171 / 224
学園4年生編
47
しおりを挟む週明けの魔術の授業。全員(わたしとパスカル除く)宿題の魔法陣を提出して、召喚の実技だ。
契約する気が無い人は辞退可。精霊に失礼ですから。
それでもほぼ全員が試みるんだけど…その反応が面白い。
陣が光るだけで何も出て来ないのは、精霊が拒否したから。半数以上がこの現象だった。
そもそも光らないのは描き損じをしているから。それか…
「あら…?おかしいわね」
「今の王女殿下の魔法陣。ありゃ…他人に描いてもらったやつだな」
だそうです。自分で描かなきゃ魔術は発動しない、ビビ様のは正しい魔法陣らしいのに何も起こらない。結構常識なんだが…。
しかしエリゼはチラッとしか見ていないのに分かるの?
「…先週の放課後。ジスラン連れてカフェ行ったんだけど…そこに殿下と数人の男がやって来てな」
『ふう…上手く描けないわ』
『でしたら王女様、こちらをどうぞ!』
『いえいえ、俺のほうが!』
『貴女の為に描き上げました』
『まあ。ありがとう、皆』
『『……………』』
「…て事があった」
「おおう…そっか…」
タオフィ先生も苦笑いだ。結局召喚出来たのはエリゼのみ。
「今日からよろしくな、イグニス」
彼の肩に止まるのは、顔の上半分を仮面で隠している少年だ。手足に炎を纏っている、火の上級精霊イフリート。
「よろしく~」と指を差し出しながら挨拶すると、小さな手で握ってくれた。きゃわわ。そして同じ火属性の暖炉と仲良さげにしているぞ。
「セレス様」
「はいっ?」
授業終了後、特別教室を出て移動中。声を掛けられて振り向けばビビ様だ。一緒にいたエリゼは逃げた、何かご用で…?
「よろしければ、召喚のコツなど教えていただけませんか?」
「え…と…」
まずは自分で魔法陣を作成するとこからですね。といってもいいですか?
当然言えません。なのでわたしは、教科書通りの受け答えをするのです。
「申し訳ございません…精霊召喚は他の魔術と違って、治癒魔術のように適性的なものが必要なんです。ありがたい事に僕は生まれつき好かれやすいらしく(嘘)、これと言って特別な事はしていないんです(微嘘)。その為お教えする事が出来ないんです」
「そうなのですか…では何かコツなどはありませんか?」
話聞いてた???
その後やんわりアナタには無理ですと伝えて、なんとか納得してもらえた。彼女が去ると、裏切り者がのこのこやって来た。後で校舎裏な?
※※※
「………………」
「セレス様、ランチに行きましょう?」
「…はい、ビビ様」
最近のお昼は、パスカルとチェスター先輩、ジェフ先輩と学食で取っている。もちろん、ビビ様がいるから。
少那達とは別なのが残念だけど…仕方あるまい。ビビ様と一緒も楽しいかもしれないし!
最初はそう思っていました。でも…基本的にビビ様しか発言をしないのである。それで気が付いたんだが、彼女は人の話を聞くのが嫌いらしい。
向こうから話題を振ってきた時以外で口を開くと、あからさまに不機嫌になる。なので常に相槌のみ…つまらぬ。
それと彼女は注文も配膳も片付けも、全てお付きの男子がやる。決して命令もお願いもしていないんだが…「あら、困ったわ…」と言って頬に手を当て、首をこてんと傾げればオッケーさ。
どこからともなく親衛隊が現れて、願いを全て聞いてしまうから。ええんか、都合のいい男でええんかあんさん!!
まあ本人達が幸せそうなのでいいんじゃないかな。って、そんな事どうでもいいのです。わたしが今気になっているのは………
「……………セレス」
いる。授業が終わってから…ずっといる。教室のドアから、顔と体を半分だけ覗かせているラディ兄様がいる。ふふっ、懐かしいな。
兄様はいつかのように右目だけで教室を見渡し、わたしに声を掛けた。
「………今、いいか?」
「おけ」
親指を立てれば、彼も同じく返してくれた。ドアに近付くと…やや頬を染めた兄様にコソッと耳打ちされる。
「あのな…娘、生まれた」
「……!!おめでとう、兄様!!」
「ああ、ありがとう!!」
きゃーーー!!なんていう大ニュース、ついに第二子誕生!!予定日近いのは聞いていたが…マジかーーー!!!
テンションマックスなわたし達は、手を取り合って全身で喜びを表現した。イエー、ハイタッチ!!そのままぐるぐる回る、ひゃっほう!!
騒ぎを聞きつけた友人達も、すごく喜んで祝福してくれた。ルゥ姉様の体調が落ち着いたら家に遊びに行こうっと!!
「という訳で、2人は放課後集合な」
「……おっけい!!」
「おい!?それってオレも…っていねえ!!?」
兄様は言いたい事だけ言って帰って行った。エリゼは戸惑っているが…強制参加だ、諦めろ。その後は上の空で昼食と午後の授業をこなし、放課後…エリゼを連れて医務室に向かうのである。
え、なんでこの2人なのかって?
「いらっしゃい、待ってたぞ」
「「お邪魔しまーす…」」
超笑顔の兄様に出迎えられ、中に入ると…テーブルの上には沢山のお菓子と、完璧なティーセットが。きっとウキウキで準備したんだろうなあ…。
エリゼと視線を交わし、頷き合う。これでわたしらは一蓮托生だ…!3人共椅子に座り、まずお祝いの言葉から。
「改めてラディ兄様、第二子おめでとう!」
「おめでとう、ランドール先輩」
「ありがとう、2人共」
お祝いは改めて後日持って行くねー!という一通りの挨拶を終えて…来るぞ…!!
「それでな、女の子です!って言われて俺、すっごい嬉しくてなあ…。
一瞬で成長して初めてパパって呼ばれる日。一緒に遊んで歩いて記念日を祝って。いつかアカデミーに入学して…恋人とか出来て。娘はやらん!とか言っちゃって喧嘩して。最終的には結婚披露パーティーで綺麗なドレス姿の娘に「今まで育ててくれてありがとう、パパ」って涙ながらに言われて…
ってそこまで想像して泣いた。そんでクレールさんと娘の顔を見て更に泣いた」
「相変わらずだね…」
「クレイグん時から成長してねえな…」
そう…兄様は現在、誰かに喜びの感情をぶち撒けたくて仕方がないのである!
クレイグが生まれた時もそうだったが…わたし達は5時間程拘束されひたすら息子自慢妻自慢を聞かされた。
まだ続くんかい!とも思ったけど。兄様が本当に幸せそうな顔をしているから…まあ、付き合ってやるか!と思うのだ。
しかし今回は女の子だから…一晩コースも視野に入れねばなるまい…
「そんでクレールさんに「ありがとう、お疲れ様!」って言いながら頭を撫でたりキスをしたりハグしたりしまくってたら「出てけーーー!」って追い出されて。ぐったりして見えたけど思ってたより元気そうでよかったよ」
「出産っつー大仕事を終えて、ウザい絡まれ方すりゃイラつくわな」
「オレ数年前も同じ話聞いたんだが」
「名前は悩みに悩んで、クレイグはクレールさんから貰ったから…今度は俺のランドールから取ってレオノールに決まったんだ。でもよく考えたらどことなくクレールさんも感じるから、我ながらいいネーミングだな!って感心したわ。そんで…」
お茶で喉を潤しながら、兄様のマシンガントークが止まらない。お菓子をつまみながら、兄様の話を表情と一緒に楽しむのだ。
「そんで、女の子用のベビー用品買い漁ってたら父上と母上も一緒になって準備してな。俺一人っ子だから、母上も女の子が生まれて超喜んでるんだ。1日に何度も顔見に来るわ抱っこしたがるわ、クレイグも妹が可愛いのかほっぺつついてはキャッキャ言ってて。すでにお兄ちゃんの自覚が出来てんのか、率先してお世話手伝おうとしてくれてんだよな~」
コンコン、ガチャ
「失礼します、ランドールせんせ…」
「そんでさ、女の子って父親に似ると幸せになるって迷信あるだろ。そんなもんどっちに似てても可愛いわ!って思ってるんだけど、レオノールは俺譲りの銀髪で顔立ちも俺そっくり!もちろんクレイグも超可愛いんだが、目に入れても痛くないというか。
ありゃ将来はとびきりの美人になるな、うんうん。そんで悪い虫が付かんようセレスのように剣術習わせようかなって思うんだ、どう?」
「うーん…護身用レベルでいいんじゃない?僕教えてあげる~」
「頼んだ!いや、もしも将来ルキウスとかルクトルんとこに男の子が生まれたら。うちのレオノールに惚れんじゃねえかって心配なんだよなあ。いやさ、本人達が好き合っているっつーのが一番だし親友の子なら大丈夫とも思うけども。やっぱ複雑っつーか。
例えばパスカルみたいに一途でストイックな男なら俺も歓迎だけどさ、欲を隠そうともしない辺りはマイナスじゃん。あんなんセレスくらいのんびりした子じゃないと相手できねえし」
「…………………」バタン
なんか若干貶された気がするが。
楽しそうに身振り手振りで語る兄様。ふと思い出したけど…本来ラディ兄様とルゥ姉様は結ばれないはずだったんだよね。
兄様は深い悲しみから長い間独身を貫いた。それで…ルキウス様の娘に猛アタックされて結婚するんだっけ。
多分ルキウス様の相手も木華じゃなかったんだろう。だから、その王女様は生まれない。人の運命を勝手に変えてしまった罪悪感はあるけれど…
皆笑顔で幸せそうだから。ルキウス様と木華も仲睦まじいみたいだし…わたしは何度でも、同じ選択をしただろうな。所詮、身勝手な人間だから。
「……ん?今誰か来たか?」
へ?気付かんかった。まあいっか。
それからも兄様は語る。わたしを迎えに来たジェイルも巻き込んで語る。見回りに来たタオフィ先生も巻き込んで語りまくる。
解放されたのはなんと、夜10時…。更に兄様はその足で皇宮に向かい、ルキウス様とルクトル様相手に朝まで語っていたらしい。
そんで次の日普通に出勤してきて…元気だな!!
「クレイグの時は、あいつら婚約者もいなかったからセーブしてたんだが…今度は遠慮なく語り尽くしてきた」
だそうです。それから数日後…
「なんか最近、王女殿下が医務室に来なくなったわ」
「へ?そうなんだ…おめでとう?」
何故かビビ様は、兄様に興味が無くなったらしい。こう言うのもなんだけど…「よかったね~」とコーヒーで乾杯するのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
336
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる