BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

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196話 窮地

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 ウィルフリードを傷つけられた勢いで自我を失いかけ、自らの魔法で土砂に埋まった。そこまでは覚えている。冷たい土の感触におおわれているほかに別の感覚が私を襲う。

 人の柔らかさ。そうでした。私を瓦礫からかばう様にスザンヌが…………

「ス、スザンヌ?」

 私の問いかけに返事はない。彼女の声が聞こえない。ウィルフリードの時とは違う。これは完全な私の過失だ。

 私たちに覆いかぶさる土砂に激震が走ります。それと同時にとどろく雷鳴。おそらくフレデリックが土砂から脱出してしまったのでしょう。しばらくは雷の音とアンヌ先生の音の波動魔法の音が鳴り響きます。土砂のそこにまで響く程の魔法のぶつかり合いが地上で起きているというのに。私は何もできていない。

 何とかしてここから脱出しなければアンヌ先生とジャンヌも危ない。彼女の魔法は音が鳴らないからわかりませんけど、先生と一緒なら多分無事でしょう。問題はスザンヌ。私を土砂からかばうために自分の頭部や急所を守れていない。もしかしたら打ち所が悪かったのかもしれない。

 どうしよう。脱出をできるのかわからない。でもこのまま埋もれたままはもっとまずいか。最大火力で吹き飛ばしてしまおう。

「スザンヌ、ちょっと衝撃が強いかもしれないけど、耐えて頂戴。絶対に助けるから。波動魔法、波動ウェーブ


 【白】のワンダーオーブが緑色に輝き始める。私の魔力総量が急激に上昇し始めました。

 地上まで届く超強力な波動が右手から放出されました。一度宮中に降り注いだ土砂たちがまた私たちに降り注ぎ始めますが、その前に私は自分たちの頭上に結界を出そう。

「守護魔法、結界バリア

 頭上の土砂を守護魔法で受け止める。その光景をみたフレデリックが私たちに気づき一直線の雷撃を放って来ました。よけなければいけない。

「時空魔法、転移ワープ

 雷撃のコントロールは光速の域に近い。だからこそ人間がコントロールするのは難しい。少しでも位置がずれれば回避がしやすい。

「面倒な魔法使いだ」

 そういったフレデリックが全方位に向けて雷撃を放ち始めた。これは私の短距離移動しかできない転移ワープで回避するのはほぼ無理だ。何かしらの手段で雷撃を遮断するしかない。何かで受けるべきか。避雷針を作るべきか。そんなことを考えている余裕もない。

「面倒なのは貴方でしょ! 時空魔法、遅延スロー

 雷撃を遅延させたところでどこまで遅くなるかわからない。でも、膨大な魔力を注ぎ込んだ遅延スローならもしかしたら回避が難しくないかもしれない。

「さらに時空魔法、加速アクセル

 スザンヌを抱えながらなんて私には難しいことですが、それでも少しでも自分の足を早くするしかない。そうだ、スザンヌを軽くすればいいんだ。

「付与魔法、軽量化《ウェイトセーブ》」

 スザンヌの体重を軽くしてさらに速度を上げる。なんとか遅くなった雷より早く動けるようになりました。それでも魔法の疲労だけでなく、肉体疲労までたまってしまう。消耗戦になればきっとこちらが不利になる。

「こざかしい」

 フレデリックはアンヌ先生の方に視線をむけることなく私だけに集中して極太の雷撃を飛ばす。それなのにアンヌ先生とジャンヌのの攻撃はしっかりガードしてしまい、届いていない。無詠唱に雷の波動魔法。さらには付与魔法によって周囲にさらに影響を与える。こんな化け物にどうやって戦えっていうのよ。雷撃が私にぶつかる前からものすごい熱量を感じました。

 ああ、これ死ぬやつだ。

 雷光の光や熱に網膜が耐えられなくなる。激しいその攻撃は、ぶつかるまでわずか数秒のはずなのにいろんな人の顔がぶわぁっと脳内に流れ始めました。それはこの世界でであった大切な人たち、友人、家族、そして…………あのバカの顔だ。

 ああ、あいつにとって私は、もう利用価値もなくなってしまったのかな。

 そんなことを考えているうちに視界は真っ暗。激しい雷光のせいだろう。あるいは熱か。どちらにせよ視力を失ったのかもしれない。それにしてもまだ全身が貫かれていない。どうなったのだろうか。それとも、死後か。転生してしまった以上、死後の世界も受け入れよう。さて、今度はどんなことになっているかな。

 私はゆっくり目を開く。開ける。まだ目は痛いし、息切れもする。体の不調が残っている。心臓の鼓動も早い。

 私の身体を覆いかぶさるように黒いローブがかけられます。

 これは…………

「そこで見てろ」

 顔をあげる。そこにいたのはローブを脱ぎしてて白くきれいなシャツを着た男性が私の前に立っていました。真っ白な髪が風になびきます。

「……遅いのよ」

「お前が死にそうにならなければどうでもいいからな」

「なにそれ」

 どうでもいいといわれたのに、なぜかこんなにもうれしいのは、目の前にいる男がいれば、きっとこの状況も打破できる。そう信じることができたからでしょう。

「頼んだわよ…………ブランク」

「お前に頼まれたからやるわけじゃないがな」

 そう、私の目の前には魔王ブランクの背中がありました。
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