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学園
50
しおりを挟む呆然とする私。
ずっと無表情だったラリーは、蕩ける笑顔で…私の布団を捲り。足首を手で支えながら、つま先にキスをして。
頭が沸騰し、動けずにいる私の襟を広げ。首筋にもキスをし…そのまま…私に覆い被さり…
「……このダボがあっ!!!」小声
「っ!!」
何脱がそうとしてくれとんじゃ!!R-18にする気か!!
超手加減してチョップを頭にくれると、彼は床に転がった。
「…うぅん…」
あ、いかん!ミラが起きそう…ちょっとこっち来い!!
ミラには布団を掛け直し、頭を抱えて倒れるラリーの…どこを掴もう?
ええい!隣のベッドからシーツを剥ぎ取り、彼をぐるぐる巻きにして俵担ぎじゃ!!
部屋の隅に移動、どういうつもりっ!?と詰め寄る。遮音したから遠慮なくね。
「で…ですから。ご奉仕を…」
「頼んでないわ!というか、そんなつもりで引き取ったんじゃないわ!!」
「……???」
ラリーはワケわからん、といった顔。
それはこっちだわ!!ああもう、さっきの光景が頭から離れん…!
男性の裸なんて…初めて見た…!上から下までがっつり見ちまったわ!!
いや教会でちっちゃい子のお世話とかはしてたけど、大人の男性とは違うからな!?
ガイラードと夫婦だった時もあるけど…世界線が違うのでノーカン!!!
「とにかく!!あの、仕えろとは言ったけど。夜の世話はいらん!!」
「では…僕は何をすれば…?」
「これから考える!今はただついて来ればいいの、オッケー!?」
「え、はい…」
「返事はイエッサーね!」
「いえっさー…」
よしよし、素直なのはよし。だがイエッサーも時と場合で使用不可。
服を着せて、ベッドに放り投げて布団を掛ける。
いや…じっと見上げるな、寝ろ。付き合いきれんので、私もミラの眠るベッドに戻る。
「おやすみ!」
「おやすみなさい…」
ったく…!
……まだ胸がドキドキしてる。ちくしょう…!この私が、簡単に揺さぶられるなんてえ…!!
…あれが殺意だったら、容易に対処できるのに。色事は、ちょっと…でも。
彼は今まで…そうやって生き延びてきたんだな。
理解できてしまうから、頭ごなしに叱る事はしたくない。チョップした時も、痛かったろうに声を上げないよう耐えていた。
どうか彼の心の傷が癒えますように。そう願いながら目を閉じた。
「………お嬢様」
「…………」
反応が無い。
今まで僕を買った令嬢には…従順な獣を演じ、微笑んでみせればよかった。
最初は恥じらう演技をしていても、服を脱がせて肌に触れ、唇を当てて身体を重ねれば全員僕に夢中になった。
そこに僕の意思は必要ない。生きる為に、好きでもない女を悦ばせる。
だけど、僕の姿は不吉だから。少しでも不幸が起これば、僕のせいにされた。
大切にしていた花が枯れた。
財布を落とした。
好きな人にフラれた。
その度僕は折檻され、売り飛ばされる。
次は…些細な不幸なんて関係ない程に、僕を求めてくれる令嬢がいいな。
なのに…
どうすればいいのか分からない。
きっとこの人以上に…奴隷を大事にしてくれる人はいないだろう。
捨てられないように、売られないように。僕を愛してもらわないと…
「お嬢様。そちらのベッドに行ってもいいですか…?」
「駄目。寝なさい」
「…温もりが無いと、眠れません」
「…………」
ハァ…と大きくため息をつかれた。
まずい、嫌われた…!?
頭が冷える、鼓動が速くなる。
魔族だというお嬢様に殴られたら…死ぬかもしれないな。チョップも痛かっ…あれ?
そういえば凄い衝撃だったのに、あまり痛くなかった。なんで?
さっきも…手を上げられる覚悟で自分の意見を言ったのに。まるで友人同士の会話のように返されて…分からない。
「…ほれ、おいで。今日だけね」
「え…」
お嬢様は上半身を起こし、ミラを少し寄せて、僕のスペースを空けた。
「変な事しないでよ」
「……イエッサー」
僕は彼女の隣に横になり、布団を被って。
後ろから胸を触った。ん?ここが胸か…?随分とささやかな…
「それが変な事だって言ってんの!!!」小声
「いたたっ!」
なんで、このくらい変じゃ…!
手の甲をつねられて、思わず声が出た。
「次やったら魔法で眠らせんぞ!」
……分からない。
せめて…足を絡めて後ろから抱き締めた。
月明かりで、お嬢様の耳が赤く染まっているのが見える。
僕を男として意識しているのに…何故拒む?
「…ラリー」
「っ!何か…?」
「……これからは、好きでもない人にこんな事しなくていい。
いつか…心から愛する人ができたら。その時こそ…その。キスしたり、肌を重ねると、いいんじゃないかな」
「……イエッサー…?」
疑問は多いけれど。
お嬢様の温もりに…香りに、柔らかさに…自然と目蓋が…重く…
…やっと寝た。後ろから規則的な寝息が聞こえてくる…ほっ。
私は一晩起きてたけど、ラリーは夜明け頃に起きた。
寝たふりして様子を伺っていたが…私の耳にキスしやがった!昨夜の話全然理解してないな!?
だがそれ以上は何もせず、床に正座しているようだった…
15分くらい後に、自然に起きたふりをして。
「床は座る場所じゃない。座るなら、椅子かベッドにしてね」
「僕は奴隷で…」
「違う、私の使用人でしょ。もう貴方を繋ぐ首輪は無いんだよ?」
「あ…」
本気で忘れてたのか、すっきりしている首を呆然と撫でた。
はあ…こりゃ時間掛かるぞ。でも私付きは三人衆で充分なので、これからはディードに仕えてもらおうかな?
とか色々考えてたら、朝食が運ばれてきた。
ミラを起こし…ご飯にして。さて、皇宮に行くか。
ここで時間は戻り…昨夜、亜種リィを送り出した後の事。
私は会場に戻り、友人達と合流。まだまだパーティーは続いている。
「シュリ。話は終わったか?」
「うん。令息はどこに…?」
「…………」
デムが顎で指す先は…うわ、胸糞わる。
令息は休憩用のベンチに座り、フィオナとリアを両側に侍らせて鼻の下を伸ばしている。
セルジュはその横で、床に正座を。3人共微笑んでいるが、目が笑っていない。
誰もが彼らを敬遠し、近寄ろうともしない。
そもそも…奴隷が国で認められているとはいえ、こういった場に連れて来るのは非常識だ。
あの男はパーティーの主役である、デメトリアス殿下を侮辱しているようなもの。
だからだろう、さっきから…気まずそうにデムを見る人が多いのは。
あの子達も好奇の視線に晒され、気色悪い男の相手をさせられて。自然と…拳を握る。
「……アシュリィ様」
「うん、任せ…」
「いいや、俺が行く」
パリスは目に涙を浮かべて、ぎゅっと服を握り締めている。
少し窘めてやらにゃ…と思ったら。デムが1人で近寄った…?
「おい、タンブル令息」
「おっと…殿下、何かご用で?」
「…さっきはシュリがいたから言わずにいたが。
そのように醜態を晒して、恥ずかしくないのか?」
「へえ…?美しい彼女らを連れているのが恥だと?分かっていませんね…姫君とは大違いだ」
「……それがお前の答えか。第1皇子である俺を…随分と見下してくれる」
「ははは。……偽物の分際で、虚勢を張りますねえ」
「………俺は皇子だ。つまみ出されたくなければ、とっとと出て行け」
話が終わったのか、デムは踵を返してこっちに戻って来た。あの男もニヤニヤしつつ、3人を連れて会場の外に…
まあ、全部聴こえてたけど。魔族の聴力舐めんなよ。
「シュリ。もうパーティーは放っとけ、戻るぞ」
え?わっ!
デムは強引に私の腕を引っ張り、出口へ向かう。主役が抜け出していいの!?
「構わん。どいつもこいつも…弟や妹目当ての連中だ。
…この中の数人は、俺の正体を知っている。全員社交界に影響を及ぼす立場の奴らだ。
そいつらが俺を蔑ろにしている…つまり。俺が皇位を継がないと、貴族は大体悟っているんだ」
「……デム…」
それでも今日は、魔族の姫を連れていたから…少しは敬意を払っていた。という事らしい。
アルは王国代表という事で、最後まで残るらしい。
なのでアルとリリーを残して、私達は居住区に戻った。
全員着替えて、デムの部屋に集合。
「アシュリィ様…ぼく、仲間を助けたい…!」
「私も同じだよ。最終手段は屋敷に侵入して、誘拐するかな。首輪は千切ればいいだけだし」
「うわ、懐かしい…。その後はカーテンを巻きますか?」
「ね。あの時のアシュリィ様、格好よかったね!」
はは…貴方達と、初めて会った時ね。
でも誘拐はなるべく避けたい。その後が面倒だから…
真正面から、彼らを引き抜ける状況にしたいな。
「……聞きたいんだけど、さ。
私のやってる事…お節介かな?」
私はソファーに座り、両手で口元を覆いながらみんなに訊ねた。
もしも、さ?あの3人が…今の暮らしを苦に感じてなかったら?
ああやって…露出の多い格好で、人前でイチャつくのも、楽しいと思う性癖だったら…と。
「「「ないないないない」」」
三人衆が、残像が出来る程に首を横に振っている…!だよね、私このまま突っ走っていいよね!?
「どう見ても嫌がってますよ。それに…彼らは何度も、アシュリィ様に助けを求める視線を送っていました」
「え、そうなのアイル?」
…そっか。やってるでぇ…!!
それから数分後。
「……シュリ、話がある。
他は全員出て行ってくれ」
「オレは残ります」
アシュレイは私の隣にどかっと座った。そして私と手を繋ぎ、唇を尖らせている。…嫉妬、だよね?やばい、超嬉しい…!
その様子にデムは「仕方ないな」と息を吐く。
結局ティモも入れて4人だけ残った。2人は向かいに座る、話って?
「…来月、弟である第2皇子が成人を迎える。
陛下はその時。…弟を皇太子として発表する気だ。先日届いた手紙に書かれていた」
「「な…!!」」
思わず腰を浮かせてしまった。
じゃあ、彼は1ヶ月の間に。国を出る名目を立てないといけない!?
「じゃあデムの立場は…」
「……俺は、この国に要らない人間なんだ。パーティーで分かっただろう?シュリがいなければ、もっと惨めに過ごしていたに違いない」
彼は疲れ切った顔で笑った。確かにパーティー中…挨拶以外でデムに声を掛ける人はいなかった。
ステファニー殿下は来ようとしたが、他の皇子皇女に止められてたし…
私の中で、陛下の評価は地に落ちた。絶対許さん…!!
「もういい。私が貴方を連れて行く。
一緒に魔国に行くよ!嫌だと言っても引き摺って行ってやる!!」
「…ははっ」
何よう、本気だぞ!?
が…デムの頬が濡れている事に気付き、一気に頭が冷えた。
プライドの高い彼が、人前で隠そうともせず涙を…
それ程までに追い詰められているんだ。胸が痛くなり、何かが込み上げてくる…
「……アシュリィ。殿下はどういう立場になるんだ?まさか…!
だ…第2夫君とか!?」
ごすんっ!! アシュレイの明後日の方向な発言に、私はテーブルに頭を打ち付けた。
ティモは噴き出し、デムはソファーから滑り落ちる。何言ってんだあんたは!!?
「だって、だって!魔国には…結婚に関する細かい法律が無いって!
オ……オレが旦那だけど(超小声)…殿下も旦那なら、国に連れて帰る名目になるだろ!!?」
小声の部分聞こえてんぞ!もう…ばか!!!
「違うっつの!!実は今魔国で…人間の街を作る計画があるの!!!」
「「えっ?」」
各々復活し、私の発言に目を丸くさせた。
「ごほん…魔国には人間もチラホラ住んでるの。
それは魔族と恋に落ちた人だったり、人間の国で…迫害されて、逃げて来た人だったり。
でね。いっそ街を作って、獣憑きのように…人間社会で普通に暮らせない人々を、保護しようってなってるの」
でも仕事とか法律とか、娯楽施設も欲しいし…まだまだ計画段階なのだ。
お祖父様が世界中を飛び回っているのも、人間社会を学ぶ為。同じように何人かの魔族が、国外で勉強中だ。
更に保護対象を見つけたら、魔国に連れて行く。落ち着いたら…魔国を出るか、最期まで暮らすか。本人の意思を尊重する。
「責任者は私。言い出しっぺだし、公家だし。
で…人間の街なんだから、人間のトップも欲しいの。それをデムがやってくれればな~…と思ってるんだけど、どうかな?」
「俺に…?」
それが先日彼に言ったプロジェクトだ。
デムは目を伏せて、考え込んでいる。うん…じっくり考えてね。
「……じゃあ、お前の旦那は1人だな…!?」
「当たり前でしょう!?このばかちん!!」
スパーンッ!! といい音が響いた。
だというのにアシュレイは、心の底から笑っているような…くう。その笑顔には、完全敗北だ…
暫く唸っていたデムが顔を上げて。口を開こうとした瞬間。
「あっごめん!亜種リィから連絡が…!!」
なんつータイミング!
ふむふむ…無事獣憑きを保護!で、宿を取ったと…
「本当にごめん、私出掛けるわ!亜種リィ置いてくから、後よろしく!
デム、答えは明日聞かせて。あと朝になったら私の付き人増えてるから、話通しといて!」
ポンッ!と亜種リィ2を出す。
オレも行くー!!というアシュレイは亜種リィが羽交い締めにして、窓から飛び出した。
で…ラリーとミラと顔を合わせて。
ラリーにセクハラされて…なんとか躱して。
「ラリーの服どうしよう…」
一旦皇宮に向かうので、身なりを整えないと。
ミラは普通にいい服を着せて完了。
ふむ。ひとまず買った服を錬成すっか。
完成したのは背中が大きく開いた服で、肩の部分に長い紐状のパーツを。下から穿くように着て、紐部分を後ろでクロスさせ。
前で揃えて、ブローチでパチンと。よし、格好いい!
「……(初めて…丁寧に服を着せてもらったな…)ありがとうございます…」
いいって事よ。さ、行こうか!
2人を担いで空を飛び。姿を消して…デムの部屋に、窓から侵入したのだが。
「えっと…新しい家族の、ラリーとミラなんだけど…」
「………………」ぎりぎり…
みんなを集めてご紹介。だが。
ラリーが…私を後ろから抱き締めて。ついでに翼を広げて、私の体を覆うもんだから。
アシュレイが…超歯軋りして、血走った目でラリーを睨んでいる…誰か助けて。
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