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学園4年生編
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しおりを挟む夏だ!海…は来週だ!!今日は…
「「温っ泉っだー!!!」」
「走んな!!!」
ひゃはーい!!!僕とネイがテンションMAXになっていると、お父様に首根っこ掴まれた。ぐえぇ。
本日はぁ~公爵家の家族旅行じゃーい!!!僕が以前温泉行きたいって言ったら…
「じゃ、行くか。宿を貸し切って…いずれ別荘でも買うか」
と、お父様が流れるように高級宿を貸し切っちゃったよ!?金持ちってすごいわ~。バティストが言うには、僕ら誰も贅沢しないから…予算余ってるんですって。
旅行は公爵家の使用人も皆一緒!!アイシャももちろんいるし、ロイの奥さんもご招待。残念ながら、オランジュ夫妻はいないけどね。
騎士は…うん。領地の治安を守ってもらいたいので…いつものジェイル、デニス以外留守番です。まあ、彼らにも近いうちに慰安旅行企画するからさ。
「俺も、いいのですか」
「もち!師匠もすでに公爵家の、騎士の一員さ。それに…」
僕がちらりと目線を向けた先…師匠もつられて見た。
「ほー。まだ温泉街の入り口ですが、すでに硫黄の匂いが漂ってますねえ。では、まず何処から行きましょうかね!」
と…元気いっぱいのタオフィ先生もいる。
いやまあ、テオファのお兄ちゃんですし、呼ぶ気はあったんだけど。休暇前…僕が声を掛ける前に「此方もご一緒しまーす!!」と言ってきた。どこ情報?いや、いいんだけどさ。だって…
「兄ちゃん!全部入ろう、片っ端から入ろう!!お土産いっぱい買って!」
「こらこら、湯あたりには気を付けろよ?」
超笑顔で先生の腕をぐいぐい引っ張るテオファの姿を見ると。まあ…なんでもいっか!と思ってしまうのであった。
ちなみにパスカルも来たがっていた。いやだから君ら、どこから情報流れてんの!?今回は諦めてもらったけど。
彼は膨れっ面で訴えていたが…僕がロッティのアドバイス通りに「これは家族旅行だから…家族になったら、いつか一緒に…ね?」と伏せ目がちに言ってみた。
すると…その日は超笑顔で帰って行き、後日。新婚旅行の候補地とか言って、国内外50を超える観光地の資料を持って来た…。
「これでも大分絞ったんだけど。夏はここの料理が美味いって。ここは秋の紅葉が綺麗で…この地方はとても星空が美しいらしい。で、春には…」
と、延々とプレゼンするパスカル。君は何ヶ月新婚旅行に行く気なの…?そう思ったが、パスカルが笑顔で語ってくれるのが嬉しくて。僕も一緒になって計画を立てた。軽く世界一周旅行になったけど。
「おーい、おじいちゃん!この温泉関節痛に効くって、膝悪いんでしょ?」
「ほっほ、お嬢様。お気遣い感謝しますが…儂に温泉はちと熱い。お若い人達で入って来るとよいでしょう、儂はマッサージでも受けましょうかねえ」
そして今回はおじいちゃんこと、カリエ先生も一緒だ。
最初は遠慮すると言っていたのだが…僕が全力で「行こうよ行こうよ一緒に行きたい!!やだやだやーだー!!行くのー!おじいちゃんも一緒に行ってくれなきゃいーやーーー!!!」と、彼の診療所まで乗り込んで駄々を捏ねた。おもちゃ売り場の子供にも負けていないと自負しているよ。
めっちゃ呆れ顔されたが…彼は僕に甘いので、なんやかんや折れてくれた。もちろん彼が本気で嫌そうならここまでしなかったとも。
それでも…カリエ先生は誰よりも長く、側で僕を守ってくれていた。だから…少しでも、恩返しをさせて欲しいな。
で、現在地は温泉街と言っても日本の風景とは違う。温泉の建物は丸くて宮殿って感じだし…街並みはそうだな、勝手なイメージだけど地中海っぽい。
この地方は避暑地としても有名で、冬は大雪が降ったり厳しいものだが…夏は過ごしやすいのだ。
それにしても僕、温泉は冬って固定観念があったけども。夏温泉はまた違った良さがあるらしいね。
で、肝心の温泉ですが。基本混浴で、入浴の際は専用の湯浴み着必須。もちろん更衣室は男女別で…なんというか、お風呂というよりプールの感覚かも?
では…行きますか!早速僕らは着替えに向かうのでした。
【主よ。私を携帯していなくてよいのか?影に仕舞っては、いざと言う時に困ろう】
「あはは、問答無用」
【無慈悲な…】
僕はカバルカズラに襲われてから、常にミカさんを腰に吊るしている。で、魔本はバッグに入れるか影に入れるか…だが。
このミカさん、明らかに女子更衣室を覗こうとしている…。なのでヨミにお願いして、一時的に影にぶっ込んだ。
なんだこの変態刀。なんというか…魅禍槌丸の制作者は禍月という男性らしいけど。ミカさんって…好色だったという禍月の人格なんじゃないだろうか?
何せ僕が着替えている時ですら視線を感じるのだ、目無いのに。「自分無機物だし?下心とか無いし?女体に興奮とかしてないし?」という意思を彼から感じる。とにかく…錆びたくなければ、今日は影ん中で大人しくしてな!!
【しょぼんぬ】
誰に教わったのそれ。
着替えて大浴場に向かうと…広い!綺麗!!造りが…柱とか古代ローマっぽいトコある、ゴージャス!!!滝がある!
「すごーい、広い!!」
「お姉様、あっち行きましょう!あの滝源泉ですって!」
「こーら、走っては危険ですよ。それと、水分補給はしっかりしましょうね」
「「はぁーい!」」
アイシャに注意されつつ、僕らはどの湯に入ろうか迷っている。おお、薔薇風呂ある!セレブっぽい!僕らがきゃっきゃしていたら…男性陣の姿発見。あれは…
「脱げ、早く!!」
「きしょい。胸隠すなコラ」
「ちょ、やめ、あーーー!!!いやー!!」
…ジェイルとデニスが飛白師匠の湯浴み着をぐいぐい引っ張り、脱がせようとしている…?
とても面白そうな事になっているので近付き、事情を聞いてみよう。
「それが…カスリ卿が女性用の湯浴み着を着てるもんで」
「なんか腹立つんです。誰も気にしやしない」
「いや…俺の体、不快。お客さんも…びっくりする」
ああ…身体中にある古傷を、少しでも隠したいんだ。確かに僕ら以外にもお客さんはいるけども。師匠も温泉は好きだと言っていたから…入りたいけど、人の目が気になるんだね。
「うーん…まあ、師匠がそうしたいんなら。でも…他のお客さんに遠慮しなくていいんだよ?傷のある人は不可なんて決まり無いし、何も知らずに非難する人なんて…無視だよ無視。
それに…ぶふ。うん、似合ってる。可愛いよう、飛白ちゃん!」
僕の発言に、師匠は自分の格好を改めて見直し…僕に軽くチョップを喰らわせ、「着替えてくるです!」と更衣室に消えた。いやん、本当に似合ってるわよー!!
「ありがとうございます、お嬢様。…で、あっちも…」
ん?ジェイルは何を見ているんだろう?つられて顔を向けると…
「おー!凄い、泳げそう!」
と。僕ら3人の視線の先には…同じく女性用を着用しているテオファの姿が。彼は師匠と違って本当に似合っているから…ビビる。
「男子更衣室でもすっごい目立ってました…」
「二度見三度見されていたな。俺もした」
「側から見れば、女の子が紛れ込んでいるみたいだもんね…」
テオファは別に、肌を隠す理由は無いはずだ。気になった僕が訊ねてみると、彼は頭を掻きながら答えた。
「うーん、ボクも最初は男物着てたんですよ。でも…すれ違う人全員がボクの顔を見て胸を見て…もう一度顔を見て。
その視線がやかましいのでこうなりました。今度は別の視線を感じますけど…」
「そ…か…」
僕はそれ以上何も言えず…薔薇風呂に飛び込むテオファを見送るのだった。
この施設の中では皆自由行動。ジェイル、デニス、師匠はサウナ我慢対決してるし。おじいちゃんはマッサージ中かな?
バジルとモニクは一緒に回ってるし、アイシャ達大人組は静かに温泉を堪能している。フィファ兄弟とナイル兄妹もお風呂に入ったりなんか食べたり。
ここは精霊入浴禁止!でもないので、皆も自由にしている。
「いい湯…わいはここにいる」
「では私も。ほう…これは中々…おおぉう…」
トッピーとヘルクリスがジャグジーなお風呂を占拠している…。他のちっこい子達も隙間に浮かんでいるので、ここは精霊風呂と化している。しかしお湯に浮かぶ皆は…可愛いなオイ。
その中にはシグニも混じっていた。見た目ただの黒猫な彼だけど…気持ちよさそうに頭だけ出している。ここは放っておいてもよさそうかな…。
ヨミだけは普通に湯浴み着姿で僕に同行している。この状態の彼を見て精霊だと気付く人はいまい。
さて…僕らはロッティとグラスも一緒にお父様を探す。どこかなー、と周囲を見渡すと…すぐ見つかったわ。
「あのぅ、ご一緒してもいいですかぁ?」
「おいくつですかー?奥さんとか彼女さんとか、いないんです?」
わーお、バティストと一緒に若い女性2人に逆ナンされてる。バティストは飄々と流しているけど、お父様がめっちゃ困ってる。
お父様は僕と目が合うと、パアア…と顔を輝かせて手招きした。そんで僕とロッティの肩を抱き、すまなそうな表情を浮かべて見せた。
「わりーな、お嬢さん方。俺はこの子らの父親なの。今日は家族サービスだから遠慮しとくわ」
「それじゃあたしも…息子達が一緒だから、ごめんね~」
お?バティストはグラスとヨミを息子だと言い、ナンパを躱す。お姉さん達は「なーんだ、残念」と、潔く諦めていったぞ。
そんでグラスは呆れつつも、楽しそうに声を発した。
「ジャンさん…いつからおれは息子になったんですか?」
「まーいーじゃん、パパって呼んでいーよ!闇の精霊殿にも迷惑を掛けてしまいましたが…」
「……………いや、まあいいよ。じゃあジュース奢って、パパ」
「「「ブッフゥッ!!」」」
意外にもノリノリなヨミ。僕ら親娘は思わず吹き出し、バティストも一瞬目を丸くしたが…すぐ笑顔で「おっけー!!」と答えるのであった。
ひとまず全員バティストの奢りで水分補給(お父様だけ自腹)。入浴場は飲食禁止なので、湯浴み着のまま移動出来る専用スペースに並んで座る。
「あのさ…全員、ぼくの事敬わなくてもいいから。好きに呼んでくれていいし…シャーリィの家族だし…普通にしてくれて構わないよ」
その場でヨミがストローを齧りながら、頬を染めてそんな事を言うもんで…全員大層驚きましたとも。
最上級の、それも幻の闇の精霊。そんな彼は人間社会で言えば、陛下よりも貴い存在であると言える。うっかり名前を呼んでしまえば殺されても仕方ない…それが今の彼は、まるで普通の青年のように見える。
「………なら、そうさせてもらおうかな」
お父様はヨミの隣、僕に視線を向けた。それに対し笑顔で返すと…微笑みながらそう言った。ヨミも満足そうに笑っている。
この日以降彼は、屋敷の中ではほぼ影の外で過ごし…人間のように振る舞う事が増えた。
後にヘルクリスが教えてくれた。
「奴は人間性が増してから、家族というものに憧れを抱いているようだ。人間と一緒に必要の無い飲食をしたり、同じ目線に立とうとしたり。
それにどうやら…肉体年齢の17歳に精神も引っ張られておる。奴の事を思うなら…まあ、1人の人間のように扱ってやれ」
と。そっか、だから…バティストの事を父親扱いしているのも、その一環なんだろうか。
この旅行中ヨミはずっとバティストをパパと呼び、終わった後も…何かおねだりをする時はパパ呼びするようになった。それはいずれ、恒常的になって…。
そんな変化が面白くて嬉しくて、僕はこっそりと笑うのであった。
※※※
暫く色々なお風呂に浸かった後、お父様が「全員着替えて、宿に移動するぞー」と言った。その前に…
「……お嬢様、この3人はどうしたんでしょうねえ?」
「それが……サウナで…全員のぼせちゃったみたい…」
「「「………………きゅう……」」」
今僕とおじいちゃんの足下に、騎士の3人が倒れている。施設のスタッフさんに運ばれて来たんだが、全身真っ赤に茹で上がり…まさかずっとサウナに…?仕事しろや(師匠除く)。
「何やってるんだろうね…僕も手伝うよ」
「……全く、仕方のない。儂に任せて、お嬢様は着替えていらっしゃい」
「よろしくね~…」
なんとおじいちゃんは、3人纏めてヒョイっと抱えてしまった!?す、すげえ…多分80歳くらいいってそうなのに、力持ちぃ!!
ただ、少し歩いたと思ったら…立ち止まり、振り返らずに僕に声を掛けた。
「それと…お嬢様。そろそろ「僕」はやめなされ。貴女は女性なのだから、徐々に慣らしていかねば。
いつかシャルティエラお嬢様が女性として世に出て。華やかな衣装に身を包み、最愛の男性の隣に笑顔で立つ姿を…この老ぼれは楽しみにしているのですよ」
「…おじいちゃん…」
彼は僕の返事を聞かずに歩き始める。
「…うん!わたしの花嫁姿、ちゃんと見せてあげる!!子供…ひ孫が生まれたら抱っこしてあげてね」
「ほっほ…これは、長生きしなくてはいけませんなあ」
そう言うおじいちゃんの表情は見えないが、きっと微笑んでくれているのだろう。
さて、急いで着替えるか!今日の夕飯なんだろなー、この辺の特産品はなんだっけな?そんな事を考えながら、わたしはロッティ達と一緒に更衣室に向かった。
「皆、楽しかった?」
「ええ!それにしても、モニクはバジルとずっと一緒で羨ましいわ~」
「んもう、揶揄わないでくださいっ!普通にお風呂を回っておしゃべりしただけですし!」
「いいっすね~。ネイもいつか、好きな人できるかなあ…」
「ネイはシャルティエラお嬢様のお嫁さんになるんじゃないのか?」
「な、なんでそれをテオファが知ってるっすか!?」
「「「あははっ!!」」」
着替えようとしながら皆で笑い合う。そういえばそんな事もあったなあ、ネイに彼氏が出来たら…フェイテお兄ちゃんが嫉妬しちゃうぞ。なーんて考えていたら…
………ん?テオファ?
わたしにつられて、女性陣全員が彼を見る。おい…おい、お前…
「………………あっ…」
「「「「………きゃーーーーー!!!」」」」
本人すらも気付かぬまま、ナチュラルに男が混じっとる!!!テオファは一瞬で顔を真っ赤に染めて「失礼しましたあっ!!!」と飛び出して行った。
よ、よかった…まだ脱いでなくて…!他のお客さんも近くにいなくて、ほんっとうによかった!ただまあ、飛び出した先で…
「何をやってるんだお前は!?」
「見たもの全部忘れろ!!!」
「このどアホが!!」
「全く羨ま、けしからん!後でコッソリ教えろ!!」
「わーーー!!見てない、本当に見てないからー!!!」
という…タオフィ先生、バジル、グラス、フェイテの声と、バシバシ何かを叩くような音がいくつも響くのであった。フェイテ、後で集合な。
「全く…テオファったら…」
わたし達は呆れながら今度こそ着替える。その時…
「本当に困ったねえ。あ、シャーリィ。まだ濡れてるよ?」
「ありがとう…………は?」
わたしにタオルを差し出して、自分もそのまま着替え始めるのは…ヨミ……
「…………出て行けーーーっっっ!!!!」
「なんでっ!?ぼくは精霊…」
「関係無いわーーー!!!」
ヘルクリスやセレネもオスだが、動物型の彼らとは違うでしょうが!!特に君は初めて会った時より神秘性みたいのが薄れて…人間に近くなっている。だからどうしても同世代の男の子にしか見えないんだよ!!
そんな君に裸を見られて平気な程図太くないんですう!せめて影の中から出てくんな!!
ヨミも追い出し…今度こそ女子更衣室に平和が訪れた。
「あら…お嬢様?まだ着替えていなかったのですか?」
「ふふ、お若い方は元気ですもの。私達なんて、15分で出てしまいましたものね…」
そこへ…先に上がり着替えまでとっくに終わっている、アイシャとケイトさん(ロイの奥さん)が現れた。ロッカーに手を突き、ぐったりしているわたし達に対して首を傾げているが…なんかもう疲れ切ってしまったわたし達は、無言で着替え始めるのであった…。
はあ…温泉って、疲れを癒すものじゃなかったっけ…?
応援ありがとうございます!
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