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番外編・ジェラール三十三歳 最悪の誕生日の夜に最高の時間を
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今日はおそらく自分の誕生日で一番最悪の日だろう。
度重なるテロ行為により王都中は大混乱。このようなことは少なくもなかったが、今回の相手は少しばかり面倒だった。
それでも何とか事態は収拾し、その後の予定も予定通り行われた。
夜会ではクリスティーンに言寄る虫どもが湧いたと思ったら自国民だったことはさておき。
各国の来賓からは来年はうちの警備兵を貸し出そうと笑われながら言われた時は、少しばかりイラっときたものだ。
おそらく同じことをされればどの国も上手く対処はできなかっただろう。彼らは借りを作りたいものと、金が欲しいものばかりだ。
ロポポロ公国の大公だけは、件のテロリストが元自国民であることを知っているため、申し訳なさそうにしていた。
「お疲れ様」
「エリザベートか。本当に疲れたよ」
部屋に戻ってベッドに座り込んでいたら、衣装室からエリザベートが出てきた。
「灯りもつけないでどうしたの?」
「少し考え事をしていただけさ」
エリザベートがベッドの枠にある照明に魔力を通すと、魔力を通すと発光する金属が仄かな光を放つ。
すぐ隣には年を十個下の年齢で紹介すれば信じて貰えそうなエリザベートが私の顔を覗き込むように座っていた。
日中は眉間にシワが寄っているせいで五個下が限界かもしれないが、夜の彼女は表情が柔らかくなる。
「今日は冷えるだろう」
「そうね、でも寒くならないと思うわ」
「君も甘え上手になったな」
「…………!?」
顔をこっちに向けたまま瞳が小さくなり、顔を真っ赤にする彼女。どうやら急に恥ずかしくなったらしい。
エリザベートはハッとして視線を逸らしながら答えた。
「その…………いつも、甘え上手の…………娘を見ていたせいかしら」
「そうだな、あれは確かに甘え上手だ。まるで俺が何を求めているかわかるかのようだ」
俺は彼女から視線を外すことなく見つめていると、彼女は勢いよくこちらに顔を向けた。
「あの子にはわかるの!?」
「どうだろうな。適当にやっているだけかもしれん」
「そ、そう」
視線を落として左右の手で指を絡みめる彼女をみて、俺は腰に手を回して抱き寄せる。
なんの抵抗もなく彼女の身体は俺の体にもたれかかった。互いの熱が伝わる。
「あ! あの、今年はクリスティーンは貴方にいつものプレゼントを渡したのかしら?」
「ん? ああ貰ったぞ。今年はこれを貰ったよ」
一度ベッドから立ち上がり、ベッド脇の引き出しからそれを取り出すと、俺はエリザベートの手のひらにそれを乗せた。
「珊瑚? なんというか懐かしいですね」
「覚えていたのか?」
「貴方こそ」
「親子なのだな」
「まぎれもなく貴方の娘です」
「君の娘でもある」
俺は昔、彼女と婚約した日に、深紅の石を彼女に送った。もう二十五年前だろうか。
その深紅の石は、彼女の瞳に比べれば汚く濁っていたように見えなくもないが、彼女に何かを送ろうと思った時に、偶然それが目に入ったのだ。
特に愛してはいなかった。初顔合わせからたった数日の頃。深紅の瞳の少女はやや強気でお手本のような公爵令嬢だった。
俺は当時のエリザベートに、婚約者としていくつか色々なものをプレゼントした。もっとも、俺が選んだものはほとんどない。
そんな中で、唯一彼女に渡そうと思った宝石が珊瑚だった。
渡した彼女の第一声は「何よこれ。石?」だった。
八歳のころの彼女にとって宝石とはもっとキラキラしたもので、透明感のなかった珊瑚をみて塗装された石と勘違いされてしまった。
だが、初めて彼女が丁寧な言葉ではなく、素で返事をした瞬間でもあった。
それで今までのプレゼントが全部大人の選んだものだとばれてしまった。
その時、初めて彼女は俺に向かって笑ったんだと思う。作り笑いでも高笑いでもない笑顔は初めてだった。
「私…………実は珊瑚。今でも大切に保管しているんですよ」
「そうだったのか? てっきり捨てられたものだとばかり思っていたよ」
「捨てないわよ。だって初めて貴方から貰ったものなんだから。それに今は宝石だと理解しているのよ」
「価値を理解したからか?」
「幻惑魔法は痛覚も操れるのよ」
「悪かった」
「それはそうとこれを」
彼女が立ち上がり別の机の引き出しから何かを取り出すと、俺の手のひらの上に乗せた。
「これは…………石か?」
「もう! それは子供が見ても宝石とわかるものです!!」
俺の手のひらには大きな藍玉が入った箱を渡された。
「本当はクリスティーンにどういうものがいいか聞いて日常的に使えるものが良いと言われましたが、それはきっとクリスティーンがプレゼントするだろうと思いまして」
「だが、この様子ではクリスティーンもお前がプレゼントすると思って日用品を避けたみたいだな」
「そのようですね」
「やはり親子だな」
俺がそう言ってもう一度彼女を抱き寄せると、彼女は俺の顔を見つめてこう答えた。
「いいえ、家族です」
度重なるテロ行為により王都中は大混乱。このようなことは少なくもなかったが、今回の相手は少しばかり面倒だった。
それでも何とか事態は収拾し、その後の予定も予定通り行われた。
夜会ではクリスティーンに言寄る虫どもが湧いたと思ったら自国民だったことはさておき。
各国の来賓からは来年はうちの警備兵を貸し出そうと笑われながら言われた時は、少しばかりイラっときたものだ。
おそらく同じことをされればどの国も上手く対処はできなかっただろう。彼らは借りを作りたいものと、金が欲しいものばかりだ。
ロポポロ公国の大公だけは、件のテロリストが元自国民であることを知っているため、申し訳なさそうにしていた。
「お疲れ様」
「エリザベートか。本当に疲れたよ」
部屋に戻ってベッドに座り込んでいたら、衣装室からエリザベートが出てきた。
「灯りもつけないでどうしたの?」
「少し考え事をしていただけさ」
エリザベートがベッドの枠にある照明に魔力を通すと、魔力を通すと発光する金属が仄かな光を放つ。
すぐ隣には年を十個下の年齢で紹介すれば信じて貰えそうなエリザベートが私の顔を覗き込むように座っていた。
日中は眉間にシワが寄っているせいで五個下が限界かもしれないが、夜の彼女は表情が柔らかくなる。
「今日は冷えるだろう」
「そうね、でも寒くならないと思うわ」
「君も甘え上手になったな」
「…………!?」
顔をこっちに向けたまま瞳が小さくなり、顔を真っ赤にする彼女。どうやら急に恥ずかしくなったらしい。
エリザベートはハッとして視線を逸らしながら答えた。
「その…………いつも、甘え上手の…………娘を見ていたせいかしら」
「そうだな、あれは確かに甘え上手だ。まるで俺が何を求めているかわかるかのようだ」
俺は彼女から視線を外すことなく見つめていると、彼女は勢いよくこちらに顔を向けた。
「あの子にはわかるの!?」
「どうだろうな。適当にやっているだけかもしれん」
「そ、そう」
視線を落として左右の手で指を絡みめる彼女をみて、俺は腰に手を回して抱き寄せる。
なんの抵抗もなく彼女の身体は俺の体にもたれかかった。互いの熱が伝わる。
「あ! あの、今年はクリスティーンは貴方にいつものプレゼントを渡したのかしら?」
「ん? ああ貰ったぞ。今年はこれを貰ったよ」
一度ベッドから立ち上がり、ベッド脇の引き出しからそれを取り出すと、俺はエリザベートの手のひらにそれを乗せた。
「珊瑚? なんというか懐かしいですね」
「覚えていたのか?」
「貴方こそ」
「親子なのだな」
「まぎれもなく貴方の娘です」
「君の娘でもある」
俺は昔、彼女と婚約した日に、深紅の石を彼女に送った。もう二十五年前だろうか。
その深紅の石は、彼女の瞳に比べれば汚く濁っていたように見えなくもないが、彼女に何かを送ろうと思った時に、偶然それが目に入ったのだ。
特に愛してはいなかった。初顔合わせからたった数日の頃。深紅の瞳の少女はやや強気でお手本のような公爵令嬢だった。
俺は当時のエリザベートに、婚約者としていくつか色々なものをプレゼントした。もっとも、俺が選んだものはほとんどない。
そんな中で、唯一彼女に渡そうと思った宝石が珊瑚だった。
渡した彼女の第一声は「何よこれ。石?」だった。
八歳のころの彼女にとって宝石とはもっとキラキラしたもので、透明感のなかった珊瑚をみて塗装された石と勘違いされてしまった。
だが、初めて彼女が丁寧な言葉ではなく、素で返事をした瞬間でもあった。
それで今までのプレゼントが全部大人の選んだものだとばれてしまった。
その時、初めて彼女は俺に向かって笑ったんだと思う。作り笑いでも高笑いでもない笑顔は初めてだった。
「私…………実は珊瑚。今でも大切に保管しているんですよ」
「そうだったのか? てっきり捨てられたものだとばかり思っていたよ」
「捨てないわよ。だって初めて貴方から貰ったものなんだから。それに今は宝石だと理解しているのよ」
「価値を理解したからか?」
「幻惑魔法は痛覚も操れるのよ」
「悪かった」
「それはそうとこれを」
彼女が立ち上がり別の机の引き出しから何かを取り出すと、俺の手のひらの上に乗せた。
「これは…………石か?」
「もう! それは子供が見ても宝石とわかるものです!!」
俺の手のひらには大きな藍玉が入った箱を渡された。
「本当はクリスティーンにどういうものがいいか聞いて日常的に使えるものが良いと言われましたが、それはきっとクリスティーンがプレゼントするだろうと思いまして」
「だが、この様子ではクリスティーンもお前がプレゼントすると思って日用品を避けたみたいだな」
「そのようですね」
「やはり親子だな」
俺がそう言ってもう一度彼女を抱き寄せると、彼女は俺の顔を見つめてこう答えた。
「いいえ、家族です」
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