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学園4年生編

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 前半シャルロット視点、後半ジスラン視点


 *****



「セレス様、こちらビビが心を込めて作りましたの♡」

「???」


 今王女殿下が手に持っているのは…さっき調理実習で作ったマカロン。
 しかし彼女は何もしていないわ。あれは…他の女子が作った物を奪っただけ。それをさも自分が作ったかのように振る舞う…はっ。
 4年生からは調理実習は完全に女子だけになったから、お姉様は知らないけれど。

 え、私のマカロン?……大丈夫、原型は留めているわ。ジスランの胃袋に入ればなんでも一緒よ。



 ヴィルヘルミーナ殿下は先週辺りから、ずっとお姉様に付き纏っているわ。それまではウザいくらいにパスカルにべったりだったのに…今では完全に逆転している。
 お姉様はマカロンを受け取って…無心で食べ始めた。顔が完全に悟りを開いているわ、可愛い。




「セレス様♡あーんして?」

「???」

「……………………」ギリギリ……
 
 学食で、お姉様に自分のグラタンを食べさせようとする殿下。お姉様は雛鳥のように口を開けて受け入れ咀嚼する。可愛い。
 その隣で…パスカルが目を血走らせている。私達の席は彼らから5mは離れているのだけれど、こっちまで歯軋りの音が聞こえてくるわ。
 パスカルとお姉様が隣り合って座っていたのだけれど、間に殿下が椅子ごと滑り込んで来たの。パスカルは額に青筋を浮かべているけれど…相手が女性だから強く出れないみたいね。



「ねえ…あの子、急にどうしたの?」

 こっちの話題は当然王女殿下について。スクナ殿下の疑問はもっともよね。
 どうやら先週の魔物事件が発端らしいけど、お姉様は何がなんだか分からないみたい。



「………殿下、セレスタンは少食なのです。あまり与えないでいただきたい」

「あらパスカル様。うふふ、じゃあ貴方も、はい」

「結構で……(いや、このスプーンは今シャーリィの口に運ばれたもの。つまり間接……)…くっ…!」

「悩むなど阿呆っ!!!」


 あら。エリゼがすっ飛んで行ってパスカルの頭を叩いた。スパーンッ!!!という小気味良い音が響き、彼は倒れる。
 もしも今食べていたら…お姉様は深く悲しんだに違いない。グッジョブ、エリゼ。パスカルは後でバズーカね、どうせ間接キスに釣られたのでしょうけど…。

 会長達は背中しか見えないけど震えている。多分…笑いを堪えているのでしょう。
 最近は殿下のアタックもお姉様に集中していて、恋人や婚約者を取られそうだった女生徒達は喜んでいるわ。生徒会も余計な仕事が減って万々歳みたい。

 もしやお姉様…それが狙いで…?な訳ないわね。だって、彼女が一番状況を理解していないもの。
 もうずっと王女殿下の前では目を丸くしたまま、一切のセリフが無いのだから。




「きゃーーーっ♡セレス様素敵ー!!!」

「???」


 そして剣術の授業。殿下はいつも通り特等席を陣取り、下僕によって用意された席でお姉様に手を振る。
 お姉様は他人事のように手を振り返す、可愛い。





「セレス様♡ねえ、今日こそ我が家にいらして?美味しいお菓子も…楽しい遊びも、いっぱいありましてよ?」

「?????」

 今日は私達全員、2人の生徒会が終わるのを待っていた。殿下の動きが気になるので。
 すると生徒会室の前で下僕と共に待ち構えていた殿下は、すかさずお姉様に擦り寄った。抵抗を忘れてしまったかのようなお姉様は、ふらふらと引き摺られている。可愛いけど、危なっかしい!
 パスカルがお姉様の腕を引き背中に隠す。

「殿下。あまり男を誘うのは外聞が良くありませんよ」

「大丈夫よ、貴方も一緒に可愛がってあげるもの」

 何が大丈夫なのかしら?パスカルは未だかつて無い程哀しい目をしている。分かる、話が通じな過ぎて、本当に相手は同じ人間なのかって疑問に思っちゃうのよね。

 にしても役に立たないわね。パスカルもこういう時、相手が男性だったら頼りになるし格好いいのに…全く。正論を言っても王女殿下は流すだけ。
 相手が悪すぎるわね、こういう手合いにはもっと強力な暴論で叩き潰す以外道は無し。ルネと姫様と一緒に前に出る。


「お待ちくださいませ、王女殿下」

「本日は私達とお話しなさらない?」

「たまには女同士のお話も良いものよ?」

「………そうね、たまにはいいわね」

 あら…随分とすんなり応じたわね。こうして私達は、女4人でサロンに向かうが…下僕共も入って来ようとする。

「ふふふ、殿方は外でお待ち頂ける?」

「「「はい……」」」

 頭にバズーカを突き付けるだけで大人しくなった、情け無い。彼らはバジルと一緒に待機よ。
 お姉様達は別行動、タウンハウスに帰る。さて…行きますか!




「ねえシャルロットさん、私セレス様のお話聞きたいわ」

「あら、お兄様の事なら夜通し語る自信がありましてよ」

 やはりそれが目的か…どうやら彼女は、お姉様の魅力に気付いてしまったのね…ふっ。流石私のお姉様、老若男女を虜にする色香の持ち主だわ。


「(セレスちゃんに好意を寄せるのは、一癖二癖あるような人ばかりな気がしますわ…)」

「(パスカル様とかロッティさんは筆頭よね…)」

 ルネと姫様が遠い目をしている。どうしてかしら…?まあいいわ。

 私達は殿下に語ってあげた。お姉様の可愛いところ、格好いいところ、余すとこなく全て。ついでにパスカルとどれだけ仲がいいのか。



 いつだったかお姉様が、パスカルに香水を贈った時。彼はそれを付けて遊びに来て…

『…くんくん。ふふ、やっぱりいい匂い』

『シャーリィ…なんて事だ、俺は香水にすら嫉妬してしまいそうだ』

『も~、馬鹿ぁっ。香水が無くても…パスカルの魅力は変わらないのに』

『『『………………』』』

 お姉様はパスカルの膝の上に座り、彼に抱き付いて匂いを堪能していた。イチャ…イチャイチャン…と背景に効果音の幻覚が見える程に、2人はイチャついていたわ。私とバジルとグラスは多分、死んだ目をしていたと思うの。
 前から思ってたのだけれど。お姉様って…匂いフェチかしら?私はジスランの匂いとか、そこまで気にした事無かったなー…。


 とまあ、殿下にはたっぷり語ったわ。彼女も目を輝かせて聞いていた。
 ふ…これで分かったでしょう?彼らがどれだけ愛し合っていて、他人の入り込む余地は無いという事を!!!かなーり盛り盛りで話してあげた。

 だが…殿下には通じなかった。というか…彼らの間にある愛情を、自分にも向けられると信じて疑っていない。なんで?
「セレス様って夜は激しいのね…いやん」とか言ってるし。はい、勘違いの犯人は私です。後でお姉様に謝っておこう…。


「パスカル様も素敵なのだけれど…この間の戦闘でね。セレス様は華麗に魔物を仕留めていたのに、彼はもたついてて。
 攻撃を受けるばかりで全然動かないの。情けないというか…頼りなく見えちゃったわ。しかも私に向かって逃げろとか言って、チラチラこっちを見て。私に格好いいとこを見せたいのは分かるけど、ちょっと萎えちゃった」

「「「………………」」」


 それは……パスカルは貴女に害が及ばないよう、守ってくれていたと思うのだけれど…。下手に動いた隙に、魔物の攻撃が貴女に当たる可能性もあった訳だし。
 あー…彼女には分からないのね。人や建物を傷付けないよう戦う事が、どれだけ難しいのか。まあ私は…気にせずぶっ放すけれど。貴女も事故で始末出来たら最高だったのに…ね?



「それよりね…私、気付いてしまったの。今まで私を称賛する者、寵愛を受けようとする者、貢ぐ者は沢山いたけれど…私を叱ってくれる人は、誰もいなかったのよ。
 お父様にすらあんな風に怒鳴られた事は無いわ…最初はカッとなってしまったけど。セレス様は…本心から私を心配して叱責してくれたの!
 それって、それだけ私を愛しているって事よね!?彼は可愛すぎて男性として意識出来なかったけど。あんなにも美しくしなやかに剣を振るい、魔物を倒す姿を見て…考えが変わったわ。彼こそが、私の運命の人なのよ…!」


 ああ…彼女は完全に目がハートだわ。今はどうやってお姉様をオトそうか考えているのでしょうけれど。
 その目の奥には狂気を孕んでいるようで…少し気に掛かった。多分殿下は…お姉様を手に入れる為に、手段を選ばない人なのでしょう。これからは、より一層の警戒が必要ね…。

 うーん、叩き潰すつもりだったのに。あまり嘘をついてお姉様の変な噂が出回っても困るし…。とりあえず、今日のところはこれでいっか。



 次の日。殿下は鼻が曲がりそうな程キツい香水を付けて来て………私達は心の中で謝罪しました。




 ※※※※※




 ロッティ達が談笑?している頃、俺達タウンハウス組は。


「それで…王女殿下はうっとりした顔でシャーリィを見つめて。「わたくし…お父様にも怒られたコト無いのに…」って呟いてた」

「「「へー……」」」


 談話室に集まっていた。フェイテ、タキ、モニクが壁際に控えている。
 畏まった場でもないので、エリゼは本を読んでるし兄上はハーヴェイ卿と雑談中。今度手合わせしよーぜ!という声が聞こえて来る。

「おう、そん時はじっちゃんも混じるかー?」

「……………じっちゃん?ジスランオレか?」

「おうよ」

 というハーヴェイ卿の発言に、セレスが盛大に噴き出した。

「じゃあコレ(パスカル)は!?」

「パッスィー」

「ぶっははははは!!!じゃあ僕は!?」

「(シャルティエラ様…じゃねーな今は)うーん…スタン」

 どうやら彼は、人を変な名で呼ぶ癖があるらしい。でも兄上の事はちゃんと「ジェルマン卿」と呼んでいるし…分からん。そしてセレスだけマトモだ。


 パスカルの話を聞き、大変だったんだなとしみじみ思う。アルミラージは防御力は低いが、素早い動きと鋭い蹴り、角の硬さは半端じゃない。恐らく、セレスのカタナで無ければそう簡単に斬れなかっただろう。
 そんなアルミラージ、誰かを守りながら戦うのは容易ではない。この男、また腕を上げたようだな。次に試合をする時は俺も本気でいこう。

 魔物には核となる魔石が存在し、絶命するとそれだけ残して消滅する。そして種類によっては角や牙や爪、時には目など…魔道具や武具の素材になる物も残る。
 どうして一緒に消えないのか不思議だが、それらには強力な力が宿っている。恐らくそれが要因だろう、と聞いた事があるな。



 それにしても…セレスに目を向けてみる。

「いや~…どうしたんだろうね、彼女。パスカルをオトす為に、馬から射ようとしているのかな?」

 せんべいとかいう箏の菓子をボリボリ食べている。確かにこれはうまい。うるさいのが気になるが。 
 
「いや……どう見ても、其方に惚れているだろうアレは……」

「え、なんで?」

「なんでって……」

 ああ、ルシアン殿下の言う通り…王女殿下はセレスに惚れている。本人だけはまるで気付いていないが。
 まあ俺達も皆、彼女はパスカルを狙っていると思っていた。というか、確実にそうだった。どういう心境の変化か…今はパスカルは保険扱いだが。


「とにかく!あと数週間で終わりなんだ、其方は気を抜くなよ!」

「うーん…分かった!」キリっ

 分かっていない気がする。
 しかしそうか、もう冬なんだな…あと数週間で冬期休暇に入るのだから。話題は期末テストに移る、折角なので勉強会が始まった。

 俺は毎回、落第点を1つでも取ったら休暇は勉強地獄が待っていると脅されている。実際1年の夏期テストで懲りてからは、毎回死ぬ気で勉強してなんとか回避している。まあ、エリゼとパスカルのお陰だが。


「今年の誕生日パーティー、絶対皆来てね!」

 セレスはそう念を押している。俺は呼ばれなくても行くが…今年は随分気合が入っているな。彼は今年もドレスなのだろうか?……ん?彼?彼女?どっちだっけ…

「おいジスラン、そこ違う」

「あ、すまん」

 エリゼに間違いを指摘され、勉強に集中する。が…パーティーの話をするセレスの横顔を見る。その笑顔は本当に嬉しそうで楽しそうで。昔とは大違いだな…と、つられて俺も笑顔になってしまう。
 するとスクナ殿下がそれに気付き、不思議そうな顔で声を掛けて来た。


「…?ジスラン殿、どうしたの?」

「いえ…セレスが…昔は誕生日が嫌いだったのに。今は幸せそうで良かった…と思いまして」

「え…そ、そうなの…?」
 
 あ。つい勝手に言ってしまった…。人の過去は俺が話していい事ではない、本人に助けを求めた。


「あー…そういえば言ってなかったっけ?まあ隠す事でも無いし…ちょっと長くなるけど、聞きたい?」

 セレスがそう言うと、殿下は控えめに頷いた。



 そうして彼は、数年前までの出来事を語った。伯爵家に生まれ、ロッティといつも比べられて育った事。両親や使用人からの愛を貰えず、寂しい幼少期を過ごした。
 伯爵は長年に渡り不正を犯し、ついに裁かれた。そして当時養護教諭だったゲルシェ先生…皇弟殿下と縁を結んで親子になり、公子となった。

 それらを全て、時折エリゼが捕捉しながら事細かに説明した。俺達は全て知っている事実だが…スクナ殿下とタキは、目を丸くしている。それにモニクとフェイテも知らない部分があったようで、たまに「えっ」と声を漏らしていた。
 ハーヴェイ卿も「よく真っ直ぐ育ちましたねー」とびっくりしている。

「あ、スタンじゃなくてシャルロット嬢がね。そんな環境じゃ歪に育っても仕方ないってのに」

「………そう、だね?うーん…あの子は昔っから僕の事を慕ってくれていたんだよねえ。
 まあ、僕の話はそれでお終い。……幻滅した?」

「……そんな事…無い…っ」

 !!?ス、スクナ殿下が…泣いてる!?俺だけでなく全員戸惑う。セレスが眉を下げて「泣かないで」と彼の頭を撫でると…セレスの胸に飛び付いた。おおい!!!

「ひあああっ!!?」

「……頑張ったんだね、辛かったんだね…」

「少那…ありがと…」


 パスカルを確認すると…ものすごい形相で、ルシアン殿下に羽交い締めにされている。

「だああーーーっ!!!離さんかいっ!!!」

「気持ちは分かるが少しだけ待ってやれ!!」

 その間もスクナ殿下は離れない。………ん?俺の角度から見ると……スクナ殿下、ニヤついていないか…?セレスの背中と腰に腕を回し、胸に頬擦りしてるようにも見え……気のせい、だよな?


「(……セレス柔らかいぃ~…もうちょっとだけ堪能し…)あいたあっ!!?」

「へっ!!?」

「殿下ーーーっ!!」

 すると……頭から紙袋を被った誰かが部屋のドアを開けて入り、殿下の頭をべしんと叩いた。そしてセレスの腕を引っ張って救出、パスカルに押し付け速やかに退室。
 スクナ殿下はその場に頭を抱えて座り込む。タキが駆け寄り、兄上とハーヴェイ卿になんで止めないんですかー!?と噛み付く。2人はドアの近くにいるのだが、侵入者を完全にスルーしていたのだ。


「いや……今の、グラスだし…」

「殺意も悪意も敵意も無かったからなー。強いて言えば…兄心このかみごころってやつ?」

 ハーヴェイ卿は難しい事を言う。だが殿下とタキは顔を見合わせて…何故か笑ったのであった。




 その後皇宮組は先に帰宅。俺達寮組もそろそろ…と考えていたら、ロッティが帰って来た。彼女は俺をじーっと見て…匂いを嗅いできた。え…俺臭かった…?

「………成る程…」

 彼女は頬を染めて何事か呟いている。更にセレスに「お兄様…ごめんね」と謝罪して自分の部屋に逃げた。………なんだったんだ???





 次の日、学園にて。なんかやたらとキツい香水を付けた王女殿下が登校してきた。そしてセレスの顔を見ると…頬を染める。


「あ…セレス様。貴方…逞しい男性に乱暴する趣味がおありなんですって…?私、激しいのはちょっと…優しくして欲し…あらっ?」


「ロッティイィーーーっ!!!何言った、ねえ何言ったの!!!?」

「きゃーーーっ!!!昨日謝ったじゃない!それにそこまでは言っていないわ!!!
『お兄様は逞しい男性をベッドの上で可愛がるのが好きなのよ』って言っただけよ!!」

「な、なん、おばかーーー!!!違うもん僕そんな事してないもん!!!」

「そうだ!!ベッドの上でセレスタンを可愛がるのは俺のほうだ!!」

「君は黙ってて!!!」


 
 教室中をきゃーきゃー逃げ回るロッティ。それを真っ赤になって追い回すセレス。それを興奮気味に追い掛けるパスカル。俺含め友人達は呆れた顔をしていた。スクナ殿下は赤くなっていたが。


 結局タオフィ先生が教室に入って来るまで、この馬鹿騒ぎは続いたのであった。


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