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学園4年生編

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 帰ってきてから1週間、今日はルキウス様と木華の結婚だ。豪華な馬車でパレードを行う。
 屋台も沢山出ているし、地方からも大勢の人が首都に集まっている。皇太子の結婚に、国中が祝福ムードなのだ!
 わたしも護衛として馬車の横を歩いた。「皇太子殿下万歳!皇太子妃殿下万歳!」とか聞こえて来るし、皆笑顔でお祝いの言葉を送ってくれて…2人は幸せそうに手を振っているぞ。
 …ん?ギャラリーの中に…グラスが、いたような?一瞬しか見えなかったけど。


「わぁ~…木華、綺麗!ほら、シャーリィの騎士姿も可愛いよ」

「そうだな…」

「もう、命兄上は近くで見ないの?」

「シャルティエラお嬢様がいない時にな」


 はは…グラスはそうと決めたら意見を変えないからなあ。結局別の日に、木華達におめでとうって言ったらしい。
 パレードは皇宮の前で終わり、最後にもう一度国民に手を振った。大歓声の中、ルキウス様は木華の手を取り中に入る。


 そしてそのままパーティーが始まった。わたしは警備でなく、ドレスに着替えてルキウス様の親戚として、木華の友人として、伯爵として参加だ。
 お父様達ももちろんいるし、高貴な方が一堂に会する。皇太子夫婦は席に座り、挨拶に来る人々の対応に追われているぞ。
 わたしはパスカルと一緒に順番待ち。へいきた!

「ご結婚おめでとうございます、皇太子殿下、皇太子妃殿下。この素晴らしき日に立ち会えた事、幸甚の至りにございます」

「ありがとう、ラサーニュ伯爵。お前には…本当に感謝している」

「ええ。貴女が私達を出会わせてくれたのですから」

 それは…ふふ、どういたしまして!

「光栄です。……皇太子殿下万歳!とかやる?」

「やらないよ…」

 小声でパスカルとそう言えば、ルキウス様達にも聞こえたようで「やってもいいぞ?」と笑われた。恥ずかしいのでやらぬ。
 また後日ね、と木華に手を振り下がった。さて、パーティー楽しみますか!


 挨拶が大体終わった頃、楽団が音を奏でる。皇太子夫妻が踊った後、わたしもパスカルと踊ったぞ。
 その後もパスカルと一緒にいたのだが、ルシファー様を発見したのでご挨拶!ロッティとルネちゃんと4人で集まったぞ。男性陣は少し離れた所で話している。

「皆久しぶりね。この間はお話し出来なくて残念だったわ」

「はい、お久しぶりですルシファー様」

「シャーリィはもう伯爵なのよね?おめでとう」

「ありがとうございます。お飾り領主ですけどね…」

「そんな事無いわよ、お姉様」

「そうですわ。忙しい合間に領地に足を運んでいる事…皆知っていますわ」

「ロッティ…ルネちゃん…ありがとう」

 そう言われると…素直に嬉しい。もっと頑張ろう!って思えるんだ。


 ルシファー様の近況を聞くと、今1歳の娘さんがいるんだって。その流れで、わたし達の子供は?という話になった。
 そこでロッティが妊娠中です!と報告すると、2人共自分の事のように喜んでくれたぞ!ルネちゃんはまず結婚してからだね。

「色々と忙しくて、入籍は年が明けてからですの」

「わたしは…そろそろかなって。パスカルも待ち望んでくれているんですよ」

「まあ、幸せいっぱいね!ねえシャーリィ、そういう時は…「わたしの夫も」って言ってみたら?」

「へっ!?えっと…夫も、子供が待ち遠しいって…」

 いやあ…ちょっと照れちゃうわ。そうよね、これからはそう紹介する場面も増えるよね!
 少し離れた所で、パスカルの悶えるような声が聞こえた、ような?まあいいか。


 ルシファー様とは別れ、パスカルを探すと…心臓を押さえて緊急搬送されたと、お父様が言っ………なんでえ!!?

 心配ないとの事なので、気にはなるが放っておこう。ロッティはジスランと、ルネちゃんもオスワルドさんと行動するので一旦お別れ。わたしはこのままお父様にくっ付いていよう。
 その時、少那の姿を発見!彼もこっちに気付き、笑顔で駆け寄ってきた。


「シャーリィ、久しぶり!結婚おめでとう!あと伯爵就任おめでとう!それと騎士の叙勲と、ジェルマン卿と薪名の…」

「殿下、落ち着きましょう。今日は皇太子殿下のご結婚ですよ」

 師匠はいないが咫岐はいた!再会の挨拶をしていると、お父様は陛下のとこに行ってくると離脱。わたし達は近況を報告し合った。

 へえ…旅は順調だが、たまにトラブルに巻き込まれると。
 特に少那が…悪漢に襲われそうな女性を発見して助けて惚れられたり。
 売られそうになっている女性をなんやかんやあって救って告白されたり。
 理不尽に彼氏に捨てられ、失意の底にいる女性に掛けた何気ない一言が、その女性の運命を大きく変えてしまい求婚されたり…もういいわ!!

 なんか、女性恐怖症が治ってから益々主人公属性が強くなっているような。そのうちグラス、咫岐、師匠が離脱して美女美少女と旅をするようになるんじゃ。


「その場合、私達はどうなるのですか?」

「うーん…まず咫岐は旅の途中で出会った女性と恋に落ちて離脱。
 師匠は……落石から少那を庇って死亡。
 グラスは、そうだなあ。強敵との戦いに敗れて、姿を消す。現場に腕が残されていた事と、大量の血の痕から死亡と判断される。
 だが隻腕ながら実は生きていて、最終決戦で間一髪少那の命を救う。だけど傷が深く…上手い具合に駆け付けたわたしの腕の中で息を引き取る…かな!」

「う…うぅ…!自分はマシで良かったと喜ぶべきか、命殿下をお守り出来なかったと嘆くべきか悩みます…!!」

「貴女達、お祝いの席でなんて会話してるの…。私達は一体何と戦っているのかな?」

 いつか少那を主人公にしてハーレム小説でも書くか。ペンネームはユカね。


 そんなアホな話をしつつ、わたしの結婚式の事について聞かれた。

「白い服が駄目なのは聞いたけど、他に注意点ある?」

「んー…特に無いかな。君達はそれまで何処に滞在するの?うち来る?」

「いやあ、新婚さんの家は悪いよ。皇宮で泊めてもらうんだけど、ラサーニュ領に一度行かせてね」

 おっけい!島は暖かいから、まだ海水浴も出来るよ。
 首都の屋敷の部屋を箏風にリフォームしたんだ!と言えば一度遊びに来るって!中々いい感じに出来たんですよう。



 その後パスカルが回復して、少那達とも別れる。

「さっきな、グラスに会ったんだ」

「へ!?な、なんか話した?」

「ふふ…無言で顔面に、コレを叩き付けられた」

 パスカルが笑顔で見せてくれたのは…ブレスレット?しかもペアだ。
 高価な感じではないが、上品で目立ち過ぎなくて使いやすそう。彼はそれを1つわたしの腕に付けてくれた。素敵…ウエディングドレスにも似合うかも?

「…ありがとう、グラス」

「うん。そう言っといた。うるせえ!って去ってったけど」

 あはは!わたしも次会った時、直接伝えようっと。



 ※※※



 さーて、ついに明日は結婚式!!
 わたしの説明を元に、お父様、バティスト、伯父様が流れとか色々決めてくれていたらしい。台本に目を通すと…うん、完璧じゃない!?

 ドレスに関しても、満足な物が出来ました!わたしのふわっとした説明だったけど、何度かドレスを仕立ててもらったマダムが完璧な図を描いてくれてね。試行錯誤を繰り返し、1年かけて完成だよ。

「純白のドレス…素敵ですわ…!パニエを使うのは不慣れでしたが、なんとも美しいフォルムです…」

「この国、パニエは主流じゃないもんねー。ありがとうマダム・アリアット!レースもフリルも、控えめだけど華やかで。ベールもティアラも、ヒールも素敵。グラスのブレスレットも…うん、他の装飾品と喧嘩しないね。
 セットのタキシードも完璧。ふふ…楽しみだなあ」

 テオファもドレスの勉強として、製作をずっと見ていたんだぞ。ドレスメーカーは諦めたけど…デザイナー兼コーディネーターを目指して頑張っている。わたしとロッティの専属になるのが夢だって。

「その時は、知り合いだから採用するとか甘い事言わないでくださいね!
 ボクは実力でお嬢様方の専属になってみせます!」

 ですって。楽しみにしてるからね!



 そんで今は教会でリハーサル中。メンバーはわたし、パスカル、お父様、バティスト、伯父様。騎士は外で待機。
 司会もお父様の挨拶も問題なさそうだね。騎士の配置も決まったし…ただ伯父様が…


「新婦、シャルティエラ・ラサーニュ。
 貴女はパスカル・マクロンを夫とし。彼がボケた時も、借金をした時も、メタボになった時も。ハゲた時も。加齢臭が漂ってきた時も。これを愛し…」

「ま、待って、んふ、ふふっふん…!ちょ、タンマ…」

「シャーリィ…!年老いた俺は嫌いか!?頑張るから、捨てないでくれ!ハゲとボケはどうしようもないだろうけど…」

「ち、違う。けど…!ツボっ、て…」


 本当にこの人に牧師さん頼んで平気かなあ!?しかもお父様とバティストが余計な事吹き込んでるし…!
 
「糖尿病も入れようぜ」

「それより口臭のほうがよくありませんか?」

「水虫とか」

「イビキがめっちゃうるさい」

「よし採用」

「ぶっははははは!!!」

 ついに腹を抱えてしまったよ!やめて、本番で思い出しちゃうから!!!
 でもまあ、それ以外は大丈夫そう。明日…楽しみだなあ。晴れるといいな。


 参列客をドレス姿で、あの路地を歩かせる訳にはいかず。悩んでいたら…なんとヨミが、ワープゾーンのような道を作ってくれたよ!?いいの、平気なの!?

「うん。結界の術者には許可得たし。1日限りだけどね」

 あ、ありがとう!!これでアッサリ問題解決う!


 今回結婚式に向けて、教会の脇に小さな控え室を建てた。雰囲気を壊さないように外観には拘って、そこでわたしは着付けやメイクをしてもらうのだ。教会とは石畳で繋がっている。パスカルは教会の奥の部屋で着替えてもらう。


「ヴァージンロードを歩く練習は要らないのか?」

「うん。それは…歩くのは一度だけにしておきたいの」

 お父様と腕を組み、中央の道を眺める。やっと明日、優花とシャルティエラの夢が叶う。
 パスカルは「俺が一番にドレス姿を見たかった…」と呟いている。わたしの希望で、扉を開けるまで見せられないよ!と決めたのだ。

「じゃあ俺はここでシャーリィを待つ」

「俺がシャーリィと腕を組んで、ゆっくり歩いて。パスカルに託し…家族席に戻ればいいんだな」

 そうそう。右側を新郎、左側が新婦の招待客。
 最前列を家族とする。わたしの場合お父様、ロッティ、ラディ兄様ね。セディは小っさすぎるので泣く泣く不参加。披露宴には専用ベッドを用意したぜ。
 アイシャも座って欲しかったけど、本人が皇族の前に座れません!!と辞退した。後ろの席になるけれど、必ず参列はしてくれる。


「本当にランドール様も家族席でよろしいんですか?確かにお2人だけでは寂しいですが」

「いいの、バティスト。わたしのきょうだいだもの!」

 流石に4人共首を傾げているが、ここは譲れません!
 そんでその後ろに親族。ただわたし側の親族は、皆お父様の身内。なので皇族とゲルシェ夫妻になるなあ。ブラジリエ家が微妙なところで、3列目にした。
 と思っていたのだが、ゲルシェ夫妻も畏れ多い!と辞退した。平民が皇族の隣はキツいか…彼らも後ろになったぞ。

 …ラサーニュの親族はいない。わたし達が公爵家になった時、絶縁したから。それを後悔はしていないよ。
 だって彼らは、何もしてくれなかったもの。……ボリス・ラサーニュの犯罪行為を、黙認していたんだもの。



「おいシャーリィ。私の衣装は何処だ」

「わいも」

「セレネもだぞ」

「当然ぼくのはあるよね?」

 おっと、1人で落ち込んでしまった…もちろん精霊達もドレスアップしてもらうよ!
 小さい子には、小さい礼服を作ってもらった。エア達もこれで我慢してね、大きくなったら大変だよ。

 ヘルクリスには、豪華な刺繍の施されたマント。ちゃんと彼のサイズに合わせてありますとも。
 トッピーが悩んだけど…女の子ですからね、可愛いエプロンにしたよ。ただ…試着させたら、土佐犬のまわしみたいになっちゃって。当日はなるべく見ないようにしよう…。
 セレネはミニシルクハット、特注だぞ!シャラランと、長い飾りが豪華です。
 ヨミは普通に礼服。やっぱ黒が似合うね君は!


 よし。不安な点も多いけど、結婚式の細かいルールを知る人がいないから大丈夫!わたしがルールだ。
 そんじゃ明日に備えて帰るかーと、皆で外に出る。

 ふと…わたしは後ろを振り向いた。そこには…


「あ……」


 緋色の髪の、剣を携えた女性と。
 桃色の髪の、杖を持った女性と。
 黒色の髪の、冠を被った男性が…

 祭壇の前に立ち。優しい笑顔で、わたしを見つめていた…気がした。


「シャーリィ?どうした、誰かいるのか?」

「パスカル……ううん。なんでもないよ」


 が見えたのは一瞬で。
 きっと。幻覚だったんだろう…パスカルの腕を取って外に出て、扉を閉める。


 …わたしの見間違いだとしても。ありがとうございました、セレスティア様。エデルトルート様。ルシュフォード様──…






 夜、ラウルスペード邸にわたしは泊まっている。
 緊張で眠れないかなと心配だったが、誘われるようにベッドに倒れ込んでしまった。


 そして、夢を見た。不思議な夢を…



『……もう、この国とはお別れだよ。本当にいいの?』

『何度も言わせるな。おれは…お前と生きたい。どれだけ苦労しようとも、決して後悔はしない。
 …あいつらに別れを言えなかったのは残念だけど』

『…ありがとう、***』


 ここは、ファルギエール領の港…。わたし、船に乗ろうとしている?真っ暗な、こんな夜中に…?
 身体が動かせない、口が勝手に開く。わたしと手を繋いでいる男性は…この声はグラス?

 それだけじゃない。わたし達の後ろに誰かいる?


『貴方達も、本当にいいんですか?一緒に来てくださるのは嬉しいけれど。国を、家族を捨てるって事なんですよ…?』


 …?薄暗くて、顔はよく見えない。服装からして、女性が1人と男性2人。わたし達は、何処へ行くの?


『…構わない、元々──で、わ……いっそ…』


 急に、声が遠くなった。聞き覚えのある、声だったが…。


『……分かりました。では、行きましょう。新天地へ。わたし達の、安住の地を探す旅へ』


 ──待って、行かないで。この国には、大切な人が沢山いるのに…!
 動く足を止められない。まるで密航者のように、怪しげな船に乗り込もうと…やめて!!!

 願いが通じたのか、わたしの足は止まった。
 いや、違う。誰かが…船着場に倒れている事に気付いただけ?


『…誰だろう?』

『セレス、気にしている余裕は無いぞ』

『でも…』


 ……セレス?その名は、捨てたはず。


 ああ、そっか。わたしは…このわたしは。
 セレスタン・ラサーニュのままなのか……






「…………あ…?」


 カーテンの隙間から、太陽の光が差し込んでいる。
 ここは…わたしの、部屋。なんでラウルスペード邸に…?
 
 あ、そっか。今日は結婚式だ!急いで支度しなきゃ!


 コンコン
「ご主人様ー、起きてるっすか?」

「ネイ、おはよう!起きてるよー」

 ガチャ
「おはようござい……ご主人様、泣いてるんすか…?」

「え…?」

 ネイに言われて初めて、わたしは頬を濡らしている事に気付いた。なんで…?

「ま、まさか!マリッジブルーってやつっすか!?大丈夫すか、パスカル様は楽しみすぎて1時間前には支度を終えてるっすよ!!」

「早いよ!?違う違う、変な夢見ただけ。わたしのほうが楽しみなんだからね!」

 ベッドから飛び起きて支度を手伝ってもらう。
 ネイに「どんな夢をみたんすか?」と聞かれたが……覚えていない。

 不思議な事に、欠片も覚えていない。ただただ、悲しかった気がする…けど。
 でも今のわたしには関係ない。だってこんなにも、幸せなんだから!
 

 皆に朝の挨拶をして、軽く朝食を取って、教会に向かう。

 ああ、いい天気!外に出て太陽を浴びていたら…パスカルが手を握ってくれた。

「行こうか、シャーリィ」

「うん、行こうパスカル!わたし達の新天地へ!」

「はは、大袈裟だなあ」

「…だね?なんでこんな言葉が出て来たんだろう?」


 不思議だねえ、と笑いながら。

 わたし達は、足を揃えて一歩踏み出すのであった。


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