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学園
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しおりを挟むみんな何話してんのかなー。
なんでか私は除け者…寂しくなんかないやい!と1人寮に帰り、ベッドにダイブ!!
枕をアシュレイ、クッションをディードとトレイシーに置き換えてボスボス殴る。アルとリリーは無罪放免ね。
…ふんだ!!グレてやるー!部屋を飛び出した。
「アシュリィ様、どちらへ?」
「アシュレイ達が集まってる教室!」
アイルを連れて廊下をずんずん歩く。彼らは授業終了後、学園内の普段使われていない部屋を占拠したのだ。
邪魔してやる!その前に盗み聞きしてやるう!と半泣き状態で歩く。
「(もしかして、サプライズの計画を立ててる!とか思わないのか?…意外と寂しがりなんだな)」
後ろを歩くアイルは微笑む。私からは見えないが、般若の魔族と菩薩な従者が歩く様は、さぞ異様な光景だろう。
誰もが両脇に寄り道を譲ってくれる。ごめんね!
「あ…おい、アシュリィ」
「なにゅ!?」
「なにゅ?何怒ってるんだお前…」
横から名前を呼ばれて、ぐりん!と首を捻る。
そこにいたのは、いつも通りティモを連れたデメトリアスだった。
「アシュリィ、ヨッス!」
「あれ、まだ残ってたんか」
頭の上にはミニアシュが。シュバっと手を挙げた、なんか語彙増えた?
しかし全員ディードに消されたと思ってた。胸に手を当てて集中すると…あ、1人動いてんの分かるわ。
「こっちおいで」
「イヤ!デム、イッショ!」
ええ~…?チラッとデメトリアスに視線を送る。
彼はコホンと咳払い、好きにさせとくと言う。まあ…貴方がいいなら別に、ね。
「…少し話がある。時間をくれ」
うーん。なんか眉を下げて深刻そうな顔。
そういえば、バタバタしてて後回しにしてたけど。私も…彼と話したいと思ってたんだよな。
了承してカフェに移動。
「なーに、話って?」
「…………………」
ティモとアイルは隣の席に待機。私の背中側ね。
それぞれ注文し、私はコーヒーを一口飲む。
ミニアシュはテーブルに座り、クッキーをさくさく頬張ってる。飲食するんか…初めて知った。
デメトリアスは…ティーカップの取っ手をいじいじ、目を伏せて小声で何か言った?
「……て、くれ…」
「……ん?もっかい言って…?」
「…だから。来週…帝国で俺の誕生日パーティーがある。
そこに出て欲しい…パートナーとして」
「……へ?」
誕生日なの?おめでとう!と言えなかった。
だって、パートナーって…私をエスコートして、一緒に入場するって事でしょ?
親族以外でそれやったら…特別な存在って言ってるようなモンだけど!?
ガタッ!
ん?なんか近くで、椅子を蹴るような音が?
キョロキョロ見渡すが不審な人物はいない…
「(この馬鹿、気付かれるだろう!)」
「(いてて…すまん。ディード、隠密系の魔法掛けて!)」
「(全く…)」シュンッ
「「(……何してるのかな、この人達…)」」
どうやら…隣のテーブル、従者達の足元に侵入者がいたらしい。私達は気付かなかったがな。
「その、さ。意味分かってる…よね?」
「当たり前だ。
少し自分語りになるが…俺は留学終了後、国に帰る気は無い。…帰る、場所が無い」
「……!」
いきなりぶっ込まれて、反射的に息を呑んだ。
…アイルいるけど、聞かせていいの…?
私が後ろを気にしていたら彼も察し、構わないと笑った。
「お前の従者は、人の秘密を言い触らす真似なんぞしないだろう」
「……ありがと」
従者を褒められるのは、自分が認められる何倍も嬉しい。
でも念の為…4人がいる空間(実際は6人だった)を包むように遮音を掛ける。
それを確認すると、デメトリアスは「ありがとう」と呟いた。
「…お前も気付いているだろうが。俺とティモは両親を同じくする兄弟だ」
「………………」
後ろで、アイルが小さく「えっ?」と声を漏らした。
きっとティモは苦しげな顔をしているだろう…私の目の前にいる、デメトリアスと同じように。
「それ以上は言えないが。
一部の者を除き…帝国民や諸外国でも俺は第1皇子という認識だ。
だが…陛下は俺に、自然に皇室籍を抜けて欲しいと願っている」
それは…無意識に、拳を強く握る。
女帝…キャンシー陛下はこの国の王妃、カリナ殿下のお姉様。
親友の母の姉だから…と、私は勝手に一方的な親近感を抱いていたが。
デメトリアスに、こんな顔をさせるなんて。許せない…!!
「……それで、どうして私をパートナーに?」
落ち着け私、もう子供じゃないんだ。そりゃ最終手段はグラウム帝国にカチコミだけれど、まだその時じゃない。
「…自然に皇族から抜けるには、何が最適だと思う?」
「?そりゃ…臣籍降下?あ、いや…国を出たいのか。なら……死の偽装…」
「俺もそう思う」
彼は力無く笑った。初めて会った時の…自信満々のドヤ顔からは想像もつかない。
なんだか目の下に隈も見える。私がグースカ寝てる間、何があったんだ…
それは、かつてリリーナラリスが…家族の愛を求めていた頃と重なって。お節介だろうが、デメトリアスの助けになりたいと願ってしまう。
「だがな、死も簡単ではない。
例えば…俺が馬車の事故で死んだとして。間違いなく御者も処刑されるだろう。…ティモもな」
「……うん」
「実は…今回の留学が決まった時。魔国からお前が来ると知り…これだ!と思った」
「は?私?」
私が、何?言葉の真意がまるで読めず、眉間に力が入る。
「……人間の中で、皇族・王族より立場が上な者はほぼいない。
だが魔族は違う。その中でもお前は…魔王陛下の御息女。恐らく陛下すらも、頭を垂れる存在だ」
「…まさか?」
「そうだ。もしも俺とお前が…恋仲になったら?
魔族の姫君がお相手ならば仕方ない。涙を呑んで…陛下は俺を、魔国に送り出すだろう」
「な……ゆ、ほど…」
言えてる。魔王の1人娘が、お婿に来て!と望んだら。皇子だろうと、無下にはできまい。
「陛下も同じ事を考えていたようでな。俺を送り出す時…何度も「姫君に失礼のないように」と仰っていた」
「…自分で言うのもなんだけど。貴方最初から、私に喧嘩腰だったよね?
その…そういう事情があったなら。嘘でも私に気に入られようと、甘い言葉を囁くよね?」
でも貴方、むしろリリーを口説いていたよね?
そう突っ込めばデメトリアスは、汗を流して顔を逸らした。
「だから…お前の後ろに…パリスがいたから。前も言ったが…そういう趣味なのかと、勘違いして。その瞬間、この計画はナシだ!と脳内で破り捨てた。
帝国に…奴隷を好む貴族がいてな。俺は大嫌いな奴なんだが…そいつも、獣憑きを3人連れ歩いているんだ…」
「な…!?」
彼の勘違いについては、この際どうでもいい。
獣憑きが3人て…!そういえば帝国は、奴隷が認められていたな。
……大体理解した。
「それで、私を連れてって。皇帝陛下を騙したいの?」
「…お前とアシュレイが想い合っているのは分かってる、邪魔をする気はない。
ただ…そうだな。利用しようと思っているのは否定しない。俺達が何かしなくても…周囲が勝手に勘違いするかもしれないな?」
「デメトリアス…」
彼は悔しそうに唇を噛み締める。アシュレイとはそんなんじゃないやい!と照れる気にもなれない。
……いっそ。
「…本当に、魔国に来ない?」
「は…?」
ごんっ!!!
ん?なんか、テーブルに頭突きするような音が?アイルか?
「(いてて…)」
「(阿呆が!隠密を掛けていても、物を動かせば音は出る!)」
「(だって!!魔国に連れてくって…愛人!?それとも魔国って重婚可!?)」
「(……魔国は…結婚に関する細かな法律は無い。
人間とは恋愛に対する価値観が大きく異なるからな、政略結婚は必要無いし。「好き!」「じゃあ結婚するか!」「飽きた!」「じゃあ離婚するか!」で終わりだ。
同時に複数の伴侶を迎えられるのは、夫婦のどちらかのみだが)」
「(……ひゃわわ)」
まあいいか。デメトリアスは目を見開いているので、軽く説明した。
「実はさ、極秘って訳でもないけど。魔国で今、とあるプロジェクトが進行中なのよ。
お祖父様が世界中飛び回ってんのも、それと関係があってね。
そこの…責任者というか、やってみない?もちろん、ティモも一緒においでよ」
「……魔国…に…」
「無理は言わないけど。それなら…私の我が儘で、絶対にデメトリアスを連れてく!って陛下に言うよ?実際そうだし。
興味があるなら、詳しく説明するけど」
「………少し、考えさせてくれ。お前はパーティーに来てくれるのか?」
「むーん。返事はアシュレイに相談してから…でいい?」
「ああ」
必然的に、アシュレイにも貴方の事情を話す事になるけど。その許可も貰い、一旦お開きに。
ミニアシュは相変わらずデメトリアスにくっ付く…もう好きにせい。
「…アシュリィ」
「んー?」
従者2人が後ろを歩き、全員で寮に向かう。帰る方向一緒だし、別々に行く必要無いよね。
そしたらデメトリアスが、ぴたっと足を止めた。私は振り返り、彼と目を合わせる。
「……例えば俺が、初めて会った時に。お前に…「一目惚れしました」とか言ったら。
お前、俺と付き合ったか?」
「………………」
そんな事、言われても。全ては終わった事だし…何より。
「私にはアシュレイがいるもの。最近まで自覚してなかったけど…子供の頃から、大好き。
好きになった切っ掛けなんてない。気付いた時にはもう、彼は私の心の真ん中にいたの」
「……そうか」
そうだよ。さ、馬鹿な事言ってないで帰ろう。
その時、私達の後ろを…隠密状態のアシュレイとディードが歩いていたそうな。
「(好き…大好き!?オレを…子供の頃から!!!
わああああん!オレの片想いじゃなかったあああぁっ!!!)」
「(私は最初から、勝ち目は無かったという事か…)」
というのを翌日全て、ディードに聞かされた。
「は!?じゃあ盗み聞きして…って!大好きって、聞いてたの…!?」
「そうだ。レイは喜びすぎて熱を出して、今日は休みだ」
「ひゃああ…」
今度は私が、頭から煙を出す番だった。
それでも恥ずかしい心を押し殺し、アシュレイと顔を合わせて。
「聞いてたらしいけど…デメトリアスと、パーティーに参加したいんだけど。
…アシュレイは、どう思う?」
「いいよ!でも…お前の好きな奴は、別にいるんだよな?」
「……いじわる」
分かってるくせに。
唇を尖らせて横を向けば、アシュレイは心臓を押さえてその場に倒れた。何事ーーー!?
アイルが言うには「不治の病です」って。駄目じゃんそれ!?
というおふざけは全部落ち着いてからにして。アシュレイに許可も貰ったし…こうして私は、グラウム帝国に行く事が決まったのである。
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