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学園1年生編

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「セレスタン、その剣を見せてもらえないだろうか?」

 あ、忘れてた。ブラジリエ伯爵の言葉に、全員の視線がミカさんに集まる。
 僕は紐を解き、伯爵へどうぞと差し出した。元々貴方の息子さんの物ですからねー。譲っていただき感謝してますよ!


「重っ!!やっぱり、抜けないか…」

 陛下に抜刀の許可を得てから、伯爵が抜こうと試みる。だが伯爵も他の人もミカさんを抜けないようだ。
 …ミカさんは、どうして僕を持ち主に選んだのかな…?以前ミカさんに聞いてみたんだけど、明確な答えは返ってこなかった。一言で言えば、「直感」らしい。
 直感なら仕方ない、それ以上は僕も考えないようにした。


「是非、抜いて見せてくれぬか?」

 僕にそう言ってくるのは、騎士総団長である。40代くらいのおじ様で、他の騎士様に比べると小柄なお人だ(それでも僕から見りゃ十分デカい)。
 僕は「いいですよ」と答え、するりと抜く。すると総団長は、「ほう…」と声を漏らす。


「美しい剣だ。特に魅力を感じなかったが…こうして見ると、君がああまでして欲しがった理由も理解出来る」

「………ご覧に、なってました、か…」

「ああ。騎士団長は全員な」

 うんうんと頷くガタイのいいおじさん達。どうやら全員、剣術大会の閉会式での出来事をばっちり覚えているようだ。穴があったら入りたい。

「ジスランから聞いたぞ、コレは鉄もあっさり斬れるのだろう?試して…みていいか?」

 伯爵が剣に手を掛ける。うーん、伯爵に稽古をつけてもらえるなら嬉しいが…。

「ごめんなさい、僕はまだ使い熟せていないんです。今箏より剣術指南書を取り寄せているところなので…少し、待ってください」

 僕はぺこりと頭を下げてそう言った。すると伯爵も誰も、それ以上は無理強い出来ない。
 使い慣れない武器は、とっても危険だからね。



 しかし…この部屋にいるの、男性ばっかだな…。扉の前に待機しているのも男性騎士だし。女性騎士って数も少ないんだよね、確か。
 でも女性皇族とか貴族とかの護衛なら、女性騎士が大活躍すると思うんだけどなあ。
 僕がぼーっとしていたら、騎士総団長さんが顔を覗き込んできた。

「何か気に掛かる事でも?」

「あ、いえ…この国は女性騎士って少ないですよね」

「ああ。どうしても、過酷な鍛錬について来れる女性が少なくてな」

 どんだけ過酷なのかな…僕も、無理かな…?ずっとジスランに付き合ってきたけど…流石に本職には届かないよねー…。
 でもジスランの修行って、騎士顔負けの内容って前にジェルマン様から聞いたんだけど。まあ…僕と彼の修行内容が一緒かどうか知らないしなあ。



 少しだけそんな風に世間話をしていたが、陛下の「そろそろルシアンが待ちくたびれている」という言葉に、僕達は下がる事になった。


 礼をして退室し、僕達はルシアンの部屋を目指す。長い廊下を歩きながら、パスカルと感想を言い合った。

「緊張したねー!」

「ああ。セレネが威嚇し始めた時は肝が冷えたよ…。後半は和やかで良かった」

「ね。ところで…君の好きな人って…誰か、聞いてもいい…?」

 野暮かと思うが…どうしても気になるので聞いちゃった。
 だがパスカルは少し頬を染めて…「今は、言えない」とだけ答えた。

「……そっかあ。でも、君に想われている女性は幸せ者だね」

「…そう思うか?」

 うん。相手がもしもロッティだったら、全力で応援するんだけどなあ…。

 ……?出来る、かな?……うーん?うまく想像出来ない…よく分かんないや。やっぱ僕は、ロッティにはジスランかバジルと結ばれて欲しいとか思ってるのかも。





 そうこうしているうちに、ルシアンの部屋に到着。
 中にはルシアンとエリゼがいて、大きな紙を囲んでいた…それはまさか。

「お、やっと来たか!見ろセレス、お前達の作ったすごろくな、少し改良してみたんだ!!」

 エリゼが満面の笑みで双六を見せてきた。どれどれ…と思ったら、パスカルが固まった。どしたん?

「放っておいてやれ…それより、見てくれ!」

 ルシアンはそう言って、僕の腕を引いた。まあいいか、僕前回の双六全く覚えて無いんだよね!今日はコレで遊ぶのかな?

「まあな!コレな、ボクが魔術的要素を加えてみたんだ。やってみよう」

 んー?紙を覗き込むが…何か変わった?あ、マスに書いてある文字が少し違う?
 って振り出しが無くなってる!もー、最初っから少なめにしといたのに!
 でも、面白そうな物もあるし…とにかくやってみよう。

「よし。メンバーはこの4人でいいか?」

「いいぞ」

「僕も」

「俺、は……参加します…」

 パスカル…嫌なら無理すんな?
 でもまあやるというなら良いよね!さて順番は…。


「待った。まず…駒に、血を一滴垂らせ」

「なんで!?」

「言っただろ?魔術的要素を加えたって。あとはやってのお楽しみだ!」

 その要素ってのを詳しく教えなさいよ!!!
 なのにエリゼとルシアンはさっさと血ぃ垂らすし。仕方ないなあ…まあ、危険は無いでしょう。

 今度こそ準備万端のようだ。順番はルシアン・エリゼ・パスカル・僕である。
 早速ルシアンがサイコロを振る、すると…

「!?駒が、勝手に動いた!?」

 なんと、紙の上で…ルシアンの駒が出た目の分だけ勝手に動いた!!

「凄いだろう!!サイコロにもちゃんと魔術が掛かっていて、連動してるんだ。
 そして書かれたお題は…お、見てろ!」

 駒が止まったマスは…『幼児化』…だと…!?


 ぼふんっ!


「あー…私が早速縮んだか…」

「「!!?」」

 なんと、ルシアンが音と煙に包まれたと思ったら…5歳くらいの姿になってる!?可愛い…しかも、服もちゃんと縮んで…エリゼェ!!?

「安心しろ、誰か1人でもゴールすれば元通りだから!
 な、凄いだろう!?書かれたお題は強制的に行使されるんだ!」

「「先に言えーーー!!!!」」

 僕とパスカルは絶叫した。嘘だろ…なんだよその闇のゲーム!!!
 そういや、こんな映画あったような…とか考えている場合じゃ無い!!途中でやめらんないの!?

「やめても良いけど…コレはゲームクリアする事で魔術も終了する。
 魔術を途中で強制解除するとどうなるか、知ってるよな?」

 はい…魔力が暴走して爆発するか、魔力回路が損傷して魔術を使えなくなるか…ですね。
 つまり、最後までやるしかないって事じゃんかあ…!ああもう、ちゃんと確認するんだったあ!!!


「し、仕方ないな…うん、始めちゃったんだし、うん」

「パスカルぅ!?」

 裏切られた!!!?なんでえ!!?


「(セレスタンが幼児化したら…それにメイド服…猫耳と尻尾…興味深いマスがいくつか…。でも自分がそこに止めるのは避けたい…)」


 ………はっっっ!!!そうか、パスカルは「文句を言う暇があったら、とっととゲームを終わらせるべき」と考えているんだな!?
 流石だなあ…そうだよね、始まっちゃったものは仕方ない。
 なるべく早く終わらせて解放されようね!パスカル!!

「(なるべく長引かせたいな…)」


 パスカルが正反対の事を考えているなど…僕は知る由もないのである。



「じゃ、次。ボクは…空白だ、ラッキー」

「じゃあ俺。…また腕立て伏せ!?」

「…服、脱がなくていいのか?」

 また?服??パスカルとルシアンは何を言ってるんだろう?
 パスカルはルシアンにデコピンし、腕立て伏せを始めた。でも、回数10回?前のと違うね。

「…男女で分けたら、困るだろ」

「あー…うん」

 エリゼに耳打ちされ、思い至る。回数こなしたら強制終了だもんね。魔術に嘘は吐けないから、僕女子でカウントされちゃうもんね…どうしてそういうところだけ気が利くのかな君は?

「はあ…僕ね。えっと…『好きなタイプ暴露』?
 うーん…そうだなあ。僕、結構強引な人好きかも。でも無理矢理は嫌……って何言ってんの僕!!?」

「「「ほー…」」」

 え、え!?口が勝手に…!何言わすんじゃい!!!なんでパスカルはメモってんの!!?
 は、恥ずかしいい!!僕は両手で顔を覆った。絶対赤くなってるう…。

「強引か…例えば?」

「例えば、以前医務……聞くなー!!!」

 あっっぶない!ギリギリで効果が切れたか…くそう、医務室でゲルシェ先生に押し倒されそうになった事思い出した…!!!

「(医務、室…?まさか、叔父上…いやまさか)よし、私だな。
『次の順番までブリッジ待機』…くおお!この短い手足じゃキツい…!早く進めてくれ!」

 ブリッジするルシアン…か、可愛い…。
 じゃなくて、可哀想なので早く進めよう。

「うーん…『一回休み』か。さっきからつまんないな、ボク」

「いいじゃないか…俺は、猫耳…げえっ!!?」

 ぽふっという音と共に…パスカルに猫耳と尻尾が生えた。か、可愛い…!

「自分に当たるとは…ん、どうしたセレスタン?」

「あ、あの…触ってもいい…?」

 触りたい…モフりたい…!「セレネのほうがモフモフだぞ!」ごめん、今はパスカルをモフりたい。
 パスカルの許可を得てから触らせてもらう。ああ…すべすべ…!気持ちいい…んふー。

「(これはこれで…いいな…)」

 パスカルも大人しく触らせてくれてるし。いいなあ、猫いいなあ。
 きっちり堪能し、サイコロを振った。まだ右手では尻尾を持っているが。

「えっと。よっしゃ空白!」

「終わった…!腕がぷるぷるする…」







 数十分後。


「ばぶう、あー、だっ!あーうー!(また1かよ!ボクさっきからチマチマ進んでるな!)」

 エリゼ、『赤ちゃん言葉』実行中。


「そろそろ誰かゴールしそうですわね。早く終わらせましょう…」

 ルシアン、『淑女語』実行中。ちなみにまだ小さいまま。


「段々怖くなってきた…それっ」

 パスカルは腹筋とか運動系ばっか引いてたぞ。
 今度は…『プラス10歳』…?



 ぼふんっ!



 ………!!パスカルが、おっきくなった…!
 プラス10歳…23歳の姿か。か、格好良い…しかも猫耳はついたまま…!

 思わず見惚れてしまった…だって僕元々、パスカルの顔好きだったし…。精悍な顔つきで、程よく筋肉質で、座ってるから分かりにくいけど高身長…だが本人は自分の変化に気付いていないようだ。

「セレスタン…俺は何か変わったか?」

「!!う、うん…その、大人になった、ね」

 なので、あんまり顔を近付けないでくれませんかね?直視出来ないんで…!

「あぶう」

 エリゼが鏡を差し出す。パスカルは「ほー…」とか感心してるが…やばい、早く終わらせよう…!
 こんなん、意識してるって気付かれたらおしまいだ…!エリゼとルシアンにバレるのはいいが、パスカル本人にバレたら…男が男に見惚れてるだけだもん!


「えっと。『メイド服』…って!」


 ぽふっ


 …僕の服が…皇宮のメイドさんの物に…!

「……!」

 パスカルが目を見開く。あんま見ないでもらえませんかね!?誰だよこんなマス書いたの!!!

「あぶ、ばーぶっ」

「まあ…お似合いですわよ」

「に、似合ってるぞ…」

 嬉しくないわい!しかし…メイド喫茶とかの可愛いフリフリのじゃなくて良かった…正統派メイド服で良かった…!
 露出も少ないし、これなら女装で誤魔化せるだろう…。パスカルの視線が痛いが…気にせず早く終わらせよう…!


「私、一回休みですわ…」
「ばっぶあー!」
「よし空白…」


 その後も苦労しながら…なんとかゲームを進める。
 僕はたまに…隣に座るパスカルの顔をちらっと見る。横顔も格好いいなあ…こりゃ将来有望だね。

 っとと、あんまり見てると気付かれちゃうよね。ゲームに集中!

「ありゃー、『語尾にでしゅをつける』って…なんか学長みたいでしゅね」

「(セレスタン…可愛いなあ…女性の服もよく似合ってる…。っと、あんまり見てると気付かれるかな…)」


「「………」」

「(交互に観察し合ってる…タイミング合わないのが逆に凄いな…)」

「(セレスも完全に、マクロンを意識してるみたいだな…脈アリか?というか、セレスは年上好きか?)」


「?2人共、何ぼーっとしてるんでしゅか?次はルシアンを飛ばして…エリゼでしゅ」

「たい」




 その後は恙なく進み…ルシアンの勝利でゲームは終わった…。



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