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学園1年生編

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 僕は生徒会役員の話を、引き受けると返事した。

 だが参加するのは年が明けてからなので、今は何も変わらないけど。
 不安だけど、パスカルも一緒だし。兄様のお墨付きだし!頑張ってみよう。




 僕は今日放課後の教室で、ロッティ・ジスラン・バジルと試験勉強中。と言っても、3人でジスランに教えてると言ったほうが正しいが。
 ラディ兄様とは別の日に約束しているぞ。

 他のメンバーはそれぞれ用事でいないが…この4人で集まるの久しぶりだなー。前は、これが日常だったのにね。

 問題集と睨めっこしているジスランの手元には…僕が贈った万年筆。
 よしよし、ちゃんと使ってるな!嬉しくて僕は、頬がゆるゆるになってしまう。
 そんな僕を、ロッティとバジルは優しく見つめてくれているのだ。

「(金庫に入れて何重にも鍵を掛けてしまい込もうとしてたのを阻止した甲斐があったわ…)」

「(ラッピングに使った包装紙とリボン、箱はきっちり金庫にしまわれているのは…坊ちゃんには言わないでおこう)」

 しかしどこか憐れみの感情も混じってそうな視線だな。なんで?



「あ…ねえお兄様。動物園のお話、どうなったの?」

「それがねえ…まだよく分かんない。エリゼは「ボクに任せとけ!」って言ってたけど…不安だよう」

 一体何を企んでいるのやら。でも、ロッティと一緒に行きたかったなー。いつか…このメンバーでお出掛けしたいなあ。


 少し休憩。もうじき冬期休暇なので…その話題で盛り上がる。

「俺は、今度こそ落第点を取らないぞ!そうしたら、ラサーニュ家に遊びに行ってもいいか?」

「もちろん良いけど…僕、多分教会で過ごすと思う。
 まあジスランが来る日は家にいるから、前もって連絡してね」

「お兄様…」

 ごめんね、ロッティ。あそこはもう、僕の家じゃないんだよ。
 でもジスランはロッティに会いたいだろうし、教会に来いとは言えない。僕1人ならエアの力で空を飛べるから、簡単に教会まで行き来できるのさ。

 そんな事を考えていたら、エアが僕の頭にちょこんと乗った。そして腕をバサバサさせて、「任せて!」と言っている。可愛い。

「あれ、坊っちゃん。今その子…どこから出て来ました?」

「学園内で精霊を連れ歩くのは禁止だろう?最上級は別として」


 うふふー。実はヨミの能力で…他の精霊達も、影に入れるようになったのだ!!授業中とかは出て来ないように言ってあるし、大丈夫!
 もちろん僕が契約している子に限るけど。ねー、みんな?と声を掛けたら、全員影からどわっと出て来たぞ。

「まあ!これならいつでもお兄様と一緒って事よね?安心だわ」

「うん!皆よろしくね~」

 すると皆僕にくっ付き、頬擦りしてくる。可愛い、擽ったい!


 カシャ


「ん?ロッティ、そのカメラどこから…?」

「乙女の嗜みよ」

「ロッティ、後で俺にも」

「任せて。お兄様、視線こっちちょうだい」


 カシャッカシャ!


 ……まあ、いいか。


「あ。そうだ、ちょっとロッティに相談があるんだけど…ついでに2人も聞いてくれる?」

「「「?」」」

「実は…」




 ※※※




 そして日曜日。僕は朝早くから…『医務室の鍵を持って集合』とエリゼから指令を受ける。
 戸惑いながらも医務室に。鍵を開けて中で待つと…何故か、バルバストル先生がやって来た?


「ふふ…うふふふ…!!」


 その手の大荷物は何事?うーんデジャヴ。となればこの後の展開は…きゃーーー!!!


 僕はまた服を脱がされた。いや~、お戯れを~!!





「ふう…こんなところかしら。もう入ってきていいわよ」

「では、おお…」

「化けたな!」

 喰ってやろうか、コラ。
 先生の合図に、廊下にいたであろうルシアンとエリゼがひょこっと顔を出し医務室に入ってくる。



 そう。僕はまた、エレナ・デュランになったのである。
 今回はスカートではなく短パンにニーソという、活発系をイメージしたらしい。

 この国、服装は日本と大して変わらないのだ。パーティーとか畏まった場所ではドレスを着るけど、普段着はラフなもんだ。
 もちろん貴族の子は、ゴテゴテしてたり生地が良かったりするけど。


 今日は動物園だから、おしゃれで動きやすいのを目指したらしい。

 で。なんで僕はこんな格好を?

「男3人は微妙だろ?今日のお前はルシアンと兄妹だ!ボクは、まあ…付き添いだ!
 そして先生は協力者、完璧だろう!」

 エリゼはそう言い切りよった。先生は「私が変身させました」な顔をしている。
 ルシアンを見ると、彼も黒髪を金髪に染めている。エリゼはそのままだけど…なるほど、パッと見は兄妹に見える、か?


 先生は「楽しんで来てね~。終わったら服は、私に送っておいてね~!」と帰って行った…お土産と一緒に送ったらあ。




「せめて事前に言ってよ…ところで、どう?似合ってる?」

 もう着替えちゃったし、この状態で知り合いに会っても気付かれまい。
 僕は開き直り、服をつまんでクルッと回り2人に感想を求めた。
 こんなんさせられてるんだから、お世辞でも可愛いと言わせてやる!!


「ああ、すごく可愛らしい。もう一度求婚してしまいたい程にね」

「いいんじゃないか?綺麗だと思うぞ」

「…………」


 ……はっずかしいわ!!!


「ストレートに褒めないでくれるかなあ!?
 もっとこう、「いつもよりマシだな」くらいの辛口でいてよ!僕どう返事すればいいのか分かんないじゃん!!」

「セレス、そういう時は微笑んで「ありがとう」でいいんだよ」

「僕にはハードルが高い!エリゼはもっとこう、「いい気になるんじゃない、ボクが着替えたほうがもっと可愛いんだからな!」くらい言えや!!」

「言ってたまるか!!?馬鹿な事言ってないで、もう行くぞ!」

 僕は熱い顔を手で冷やしながら…医務室の鍵を閉め、出発するのである。



「ほら」

「あ、ありがと…」

 馬車に乗る際、エリゼが当然のように手を差し出して来た。エスコートとか…嬉しいけど照れるな…。


「ところで…なんでバルバストル先生に声を掛けたの?」

「「……………」」


 2人からの返事は無かった。





 ※※※




「コラー!!檻の中入ろうとしちゃダメー!!」

「もっと近くで見たい…あわよくば触れ合いたい」

「それならあっちにふれあいコーナーがあるから、行くぞ!!」

「私はパンダと触れ合いたい」

「「駄目!!!」」

「そうなのか?」


 うう…他のお客さんの視線が痛い…!
 さっきからテンション上がりまくりのルシアンが暴走してるんだよ!
 餌は買い占めようとするわ檻をよじ登るわ…!

 終いにゃ「この鳥はいくらだ?」とか飼育員さんに言っちゃうし!売ってないわ!!


「皇宮で飼いたかった…」

「それなら正規のルートで買ってもらえ!」

 いつかのように、僕とエリゼが彼の両腕を掴み連行する。以前と違うのは…ルシアンが大人しく言う事を聞いているところ。
 たまに、常識知らずってレベルじゃないぞ!?な時もあるが…彼なりに頑張っているのだ。

 ちなみにお忍び中のルシアンはエリクという。
 エリゼとエレナとエリクでトリプルEになったぞ。とてつもなくどうでもいい情報だが。



 そして僕達は動物ふれあいコーナーにやって来た。お客さんはちびっ子やカップルが多いが…気にせず触れ合うぞ!

「まずうさぎ!」

「うさぎは寂しいと死ぬというのは事実か?」

「そりゃガセだ」

 ああ~可愛い~!3人で、誰が一番うさぎに人気があるか競ってみた。

 僕8匹、ルシアン4匹、エリゼ3匹。勝った!!


「どうせそいつら全員オスだろ…エリクとは僅差だからボクは負けてない」

「負けは負けだぞエリゼ」

「次、羊!!」


 もこもこの羊はいいですなあ。
 さっきからルシアンは、ずっと写真を撮っている。アルバム作ったら見せてね。

「私は羊の毛刈りをやってみたい」

「これから寒くなるのにやる訳ないだろ。
 4、5月くらいだし動物園で毛刈りなんて出来ん」

「でも僕…じゃなくて、わたしも興味あるなあ」

「じゃあいつか。皆で行こう。
 兄上達が…学園を卒業したら、皆それぞれの道を行くから。今のうちに、お友達と沢山の思い出を作りなさい。色んな場所に行きなさいって言ってた」

「…うん、そうだね!」

 エリゼは何も言わず、「仕方ない、付き合ってやるか」な顔をしている。本当は一番楽しみにしてるんだろうなあ。
 今日だって、どんな動物がいてどのルートで回るか事前に調べてんだもん。
 僕とルシアンはとりあえず歩き回る!な考えだったので…ありがたい。



 その後も色んな動物を見て回った。
 お腹が空いたので屋台で買い食いして、また歩いて。
 お土産も買って、写真も撮って。


「見ろ2人共!ゾウが大量のウン「そこまでだ!!」

「えっどこどこ!?」

「エレナ!女が飛びつくんじゃない!!」



「ライオンだー。ラディ兄様ライオンが好きって言ってたなあ。
 あ、そういえば兄様、僕が女だって知ってたんだって」

「「サラッと爆弾発言やめなさい!!」」



「こんのアルパカがあああ!!このボクに、唾をかけやがって!!」

「嫌がる事したんじゃないの…?」

「私達は無事だしな」



 あっちこっち走り回って…すごく楽しかった。

 なんか…学校の遠足って、こんな感じだったのかな?僕にとっては、写真でしか見れなかった世界。
 いつか自分もその中に入れると信じて疑ってなかった。無理だったけど…まさか死んでから叶うとは、ね。


 …ん?

「…そろそろ帰るか。冷えてきたし」

 僕が1人でしんみりしていたからだろう。エリゼが手を繋いでくれた。温かいな…。

「そうだね…帰ろっか」


 僕達は少し歩きたかったので、途中で馬車を降りた。
 先に学園に行っててもらうのだ。大丈夫、護衛さんが離れたとこにいるのは確認済みさ。



「あ。あの店覚えているか?」

「忘れてたまるか。エリクが「並んでいる客を蹴散らして買って来い」って言ってた洋菓子店だろうが」

「よく覚えてるな。なあ、並んでみないか?」

「またにしようよ。今からじゃ、暗くなっちゃうよ」

 ただでさえ日が短くなり、6時にももう真っ暗になるんだから。
 そう言ったらルシアンは「じゃあ今度。また約束が増えたな」と笑った。



「あそこの噴水。3人で並んで座ったよね!」

「直後にゴロツキに絡まれたな…」

「あの3人は厳重注意を受けたらしいぞ。それだけで済んでよかった…」


 折角なので腰掛けた。うーん…背中が寒い。あの時は夏だったのに、もう秋が終わるんだよね。

 入学した時は、こんなに毎日が楽しくなるなんて想像すらしてなかった。今日はこの3人だったけど、今度はロッティ達も皆でお出掛けしたいなあ。


 僕が腕をさすっていたら、ルシアンが上着をかけてくれた。


「ど、どうしたの…今日は、2人共紳士じゃん…」

「……別に、普通だろ」

「普段出来ないからな。こういう時くらい男にいい格好をさせて欲しい」

 今日僕は、エスコートしてもらったり手を引いてもらったり… 可愛い服を着て、褒めてもらえたし。なんか、嬉し恥ずかし。
 淑女だったらこういう扱いが普通なんだろうけど、僕普段はする側だから。


「しかしエリク、前は「女は黙って男について来い」な感じだったよね?」

「…それだってな、元々は「女性はか弱いから、男が守ってあげないと!」っていうのが始まりだったんだよ…」

 それがどうしてああなった?


 全く…うん。今日だけは、甘えてしまおう。






 なんとか暗くなる前に学園に到着!

 コソコソと医務室に向かい、2人が廊下で見張りをしている中着替える。
 洗濯も先生がやってくれるというので、お言葉に甘えて。服と、お土産のパンダぬいぐるみとお菓子に手紙を添えて送った。

 ここでルシアンはお別れだ。その前に…。


「あのね、明日僕休むから。ロッティとバジルもね」

「ん?伯爵家でなんかあんのか?」

「ううん。……教会のね、お墓を建てるの」

「墓…ああ…そうか」


 うん。僕が救えなかった、子供達のお墓。
 この間思いがけず沢山稼いでしまったので、ずっと気になっていた…立派なお墓を建てる約束。
 補助金でなく、自分で稼いだお金で建てたかった。冬になる前に、やってしまいたい。


「急ぎだと業者さんが…平日しか空いてないんだって。
 だから明日。この間ロッティ達と勉強してた時に話し合って決めたの。
 ……今まで、何人の子供が犠牲になったか分からない。分からないから…大きな、慰霊碑を建てる事にした」

「…私が聞いていい話なのか?」

「そういえばルシアンには言ってなかったっけ。ん…長くなるから、今度話すよ」

「いいや、言っていいならボクが言っとくぞ」

 じゃあルシアンへの説明はエリゼに任せた。
 そういえば…今年の冬は、特に寒さが厳しくなるらしい。もしも僕が今年の夏、動かなかったら…セージは、ミントは。
 皆、凍えて…死んで、しまっていたかもしれない…。



 助けられなかったみんな、ごめんなさい。
 僕は…今生きているみんなを守ります。


 どうか…来世では幸せでありますように。

 
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