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170話 侵入者
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そして魔王城の日々は進み、オリバーが転移して、ジャンヌが転移してアレクシスが転移してついにはスザンヌが転移する朝を迎えます。
「食事は予め保存食をいくつか用意しておきました」
「ありがとうスザンヌ」
「姫様を魔王に預けるのは不覚ですが、魔界から安全に帰る手段でもあります」
「そうね、万が一私が明日になっても帰ってこなかったら…………騎士団は魔界に突入するのかしら」
「まず間違いないかと思います」
私達が魔界にいることと、転移で戻されていることは、先に帰還している皆様が話しているはず。
それはつまり、魔界とブラン王国の戦争を意味します。約束通りに姫を返さなかった魔界の落ち度となるのでしょう。
もしかしたらロマンやイザベルは、私達が魔界に残されることで、戦争を起こそうとし、ロマンはそれを楽しみ、イザベルはその隙にブラン王国を荒そうとしていたのかもしれませんね。
「絶対に戦争にしてはいけません。可能な限り説得してください」
「仰せのままに」
私とスザンヌが玉座の間にたどり着くと、そこには退屈そうにしているノワールが、私達の到着を期待もせずに待っていました。
「来たか」
そう言ってすぐにスザンヌの足元に青白い魔法陣が浮かびました。その魔法陣の光がスザンヌを包み込むと、彼女の姿は消え去ってしまいました。
「これで私だけになったわね」
「いいや、違うぞ」
「え?」
何それ。どういうこと。もう私しかいないはずでしょ。でも、私にはそれを確かめる手段がない。
確かめることができるとしたら、ノワールに直接話を聞くことだけでした。
私は転移直前のノワールのもとに飛び込み、彼に抱き着いて一緒に転移します。
「待って!」
「ん?」
大きな体に、男性らしいゴツゴツとした感触。魔王城の老朽化具合とは相反して、彼の服は上質で肌触りのよいものでした。
転移先は彼の部屋。ノワールは抱き着いてきた私を引きはがしてしまいます。
「なんか用か?」
「えとそのさっきの発言ですが」
「いるんだよ魔王城に一人。招待した覚えのない人間が。明日はそいつを返す」
「!?」
それはつまり、みんなの中で明日帰還するはずの私が、明日になってもブラン王国に帰れないって事?
それは少々まずくないでしょうか。つまり、騎士団の進軍が始まってしまいます。
そんなことになれば後は戦争になりかねない。事情も知らない魔界側と、姫を攫われたと勘違いした王国。
私達が仲裁に入っても、一度始まった戦闘で傷ついた人がいれば、両陣営もう引くことができないでしょう。
「ねえノワール。話を聞いて。みんなの中で私は明日には転移しているはずなの」
「俺の中では元から明後日だ」
つまりその何者かは、私達と同じタイミングで魔王城に侵入していたと言うことでしょうか。
考えられるとすれば、最後の一人は黒鉄のイザベルで間違いないでしょう。
【黄】のワンダーオーブをもってしても、彼女の幻惑魔法なら近づかなければ違和感に気付けない。
「お願い! このままだと魔界とブラン王国が争ってしまうの!」
「それがどうした。お前たち人間は、いくらでも適当な理由をつけて進軍してきたではないか。魔王城が何故定期的に転移するのか知っているか? その時、一番危険な国から遠ざかった位置に配置する為だ」
ノワールにとって、人間が戦争を仕掛けてくるのは当たり前。戦争をしたい訳でもないのに、戦争は繰り広げられてしまう。
魔王は確かに理から外れた魔法を使えるし、魔界でなら常識を超えた戦闘ができるはず。何も人間を恐れる必要なんてありません。
「だったら貴方が前線に出て戦えばいいじゃない。魔界を攻めさせないように、圧倒的な強さを見せつければいいじゃない! それをわざわざ相手から遠い位置に城まで移して! 臆病者!!」
「…………そうだな。それでも良い。臆病者と呼ばれたとしても、城を落とされるわけにはいかないんだ」
それはどういう?
私が何かを訪ねようとする前にブランクは魔法陣を用いて、どこかに転移してしまいました。
…………さてと、私にできることはもう一つ。城にいるもう一人の侵入者である人間を発見して明日の転移までに城外に追い出すこと。
「食事は予め保存食をいくつか用意しておきました」
「ありがとうスザンヌ」
「姫様を魔王に預けるのは不覚ですが、魔界から安全に帰る手段でもあります」
「そうね、万が一私が明日になっても帰ってこなかったら…………騎士団は魔界に突入するのかしら」
「まず間違いないかと思います」
私達が魔界にいることと、転移で戻されていることは、先に帰還している皆様が話しているはず。
それはつまり、魔界とブラン王国の戦争を意味します。約束通りに姫を返さなかった魔界の落ち度となるのでしょう。
もしかしたらロマンやイザベルは、私達が魔界に残されることで、戦争を起こそうとし、ロマンはそれを楽しみ、イザベルはその隙にブラン王国を荒そうとしていたのかもしれませんね。
「絶対に戦争にしてはいけません。可能な限り説得してください」
「仰せのままに」
私とスザンヌが玉座の間にたどり着くと、そこには退屈そうにしているノワールが、私達の到着を期待もせずに待っていました。
「来たか」
そう言ってすぐにスザンヌの足元に青白い魔法陣が浮かびました。その魔法陣の光がスザンヌを包み込むと、彼女の姿は消え去ってしまいました。
「これで私だけになったわね」
「いいや、違うぞ」
「え?」
何それ。どういうこと。もう私しかいないはずでしょ。でも、私にはそれを確かめる手段がない。
確かめることができるとしたら、ノワールに直接話を聞くことだけでした。
私は転移直前のノワールのもとに飛び込み、彼に抱き着いて一緒に転移します。
「待って!」
「ん?」
大きな体に、男性らしいゴツゴツとした感触。魔王城の老朽化具合とは相反して、彼の服は上質で肌触りのよいものでした。
転移先は彼の部屋。ノワールは抱き着いてきた私を引きはがしてしまいます。
「なんか用か?」
「えとそのさっきの発言ですが」
「いるんだよ魔王城に一人。招待した覚えのない人間が。明日はそいつを返す」
「!?」
それはつまり、みんなの中で明日帰還するはずの私が、明日になってもブラン王国に帰れないって事?
それは少々まずくないでしょうか。つまり、騎士団の進軍が始まってしまいます。
そんなことになれば後は戦争になりかねない。事情も知らない魔界側と、姫を攫われたと勘違いした王国。
私達が仲裁に入っても、一度始まった戦闘で傷ついた人がいれば、両陣営もう引くことができないでしょう。
「ねえノワール。話を聞いて。みんなの中で私は明日には転移しているはずなの」
「俺の中では元から明後日だ」
つまりその何者かは、私達と同じタイミングで魔王城に侵入していたと言うことでしょうか。
考えられるとすれば、最後の一人は黒鉄のイザベルで間違いないでしょう。
【黄】のワンダーオーブをもってしても、彼女の幻惑魔法なら近づかなければ違和感に気付けない。
「お願い! このままだと魔界とブラン王国が争ってしまうの!」
「それがどうした。お前たち人間は、いくらでも適当な理由をつけて進軍してきたではないか。魔王城が何故定期的に転移するのか知っているか? その時、一番危険な国から遠ざかった位置に配置する為だ」
ノワールにとって、人間が戦争を仕掛けてくるのは当たり前。戦争をしたい訳でもないのに、戦争は繰り広げられてしまう。
魔王は確かに理から外れた魔法を使えるし、魔界でなら常識を超えた戦闘ができるはず。何も人間を恐れる必要なんてありません。
「だったら貴方が前線に出て戦えばいいじゃない。魔界を攻めさせないように、圧倒的な強さを見せつければいいじゃない! それをわざわざ相手から遠い位置に城まで移して! 臆病者!!」
「…………そうだな。それでも良い。臆病者と呼ばれたとしても、城を落とされるわけにはいかないんだ」
それはどういう?
私が何かを訪ねようとする前にブランクは魔法陣を用いて、どこかに転移してしまいました。
…………さてと、私にできることはもう一つ。城にいるもう一人の侵入者である人間を発見して明日の転移までに城外に追い出すこと。
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