BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

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200話・後半 【紫】のワンダーオーブ

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「オリバー、幻惑魔法以外に戦える?」

「多少ですが、剣を」

 そういったオリバーは腰につけていた剣を見せる。先ほどまで持っていなかったように、見えましたが、それすらも隠してたようです。幻惑魔法、欺くにはうってつけなのよね。

 婚約破棄の際に大けがをさせた手前、オリバーを無茶させられない。でも、平気そうにしているし、大丈夫だよね?

 私は後方にいる神に視線を向けます。

「それで? どう力を貸してくれるのかしら?」

「ん? 俺が味方した。その事実だけだが?」

「……そう。何もしてくれないのね。でもいいわ。なんだかとっても勝てる気がするの」

「幸運を祈るぜ」

 初めから神なんて頼る気はありませんでしたが、こいつの紺碧の瞳には、気がかりな点がある。以前、瞳の色の話をした際に、私の紺碧の瞳に対してブランクは答えた。

――その瞳の持ち主は運がいい。

 そして【紫】のワンダーオーブの力は、持ち主を幸運にする。百万円するツボと違って効果はありそうですけど、こいつ自身がもし、そういった強運の持ち主だとしたら、こいつはそこにいるだけで勝利に導く何かを持っているんだ。多分。

 帝国兵たちの幻惑魔法がフレデリックの膨大な魔力により破壊され、周囲にいた兵士たちも吹き飛ばされる者や感電する者が現れました。

 私とオリバーが振り返るよりも先に、鋭い雷撃が私たちのすぐ横の空間を貫きました。

「さすがねオリバー」

「だますにも限度がありますけどね。俺も貴女も幻惑魔法を見せすぎましたから」

 オリバーの幻惑魔法により、雷撃の狙いは逸れてくれましたが、幻惑魔法使いの対処法なんて簡単だ。私が大地全体に波動魔法を送り込んだように、全方位に雷撃を放てばいい。

「そうね、でもいいの。これから勝つから。波動魔法、隆起アースファング

 周囲の大地を無差別に隆起させつつ、フレデリックの足場も強固な土の牙で襲う。魔力の流れに気づいたフレデリックはとっさに私の攻撃をかわそうとしましたが、その反対側にはすでに走っていたオリバーが、剣を思いっきり構えて横薙ぎ払いをします。フレデリックは雷撃で刃を砕こうとしましたが、砕けたのは蜃気楼。

 オリバーはフレデリックに三秒後の未来を見せていた。そしてオリバーは幻惑で魔法で見せた行動とは違い、突きでフレデリックの喉元をまっすぐ狙う。フレデリックは真正面に強力な雷撃を放ちましたが、それすらもブラフ。

 オリバーはまた幻惑魔法で偽物の自分を作っていました。

「本物はどこだ?」

 フレデリックが予想通り全方位に向けて雷撃を放ったタイミングで私は魔法を使います。見様見真似。一か八か。この瞳の色が幸運だというなら、答えて見せなさい。

「錬金付与魔法、ブロンズ

 ビルジニの得意魔法。一度しか見たことがない一族秘伝の魔法。極力それに近いものとして魔法を行使する。

 私は隆起で作った土の牙すべてに、土が銅の性質になるように付与しました。それにより、フレデリックのすべての雷撃が周囲に立った土の牙に向かって走っていきます。

「雷撃の道をそらされた!? だが、あの剣も!!!」

 フレデリックが後方から走ってくるオリバーに気づく。剣も避雷針の役割をするかもしれない。その予想は正しいかもしれないわ。でもそれはね。本当にオリバーが剣を持っているならそうでしょうね。

 オリバーが最後の幻惑魔法を解除します。オリバーの右手に握られていた剣は霧散し、彼はすでに手には何も持っていない。

 そしてフレデリックの顔面にあった空間に亀裂が走り、そこからは金属の塊である刃がフレデリックめがけて飛び出した。

 反射的に雷撃はフレデリックの顔面で炸裂する。フレデリックは雷撃の鎧から発生する熱を上手く波動で外側に流していたかもしれませんが、顔面スレスレの雷光から、目を守るなんてできやしない。

 圧倒的な光にフレデリックはその場に立つことも難しいくらい消耗する。そこで私とオリバーが二人並んだ。

「そうでした。返事をしましょう」

「なんの?」

「クリスティーン・ディ・フォレスティエ王女。貴殿の婚約破棄を受理はするが、ラヌダ帝国とブラン王国の友好をここに証明しよう」

「あらありがと。頑張って皇帝陛下を説得して頂戴ね」

「それでは」

「ええそうね」

 オリバーが雷撃で焼け焦げた剣を拾い、それでその場に倒れ込んでいたフレデリックを思いっきり斬りつけた。致命傷とまでは行きませんが、気絶させるには十分なけが。

「勝った。勝ったんだわ」

 私がそう呟くと同時にエドワードから【紫】のワンダーオーブを託される。

「近いうちに顔を出す」

 そういって神エドワードはその場から消えてしまいます。私が隣にいたはずのオリバーにお礼を言おうとすると、そこには、すでに血まみれで地面に仰向けになって倒れているオリバーの姿がありました。

「え? オリバー?」

 オリバーからの返事はない。そんな怪我。どこにもなかったじゃない。応急処置もしていたのでしょう?

 私の足元は、気づかぬうちに赤い水たまりができていました。よく見ればオリバーの走った道もその跡が残っている。

「ふふ……この場を立ち去るまで……持ちこたえられませんでしたか」

「持ちこたえるって! 貴方まさか、完治していなかったの?」

 オリバーからの返事はない。ですが、首を横に振らない。その体力もない。幻惑魔法でごまかそうともしない。その魔力もない。彼には、もう生命としての時間が、終わることを待つだけなんだ。そう悟った。

「誰か! 誰か! 来て! 回復魔法、治癒ヒール

「ここに」

 私が回復魔法をかけながら人を呼ぶと、そこに現れたのはオリバーの付き人である老紳士ジェイク。彼がオリバーの真横に膝をついてしゃがむ。

「王国の姫よ。あとは私がやりましょう」

「貴方、回復魔法も使えるの?」

「……」

しかし、ジェイクさんは首を横に振りました。使えないの? だったら私がなんとかした方がいいんじゃない?

「王国の姫、貴殿は時空魔法が使えたな。であれば、これは禁術に値する魔術だ。けして使わなぬように」

「え?」

「時空魔法、生命蘇生リザレクション

 その時、オリバーの身体にさきほどまで通っていなかった魔力が流れ始めるのを感じました。

 うそでしょ。生命蘇生魔術? そんなものがあったらどうしてみんなに使わないの?

 そう思ってジェイクさんの顔を見た瞬間、私は言葉を失う。ジェイクさんの姿は老紳士といえど、老いを感じさせないくらい健康的な顔の方でした。しかし、今目の前にいる人は、頭皮の上から頭蓋骨の形状がはっきりわかる男性だ。

「まってジェイクさん! その魔法は!!!!!」

「承知の上です。王国の姫殿」

「……だって……それは…………貴方の命を吸い取っているのでしょう?」

「承知の上」

 そしていつしか、歯が抜け落ち、膝をつくこともできなくなったジェイクさんは、その場に倒れ込む。私の目の前には、確かに呼吸をしたまま眠っているオリバーと、帝国の未来を思い戦った一人の英雄が眠っていました。
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