125 / 228
121話 光の魔術師と動き出す影
しおりを挟む
ジャンヌさんの手から放たれた波動は、誰の視界に留まることなく、斧を貫き、柄が折れた斧の刃が地面にごとりと落ちる。
誰も何が起きているか説明ができない。そして、彼女から放たれた魔力量は明らかに少ない。
彼女から感じる魔力から、莫大な量の魔力なんて微塵も感じない。いつもの誰も怪我しない程度の威力の波動となんら変わりない魔力の流れでした。
「光か」
ブランクがぽつりとつぶやく。そしてなるほどと呟くアンヌ先生。
「ジャンヌさんはぁ~、波動を光に変換する才能があったみたいと言うことですねぇ~」
光。彼女の波動の速度はアンヌ先生の音速を超えて、光速の域に到達した。
聞いたことがあるわ。豆腐の角に頭をぶつけて死ぬには、音速の速度が必要だということ。誰かが試したわけではありませんけど。
つまり、どれだけ柔らかいジャンヌさんの波動だとしても、光速で射出されれば別と言うこと。
それは、斧の柄をいともたやすく貫く光の矢になる。そして光には熱量もあり、ジャンヌさんができることは私達のような普通の波動魔法使いの域を超えた。
彼女はクラス最下位からクラスでもトップクラスの魔術師になったのよ。私、下剋上されてる?
そして斧を持って突進してきた男は、折れた斧を見てその場に膝を落としました。こちらは四人。向こうは一人。彼はもう諦めたのでしょう。
行動不能になった面々は。全員がブランクの陰に取り込まれる。
「連れていくんだろ? この方が楽だ」
「貴方…………いえ、ありがとうございます」
アンヌ先生は、目の前にいるブランクが、私達と違う理の魔法を使っていることに気付いていました。
「姫殿下? あとで報告してくださいね」
「…………はい」
いつもより低く、そしてはっきりとした声でアンヌ先生に言われ、私は一気に背筋が伸びて、少し高い声で返事をしてしまいました。
さて、アンヌ先生にブランクのことはなんて説明しましょうか。そう考えていましたが、ブランクはあまり気にしていない様子。
一度、彼と相談しましょうか。
移動も魔法陣を使い、騎士団に賊を叩きだす時もブランクは陰から雪崩のように放出し、事情の知らない衛兵から悲鳴が上がりました。
「貴方、こんなに表立って動いて良いの?」
「ああ、問題ない。誰も俺の事なんて信じねーよ」
いえ、でも現に見ている人はいますし、アンヌ先生なんてめちゃくちゃ睨んできていますよ。
そして私たち四人は宿に戻る前に先生と一緒に広場に向かいました。誰も歩いていない大通りの、噴水の淵に私とジャンヌさん、それからブランクが座らされます。
「まずは皆さま、ありがとうございました」
アンヌ先生が深々と頭を下げ、そして次にブランクに視線を向ける。
「貴方は何者ですか?」
「俺の正体か? 残念だが言えないね。しいて言うなら、いてはいけない存在だ。ちなみに、クリスティーンを尋問しても拷問しても俺の正体は割れないぜ?」
「姫に拷問はしませんよ」
尋問はするのですね。
「あの魔法は?」
「…………そうだな。あえてネーミングするなら古代魔法か? この星が今の形になる前に使われていた魔法だ」
何を言っているのでしょうか。アンヌ先生もジャンヌさんもピンと来ていない様子。そしてブランクは呟く。
「…………大地というべきだったか。まあ、どっちでもいい」
星から大地と言い換えたブランク。私の中で、彼に対する一つの疑問がどんどん繋がっていった。
「ああ、そうそう。このことは自由に言いふらしてくれてもいいぜ? 誰も信じやしないからな」
そう言ったブランクは私達の前で黒い靄になって消える。消えた後にアンヌ先生は一度私の方を見ますが、大きなため息をついただけでした。
やっと解放されるのね。
そう思ったのですが、次に明け方まで、私とジャンヌさんは危険地帯に不審者と共に訪れたことでお説教されました。
長い長い魔法遠征でしたが、不測の事態と教員の裏切り。
その他にも色々考慮され、中断という形で、私達はA班D班共に強制送還されることになりました。
何も知らなかったA班の他の面々は、アンヌ先生が一人で帰ってきたと信じています。
みんなでアンヌ先生を褒めちぎっている中、私とジャンヌさんは二人、顔を合わせて笑ってしまいました。
後日、捕らえられた賊の証言より、一部のメンバーと、私達を襲う様に指示したものたちがまだ捕まっていないことが証言され、彼らの似顔絵による指名手配書が配られるのでした。
王宮の自室で、なんとなく手配書を眺めると、明らかに人相悪く描かれていて、これでは見つけられないでしょうね。そう思ってしまいました。
わかった特徴は大雑把な容姿と名前と適性魔法だけ。
リーダーのフレデリック・ド・デュラン。ブロンドの髪で長さは肩まで伸ばしている様子。適正魔法は波動魔法と付与魔法。
イザベル・オブ・ブラッスール。アイボリーの髪の女性。片側だけ髪の毛が多めに隠れていて、左目を隠すようにしているみたい。適性魔法は状態魔法と幻惑魔法。
ロマン・エル・ルグラン。ワインレッドの髪をモヒカンにしているイカツイ男性。適正魔法は守護魔法と時空魔法。
このイザベルって女。状態魔法と幻惑魔法が使えるのね。…………となると、あの時私を石化させたのは…………いえ、考えるだけ無駄ね。
私は手配書を適当に机の上に投げ捨て、ベッドに飛び込んで眠りについた。
その時、三枚目の手配書に張り付いていた四枚目の紙がぺらりと落ちる。
四枚目の手配書は偶然部屋に吹き込んだ風に攫われ、窓の外へと飛んでいく。
誰も何が起きているか説明ができない。そして、彼女から放たれた魔力量は明らかに少ない。
彼女から感じる魔力から、莫大な量の魔力なんて微塵も感じない。いつもの誰も怪我しない程度の威力の波動となんら変わりない魔力の流れでした。
「光か」
ブランクがぽつりとつぶやく。そしてなるほどと呟くアンヌ先生。
「ジャンヌさんはぁ~、波動を光に変換する才能があったみたいと言うことですねぇ~」
光。彼女の波動の速度はアンヌ先生の音速を超えて、光速の域に到達した。
聞いたことがあるわ。豆腐の角に頭をぶつけて死ぬには、音速の速度が必要だということ。誰かが試したわけではありませんけど。
つまり、どれだけ柔らかいジャンヌさんの波動だとしても、光速で射出されれば別と言うこと。
それは、斧の柄をいともたやすく貫く光の矢になる。そして光には熱量もあり、ジャンヌさんができることは私達のような普通の波動魔法使いの域を超えた。
彼女はクラス最下位からクラスでもトップクラスの魔術師になったのよ。私、下剋上されてる?
そして斧を持って突進してきた男は、折れた斧を見てその場に膝を落としました。こちらは四人。向こうは一人。彼はもう諦めたのでしょう。
行動不能になった面々は。全員がブランクの陰に取り込まれる。
「連れていくんだろ? この方が楽だ」
「貴方…………いえ、ありがとうございます」
アンヌ先生は、目の前にいるブランクが、私達と違う理の魔法を使っていることに気付いていました。
「姫殿下? あとで報告してくださいね」
「…………はい」
いつもより低く、そしてはっきりとした声でアンヌ先生に言われ、私は一気に背筋が伸びて、少し高い声で返事をしてしまいました。
さて、アンヌ先生にブランクのことはなんて説明しましょうか。そう考えていましたが、ブランクはあまり気にしていない様子。
一度、彼と相談しましょうか。
移動も魔法陣を使い、騎士団に賊を叩きだす時もブランクは陰から雪崩のように放出し、事情の知らない衛兵から悲鳴が上がりました。
「貴方、こんなに表立って動いて良いの?」
「ああ、問題ない。誰も俺の事なんて信じねーよ」
いえ、でも現に見ている人はいますし、アンヌ先生なんてめちゃくちゃ睨んできていますよ。
そして私たち四人は宿に戻る前に先生と一緒に広場に向かいました。誰も歩いていない大通りの、噴水の淵に私とジャンヌさん、それからブランクが座らされます。
「まずは皆さま、ありがとうございました」
アンヌ先生が深々と頭を下げ、そして次にブランクに視線を向ける。
「貴方は何者ですか?」
「俺の正体か? 残念だが言えないね。しいて言うなら、いてはいけない存在だ。ちなみに、クリスティーンを尋問しても拷問しても俺の正体は割れないぜ?」
「姫に拷問はしませんよ」
尋問はするのですね。
「あの魔法は?」
「…………そうだな。あえてネーミングするなら古代魔法か? この星が今の形になる前に使われていた魔法だ」
何を言っているのでしょうか。アンヌ先生もジャンヌさんもピンと来ていない様子。そしてブランクは呟く。
「…………大地というべきだったか。まあ、どっちでもいい」
星から大地と言い換えたブランク。私の中で、彼に対する一つの疑問がどんどん繋がっていった。
「ああ、そうそう。このことは自由に言いふらしてくれてもいいぜ? 誰も信じやしないからな」
そう言ったブランクは私達の前で黒い靄になって消える。消えた後にアンヌ先生は一度私の方を見ますが、大きなため息をついただけでした。
やっと解放されるのね。
そう思ったのですが、次に明け方まで、私とジャンヌさんは危険地帯に不審者と共に訪れたことでお説教されました。
長い長い魔法遠征でしたが、不測の事態と教員の裏切り。
その他にも色々考慮され、中断という形で、私達はA班D班共に強制送還されることになりました。
何も知らなかったA班の他の面々は、アンヌ先生が一人で帰ってきたと信じています。
みんなでアンヌ先生を褒めちぎっている中、私とジャンヌさんは二人、顔を合わせて笑ってしまいました。
後日、捕らえられた賊の証言より、一部のメンバーと、私達を襲う様に指示したものたちがまだ捕まっていないことが証言され、彼らの似顔絵による指名手配書が配られるのでした。
王宮の自室で、なんとなく手配書を眺めると、明らかに人相悪く描かれていて、これでは見つけられないでしょうね。そう思ってしまいました。
わかった特徴は大雑把な容姿と名前と適性魔法だけ。
リーダーのフレデリック・ド・デュラン。ブロンドの髪で長さは肩まで伸ばしている様子。適正魔法は波動魔法と付与魔法。
イザベル・オブ・ブラッスール。アイボリーの髪の女性。片側だけ髪の毛が多めに隠れていて、左目を隠すようにしているみたい。適性魔法は状態魔法と幻惑魔法。
ロマン・エル・ルグラン。ワインレッドの髪をモヒカンにしているイカツイ男性。適正魔法は守護魔法と時空魔法。
このイザベルって女。状態魔法と幻惑魔法が使えるのね。…………となると、あの時私を石化させたのは…………いえ、考えるだけ無駄ね。
私は手配書を適当に机の上に投げ捨て、ベッドに飛び込んで眠りについた。
その時、三枚目の手配書に張り付いていた四枚目の紙がぺらりと落ちる。
四枚目の手配書は偶然部屋に吹き込んだ風に攫われ、窓の外へと飛んでいく。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる