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165話 姫として生きる道は私の道じゃなくて
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朝食を済ませた私たちは、それぞれ城から出ない範囲で自由に歩き回りました。
私は、昨夜ノワールと二人きりで会話した塔の上に一人でぼーっと魔界を見渡していました。
森の中から見る魔界と違って空から見下ろす魔界のイメージは秋から冬にかけての、寂しさが際立つ風景。
城内には魔王以外に誰もいない。寂しい城。既に落とされた城なのでしょう。
ノワールは既にアリゼと接触して負けている?
それはつまり、投影だとしても凄腕の魔術師と言っても過言ではないブランクの本体より、その時のアリゼの方が強かったという事実だ。
もし、ブランクが私の前に現れたタイミングと、アリゼに負けたタイミングが一致するなら、もう九年前のことになる。
「勝てるのかしら」
「魔女との闘いにですか?」
私が誰にも聞こえていないつもりの呟きをこぼすと、後ろからアレクシスが歩いてきました。
「ええ…………そうよ」
「何を心配することがあるのですか? ワンダーオーブの力は本物。それにこれまでも赤銅のロマンを捕縛し、黒鉄のイザベルを退けた。俺たちならできますよ!」
はたして本当にそうでしょうか。ロマンもイザベルも確かに化け物級の魔導士でした。
ロマンは戦闘好きという性格ゆえに負けましたが、イザベルは私達の実力を測った上で、計算外の事態に即撤退。
その計算外はワンダーオーブの力なのですから、それに気付かれればちゃんと対策されそうだわ。
そして私たちは未だに、彼らのボスと対峙していない。私達は、普通の魔導士相手に負ける訳には行かないというのに。
だってそうでしょ。たった一人で王国を滅ぼしたアリゼは、その何倍何十倍も強いはずなんだから。
過去のレイモン先生の口ぶりから、アリゼは私同様に七種の魔法が使える。
その上でどんな力を授けられるか不明なままの【赤】のワンダーオーブまで所持しているのですから、倒しようがないわ。
ブランクもワンダーオーブの種類までは詳しくなかったけど、他の神々ならもしかしたら。
それに一度目覚めたらその場に残り続けているのでしたら…………【赤】のワンダーオーブを授ける女神と話してみるのもいいかもしれないわ。
「アレクシス、心配事だらけよ。だからこそ対策を考えるの。私達の相手は、決して驕って勝てる相手ではないわ。ロマンを捕縛しても、イザベルを撃退しても、更にその先に進んでもまだ私達は力不足なんだわ」
「それほどなのですね…………私達も似たような予知夢を見ましたが…………どこまで本当なのでしょうか」
アレクシスたちに未来のことを話した時、私は予知夢のようなものとして説明したわ。
そんな確証もない予知夢という嘘を、彼らは鵜呑みにしてくれました。それは、一度は彼らも何者かから謎の夢を見せられて、私と対立していたからでしょう。
そういえば、結局その謎の夢を見せた人間も突き止めないといけないのよね。
夢…………幻惑魔法かしら。そしてアリゼの未来を知っている人物。
私以外に転生者がいるか、あるいは本当に予知夢を見れる人物がいるか。
前者よね。…………ブランクが前世の記憶でしか聞きなれない”月”を”つき”と発音してそれを何か判別しましたし。誰かが教えなければ知るはずないわ。
あるいは前提が違う? もし二千前、”月”を”つき”と発音していたなら?
その答えも女神たちに聞いてみましょうか。
「アレクシスなら勝てないとわかったらどうしますか?」
「決まっています。クリスティーン姫だけでも連れて逃げ出すでしょう。あるいは、貴方を逃がすために戦います」
「だったら前者ね。だって私、自分一人だけ逃げるって選択肢をとっても、後から後悔して戻って助けに行くもの」
「クリスティーン姫らしいですね」
「え? 姫らしくないって?」
私が冗談っぽく笑って振り返ると、真剣な顔のアレクシスが、かすかに微笑みながら私を見つめて呟きました。
「そうですね。お姫様の行動ではありません。それでも、貴方は俺の姫です」
その言葉は強い意志と裏腹に、消え入りそうな声が混じっていました。
言葉にするには勇気がいる言葉。それでも伝えたい言葉。アレクシスの本心を聞いた私は、一秒遅れて笑って答えました。
「当然でしょ? 国民から見た私は、紛れもない姫だわ」
「そう…………ですね」
私はとっさにそのような返事をしてしまいました。考えてもいませんでしたが、この答えはずっと前から決まっていた気がします。
私は、昨夜ノワールと二人きりで会話した塔の上に一人でぼーっと魔界を見渡していました。
森の中から見る魔界と違って空から見下ろす魔界のイメージは秋から冬にかけての、寂しさが際立つ風景。
城内には魔王以外に誰もいない。寂しい城。既に落とされた城なのでしょう。
ノワールは既にアリゼと接触して負けている?
それはつまり、投影だとしても凄腕の魔術師と言っても過言ではないブランクの本体より、その時のアリゼの方が強かったという事実だ。
もし、ブランクが私の前に現れたタイミングと、アリゼに負けたタイミングが一致するなら、もう九年前のことになる。
「勝てるのかしら」
「魔女との闘いにですか?」
私が誰にも聞こえていないつもりの呟きをこぼすと、後ろからアレクシスが歩いてきました。
「ええ…………そうよ」
「何を心配することがあるのですか? ワンダーオーブの力は本物。それにこれまでも赤銅のロマンを捕縛し、黒鉄のイザベルを退けた。俺たちならできますよ!」
はたして本当にそうでしょうか。ロマンもイザベルも確かに化け物級の魔導士でした。
ロマンは戦闘好きという性格ゆえに負けましたが、イザベルは私達の実力を測った上で、計算外の事態に即撤退。
その計算外はワンダーオーブの力なのですから、それに気付かれればちゃんと対策されそうだわ。
そして私たちは未だに、彼らのボスと対峙していない。私達は、普通の魔導士相手に負ける訳には行かないというのに。
だってそうでしょ。たった一人で王国を滅ぼしたアリゼは、その何倍何十倍も強いはずなんだから。
過去のレイモン先生の口ぶりから、アリゼは私同様に七種の魔法が使える。
その上でどんな力を授けられるか不明なままの【赤】のワンダーオーブまで所持しているのですから、倒しようがないわ。
ブランクもワンダーオーブの種類までは詳しくなかったけど、他の神々ならもしかしたら。
それに一度目覚めたらその場に残り続けているのでしたら…………【赤】のワンダーオーブを授ける女神と話してみるのもいいかもしれないわ。
「アレクシス、心配事だらけよ。だからこそ対策を考えるの。私達の相手は、決して驕って勝てる相手ではないわ。ロマンを捕縛しても、イザベルを撃退しても、更にその先に進んでもまだ私達は力不足なんだわ」
「それほどなのですね…………私達も似たような予知夢を見ましたが…………どこまで本当なのでしょうか」
アレクシスたちに未来のことを話した時、私は予知夢のようなものとして説明したわ。
そんな確証もない予知夢という嘘を、彼らは鵜呑みにしてくれました。それは、一度は彼らも何者かから謎の夢を見せられて、私と対立していたからでしょう。
そういえば、結局その謎の夢を見せた人間も突き止めないといけないのよね。
夢…………幻惑魔法かしら。そしてアリゼの未来を知っている人物。
私以外に転生者がいるか、あるいは本当に予知夢を見れる人物がいるか。
前者よね。…………ブランクが前世の記憶でしか聞きなれない”月”を”つき”と発音してそれを何か判別しましたし。誰かが教えなければ知るはずないわ。
あるいは前提が違う? もし二千前、”月”を”つき”と発音していたなら?
その答えも女神たちに聞いてみましょうか。
「アレクシスなら勝てないとわかったらどうしますか?」
「決まっています。クリスティーン姫だけでも連れて逃げ出すでしょう。あるいは、貴方を逃がすために戦います」
「だったら前者ね。だって私、自分一人だけ逃げるって選択肢をとっても、後から後悔して戻って助けに行くもの」
「クリスティーン姫らしいですね」
「え? 姫らしくないって?」
私が冗談っぽく笑って振り返ると、真剣な顔のアレクシスが、かすかに微笑みながら私を見つめて呟きました。
「そうですね。お姫様の行動ではありません。それでも、貴方は俺の姫です」
その言葉は強い意志と裏腹に、消え入りそうな声が混じっていました。
言葉にするには勇気がいる言葉。それでも伝えたい言葉。アレクシスの本心を聞いた私は、一秒遅れて笑って答えました。
「当然でしょ? 国民から見た私は、紛れもない姫だわ」
「そう…………ですね」
私はとっさにそのような返事をしてしまいました。考えてもいませんでしたが、この答えはずっと前から決まっていた気がします。
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