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学園1年生編

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「ただいま…あれ、よく建物無事だったね…」

「ヨミ!おかえり」


 朝になり、ヨミが帰ってきた。

 確かに…今にして思えば、セレネ達の怒りは半端じゃなかったね。思い止まってくれて、本当に良かった…!


「それで、ヨミはどこに行ってたの?」

「うん…パスカルの魂を、繋ぎ止めに。
 シャーリィもそうだったけど、あまり魂と身体が離れすぎると…傷が治ったとしても、戻れなくなるんだ。
 だから…冥府に行く前に引き留めようと。まあぼくが行く前から…「死んでたまるか…!!」って、自分で超踏ん張ってたけど…。
 そのうち起きるから、大丈夫だよ…」

 ヨ、ヨミ…!!ありがとうううおおおおぉ!!僕は彼の手をとって、ぶんぶん振り回した。



 その後僕は…消えてしまった上級の皆も呼んでみる事に。何回か声を掛けたんだけど、全然反応してくれなくて…ヘルクリスが言うには、そろそろ回復してる頃だって。


 僕は大きく息を吸い…


「よし…!アクア、エア、ノモさん、暖炉、ラナ、太一、次郎、三助、よっちゃん、五右衛門、ろくろ、七味!!」

 一息に全員の名前を呼ぶ。すると…ドワアアッ!!と、一斉に姿を現した!!!

「うわあああん!!よかった、皆ごめええんんん!!」

 魔力が繋がってる感覚はあったから、無事なのは分かっていたけども!こうして実際に会わないと安心できなかったんだよおおお!!!

 皆も僕に引っ付き、無事でよかった!!と心配してくれた。
 僕はピンピンしてるよお!でもパスカルが僕を庇って怪我しちゃったんだよおおお!!



 そんな風に感動の再会をしていたら…扉がノックされた。
 誰かと思ったらロッティだったので、許可をしたら勢いよく扉が開く。


「お兄様!パスカルは、まだ…?」

「うん…でも大丈夫。すぐに起きるって」

 ロッティだけでなく、バジルとルシアンも一緒だった。

 
「マクロンが大怪我をしたと聞いてな、無事でよかった…。
 ラサーニュ嬢が言うには、肝心なところは其方らしか知らないと…」

 あ、そっか。ロッティは…パスカルが刺された後しか知らないのか…。
 でも皆も知りたがるだろうし、エリゼ達も揃ったら説明する事にした。
 一応それで納得してくれて、僕はロッティ達と一緒に朝食を食べに行く。



「それにしてもその髪、どうなさいますか?」

「あー…」

 セレネが言うには僕の髪が伸びたのは、フェニックスの炎を纏った結果だと。

 その説明じゃさっっっぱり分かんないのだけども。単に伸びただけで切っても問題無いらしい。
 確かに伸ばしたいとは思っていたが、長すぎる。しかも前髪も伸びているので、今の僕はまるで貞◯。井戸から這い上がってやろうかしら。


 朝食を摂る前に、メイドさんに整えてもらう事にした。
 とりあえず…肩の下辺りで揃えてもらって、アップにしておくか…。


 椅子から立ち上がり、もう一度パスカルの寝顔を見つめる。
 もう大丈夫って言うし、セレネも側にいてくれるから…

 
「…早く、目を覚ましてね」

 そう願い、僕は部屋を後にするのだった…。





 ※※※





 陛下との謁見は午後の予定で、もう少し時間がある。それまで僕はパスカルの側にいたのだが…モーリス様がこの部屋を訪ねて来た。
 昨日の母上の見張りだった若い騎士と、何故かジスランも一緒に。どうやら話を聞きたいみたいね。


「……というのが、昨日の出来事です…。
 後はパスカルが目を覚ましたら、彼にも聞いてみてください」

「ふむ…そうか、ありがとう。…すまなかった…」

 へあっ?なんでモーリス様が頭を下げる???その横で若い騎士は完全に土下座だ。床に頭蓋骨をめり込ませんばかりの勢い。
 ジスランは苦しそうな表情。「俺が、その場にいれば…!」とか言ってるが…。


「あの、まず2人共お顔を上げてください。
 …正直、騎士様が部屋にいてくれれば…と思うところもありますが。母上は昨日の時点で罪人でもなんでもありませんでした。
 ですから持ち物検査もされる事なく、見張り付きであっても出歩けたのでしょう。
 そちらの方は騎士として紳士として、女性の願いを聞き届ける他無かったんです…」

「だが、夫人が要注意人物であった事は事実だ。それなのに、この馬鹿は…!!」

「本当に…っ申し訳ございませんでした!!!」

 ああ!また床に頭打ちつけて!
 分かった分かりました!その謝罪を聞き入れます、そして許します!!!


「君の温情、感謝する。お前の処分は後ほど決める。持ち場に戻れ!!」

「はっ!!セレスタン・ラサーニュ様。寛大な御心、感謝致します!」

 そう言って騎士は出て行った。多分減給とか降格とかありそうだから、頑張れ~。


「で、ジスラン。なんで君が自分を責めるの?
 この場合責められるの僕だよね?今まで散々修行してきたのに、肝心なところで動けなかったんだから!!」

「!!あ、でも、君は…急に母親が襲って来たら、戸惑うと思うし…」

「そんなのはただの言い訳でしょう!?いつもの僕なら母上の手を叩いて剣を落とし、取り押さえる事だって楽勝だったの!!
 僕の精神が未熟だったから、パスカルを危険な目に遭わせて…!もっとだ、もっと修行しないと…!」

「ラサーニュ君は昨日御父上を失い、頼れる肉親が母君しかいなかっただろう?そんな時母君に襲われてしまったら…」

「モーリス様、お気遣い感謝します。ですが…僕は理解していたんです、母は父だけを愛していたと!最初から頼れる肉親に、両親はカウントされていないんですから!!
 まさか母が父の為ならば、人殺しまでも厭わないとは思いませんでしたが!完全に僕の落ち度なんです…!!」


 これからは、絶対に僕がパスカルを守る…!!まずは指南書を隅から隅まで読破し、徹底的に型を習得する!それから、それから…!!!

 
 1人燃える僕の姿を見て、モーリス様は「おっとこれから会議だった。では!」と逃げ…仕事に戻って行った。



 ふう…。少し冷静になった僕は、パスカルの眠るベッドに腰掛ける。ジスランも隣に座った。
 彼はチラチラと僕のほうを見て、口を開こうとしては閉じる。何、言いたい事でもあるの?
 言いたい事があんなら言えや。という意を込めてジスランを睨み付ける。すると彼は観念したのか…ゆっくりと、口を開いた。


「………そ、の…セレスは、パスカルの事が……好きなのか…?」

「ボフォッ」



 ま、まさか単純なジスランに気付かれているとは思わず…僕は吹き出した。



「………なんで、そう思ったの…?」

「その…お前がロッティ以外の人物をここまで気に掛け、守ると決意するなど…特別な感情を持っているとしか思えない。
 そう考えたら…普段からお前は、パスカルの姿を目で追っていたな…と気付いたんだ」


 うっそー…無意識に、目で追ってましたかー…。
 僕は両手で顔を覆い、俯いた。しかしジスランは追い討ちをやめてくれない。


「パスカルでなく他の人物だったら。
 もし俺が死に掛けたら「情けない、それでも騎士志望なの!?」とか言うだろうし。
 ルシアン殿下なら「もっと強い護衛付けてもらえ」とか、エリゼなら「魔術でどうにか出来ないの?」とか。バジルなら…そうだな、「一緒に修行頑張ろう!」とか言うんじゃないか?
 だがパスカルには「僕が守る!!」だし…」


 言え!!てる!!!もうやめて、僕のヒットポイントはマイナスよ!!!
 ちくしょおおおおお!!単純馬鹿なくせに!単純だから直感が鋭いのかおおん!!?

 なんかもう確信してるみたいだし…はあぁ…!



「………そうだよう。僕は、パスカルの事が好きなんだよう…!!」

「「「あ」」」

 あ?なんで…セレネ、ヨミ、ヘルクリスが反応するの?
 肝心のジスランはと言うと、顔を顰めて今にも泣きそう…?


「…セレス、お前は…男が好きなのか?」

 …………今ここで、「実は僕女の子でーっす!」とか言っちゃうか?
 でも、しないとは思うけど…確認の為に脱がされそうになったら。ジスランが精霊達に殺されるな…。

「………うん、そうだよ…」

 ひとまず、そういう事にしておこう…。誤解はいつでも解けるしネ!

 そんな風に呑気に構えていたら…



「…………!!?」


 なっ…!!ジスランが、一筋の涙を、流し…!?
 嘘、ジスランの涙なんて僕初めて見たよ!?ど、どうし、どしたん!?


「…………俺、は…。
 言わないと、打ち明けないと心に決めていたのだが…。

 俺は…初めて会った日から、セレスが好きだった…!ずっと、ずぅっと…!!」

「え。…………え?」


 ジスランは右手で目を覆い、そう告白してきた…。
 僕は戸惑い…とりあえずハンカチを差し出す。彼はゆっくりと受け取り、涙を拭いた。


「初めて会った7歳の時。可憐なお前に一目惚れをした。その後一緒の時間を過ごすうちに、お前の内面にも惹かれていった。
 だがお前は男で、俺も男で…何度も何度も、諦めようとした。だというのに、年々美しく成長していくお前の姿に…想いは膨れ上がるばかり。

 そして俺の身勝手な欲望の所為で…お前を、何度も傷付けた。
 鍛えてセレスが男らしくなってくれれば、俺の感情も消えるだろうという…我儘で…!」




 ………僕は、返事も出来ず…嗚咽を漏らしながら告白するジスランを眺めていた。

 もしもこれが数ヶ月前、まだ彼に恋心を抱いていた頃だったら。
 僕は…嬉しくて、僕もずっと好きだったと言ったかもしれない。自分の立場とか、そういうのも考えずに…。


 でも、僕がジスランの事を好きだったのは。ロッティに対する嫉妬心から来るものだと知ってしまった。
 僕はずっと、ジスランはロッティの事が好きだと思っていたから。そして、ロッティも彼を憎からず思っていたから、彼らの事を羨ましいと思っていたんだ。

 ロッティに向けられる感情を、僕にも向けて欲しい。どうしてロッティだけ。ロッティに勝ちたい。僕だって本当は、女の子なんだから…!

 僕がジスランに抱いていた感情は、そういうものだと理解してしまったから…。



「……ありがとう、ジスラン。すごく嬉しい。
 でも。受け入れる事は出来ない…」

「それは…パスカルの事が好きだから?」

「確かに彼の事が好きだよ。でも、そうじゃない。
 パスカルがいなかったとしても…僕は君に、そういった感情を抱けない」

「………そうか。いや、ありがとう。きっと俺も…これで、完全に吹っ切れる事が出来るから」


 ジスランの涙はもう、止まっていた。そして泣き腫らした顔のまま…僕に、右手を差し出して来た。


「セレス。これからは改めて…友人として、お前の側にいさせてくれ。
 障害は多いと思うが…俺は、誰よりも、何よりもお前の幸せを願う」

「……!あり、がと。こっちこそ、よろしくね!」

 その右手を取って、僕達は固く握手を交わした。


 ジスランは、強いなあ…。僕は以前、これ以上ジスランとロッティが仲睦まじくしている姿を見たくない、と思っていたのに…。
 こんな風に、好きな相手の幸せを願えるなんて…その強さを見習わないと、ね。

 彼の顔に触れ、腫れた顔を癒す。
 さ…そろそろ陛下のとこに行く時間だ。僕が立ち上がると、ジスランも立った。


「俺も途中まで一緒に行くよ」

「…うん」


 そうして部屋を出て、並んで廊下を歩く。


「実はな、俺は…以前から何度もロッティとの婚約話が出ていたんだ」

「え、そうなの!?でもそういうの全部、うちの父親が握り潰してたでしょ?」

「ああ。それに俺は、お前がずっと好きだったから…(それにロッティは怖かったから…)兄が駄目だから妹で、なんて嫌だったんだ」

 そっかあ…。でも僕は、2人が結ばれてくれたら嬉しいけどなあ。もちろん、2人の意思が最優先だけど。
 僕がそう伝えると、ジスランは微笑んだ。

「そっか。俺も…(以前ほどの恐怖心は消えたし)ロッティの事は好ましく思っている。
 (前は本当に、視界に入っただけで反射的に慄いていたからな、俺…)」

 そのまま遠くを見ている…君は今、どこに思いを馳せているんだい?
 うーん、でもそうなると…やっぱ爵位は必要だなあ。


 あ、そうだ。僕が一旦伯爵になって…女性に継承権が与えれるようになったら、死んだ振りすればいいんじゃない!?
 セレスタン・ラサーニュは抹殺して、当初の予定通り新たに女性として戸籍を得る。もちろん平民としてな!
 そうなると自動的にロッティが次期伯爵になり、ジスランが婿入りする!彼は三男だし、いいじゃん!!
 僕はどーせ退学するんだし、そんくらいの回り道オッケーさ。よっしゃー、やったるぞ!!


 僕のテンションが上がっていたその時。続くジスランの言葉に…凍りついてしまった。


「しかしパスカルか。思い返すとあいつもセレスの事をよく見つめていたが…パスカルも男が好きなんだろうか?
 最近はそういうの、増えてるみたいだしな。同性婚をするために、他国に移住する人もいるくら………セレス?」


 てくてくてく…ぴた。



 …………パスカルが、男が好き?


 確かに僕は、自惚れでなければ…彼から好意を抱いてもらえている、と思う。

 それって…僕が男だから?もし彼に告白して、女だと告げたら。




『すまない、セレスタン…そういう事なら俺は、君を受け入れる事は出来ない…』




 ……………………。




「セレス、セレス?あれ…俺今、不味いこと言ったか…?」

「………ど」

「ど?」


「……どうしろって言うんだあああぁぁぁ……!!!!」

「セレスーーーーー!!!!??」


 
 僕は絶叫しながら…廊下を爆走した。
 人々がぎょっとした表情で道を譲ってくれるが…気にしてらんねえ!!

 うわああああああん!!!性別なんて、変えらんないよおおおおおい!!!
 なんでえ!?今度こそ、本気の恋だと思ったのに…!!僕はまた失恋する運命なのお!!?
 これならいっそ、パスカルに好きになってもらいたくなかった!!僕が女の子になってから意識してもらいたかった!!!
 そうだよねパスカルは僕と同じ顔のロッティの事は、なんとも思ってなさそうだったもんね!ぼくにはと思ってるから…好きになってくれたんだよね!?


「セレスー!!落ち着け、待てって!!」

「どうして人間はわざわざ、事態をややこしくするんだ…?」

 後ろからジスランとヘルクリスが追いかけてくる。
 しかし今僕は…衝動のままに走り続けるのだった………。


 その後僕に会いに来てくれたラディ兄様に止められるまで、僕らは皇宮内を何周もしたのでした。




 ※




 一方、セレスタン達が退出した後のパスカルの部屋では。


 セレネがパスカルの頬を、前足で突ついていた。

「パル、お前……意識あるよな?」

「………………」


 パスカルは以前のセレスタンのように、意識はあるが身体を動かせない状態にあった。
 その為、ジスランの告白もセレスタンの返事も…全て聞いてしまっていたのだった…。



「(シャーリィも、俺の事が好き…!!?
 っっっしゃああああああ!!!いやっしゃあー!!あ゛あ゛あ゛ーーー!!!これはもう、相思相愛!!この身体さえ動かせれば、俺はすぐにでも君を抱き締めたかったのに…!!
 はっ!!!急いで指輪を作らねば!!いやその前にうちの家族に報告を、いやその前にロッティに話を!!いやいやもっと前にまず、彼らの今後が決まってから…!!
 だが俺は、もしも彼が平民になるというのであれば共に行こう!!そして国を出てめくるめく甘い新婚生活を…おっしゃーーー!!!!)」

「お前の声は聞こえないが…セレネの言葉を聞いていない事はなんとなくわかるぞ…」

「(でも…生活をどうするか?俺は自慢じゃないが、生活力なんて無い。うーん…仕事とか家とか、考える事は山積みだな。勉強ならそこそこ出来るし…文官とか目指すか?それか教師もいいかもしれない。
 慣れない仕事で疲れ帰ったところに、シャーリィが「おかえりなさい♡」と出迎えてくれるだけで…全ての疲労が吹っ飛ぶ自信がある!
 本音を言えばシャーリィが本当に女性だったら…とも思う。無論男であっても俺の想いは変わらんが、シャーリィとの子供はきっと可愛いだろうなあ…)」

 


 パスカルが脳内で1人フィーバーしている同時刻。セレスタンも正反対の理由でフィーバーしているのだが…彼らがそれを知る由は無かった。


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