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学園1年生編
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しおりを挟むその後僕達は学園に戻り…束の間の女の子タイムは終了した。
にしても、医務室が先生の荷物だらけ。んもう。
「それ、全部開けてみて」
「え…いいんですか?」
「いいのよ」
そう言いながら先生も開けている。んじゃまあ、この袋から…。
出てきたのは…服。でもなんか、小さくない?先生着れるの?これ。
「これは…貴女のよ」
「……え?」
出てくるものは全部、サイズもデザインも少女向けのものばかり…大人の女性が着るようなもんじゃない。
全部…僕のため?なんで…
「いただけ、ません…こんなに沢山…」
「…貰ってちょうだいな。気にしないで、私が好きでやってる事なんだから。
それに…急にデートする時、可愛い服が無いと大変よ?」
先生はウインクしながらそう言った。デートって…相手が、いないもん。
「じゃあその時は、また私とデートしましょ?」
先生…。しかもこの服、コート、ブーツ…僕が「いいなあ」って思ってたやつ…見てたの?
先生が持っている手鏡も、宝石箱も。リボンも…全部僕が手に取って、棚に戻したやつ。
「ふふ、後ろからバッチリ見てたわ!名残惜しそうに棚に戻したのを厳選したんだけど…喜んでもらえたかしら?」
「うん…うん!!」
うん、すっごく嬉しい…!思わず先生に抱き着いて…泣いた。
ありがとう、本当に…。しかも先生は、この荷物は全部預かっていてくれるって。必要な時に渡すからって…。
「そうだ、今度私の部屋に遊びに来る?メイクも教えたいし、恋愛小説貸すわよ?男装ヒロインものとかあるわよ」
それはまあ、うん。
でも、本当にいいの?どうしてこんなに良くしてくれるの?
「貴女は今までずっと苦労してきたんだもの。このくらい、ご褒美には少なすぎるくらいだわ。
まあ教師としては出過ぎた真似だけど…貴女の笑顔を見たいと思っちゃったんだもの、仕方ないでしょ?
今日は私の話も聞いてもらったし…それに、その…いずれ、姉妹になるかも、しれないし…?
いやでも買収しようとしている訳じゃないからね?そこは勘違いしないでね?」
「ん…?僕と先生が、姉妹?んんん…?」
なんで?僕は先生の家の養女にでもなるのかしら?それとも先生が僕の家に?
そうでもなければ、結婚して義姉妹になるくらいしか。でもうち、男兄弟いないし。先生の弟さんと、僕かロッティが結婚するのかしら?弟さんいるの?
「いいえ…私は弟と妹が1人ずつ、どっちも既婚者よ…」
なら…ん?そういや僕には血の繋がりは無いが、魂で固く結ばれた兄様がいるな。
ま、さ、か。
「まさか先生に言い寄ってる5年生って…ラディ兄様!!?」
「言わないでー!!!!」
「きゃーーーーー!!!!」
ウッソーーー!!やるじゃん兄様、ひゃー!!!いやん、僕頑張って架け橋にならないと!?
「じゃあ姉様だね!!?んー…ルゥ姉様!!」
「いいわねそれ…」
「でっしょー!?」
「でも気が早い!!!」
早いってことは、いずれそう呼んでいいのね!?
いかん、こうしちゃおれん!!僕は荷物を丁寧に分けて、纏めて。遠慮なく先生に預かってもらう。
今着ていた服も綺麗に畳み、制服に着替えてカツラもカラコンもメイクも取って…いつもの僕に戻った!
「先生、鍵閉めますから早く出て!!」
「どうしたのよ急に…」
いやあ?ちょっと…用を思い出しまして。
あ…でもアポ無し訪問は駄目か。よし、ルシアンを頼ろう!!
『ルシアンへ
今何してる?僕ちょっとラディ兄様に会いに皇宮に行きたいんだけど…行ってもいい?
セレスタンより』
という手紙を送る。するとすぐに返事が…『いいぞ。今ちょうど外にいるから帰りに学園に迎えに行く』と。よっしゃ!!!
「一応確認するけど…貴女は、ナハト君の事好きじゃないの?」
「兄様にそういった感情は一切ありませんのでご心配なく!!」
「そう…?」
僕の答えに先生は、頬をうっすら染めながら安心したように微笑んだ。
これは…以前ルネちゃんが言っていた、恋する乙女の仕草!?確かにこりゃ可愛いわ…きゅんきゅんしちゃうわ。
先生と別れ、僕は迎えを待つ。するとすぐに来た。
あれ、エリゼもいる?そっか、2人で街行ってたのか。彼らは揃って髪を茶色にしてるから、一瞬馬車間違えたかと思ったぞ。
そいやと乗り込み、しゅっぱーつ!
「ごめんねルシアン、急に」
「いや…構わないが…」
…?何故か2人共、僕と目を合わそうとしない。
今日どこ行ってたの?と聞いても…「買い物」としか答えてくれない。なんなの…。
「でもどうして髪染めてるの?」
「お忍びだからな。ほら、服も庶民っぽいのにしてみたんだ」
おお、確かに。シンプルな服だが生地と仕立ては最高級。いいとこの坊ちゃんくらいの変装だな。次は僕も、髪染めようかな?
※※※
当然ながら兄様はお仕事中だった。
なのでルシアンの部屋で待とうとしたら…
「おおい!!」
「げえ!?」
廊下の向こーうから大きな声を轟かせるのは…エリゼのお祖父様、テランス様だ。
エリゼは彼が苦手なのだろうか、ルシアンの後ろにさり気なく移動した。
「殿下、御前を失礼!!我が孫が何かご迷惑をお掛けしてはおりませんかね!?」
「いいや、彼には色々助けられているよ」
「なんと有り難きお言葉!!
エリゼ!!勉強をサボってはいまいな!?」
「ちゃんとやってますって!」
おお…エリゼが皇族と最上級精霊以外に敬語使ってんの初めて見た。
テランス様はエリゼの返答に満足したのか、次は僕に視線を向けた。何かご用で?
「おお、セレスタン君!今時間はあるかな?」
「はい、5時まででしたら」
この人は大声がデフォルトなのだろうか。目の前でバリトンボイスの大声量は勘弁してくれ。いい声なのに耳が痛い…。
「ならば少し付き合ってはもらえんかな!!?」
「あ、はい」
またヨミについて聞きたい事でもあんのかな…。
そう思い了承する。すると…急激に視線が高くなった。
「うわわ!?」
「ははは、セレスタン君は軽いなあ!!エリゼの半分位しか無いのでは!?」
それは流石にない。
なんとまあ、僕はテランス様の逞しい腕に抱かれてしまった。すごい安定感…って、2人はどうするの?
「ふむ…私は部屋に戻ろう。其方はどうする?」
「殿下にお付き合いします!」
逃げた。ぴゅーっと逃げた。
そして僕はそのまま…魔術師棟に連れて行かれるのであった。
皇宮から少し東の建物、ここが魔術師の総本山か。外観は普通の塔だな…。
抱えられたまま中に入る。もっとおどろおどろしいのを想像していたが、普通に受付っぽいのもある…誰も座ってないが。
ロビーのような場所には、数人が談笑していた。だがテランス様の姿を見た途端、立ち上がり敬礼する。
そして僕の事を見て…なんか、目輝かせていらっしゃる?
そして奥のほうから…誰かが走ってくる。眼鏡を掛けた、30代くらいの男性だ。
「総団長!どこ行ってらしたんですか?ってその子は…」
「おお!!客人だ。皇宮に来ていると聞いてな、足を運んでもらった!!
セレスタン君、昨日も見たと思うが、こいつは儂の副官だ!!」
「ちゃんと紹介してくださいよ…。
では改めて、魔術師団総副団長のロック・ブランと申します。どうかお見知り置きを、精霊姫殿」
「上から失礼します。セレスタン・ラサーニュです。よろしくお願いします、ブラン様。
………ん?精霊、姫…?」
「あ」
あ?どゆこと???
僕はじーっとブラン様を見る。ご説明願おうか?
彼は暫く目を泳がせていたが…観念したのか、教えてくれた。
「その…魔術師と騎士の間で…君は「精霊姫」と呼ばれているのだよ…。
ちなみにマクロン君は「精霊王」だ。尊敬の念を込めてそう呼ばせていただいているよ!」
「なんっでですか!!?いや百歩譲ってこっ恥ずかしい異名は容認しますが、なんで姫なんですか僕!?」
「ばっはははは!!!仕方あるまい、昨日の可憐なセレスタン君と凛々しいパスカル君の姿を見てな、そう広まってしまったのだ!!」
ううう~…!!!じゃあ今日すれ違った騎士様達は皆、心の中で「あ、精霊姫だ」「あれが?」とか考えてたんか!?
……もう、いいや…勝手に言わしとこう…。
「と言っても、皇族の方々の前で王とか姫とか…不敬ではありませんか?」
「大丈夫、名付け親は陛下だから!」
さいですか。ブラン様、イイ顔でサムズアップやめてくれませんかね。
僕はだらんと脱力したまま、奥の部屋に運ばれて行った…。
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