BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

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127話 勧誘

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 私はスザンヌを連れて来客をお呼びした応接室に向かいます。

 今日の護衛はガエル。鎧をガシャガシャ鳴らしながら、私の数歩後ろを歩きます。

 応接室の扉を開けて貰い、私は来客に向かって挨拶をしました。

「思ったより早かったですね姫」

 応接室の椅子に腰をかけたこげ茶色の髪をした男は、ライトグリーンの瞳を私の方に向けると、いつものように話しかけてきました。

「本日の来客は性格がねじ曲がっていましたので、わざと遅くきたつもりですが?」

「ええ、わざと遅く来ることを見越してそういいましたよ」

 隣国の皇子。オリバー・アーバスノット・コリングウッドは、私を怒らせたいのか、いつもこの調子で会話をしてくる。

 しかし、ブラン王国と友好関係とはいえ、帝国のすぐ隣にあるという事実に対し、こちら側は彼らの機嫌を窺がうことしかできない。

 彼が私を小ばかにするのが楽しいというのでしたら、それは甘んじて受け入れましょう。

 王国と帝国の力関係ははっきりしていて、圧倒的にこちらが負けている。戦争になればただではすまないでしょう。

 もっとも、子供同士のいざこざで、戦争に繋がるとは思えませんが。

 私は彼と向かい合う様にしておかれた椅子に腰かけます。私と彼の間には、長方形のテーブルが置かれていて、互いの腰から下を隠します。
  
  
「まずは貴方に私の話を聞いて欲しいのです。その前に……ガエル、部屋の外で待機して頂けますか?」

「俺からも頼みますよ」

「……良いでしょう。ご学友、それもオリバー皇子であれば問題ありません」

 そう言ったガエルは入り口近くで待機します。私とオリバー。それからスザンヌしかいない空間。いつもオリバーの傍にいる執事らしき老紳士は、今日はいらっしゃらない様子です。

「それで君は俺にどんな話があるというのかな?」

「ワンダーオーブって言葉に聞き覚えはあるかしら?」

 私がそう問いかけると、オリバーはつまらなそうに窓の外を眺めました。

「またその話ですか。残念ですがお遊びには付き合っていられませんね」

 なるほど、オリバーはワンダーオーブの話を聞いた上で、信じなかったからジャンヌさん側に立っていなかったのですね。

「それに王国が滅びてくれても何も痛くないんです」

「ぶっちゃけてくれたわね」

 確かに帝国人である彼からすれば、王国一個がなくなるなんてどうでも良い話。なんなら滅びたら滅びたで、それを良いことに占領されてしまいかねない。

「分かったわ。遊びに付き合って欲しいの。貴方が求める見返りは何?」

「見返り? 君が俺にそこまでする必要があるのか?」

 さすがにおかしいと思ったオリバーは、不思議そうに私に問いかける。

 私は一応、彼がどこまで知っているかわかりませんので、知っている限りの情報と、ジャンヌさん達の状況を説明し、最後にブランクから頂いた誰にも見えない小瓶から、二つのワンダーオーブを取り出しました。

「それがワンダーオーブですか」

「ええ、そうよ。ちなみに奪っても無駄よ。譲渡するには私の意思がないと使用権が移らないの」

「なるほど。確かに不思議な魔力を感じますし、特にワンダーオーブを手にしてからの姫の魔力の増幅量が段違いだ。それが持つ者に莫大な魔力を与えるという【緑】のワンダーオーブということですね」

「理解が早くて助かるわ。貴方には【紫】のワンダーオーブの入手に協力して欲しいの。それからできれば私と一緒にアリゼと戦ってほしい」

「俺がかい? それこそメリットがない。ワンダーオーブ入手までは正直面白そうとだとは思うが、最悪の魔女と戦うなんてバカバカしい」

 確かにそうよね。王国をたった一人で滅ぼした魔女と戦う理由は、帝国人にはない。

 でも、もし最終決戦になるとしたら、オリバーほど頼りになる人間はいないでしょう。

 本当は、ジェラールやエリザベートなど大人たちをと思いましたが、彼ら彼女らはエピローグで負けています。

 戦える限りの王国民が戦ったというのであれば、それはきっとミゲル達も参戦したのでしょう。

 もしかしたら、転生の記憶のないクリスティーンも戦ったのかもしれない。

 でも、きっとゲームのエピローグでもオリバーは戦っていない。なぜなら、彼は王国民ではないからです。つまり、彼はアリゼを倒す因子になりうる可能性がある。

 少しでもあのエピローグより戦力を備えるならば、帝国人である彼を取り込むべきなのです。

 それにオリバーが参戦するなら、自動的に老紳士も仲間になるはず。

「よほど、俺を頼りにしているとみるが、まあいいでしょう。ワンダーオーブの入手までは戯れてあげましょう。ですが、俺がやる気になったらです。最後の戦いにつきましては、交渉次第で参加しても構いません」

「本当!?」

 私は身を乗り出してテーブルに両手をつき、オリバーに食いつくようにして返事をすると、オリバーは笑みを崩すことなく次の言葉を言い放った。

 しばらくして私とオリバーが応接室から出てくると、ガエルは私について行き、スザンヌがオリバーを馬車の停留所まで案内していきました。

「クリスティーン姫、どこか不機嫌そうですが?」

「……ガエル、デリカシーのない男って隣国の皇子でもひっぱたいて良いと思いますか?」

「え? …………できれば我慢して頂きたいですね」

「そうよね? 私偉いわよね? 凄いわよね? いい子よね?」

「姫様? ええ、私もそう思います」

 私は、自分でもわかるくらい力強く床を蹴りながら自室に戻っていきました。
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