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番外編

アロイスの青春

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 シャルティエラ30歳
 アロイス17歳
 クレイグ16歳
 レオノール14歳
 セドリック13歳

 ******




 俺はアロイス・マクロン。アカデミー5年生で、一応生徒会長。今年は幼馴染でもあるセドリックが入学してきて、それなりに楽しい学園生活を送っている。

「それでは本日の議題はこちら!!」

 放課後、生徒会も終わった後。俺はクレイグ、レオノール、セドリックと顔を突き合わせている。何しているかって?サークル活動。


「えー、卒業生の匿名希望さんからの依頼です。『クザン先生はそろそろ70歳半ばだと思うんだけど、あのフサフサ具合はヅラなのか地毛なのか。気になって仕方ないので、調査お願いします』です!!
 という訳で、突撃!!」

「「おー!!」」

 俺達はこうやって、身近な疑問なんかを解決する活動をしている。部長は俺、副部長はノリノリで司会進行をしているクレイグ。この学園は謎が多いからな。

「ほら行くぞアーちゃん。作戦は僕達が先生の気を引いて、レーちゃんが毛を引っ張るんだ」

「なんて杜撰な計画。全く…」

 怒られる未来しか見えないが…ゴー!!



 結論から言おう。俺らは今並んで正座をしています。眼前には木剣を携えたクザン先生がいらっしゃいます。

「何か言い訳は?」

「先生の毛髪が地毛なのかヅラなのか、匿名希望さんからの調査依頼が届きまして」

「素直でよろしい。校庭10周して来い、レオノール・ナハトは5周だ」

 ひい、ひい…。途中までは上手くいっていたんだ。
 先生を広い場所に呼び出して、男3人で義姉上(※シャルティエラ)に教わったヤスキブシって踊りを見せて視線を釘付けにしたのに。
 レオノールが…「お命頂戴いいぃっ!!!」なんて叫びながら襲い掛かるものだから…あっさり捕まった。


「うーんおかしいわ」

「やっと自分の頭がおかしいって自覚したのか?」

「違うわ!お父様に教わった通りにしたのにだわ!」

 ナハト伯爵は何を娘に教えているんだろうか。



 ※※※



「で、今日の議題は?」

「英雄像あるでしょ?あれがねえ、目を離すと髪が生えるんだって!すごいよねえ、どういう仕組みかなあ!?」

 目をキラキラさせるセドリック。残念だが…

「それは何十年も昔の話で、俺も通る度に観察してるけど…一度も見た事無いぞ」

「えーーーっ!!?そんなあ…」

 明らかにしょぼくれる。セドリックは…義姉上と同じ緋色の髪に、男ながらに美しい容姿をしている。彼がため息をつくだけで、令嬢が10人気絶すると噂が流れる程にな。
 中身は…義姉上に似てるかな。

「はあ…しょーがない。せめてボクらでカツラを被せようか」

「何色にする?いっぱい持ってきたわ」

「セーちゃん、アフロとモヒカンどっちがいい?」

「バーコードハゲは無いの?」

 なんか盛り上がってる…。
 少し天然気味のクレイグ。
 その妹で、たまに言動が意味不明なレオノール。
 そして無邪気なセドリック…俺達は親や兄弟同士が親しいので、幼馴染みとして一緒に遊ぶ事が多かった。
 俺は最年長だから自然と纏め役になった。というか、暴走を抑える係?



「……あれっ。ねえねえ、銅像の頭に何か彫ってあるよ?」

 ん?セドリックが革命王に肩車状態…不敬すぎる…。

「んっとねー。『オーバン・グランツ ジャン=バティスト・ファルギエール 見参!!』ですってよ。あっははは!父上とバティストだあ~!!」

 何やってるんだろう、あの人達は。折角なので俺達も…という事で。
 銅像の台座、下のほうに『アロイス・マクロン クレイグ・ナハト レオノール・ナハト セドリック・ラウルスペード 参戦!!』と刻んだ。



 ※※※



 さてさて、俺は今から剣術の授業。昔は男子のみだったが、現在は希望すれば女子も参加出来る。将来騎士を目指す女性も少なからずいるからな。
 変わった直後は参加者もいなかったが…現レスタンクール男爵夫人が意気揚々と参加してから、段々と増えてきたとか。レオノールも今からやる気満々である。


「こんにちは~。本日特別に女子の指導を担当する、シャルティエラ・ラサーニュでーす」

「あっ義姉上っ!?」

 思わず上擦った声を出してしまった。整列する生徒達の前に、春に第三子を出産したばかりの義姉上が立っているのだ。そして近衛騎士団副団長でもある。
 女子はきゃあきゃあと声を上げて喜ぶ。彼女は女性騎士からは憧れの存在らしいからな。昔男装していたのは有名な話で、今でもその名残か下手な男よりも格好いいので困る。
 そんな男前義姉は俺に向かってこっそりとウインクをしてくる。不覚にも…少々ドキッとした。


 何せあの人は…俺の初恋の人。それが兄・パスカルの恋人で…何度枕を濡らした事か。そして全く覚えていないが、俺は彼女達が婚約を発表した場で…号泣したらしい。恥ずかしい…皆の記憶から風化して欲しいと切に願う。
 だが、兄達の結婚式は覚えている。シャルティエラちゃん可愛い…と指を咥えて涙を呑んだ。


「きゃーリィちゃん格好いいー!結婚して!!」

「クレイグは帰りなさーい。結婚はしません」

 ………クレイグ…お前…。
「ナハト家の男は代々年上好き」とはクレイグ談。本人も年の離れた義姉上にこうしてアプローチをしまくっている。ただ本気ではないので、皆笑い飛ばしているが。

「駄目だコラあっ!!シャーリィは俺の奥さっ「働けえええーーー!!!」ごっふ!!」

 あ…?今兄上が一瞬登場して…義姉上に蹴飛ばされて消えたような?ふう…気の所為か!
 皆が走り込みをしている間、義姉上とクザン先生が何か話をしている。


「先生お久しぶりです」

「ああ。身体は平気なのか?」

「ええ、産後3ヶ月なので徐々に復帰していこうかと」

「そうか。指導だけでよいので無理はするな」

「はい!ところで…」

「?」

「えーと…先生の…その、頭って…えー…」

「…匿名希望はお前か…これはヅラだ」

「うっそお!!?」

「嘘だ」

 なっはははは!と大笑いする義姉上。クザン先生も珍しく口角を上げている。


「アロイスくん、お疲れ様」

「ありがとう、レオノール」

 ふう…汗かいた。レオノールは毎回熱心に見学に来て、ついでにタオルや飲み物を差し入れてくれる。彼女は義姉上の影響でカタナを武器にしたいと言う。ふむ…騎士を目指すのだろうか?
 だがいつか嫁入りでもしたら騎士は引退しないといけないし。それか婿を貰うのかな?

「違うもん、私は嫁入りするのだわ!」

「え…好きな相手でもいるのか?」

「………」

 おっと、これは聞いてはまずかったか?レオノールは赤くなった頬を膨らませ、ぷいっと顔を逸らしてしまった。
 だがそうか、いるのか。クリスマスもうちに遊びに来てばかりだったし…全然気付かなかったな。まあ伯爵譲りの銀髪に整った顔立ち。ちょっと阿呆なところを除けば…いやそこが可愛いのだけれども。
 ……なんかモヤモヤするな…。



「ねえねえリィちゃん」

「どしたん」

「アーちゃん気付いてないと思う?レーちゃんってさ、僕の練習は見に来ないんだよ。アーちゃんの時だけ、自分の授業抜け出してでも差し入れ持って来るの」

「んー…多分…「兄扱いされてるだけ」と思ってそう…」


 うーん。レオノールはいつものメンバー以外の男子と交流があったか?年下なら…ん?
 なんか義姉上とクレイグが憐れみの視線で俺を見ている?なんだ一体。



 ※※※



 今日はテスト結果が張り出される日か。どれどれ…

「俺は…5位か。まあまあだな」

「僕はいないなー。いつも通り20位くらいかな」

「私もだわ」

 うーん、多分レオノールは下から数えたほうが早いと思う。さて、新入生のセドリックは…えっ?

「「「1位!?」」」

「驚きすぎだよう。えへへー、すごいっしょ!」

 しかも、満点トップ…!勉強が出来るのは知ってたが、ここまでだったのか…!
 まあお父上も学生時代は成績優秀だったと聞くし、シャルロットさんと同じ家で暮らしてるんだもんな。
 だがセドリックは…誇らしげながらも、どこか表情が暗い。

 というかセドリック、武術も魔術もそれ以外も…かなり教師から褒められてるって聞いたんだけど。ちょっと…頑張りすぎじゃないか?
 無邪気な性格で、同時にかなりストイックなのがこの男。だがたまに、何か追い詰められているんじゃ…と心配になる時もある。



 夏期休暇中、俺達はラサーニュ島に遊びに行った。

「アロイスくん、この水着どうかしら!?」

「ぶ…っ!淑女がへっ、へそを出すな!!」

 多分俺は真っ赤だろうが、レオノールに自分のパーカーを巻いた。ここ数年、女性の水着の露出が増えていないか!?酷い人はほぼ下着だぞっ!?

「何するのよー!最近のトレンドなのよ!?」

「やかましいっ!そんな無闇に肌を見せるな!」

「……ここ、ラサーニュ家のプライベートビーチよ。私達以外誰もいないのだわ」

「は?……あれっクレイグ?セドリック?」

 それどころか使用人達もいない?いつの間に2人っきりに?

「…これならいいでしょう?」

「……まあ、いいけど…」

 するとにっこり笑ったレオノールがパーカーを脱ぎ捨て、準備運動を始める。あわわ、なんてはしたない…!
 く…自然と、目が追ってしまう…!駄目だ、幼馴染の女の子にこんな…!俺は必死に煩悩を追い出す。

「よーし!遊ぶのだわアロイスくん!」

「…………おう」

 腕を引かれて一緒に海に入る。あの…腕に胸が当たってますが。指摘するべきか、気付かない振りをして堪能するべきか…迷うところである。




「うーん…この状況、パスカル様だったら間違いなく岩場に連れ込んでますよね」

「だからなんでお前、事あるごとに俺を引き合いに出すの?」

「はっはっは、弟さんは純粋ですねと言いたかっただけですよ」




 ふはーっ。2週間海で遊び、川でも山でも…ああ楽しかった。俺は今年で学生は最後だからな、たっぷり満喫させてもらった。

「ん…?」

 明後日には帰るのだが。あれは…セドリックと、ペトロニーユ様?そういえば侯爵一家が来ていたな…2人きりでなんだろう?
 立ち聞きするつもりは無かったんだが…彼らは俺が休んでいたテラスのすぐ近くで話し始めてしまった。


「セディ、元気そうで何よりだわ」

「うん、叔母上こそ。ベルフォード(※ルシアン息子)は?」

「お昼寝中よ」

 そう、この2人は血縁的には叔母と甥。何か積もる話でも…?
 暫くは雑談をしていたが、ふいにペトロニーユ様の声が小さくなった。


「その…シャーリィさんに聞いたわ。最近無理をしていない…?」

「………」

「……お姉様、ヴィルヘルミーナの所為、よね」

「………」

 ……セドリックは何も言わない。
 ヴィルヘルミーナ・アヌ・セフテンス。グランツの貴族でこの名を知らない者はいない。同時に…セドリックとの関係も。

 長い沈黙。風で葉が擦れる音がやけに大きく響いている。


「……うん、そうだよ。ボクね…あの人みたいになりたくないの。
 顔ばかりよくて、自分では努力も苦労もしない。全て人任せ…一切の責任も負おうとしない、狂気の王女。
 そんな女の子供だからって、ボクを馬鹿にする奴もいる」

 それは俺も知っている話だ。まあほんの一握り、よほど愚かな者だけだがな。

「だからね、誰にも文句を言わせない。
 姉上や兄様のように聡明に。兄上や姉様のように強く。父上のようなカリスマを。全てを手に入れれば…誰もボクを「罪人の子」だなんて言えない。
 ま…ただの意地だって分かってるけどね」

 セドリックは苦笑しているような言い方だ。…こいつ、こんなに大人びた奴だったっけ?普段の様子も演技とは思えないが…。

「でも…生まれなんて関係無い。ボクはラウルスペード公子だ!っていつも自分に言い聞かせているけど。
 セフテンスの王族である事を必死に否定して。誰よりも血に拘ってるのは…ボクなのかもしれないね。あ、叔母上は別だよ!?大事な家族だもん!」

「セディ…ええ、貴方は大事な甥っ子よ。貴方を初めて腕に抱いたあの日の事…ずっと忘れないわ」

「…えへへ。それに恩返しもあるしね!
 ボクがあの人ごと処刑されそうになった時、賛成派が多い中父上が反対してくれたんでしょ?自分が引き取るから、生まれるまで待ってくれって。ラウルスペードの皆も賛同してくれたって。
 だから…ボクを引き取って良かったって。自慢の息子、弟、坊ちゃんだって言ってもらう為頑張るの!」


 ……俺は知らずのうちに拳を握っていた。そこまでしなくても…お前は…



「お前はとっくに立派な息子だ」

「「「え…」」」

 !っと、声が出てしまった。身を乗り出せば…ラウルスペード公爵閣下が歩いて来る!?後ろには微笑んでいる義姉上とシャルロットさんもいる。


「あ…なんで、父上がここに…?」

「べっつにー、遊びに来ただけ。って俺はどうでもいい」

「わあっ!?いてててっ!」

 閣下はセドリックの頭に手を乗せて、乱暴に撫でた。俺からは表情は見えないが、声は弾んでいる。

「ったくー…覚えとけよセディ!!
 お前は血が繋がってなくても、誰がなんと言おうと俺の息子だ!無理をして背伸びすんな!
 だが息子が優秀なのは純粋に嬉しい!頑張ったな、いつも夜遅くまで勉強してるって聞いてんぞ」

「そうそう、偉い偉い!」

「流石私達の弟よね、鼻が高いわ!でも程々にね?」

 姉達にも撫でられ抱き締められ…セドリックは俯いてしまった。


「…ボク、皆の自慢になってる?」

「「「もちろん」」」

「何よりね、生まれてきてくれた事…それが一番嬉しかった!」

「貴方は知らないでしょうけどね、誰が一番に名前を呼ばれるか!ってずっと競ってたんだから」

「結局お前が初めて名前を呼んだのは…バティストだったけど…」

「「そうなの!?」…あ」

 やば。思わず…俺も叫んでしまった。おおう、全員の注目が俺に集まっている…!諦めて姿を現した。

「に、にーちゃんも聞いてたの!?」

「…すまん。わざとじゃなくて…俺そこで昼寝してて…」

 くぅ…言い訳にしか聞こえまいが、本当なんです…。でも丁度いいので、俺も言いたい事がある!

「セドリック!」

「な…何?」

 俺は気まずさを紛らわす為、ビシッ!と指を差して捲し立てる。

「お前は…俺の大事な幼馴染で友人だ!血筋とか家柄とか、義兄弟とか関係無く一緒にいるんだ!
 そんなお前を馬鹿にする奴がいたら俺に言え!全員ぶっ飛ばすからな!」

「……うん!」

 セドリックは目に涙を浮かべながらも、満面の笑みで答えてくれた。


 それからは俺は席を外し、家族団欒を楽しんでもらう。
 あいつはいつも…母親の影に怯えていたんだな。いつか自分もああなるんじゃないかって。血筋からは逃れられない…そんな事無いのにな。


「わ…」

 適当に歩いていたら海まで来ていた。太陽が水平線に沈む…綺麗だな…。
 砂浜に腰を下ろし、呆然と景色を眺める。そこへひとつの足音が近付いてきた。

「レオノール?」

「隣、いい?」

 もちろん…いや近っ。なんで肩が触れる距離まで来てんだ?
 でも、いっか。さっきのやり取りを見ていたからか…今は人肌恋しい気分だし。

 ザザァ…と波の音が心地良い。穏やかな時間だな…


「…ねえ、アロイスくん」

「ん?」

「……好きな人って、いないの?」

 え。何いきなり…とレオノールに目を向ける。
 彼女は俺を真っ直ぐに見つめ…頬を染めて僅かに手が震えている?銀の髪が夕日を反射してキラキラと輝いて…美しいと感じた。

 俺は無意識に彼女の頬に手を添えた。ぴくりと小さく肩を跳ねさせたが、構わず風で乱れた髪を横に流すと…耳まで赤くなっている。
 レオノールは目を伏せて唇を結んだ。そういった表情をしていると…普段のお転婆な姿は鳴りを潜めて、まるで…………はっ!!?

「だあっ!?ごごごめんっ!!!」

 俺は今何をしようとしたっ!?彼女の唇から目が離せなくって…なんで顔近付けた!?
 あっぶな~…!急いで離れたからセーフ!!婚約者でもないってのに…警備呼ばれるところだったわ。


「…………」

 あら…?なんでレオノールは頬を風船のように膨らませてるの?

「ふんだ!」

「ええ~…?」

 うーん、女の子の心情は分からん。
 とにかく、質問の答えだよな。好きな人…

 俺は無意識にレオノールに目をやった。でも…

「いない…かな?」

「何故に疑問形」

 さあ…?自分でもなんとも。そ、それよりお前は?好きな男いるんだろ!?

「……いるわ」

「へー、だ、誰?」

「気になる?」

 え。まあ、兄貴分として…変な男に引っ掛からないか、心配というか。決してそれ以上の感情は無いというか。
 俺がモゴモゴ言っていると、レオノールは大きくため息をついた。そして海に目を向けながら口を開く。

「……その人は年上で、侯爵家の人で」

「(教えてくれるのか…)ふんふん」

「小さい頃から知っていて、皆のお兄ちゃんで、私の事も妹としか見てなくて」

「ふ、ん?」

「小言が多いけど、それは私達を心から想ってくれているからで。すっごく優しくて、気遣いもとても出来る人で。
 サークル活動も付き合ってやるかって雰囲気出しながら、実は彼が一番ノリノリなの」

「おう…?」

「……背が高くて、青い髪がくせっ毛でふわふわしてるのが可愛くて。垂れ目なの気にしてるけど…その目も好き」

「………ん?」

 俺は自分の天パを撫でながら…「まるで俺じゃねえか」と呟いた。
 兄上は目元がキリッとしているのに、対照的に俺は垂れてて…なんとなく嫌だった。でもレオノールはいつも、その目が好きと言ってくれて……


「…………お?」

「……ニブイスくんめ」



 レオノールは俺の手をぎゅっと握る。
 俺は…恥ずかしながら無になった。完全に思考停止して…正気に戻った時には朝だった。どうやらその場で倒れて運ばれたらしい。


「やーねえニブイスくんはー」

「ほんとよねー。ニブイス・ヘタレンに改名すべきよー」

「うっさい!!」

 クレイグとセドリックが俺を揶揄う!!だってぇ…俺、全然そんな…くう。
 ものっすごく気まずかったが、レオノールと顔を合わせる。


「おはようアロイスくん、今日はショッピングだわ!」

「お、おう」

 彼女は普段と何も変わらない。つまり後は…俺の返事待ち、という事か。


 俺…俺は…レオノールを……



 ※※※



「えーと。校舎を氷漬けにした雪男の正体は…教師時代のクランギル殿とナハト伯爵だった。
 学園の山中から呻き声が聞こえるのは、滝行をするジスラン様。
 誰もいないはずの魔術練習場から高笑いが響くのは…エリゼ様。
 怪奇現象のほとんどが身内の仕業じゃねーかっ!!」


 俺は調査結果を叩き付ける。はーあ…次のお題は?


「学長が千年生きているって噂だね!」

「んな訳あるかい。そりゃ年齢不詳だけど…」

 そりゃもう人間じゃないわ。ぶーぶー言う3人を無視して次の依頼だ!


「うーん。学長って…父上が学生時代も今と変わらない姿だったって言うのになー……あれ?
 ボク今何考えてたっけ?」

「?どうしたセドリック」

「んーん」



 さて…俺はもう卒業も近い。生徒会も新たにセドリックが入り俺は引退。特に最後の1年は騒がしかったな。

「アロイスくん」

「……レオノール」

 情けない事に俺は…まだ答えを出せていない。そんなヘタレな俺に対してレオノールは、いつだって笑顔を見せてくれる。

「街に行きましょ!卒業祝いにパフェを奢ってあげるのだわ!」

「わっ!」

 ただ…こうして自然と手を繋ぐ事が増えた。彼女からだったり、俺からだったり。時には腕を組んだり…

 この手を…離したくない。


 数日後俺は実家に帰った。



「父上。その…求婚したい相手がいて…
 …ナハト伯爵家に、書状を送ろうかと…」



 季節は巡り、春がやって来る。



 ******


メ「ナハト伯爵家!?つまりクレイグ君に求婚するのね!!」
パ「メロ姉は引っ込んでろ!!!」


セドリックの呼称の使い分け:
姉様・兄様→シャルティエラ&パスカル
姉上・兄上→シャルロット&ジスラン
父上・母上→オーバン&イェシカ
叔母上→ペトロニーユ
にーちゃん→アロイス
ちいにーちゃん→クレイグ
おねえちゃん→レオノール
あの人→ヴィルヘルミーナ

セ「あとは…ルネさん、ルシアンにい、エリゼちゃん…」
エ「なんでオレだけちゃん付けなの?」


ちなみにバーコードとか変な言葉は、全てシャルティエラとランドールに教わった。


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