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138話 決勝戦
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私は係員に呼ばれ、決勝の準備を始めることになりました。
向こうのスタート地点ではミゲルが黙々と準備をしています。
この試合で【黄】のワンダーオーブが私の元に譲渡されるか決まる。
先ほどの準決勝にもあたる第二試合。ミゲルの実力は、本物の騎士にも引けを取らないと言っても過言ではない。
動きが学生レベルのものではない。
私の手持ちは相手の動きを遅くする遅延と、対象に向けて起きた出来事を巻き戻す逆再生。
遅延と違って逆再生は、相手に干渉する為に魔力量を多くする必要があり、人によっては簡単に弾くことができます。
なので基本的に逆再生は、自分の行動をキャンセルする時に使うのが基本です。
それから目潰し対策の回避不能。これは決勝で使う機会は、ないかもしれませんね。
対するミゲルの魔法は…………ここまで未使用。
ミゲルにとって今の今まで、魔法を使わなければいけない状況は一度もなかったと言うことです。
ミゲルはオリバーとも試合をしているはずよね。
どこかのタイミングでオリバーとも話せれば良かったのですが、もう仕方ないですね。
「それではみなさぁ~ん! 長く続いた馬上槍大会! お次で最後! 決勝戦を始めますよぉ~! 決勝トーナメント最終試合! クリスティーン・ディ・フォレスティエ対ミゲル・エル・ラピーズ! 試合開始!!」
アンヌ先生の号令と同時に、私たちの馬は走り始めた。
ミゲルは一気に点差をつけて、三本目には勝負を決めてしまう。
一本目から出し惜しみできませんね。
お互いの間合いに入る瞬間こそ、隙が生じます。
彼が槍を持つ手を動かし、突きの動作に入る前に、私は魔法を発動しました。
「時空魔法、遅延」
私はミゲルの時間を遅くすることにより、彼のヘルメットに強烈な一撃を叩きこもうとしました。
だから私の槍があたった感触は、当然ミゲルのヘルメットであるはず。
私の対戦相手は、そんなマヌケを晒す男ではありませんでした。
ミゲルは遅延を食らうことを見越していました。
頭部と私の槍の間には、既に彼の槍が阻むように立てられていたのです。
それも、私の槍は先端。彼の槍は根本。
馬上槍大会用の槍は、先端が壊れやすく作られています。
私の槍は、ミゲルの巧みな防御によって破壊されてしまいました。
「ミゲル! 一点!」
スコアボードには零対一の文字。
武器破壊は四肢にあてることと同じで一点なのよね。
これで残り四本。魔法の残数は二。
稀代の魔術師であることがバレた次の試合で、魔術無しでボコボコにされた。
これは悪い意味で歴史に残るわね。
「クリスティーン姫、馬にまたがるのも、槍を持つのも姫がすることではありません」
「正論どうも。貴方が優秀な騎士になることは十分わかったわ。それでも、私は負けられないのよ」
「もし、魔女が訪れれば、誰も傷つかない未来にはならないでしょう。だから俺たちは、クリスティーン姫は傷つけない未来を選ぶんです」
ジャンヌさんも似たようなことを言っていたわね。
「ミゲル。私は私のあずかり知らないところで、あなた達が傷つくことを良しとする女だったかしら?」
「…………」
ミゲルはそれ以上何も言いませんでした。互いにスタート地点に戻り、次の槍を握ります。
先制点はミゲルに譲ってしまいましたね。
私は観客席に目を移すと、そこには身を乗り出す様にして私の様子を伺っているエリザベートが射ました。
いや、気にしすぎですって! …………でも、なんだか緊張していたのが馬鹿らしくなってきました。
残りの魔法は二つ。必ず勝つには、二本目も使うしかない。
「開始!」
合図とともに、私達は馬を走られます。そして互いの間合いでミゲルが先に私に槍を向けて来ました。
私はそれに合わせて体を反対側に倒し、そのまま馬から落っこちてしまいました。
「クリスティーン姫!!」
ミゲルが突いた槍を投げ捨て、私に手を伸ばします。
「状態魔法、回避不能《イネビタブル》」
私は手に持った槍を投げ捨て、ミゲルはすばやく私の馬に飛び移り、私の手を取りました。
そんなミゲルの頭部には、私の投げた槍が見事にあたってしまいました。
「クリスティーン! 五点!」
五対一。四点差で私がリードします。
「もう少し人を疑いなさい」
「そうさせて頂きます」
いえ、私のことはもっと信じて頂いても構わないんですけどね。
三本目。ここで大きなリードをしておくべきかと迷いましたが、まだ最後の魔法を使うタイミングではないわ。
それにしても冷静に考えると、反対側から走ってくる馬に、鎧を着たまま飛び乗るって騎士団の騎士でもそう易々とできることではないのでは?
やはり、ガエルの子はガエルなのね。
向こうのスタート地点ではミゲルが黙々と準備をしています。
この試合で【黄】のワンダーオーブが私の元に譲渡されるか決まる。
先ほどの準決勝にもあたる第二試合。ミゲルの実力は、本物の騎士にも引けを取らないと言っても過言ではない。
動きが学生レベルのものではない。
私の手持ちは相手の動きを遅くする遅延と、対象に向けて起きた出来事を巻き戻す逆再生。
遅延と違って逆再生は、相手に干渉する為に魔力量を多くする必要があり、人によっては簡単に弾くことができます。
なので基本的に逆再生は、自分の行動をキャンセルする時に使うのが基本です。
それから目潰し対策の回避不能。これは決勝で使う機会は、ないかもしれませんね。
対するミゲルの魔法は…………ここまで未使用。
ミゲルにとって今の今まで、魔法を使わなければいけない状況は一度もなかったと言うことです。
ミゲルはオリバーとも試合をしているはずよね。
どこかのタイミングでオリバーとも話せれば良かったのですが、もう仕方ないですね。
「それではみなさぁ~ん! 長く続いた馬上槍大会! お次で最後! 決勝戦を始めますよぉ~! 決勝トーナメント最終試合! クリスティーン・ディ・フォレスティエ対ミゲル・エル・ラピーズ! 試合開始!!」
アンヌ先生の号令と同時に、私たちの馬は走り始めた。
ミゲルは一気に点差をつけて、三本目には勝負を決めてしまう。
一本目から出し惜しみできませんね。
お互いの間合いに入る瞬間こそ、隙が生じます。
彼が槍を持つ手を動かし、突きの動作に入る前に、私は魔法を発動しました。
「時空魔法、遅延」
私はミゲルの時間を遅くすることにより、彼のヘルメットに強烈な一撃を叩きこもうとしました。
だから私の槍があたった感触は、当然ミゲルのヘルメットであるはず。
私の対戦相手は、そんなマヌケを晒す男ではありませんでした。
ミゲルは遅延を食らうことを見越していました。
頭部と私の槍の間には、既に彼の槍が阻むように立てられていたのです。
それも、私の槍は先端。彼の槍は根本。
馬上槍大会用の槍は、先端が壊れやすく作られています。
私の槍は、ミゲルの巧みな防御によって破壊されてしまいました。
「ミゲル! 一点!」
スコアボードには零対一の文字。
武器破壊は四肢にあてることと同じで一点なのよね。
これで残り四本。魔法の残数は二。
稀代の魔術師であることがバレた次の試合で、魔術無しでボコボコにされた。
これは悪い意味で歴史に残るわね。
「クリスティーン姫、馬にまたがるのも、槍を持つのも姫がすることではありません」
「正論どうも。貴方が優秀な騎士になることは十分わかったわ。それでも、私は負けられないのよ」
「もし、魔女が訪れれば、誰も傷つかない未来にはならないでしょう。だから俺たちは、クリスティーン姫は傷つけない未来を選ぶんです」
ジャンヌさんも似たようなことを言っていたわね。
「ミゲル。私は私のあずかり知らないところで、あなた達が傷つくことを良しとする女だったかしら?」
「…………」
ミゲルはそれ以上何も言いませんでした。互いにスタート地点に戻り、次の槍を握ります。
先制点はミゲルに譲ってしまいましたね。
私は観客席に目を移すと、そこには身を乗り出す様にして私の様子を伺っているエリザベートが射ました。
いや、気にしすぎですって! …………でも、なんだか緊張していたのが馬鹿らしくなってきました。
残りの魔法は二つ。必ず勝つには、二本目も使うしかない。
「開始!」
合図とともに、私達は馬を走られます。そして互いの間合いでミゲルが先に私に槍を向けて来ました。
私はそれに合わせて体を反対側に倒し、そのまま馬から落っこちてしまいました。
「クリスティーン姫!!」
ミゲルが突いた槍を投げ捨て、私に手を伸ばします。
「状態魔法、回避不能《イネビタブル》」
私は手に持った槍を投げ捨て、ミゲルはすばやく私の馬に飛び移り、私の手を取りました。
そんなミゲルの頭部には、私の投げた槍が見事にあたってしまいました。
「クリスティーン! 五点!」
五対一。四点差で私がリードします。
「もう少し人を疑いなさい」
「そうさせて頂きます」
いえ、私のことはもっと信じて頂いても構わないんですけどね。
三本目。ここで大きなリードをしておくべきかと迷いましたが、まだ最後の魔法を使うタイミングではないわ。
それにしても冷静に考えると、反対側から走ってくる馬に、鎧を着たまま飛び乗るって騎士団の騎士でもそう易々とできることではないのでは?
やはり、ガエルの子はガエルなのね。
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