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212話 マルグリット
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「カトリーヌ!」
とある御屋敷の執務室。私はその部屋に一直線に飛び込むと、執務机に座っていた彼女が顔を上げるとすぐにため息をつきました。
「一国の姫の行動とは思えないくらい礼儀がないわね」
「それはもう今更でしょ? 仕事が終わったらついてきてほしいところがあるのですけど、大丈夫よね?」
「……よねって貴女ね。まあ、いいわ。行ってあげる」
カトリーヌが仕事に戻る中、私は執務室にあるソファに勝手に座り、それを見たカトリーヌが数秒だけ手を止めますが、もう指摘するのも面倒なのかそのままペンを動かし始めました。
しばらくしてから彼女が立ち上がり、こちらに向かって歩いてきます。
「待たせたわね」
「構わないわ。こちらの都合を押し付けているのだもの」
「自覚はあったのね」
彼女を連れて馬車に乗り込む。目指すは魔法学園にある英雄の像。七人の人間らしき像が飾られたその七人について語られた文献は存在しないまま、普通に生きていれば正体もわからない英雄たち。
でも、私たちはそれの正体を知っている。あれは七人の神々の姿。禁書通りと考えるなら、世界の創造にかかわった七人なんだ。
馬車を走らせて数分。魔法学園もそれなりにボロボロになっていましたが、何とか立て直されていました。それでもまだダメ。特に白金のフレデリックとの戦闘になったグランドはズタボロ。校舎だって一部焼け焦げてしまっています。
「人い有様ね」
「戦争あとなんてどこもこんなものでしょ。それより私を連れていきたい場所ってどこ? 貴女のことだから、あの魔女の討伐に関わることなんでしょ?」
「……そうなるわね」
私はこれまでの事情と、なぜカトリーヌを連れていくことにしたかを彼女に説明をした。それを聞いた彼女は、なるほどと呟いて私の後ろについて行く。英雄像の前までたどり着くと、確かに七人の英雄像はどことなくこれまで出会った神々の面影を感じました。
「これが神々ね。でも、本当に私の先祖なのかしら」
「多分大丈夫よ。マルグリットとあったことがあるブランクは、貴女を見て驚いていたから多分間違いないわ」
「まあいいわ」
私たちが英雄像の前についてしばらく話していると、ようやく姿を現す気になった彼女が像の前に顕現し始めました。銀髪に深紅の瞳の女神。夢ではなく現実で見るのは初めての神。【赤】のワンダーオーブをアリゼに託した神マルグリット。
「騒がしいと思えば。マイ希望それから…………ええまあいいでしょう。なぜ呼び寄せられたかわかりました」
「自分の意志で来たのではないのね」
「いえ。来たかったから来たことに違いはありません」
そういったマルグリットは、冷静な表情を作っているが、視線はカトリーヌの方に偏っていた。
「わざわざ来たということは、聞きたいことがあるのでしょう?」
「ええそうよ」
私はマルグリットに対していくつか質問を用意していたそのうちの一つ。この世界に存在する魔法についてどこまでの知識があるのか。今、私たちが基本としている魔法と古代の魔法はどこまで違っているのか。
落ち着いて聞いていたマルグリットは、なるほどと答える。
「第一に、私たちがこの世界を創造する前の世界ではあなた達が使っている基本七種の魔法は存在しませんでした。そもそも、その基本七種は便利に見えてそうではない。限定されすぎて使いにくい魔法です」
やはり予想通り。私たちは二千年前からずっとこの不便な魔法を使わされていたんだ。
「本来の魔法が途絶えた理由は?」
「単純明快ですよ。私たち七人が人類の記憶から正しい魔法の使い方を忘却させ、世界の歴史を書き換えた。その結果、ワンダーオーブが産まれました」
「ブランクが使っている魔法は本来の魔法で間違いないのかしら」
「あれも少し違いますが、近いといえますね」
なるほど。炎や氷の魔法。魔法陣による転移や強化は本来の魔法と少しだけ違うのね。
「私たちは本来の魔法を習得できるかしら」
「可か不可かの話をするのであれば、可能です。もしその気があるのであれば…………貴女の友人を連れてここに集まりなさい」
「え? 大人たちとかはだめなのかしら?」
「…………認められませんね。これから教える魔法は神一人につき魔導士一人。七人限定です」
七人だけ。
ミゲル、アレクシス、リビオ、ビルジニ、ジョアサン、オスカー、ジャンヌ、カトリーヌそして私。
スザンヌは療養中だから数えられないとしても、私達だけで九人もいる。正直、今更みんなをないがしろにするつもりはない。
でも、魔法を使えることを知れば、きっとみんな手を挙げるわ。特に戦うための魔法が使えないミゲル、アレクシス、リビオ、ビルジニ、ジョアサン、オスカーの六人は使ってほしいわね。
むしろ波動魔法が使える私達三人の中で新たに魔法を習得すべきなのは…………。
「七人の枠が決まりましたら、もう一度ここにきて下さい。その時は神々がお出迎えいたします」
そういったマルグリットは赤い靄になって霧散してしまいました。
とある御屋敷の執務室。私はその部屋に一直線に飛び込むと、執務机に座っていた彼女が顔を上げるとすぐにため息をつきました。
「一国の姫の行動とは思えないくらい礼儀がないわね」
「それはもう今更でしょ? 仕事が終わったらついてきてほしいところがあるのですけど、大丈夫よね?」
「……よねって貴女ね。まあ、いいわ。行ってあげる」
カトリーヌが仕事に戻る中、私は執務室にあるソファに勝手に座り、それを見たカトリーヌが数秒だけ手を止めますが、もう指摘するのも面倒なのかそのままペンを動かし始めました。
しばらくしてから彼女が立ち上がり、こちらに向かって歩いてきます。
「待たせたわね」
「構わないわ。こちらの都合を押し付けているのだもの」
「自覚はあったのね」
彼女を連れて馬車に乗り込む。目指すは魔法学園にある英雄の像。七人の人間らしき像が飾られたその七人について語られた文献は存在しないまま、普通に生きていれば正体もわからない英雄たち。
でも、私たちはそれの正体を知っている。あれは七人の神々の姿。禁書通りと考えるなら、世界の創造にかかわった七人なんだ。
馬車を走らせて数分。魔法学園もそれなりにボロボロになっていましたが、何とか立て直されていました。それでもまだダメ。特に白金のフレデリックとの戦闘になったグランドはズタボロ。校舎だって一部焼け焦げてしまっています。
「人い有様ね」
「戦争あとなんてどこもこんなものでしょ。それより私を連れていきたい場所ってどこ? 貴女のことだから、あの魔女の討伐に関わることなんでしょ?」
「……そうなるわね」
私はこれまでの事情と、なぜカトリーヌを連れていくことにしたかを彼女に説明をした。それを聞いた彼女は、なるほどと呟いて私の後ろについて行く。英雄像の前までたどり着くと、確かに七人の英雄像はどことなくこれまで出会った神々の面影を感じました。
「これが神々ね。でも、本当に私の先祖なのかしら」
「多分大丈夫よ。マルグリットとあったことがあるブランクは、貴女を見て驚いていたから多分間違いないわ」
「まあいいわ」
私たちが英雄像の前についてしばらく話していると、ようやく姿を現す気になった彼女が像の前に顕現し始めました。銀髪に深紅の瞳の女神。夢ではなく現実で見るのは初めての神。【赤】のワンダーオーブをアリゼに託した神マルグリット。
「騒がしいと思えば。マイ希望それから…………ええまあいいでしょう。なぜ呼び寄せられたかわかりました」
「自分の意志で来たのではないのね」
「いえ。来たかったから来たことに違いはありません」
そういったマルグリットは、冷静な表情を作っているが、視線はカトリーヌの方に偏っていた。
「わざわざ来たということは、聞きたいことがあるのでしょう?」
「ええそうよ」
私はマルグリットに対していくつか質問を用意していたそのうちの一つ。この世界に存在する魔法についてどこまでの知識があるのか。今、私たちが基本としている魔法と古代の魔法はどこまで違っているのか。
落ち着いて聞いていたマルグリットは、なるほどと答える。
「第一に、私たちがこの世界を創造する前の世界ではあなた達が使っている基本七種の魔法は存在しませんでした。そもそも、その基本七種は便利に見えてそうではない。限定されすぎて使いにくい魔法です」
やはり予想通り。私たちは二千年前からずっとこの不便な魔法を使わされていたんだ。
「本来の魔法が途絶えた理由は?」
「単純明快ですよ。私たち七人が人類の記憶から正しい魔法の使い方を忘却させ、世界の歴史を書き換えた。その結果、ワンダーオーブが産まれました」
「ブランクが使っている魔法は本来の魔法で間違いないのかしら」
「あれも少し違いますが、近いといえますね」
なるほど。炎や氷の魔法。魔法陣による転移や強化は本来の魔法と少しだけ違うのね。
「私たちは本来の魔法を習得できるかしら」
「可か不可かの話をするのであれば、可能です。もしその気があるのであれば…………貴女の友人を連れてここに集まりなさい」
「え? 大人たちとかはだめなのかしら?」
「…………認められませんね。これから教える魔法は神一人につき魔導士一人。七人限定です」
七人だけ。
ミゲル、アレクシス、リビオ、ビルジニ、ジョアサン、オスカー、ジャンヌ、カトリーヌそして私。
スザンヌは療養中だから数えられないとしても、私達だけで九人もいる。正直、今更みんなをないがしろにするつもりはない。
でも、魔法を使えることを知れば、きっとみんな手を挙げるわ。特に戦うための魔法が使えないミゲル、アレクシス、リビオ、ビルジニ、ジョアサン、オスカーの六人は使ってほしいわね。
むしろ波動魔法が使える私達三人の中で新たに魔法を習得すべきなのは…………。
「七人の枠が決まりましたら、もう一度ここにきて下さい。その時は神々がお出迎えいたします」
そういったマルグリットは赤い靄になって霧散してしまいました。
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