二人の関係性もなんだか楽しいと思えました。ああ、私も早くお姉ちゃんにならないかな。そしたら家族四人で…………もっと色々な場所に出かけたいな。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。 他小説サイトにも投稿しています。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...