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学園1年生編
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しおりを挟むそんな夢のような時間はあっという間。
次の日。教会の自室で目が覚めると…ベッドの上に何か包みがある…?
開けてみると立派な装丁の本が。しかも2冊。
パラっと開くと…アルバム!?昨日のパーティーの写真じゃん、ルシアン仕事早いな!!?
昨日も彼は写真を撮っていた。いつの間にカメラマンになったんだ?
僕はパラパラと捲る。そこには…
皆に囲まれて泣く僕。
美味しいケーキを頬張る僕。
プレゼントをいっぱい貰って…笑顔でちょっぴり泣く僕。
皆と笑顔でダンスを踊る僕…。
他の人の写真もあるが、圧倒的に僕の写真が多い。
…ふふ。
包みの中には、1枚のカードが入っていた。
『セレスタン・ラサーニュ様
誕生日おめでとう。其方と出会い、友となれた事…神に感謝する。
このアルバムは遅くなったが、私からのプレゼントだ。
1冊は其方が、もう1冊は教会に所蔵してくれると嬉しい。
其方の変わらぬ友人。ルシアン・グランツ』
「……ありがと」
アルバムを胸に抱き、呟く。
よし、じゃあ早速…ん?
「ぎー」
「シグニ。何その紙?」
結局このシグニは、ファロさんが「プレゼントだよー!きっとキミの助けになるよ」と僕に譲ってくれた。
『ファロさん…この子が何者か、気付いてましたか?』
『…やっぱキミは知ってたかー。アダンダラでしょ?これでもあたし情報通だからねー。
でも害はねーし、お利口よ?気が付いたらウチに居付いててね。でもセレスタンちゃんが来た日から、ずっとソワソワしてんだわー。
「あの子んトコ行きたい?」って聞いたらコクンて頷いてねー。
話せないけどこっちの言葉は通じてるから。普段はただのキュートな猫だし、面倒見たって。
じゃ、よろ~』
…と。そのシグニは、ヘルクリスの上に丸まって寝てた。
魔物って、精霊の天敵って聞いたんだけど…ウチの精霊達、全然怖がってないや。
むしろヨミとか超可愛がってる。シグニもヨミの長い袖をちょいちょいして遊んでたりするし。
分からんなあ…。
で、シグニは何を咥えてんの?受け取ると…これもルシアンから?どうやら追伸のようだ。
『ラサーニュ嬢にも同じ物を贈ったのだが…「家宝にする」と連絡があった。良かったな!』
………ラサーニュの家宝が爆誕した日であった。
※※※
僕は今、バルバストル先生の家に向かっている。教わった住所はこの辺のはず…あそこかな?
先に上空で金髪のカツラを被っておいたから、男が訪ねるようには見えまい。
「いらっしゃい!準備出来てるわよ」
先生の部屋は、1人暮らしにぴったりな広さだった。1LDKくらいで家具や小物が可愛い。そして本棚がデカイ…。
手招きされて、鏡の前に座る。着替えるの?
「ええ。ナハト君から、ドレスを預かってるわ」
「は、ドレス!?」
先生が手にしているそれは…水色のグラデーションなドレス。礼服用じゃなくて、普段着よりちょっとお洒落くらいなやつ。
なんで…?と聞いてみたら、今日はドレスコードのあるレストランに行くらしい。なんとまあ。
「このドレスは、ナハト君からラサーニュさんへのクリスマスプレゼントですって。
で、こっちは…私からのプレゼント」
先生がくれたのは…靴?素敵…このドレスとよく合いそう…。
「ありがとうございます…先生。
というか…今日も僕はエレナになるんですね…」
「もちろんよ。だって今日は、ラブレー君も来るんでしょう?
そしたら…私が3人の男の子を連れ回す図にしか見えないわ…」
「………………」
たし。かに。僕が女の子になる事で、ダブルデートに見せる訳ですね!?
「デッッッ!!?私はっそんなんじゃ…!!貴方達の保護者として…!」
「……ねえ先生。兄様本気だよ…」
「………………」
先生は…眉を下げ、黙ってしまった。それでも僕のメイクの手は止めない。
「ね、先生。もしも、本当に年齢以外で兄様を拒む理由が無ければ…。
一度、兄様が子供で学生だとか考えずに、ランドール・ナハトっていう男性を見て欲しいの…」
「…………うん…」
言うても兄様成人しとるがな。…今日のお出掛けが、何かのきっかけになればいいな!
「で、先生。こちら僕からのクリスマスプレゼントでっす」
「あら、ありがとう!」
僕の支度も終え、先生もばっちり完了。やっぱ先生美人だなー…大人の女性って感じ。格好いい…。
で、待ち合わせの時間まで休憩中。兄様と先生からプレゼント貰ったし、僕もあげちゃおう。
「あら…綺麗なスカーフね」
「うっふっふー」
先生は知るまい。まさかそのスカーフの柄が…僕から兄様に贈るネクタイと同じだとはなあ!!ちなみにエリゼには手袋だよ。大人っぽいやつ!
そして時間なので家を出る。ドレスコードのレストランかあ。楽しみだなあ!
※※※
お。兄様はすでに待っていた。
にしても…スーツ姿の兄様、格好いい…。ただ立ってるだけで絵になるわ、本当に僕の周囲って美形ばっかだな…!
周りの女性達の注目の的だよ、あそこだけ別世界だよ…。今からあの人に声を掛けるのか、僕ら…。
「あ」
あ、気付かれた。
こっちを認識した兄様は、ふわりと笑った。背景に花が咲いたよ…軽く騒めきが起こったよ…。
「に、兄様お待たせ。エリゼはまだみたいだね」
「ああ。そのドレス、よく似合っている。先生も、今日は一段とお美しい」
かーーーっ!!歯の浮くようなセリフをまあ!先生を見なさいよ、赤面して固まっちゃってますぞ!
「……可愛いね」
「だろ?」
あらやだ。普段キリッとした女性が今は、初心な少女のような反応を。コレが本当のギャップ萌えかー!!僕は兄様とグッと拳を合わせた。
「ラディ兄様、このドレスありがとう!それでコレ、僕からプレゼント」
「ありがとう。大事にするよ」
その時ちょうどエリゼ登場。急いで来たみたいで、少し息を切らしている。
よしよし、ちゃんと正装してるな。
「はあ、はあ…すまん、遅れたか?」
「大丈夫だよ」
全然。むしろまだ10分前。
だがこれで揃ったな。
「店はここから歩いてすぐだから、歩いて行こう」
兄様はそう言って、バルバストル先生に手を差し出す。先生はゆっくりとその手を取り…歩き出した。
「見てよエリゼ、ありゃどっからどう見ても恋人同士だよね!」
「まあ…お似合いだと思うが。それより置いてかれるぞ、ほら」
「あ…ああ、うん…」
エリゼも僕にすっと腕を出す。そっか、今日はエリゼが僕のエスコート役か…。
そっと腕を組み、兄様達の後を追うのであった。
ラディ兄様の選んだお店は、最高級とまではいかないがそこそこいいお店だった。多分高すぎると、先生が遠慮すると思ったんだろうな。
ところでここは奢りですかね?
「いえ、私も払うわよ!?」
「いいんです。3人共、俺が誘ったんですから。
…このぐらいも、させてもらえませんか?」
「んん…!じゃあ…お言葉に甘えて…」
っしゃー!!僕らは先生の見えないところで腕をガシッと組んだ。
「(なんだこの兄妹…)」
席に着き、先生と兄様はワインを。僕らはジュースです。
15歳になったら僕も大人っぽく「ではこちらのワインを」とか言っちゃうもんね!
「ははは、お前は絶対に人前で飲むんじゃないぞ」
「そうだぞ。気を付けろよ」
「エリゼ、お前もだからな?こんな雰囲気の店で馬鹿笑いしてたら…速攻で出禁だからな?」
「…うぐ…」
「あら、なんのお話?」
「僕…じゃなくてわたしにもよく分かりません。
実は以前…」
美味しい食事が運ばれて来ても、アホな話ばかり。「君の瞳に乾杯…」とかやんないの?
「…で、それからちょくちょくエリゼの家に遊び行ってるけど、毎回お母様が出迎えてくれて」
「はあ!?ボク聞いてないぞ!」
「だって君迎えてくんないじゃん。勝手に部屋まで来いって言うから、部屋の前までお母様が送ってくれてるの」
「…今度からボクが玄関まで行く…!」
という風に、基本的に僕かエリゼが喋ってる。
2人はにこにこしながら聞いてくれて、時々言葉を挟む。
あの…それでいいの?これ、2人のデートでは?
「いいのよ。もっと面白い話を聞かせて欲しいわ」
「「……!!」」
先生が…デートを否定しなかった!!?
僕と兄様は、テーブルの下で固く握手を交わした。
その後デザートまでいただき、お店を出る。
もう少ししたら花火が上がるから、場所を確保してあるんだって。
さて…どこで消えるか!
「本当にやるのか…?」
「あたぼうよ。隙を見て逃げるよ!」
今度こそ!冬花火というシチュエーションで2人きりにし、いい雰囲気を作る!
その前に、こそっと兄様に声をかける。
「ちゃんと、お守り持ってる?」
「ああ、もちろん」
よし!!健闘を祈る。
花火を見るために、大勢の人が集めっている。おおう、こりゃ逸れたら大変だ。
「結構混んでるわね…」
「ここを抜ければすぐです。逸れないよう、しっかり握っていてくださいね?」
「ええ…」
!今だ!!!
「うあーーー。はぐれたあー(棒)」
「あっ!…ったく!
大変だー。ボクが追いかけるから、2人は先に行っててくれー(棒)」
「「…………」」
っしゃー!!!完璧な演技で、お邪魔虫は退散成功!
「どこが完璧だ!2人とも苦笑いだったぞ!?」
えー。まあいいさ、目標達成ですから!
結構離れた所で、僕らは一息つく。ちょっと遠いけど、ここからでも花火は見えるっしょ。
今頃…兄様達は無事目的地に着いているだろう。そこで手を取り合って、愛を語るのだ!
覗きに行きたいが、場所がわからん!仕方ないので、こっちはこっちで楽しむか…。
「全く…はあ、ここで待ってろよ」
ほ?エリゼはどこかへ行き…飲み物片手に戻ってきた。
「ほら」
「ありがと…あの、お金」
「いらん」
そう言って彼は、僕の隣に立つ。口は悪いが紳士なんだなあ…。
その後は特に会話もなく、花火を待つ。その時…僕の目の前に、見覚えのある白い毛玉が!?
「シャーリィ!こんなとこで会えるなんて!」
「セレネ!?…って、パスカルもいるの?」
「そうだぞ」
上から降ってきたのはやっぱりセレネ!
パスカルと一緒だったらしいのだが、何故か別行動をしている。
「セレネはあいつと一緒にいたくないんだぞ。
ああ…シャーリィとなら…」
「あいつ…?」
この口調からして、あいつとはパスカルの事じゃないだろう。
「あっ。僕がこの格好でここにいる事、パスカルに内緒にしてね!?」
「わかったぞ。という訳でセレネはここにいる。一緒に花火見よう!」
それは構わないけど。パスカルは一体、誰といるんだろう…?
僕は花火が始まる前に、エリゼにプレゼントを渡す。すると彼も「はい」とくれた。
ふふっ、あとで開けてみよう!セレネはエリゼの頭の上で寛いだ。
「なんでボク?」
「シャーリィの細い首が折れたら大変だぞ!」
「遠回しにボクの首なら折れていいって言ってるな?」
「結構ストレートに言ってると思うけど」
セレネが来たことにより、賑やかになったぞ。
そんなやり取りをしていたら、ドン!!と花火が上がった。
「わー…綺麗…」
ドォン!! パラパラ… ドン! ドオン!!
と、次々に花火が上がる。
僕らは感嘆の声を漏らしながら、自然と手を繋いでいた。
今日はエリゼとセレネとだけど。いつか…皆で見たいな!
ヘルクリスの背に乗せてもらおうか?上から見る花火も綺麗だろうなあ。
…でも僕、もうすぐ退学するんだよなあ…。
いや、友情は変わらないはず!この後いくらでも、機会はあるよね!
「エリゼ…僕とずっと、友達でいてね?」
「ああ…もちろんだ」
約束だよ?そう言って、その手を強く握った。
※※※
花火も終わり、人々も解散して行く。
さて、兄様達はどこかな?大体の方角は分かるんだけどなあ…。
近くの高台に有料の席があるって聞いた。僕らの席は無駄になっちゃったけど…すまぬ。
「なんだ、ランドール?セレネが匂いを辿ってやろう」
おお、頼もしい!ってパスカルのとこに戻んなくていいの?
「いいの!こっちだぞ」
「痛って!!」
セレネはエリゼの首をグキっと回した。
案内されるがままに歩く。段々と人が減ってきて、視界も良好に。
それでもエリゼと手は繋いだまま、なんかタイミング無くしちゃってね。
すると…遠くに、兄様発見!!こっちに向かって歩いてくる!
「お…ねえあれ、いい雰囲気じゃない!!?」
「揺らすな!!どうせ、上手くいったんだろ」
だよねそう思うよね!!手え繋いで見つめ合っちゃって…フウーーー!!!
「どうしようこのまま帰る!!?」
「ボクはまだ2人にプレゼント渡してないんだよ!!貰ってもないしな!」
ちっ。仕方ない、行きますか!
僕はエリゼの手を引っ張り、「早くー!」と言いながら兄様達に駆け寄る。
「……あ」
だが…兄様達より少し離れた場所に。見えてしまった。
パスカルが…誰か、可愛らしい女の子と腕を組んで歩いているのが…。
「!シャーリィ、ランドールはあっちだぞ!」
「…!?おい、早く来い!先輩達待ってんぞ!」
僕はエリゼに腕をぐいぐい引かれハッとした。
「あ…うん」
その時…パスカルと、目が合った気がした…。
応援ありがとうございます!
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