BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

文字の大きさ
160 / 228

155話 内外

しおりを挟む
 巨大な蜘蛛から逃げ出すも、私の想像以上に追いかけてくる蜘蛛が速い。

「えええ!? 私は食べても美味しくないわよ!?」

「キシャアアアアアアアアアアアア」

「威嚇しないでよ! 波動魔法、隆起アースファング

 私は蜘蛛の足元の大地を隆起させ、大地の槍で蜘蛛を貫こうとしましたが、蜘蛛は毛深い毛で巧みに周囲の変化を知覚し、回避してしまう。

「ええ、こわ」

 物理攻撃は毛のセンサーが反応してしまうのね。守護魔法もダメかも。でも、これならいけるのかな。

「波動魔法、波動ウェーブ。付与魔法、炎属性フレイム

 私は右手で波動ウェーブを出し、左手でその波動ウェーブに炎属性をエンチャントしました。

 この世界で数少ない属性魔法。付与魔法による属性の追加だ。

 これは付与魔法使いと波動魔法使いがその場にいるか、その両方の適性の持主がいて初めて扱える。

「燃え尽きなさい!」

 蜘蛛は察知してよけようとするも、移動する瞬間に糸を出していたせいかその糸に引火。

 やがて蜘蛛の体は燃え始めてしまった。

「臭いわ。…………早くここから離れてしまいましょう」

 私は足早に離れていこうとしたところで、未だに燃えている蜘蛛の死骸を見て気付く。

 煙だ。煙なら遠くにいても気付くことができる。獣は火に近づかない理論が、魔獣にも効くかわかりませんが、人が見れば違う。

 そこに人がいると思って集まってくるかもしれないわ。

「そうと決まれば早速焼きましょう! 山火事にならないようにした方が良いわよね」

 私は焚火に使えそうな落ち葉や枝を集めては、付与魔法で乾燥させ、そこに熱を加えました。

「どの程度で発火するかわかりませんが、加え続ければいけるわよね。多分」

 こうしてみると付与魔法って便利ね。タグマウイ家が錬金術に着目したのもよくわかるわ。

 順調に火が付いたことを確認。薄暗い魔界の為、多少の灯りになることと、仄かな温かさが私を落ち着かせる。

 そういえば食糧と水。せめて山鮫ならまだ食べれそうだったのに。魔獣って食べれるのかしら。

「はぁ…………ゲームの世界ならおなかが空かなくてもいいじゃない。無限に走らせなさいよ」

 さてさて、最初にここに現れるのは誰かしら。私はボウボウ燃える火を眺めながら座り込んでその場で眠りについてしまいました。



 目が覚めると、何かが焼ける臭い。

「お目覚めですか?」

「ん? …………ジョアサン?」

 私の目の前にいたのは糸目の少年で一緒に魔界に飛ばされたであろうジョアサンが、私の焚火で魚を焼いていた。

「火をお借りしました。宜しければどうぞ」

 ジョアサンにそう言われ、焼いた魚と色が青い柑橘系の果物に似た何かを手渡される。

 うわぁ。気持ち悪いなこれ。中身は何色なんだろ。

 口の中に水分を欲した私は、手渡された果実の皮をむくと、中には茶色い房が出てきました。

「腐っているのかしら」

「魔界の果物のようです。大丈夫ですよ姫様。どんな毒でも解毒しますので」

「え?」

「どんな毒でも解毒します」

 もしかしてこれ未知の食べ物?

 私が呆然としたままジョアサンを見つめていると、ジョアサンはクスリと笑う。

「それは安全です。ただまあ腐っていたらその時は解毒しますのでご安心ください」

「し、信じるわよ」

 私は意を決して、目の前の果物を口に頬り込む。

「…………上品なキウイみたいな味ね」

「キウイとは何でしょうか?」

「えっと…………どっかの国から献上されたどっかの国の特産品よ」

 そういえば転生してからキウイって見たことないわ。この変では採れないのでしょう。

 兎にも角にも、完璧な言い訳でその場を乗り切ります。

「そういうのは、ちゃんと覚えて外交してくださいね」

「いいのよ。どうせ私はそのうちどっかに嫁ぐのですから」

「姫様が嫁ぐね…………もう決めているのですか?」

「決めてないわ! でもいいの。地位があるから売れ残ることはないでしょう?」

「それはそうでしょうけど…………やはり公爵家とかですか?」

 今日はやけに質問が飛んでくる。暇潰しに使われているような気がしてなりませんが、偶然にも私も暇。これくらいならお答えしてあげましょうか。

「その日を笑って過ごせる相手なら、地位も名誉もいらないわ」

「それが貴女の夢なんですね」

「そんなに本気の言葉に聞こえた?」

「昔から王族らしくないとは思ってはいましたね」

「失礼ね。私なんて遺伝しまくりよ? 外見も…………内面も」

 内面も?

 どうかしら。転生者である私だからこそ、人格形成は前世のはず。だから今の私の内面は、前世で培ったものに違いない。

 内面は似ていないかもしれないわ。でも、今はそういうことにしておきましょう。

 焼いた魚に背中からかぶりつく。口の中に広がる苦みは、お腹側の内蔵が少し口に入ってしまったようでした。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...