BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

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116話 暑くて風が肌に触れてラクダは臭くてみんなの声援が響いて日差しは眩しい

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 ラクダに乗って先にリードしたのは私ですが、すぐ後ろにはもうメラニーさんが来ていました。

「来たわね。波動魔法、隆起アースファング・砂バージョン」

 砂の大地が盛り上がり、噴水のように下に埋まっていた砂が噴出してメラニーさんの進路を妨害した。

 メラニーさんは足止めを食らいましたが、すかさず反撃を始めます。

「幻惑魔法、蜃気楼ミラージュ

 メラニーさんは私に幻惑魔法をかけると、折り返し地点の目印である大きな岩が複数に分裂してしまいました。更に走行中に景色がぐるりと三百六十度回転してしまい、ラクダが完全に混乱してしまいました。

「甘いわよメラニーさん」

 メラニーさんは私より少しリードしていますが、私の視界にははっきりとメラニーさんが分裂せずに見えています。

 私は彼女を追うようにラクダを走らせ、彼女も私が追ってきていることに気付きながらも、それでも焦るそぶりを見せません。

 わかっている。彼女がリードしていないと、私は大きな岩を目指すことができない。つまり常に彼女の後ろを走らされるのだ。

 私は人前では、波動魔法と時空魔法が使えます。

 本当なら他の五種類も扱えますが、王家の人間とレイモン先生しか知らない事実ですし、あまりにも特異すぎる為公にできないということで人前では使えません。

 常に彼女を追いつつ、ゴール直前で加速すればこの勝負。負けるはずがありません。

「余裕そうですね、姫様」

「貴女こそ後ろを見る余裕があるじゃない」

 ラクダを走らせながらも、互いに会話する余裕がある。私が時空魔法を扱えることは知れ渡っているはずだから、彼女も加速対策はしているだろう。

 私はメラニーさんについて詳しく知りませんので、彼女が使える魔法が幻惑魔法だけと思い込まない様にしています。

 ラクダが走っていると、イメージしたとろとろ歩く感じではないことに驚きつつも、揺れ落とされない様にしっかり捕まります。

 速さもありますが、馬よりも背が高い為、高さもあって少し怖いです。

 少しずつ大きな岩が近づき、私とメラニーさんの距離も徐々に迫ってきました。速度は間違いなくこちらが上だ。失速さえしなければ離される心配もない。

 問題は、幻惑魔法という相手の認識を妨害する魔法だ。彼女はその使い手の中でもかなり優秀なのでしょう。

 さきほども相手の幻惑魔法と逆位相の幻惑魔法で解除を試みましたが、魔力負けしてしまいました。

 オリバーほどの魔術師が地図にかかった幻惑魔法に気付くまでに時間がかかったというのに、彼女はあっさり気付いてあっさり解いた。

 彼女の魔法技量は、学生レベルを逸脱しているとしか思えないわ。

 大きな岩の側面に入った辺りで私と彼女は完全に並んだ。おかしい。ラクダの個体差もあるでしょうし、コンディションも異なるから、追いつけることに疑問はない。

 おかしいと思うのは、私が並んだタイミングで、彼女が笑ったように見えたことだ。

 しかし、私も彼女を迂闊に抜き去ることはできない。もう彼女は大きな岩に対して蜃気楼を解除している。

 つまり、今度はゴールでも同じことされてしまう。

 でしたら、こちらが追い越してリードをしてもまた先ほどと同じ手段で追い越されてしまう。

 私が仕える波動魔法と時空魔法では、彼女の幻惑魔法に対して対策不可と言ったところでしょう。

 ここは折り返しも彼女と並んで走ることに甘んじましょう。

 そう思いながら大きな岩の裏側まで彼女と並走していると、急に彼女の首がぐるりとこちらに向いた。

「今、ここで何が起きても向こうで待っている皆様が把握することはできませんね」

「…………? そうね。大きな岩に遮られているもの。それがどうかしましたか?」

 彼女、急に何当たり前のことを言いだすのかしら。

 こんな大きな岩に遮られた場所にいては、ゴールで待っている皆様が、私達の様子を見聞きすることなんてできるはずないじゃない。

「それでは遠慮なく。状態魔法、石化ミネラリゼーション

「え? 状態魔法?」

 状態魔法とは、他者に影響を与えられる数少ない魔法の中でも、主に相手の行動阻害を行う魔法の事です。

 彼女が私に与えた状態異常は石化。私の体は徐々に硬直し、そのままラクダごと大きな岩の後ろでコテンと倒れてしまいました。

 石化を受けたからといっても、完全に石になる訳ではなく、全身が石のように固くなるだけみたいです。

 問題は、手足が動かせないことと、声が出せないことだけではなく、魔法を扱うこともできなくなっていること。

 麻痺と違い手足を動かす際に強烈な痺れを感じるのではなく、肌に痛覚も温覚もない。鼻に嗅覚もない。耳に聴覚もない。きっと舌から味覚も奪われているのでしょう。

 気が付けば視界もブラックアウトし、視覚まで奪われてしまいました。

 そしてどれだけの時間が経過したか知ることができない私にも、ついに奪われた視覚が帰ってきました。目に感じる微弱な光。

 私は、薄暗さに疑問を持ちながら、目を開けると驚愕した。

 お尻から感じるのは冷たい土の感触。そこから土の臭いまで鼻に届きます。

 周囲は物静かですが、松明の火が、パチパチパチと燃える音が耳に届き、その光が目に届いた光と理解しました。

「え? ここは?」
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