ＢＡＤ ＥＮＤ ＳＴＯＲＹ ～父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女！？～

114話 その優秀さは親譲り

　ラクダを歩かせて大体二時間ほど経過した。太陽は南中し、お昼になった頃に私たちは道から少し離れた岩場で休憩をします。

　念のため、オリバーの幻惑魔法とミゲルの守護魔法により私達は視覚的にも物理的にも遮られた空間内部でお昼ご飯を取ることになりました。

「はぁ～いみなさぁ～ん。お昼ご飯ですよぉ～」

　そう言ったアンヌ先生の元に全員が集まる。

　今日のお昼食は携帯食糧でしたが、時空魔法がかけられており、時間と空間を一つのビー玉のような形に加工していたものだ。

　これに魔力を通すことで、元の料理に戻すことができる。

　元の状態に戻すと、机と人数分の椅子。

　その上にランチマットと半月状の形をしていて、断面がくり抜かれた平焼きの生地の中に、若草色のコロッケのようなものが詰め込まれていたパン。

　その他にもいくつかお皿がありますね。あれはキャベツのような野菜で何かひき肉のようなものをまいた肉料理とかでしょうか。

　どの料理もブラン王国では見たことがありませんし、もしかして現地料理だったり？

　その横には木製のコップに水が並々と入っています。

　私達は結界のおかげで安全に食事をし、遅れないようにすぐに出発の準備をします。　

　そして私たちは、結界を解除する前に警戒しておくべきだったと思いました。

　周囲を取り囲むように数人の顔を布で隠した男たち。

「ひぃ！？」

　ジャンヌさんが驚いて後ずさりし、皆は声をあげたジャンヌさんの方に視線を向けます。

　その隙を付かれ、周囲の男たちは勢いよく襲いかかってきました。

　しかし、身の危険を感じたのも一瞬。ミゲル、リビオ、カトリーヌさん、オリバーが魔法を発動する。

「守護魔法、女神の楯アイギス」「状態魔法、失神《ブラックアウト》」「波動魔法、巨砲キャノン」「幻惑魔法、蜃気楼ミラージュ」

　前方には鋼鉄のような堅さの質量を得た魔力の塊の楯が出現する。右方にいた男たちは急に失神を起こした。左方にいた男たちは巨大な砲弾の塊のような波動魔法で吹き飛ばされてしまう。最後に、後方にいた男たちは互いをひっとらえ始めました。

　楯で行先を阻まれた軍勢は、楯を避けて周囲を見渡すと、そのほとんどがぶっ倒れていたことに気付きます。

「なんじゃこりゃ」

　倒れた集団を見た残りの男たちは後ずさりをしようとしたところで、ジョアサンが前に出て彼らに近づいていきました。

「何だお前？」

「いえ、すぐに終わりますよ？　回復魔法、視力回復アイサイト・レカバリー」

　ジョアサンの回復魔法を受けた男たちは、一瞬何が起きたか理解できていないようでした。

「気持ち悪い」「くらくらする」「光が、光が痛い」

　私がジョアサンの方に視線を向けると、ジョアサンは何事もなかったように状況を説明し始めます。

「彼らの視力を極限まで回復して差し上げました。ちょっと見えすぎるみたいですけど、まあ大丈夫でしょう。しばらくすればなれますが、しばらくは頭に入る情報量が多すぎて何も考えられなくなると思います」

　回復魔法ってそんなえぐい魔法なの？

　先生は無事でしたねぇ～と和やかに言い放ち、狼煙をあげて少し待つと数名のラクダ騎兵が走ってきました。

　捕らえた盗賊たちは、そのまま連行されて行きます。

「えぇ～。皆さんはアクシデントに会いましたので、多少の遅刻は了承しますのでぇ～、焦らずに目的地に向かいましょうねぇ～」

　突然の出来事でしたが、皆が落ち着いて対処してくれたおかげで、私達は全員無事でした。しかし、一瞬の隙を作ってしまったことをジャンヌさんは気にしていました。

　次の街についた頃には、日が暮れていました。一番長い道のりでしたが、一番見渡しの良いルートを選んだメラニーさんたちの班が既に到着していました。

　私達を見たメラニーさんは、ワンテンポ遅れてニッコリと笑い、こちらに向かって手を振りました。

　もう、私の中身が転生者じゃなかったら、不敬だって怒っていたかもしれないわよ。

　そして私達より少し遅れたくらいで、ジャンの班が到着しました。一番短い道のりでしたのに、なぜそこまで時間がかかったのだろうかと疑問に思いました。

　よく見れば、ジャンが乗っているラクダだけなぜかへとへとで疲れ切っていたので、しばらくして上に載っていた肉団子ジャンを見て、私は納得しました。

　ラクダでも辛い時、あるわよね。

　日没でしたが、私達はアクシデントもありましたし、大目に見て貰えました。しかし、ジャンの班は失格となり、到着早々、強制送還されることが決定していました。

　そして私とメラニーさんは、明日の予定を先生から受け取ります。

「へ？　班対抗砂上のラクダリレー？」

　私とメラニーさんが顔を見合わせる。何とこのファンシーな雰囲気の企画。ラクダにリレーさせちゃうのね。

「内容はそこ書かれた通りですぅ～。お二人には明日の朝までにリレーの順番を決めて提出して頂きますねぇ～」

　そう言われ、私とメラニーさんは班員の集まっている場所に戻り、明日の作戦会議を始めるのでした。

　そして翌朝。私達は朝食を終えると、先生方に連れていかれ、広い砂漠に移動します。

「それでは第一走者は準備をしてくださいねぇ～」

　互いの班から一名ずつラクダに乗り、それぞれがスタート地点につきました。

　ラクダレース。まあ、なんとなくイメージはつきますけど、どんな競技になるのかしら。