親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

はちみつ電車

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ゆりの衝動

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「あーすかっ」
「塔夜! どこ行くの?」
「トイレから帰るとこ。明翔は?」
「俺、黒板消しクリーナーの掃除当番」
「がんばってねー」
「ありがとー」

昨日の今日で絡んできやがるなあ、タカトゥー。

そんなんだから、この通り隠れBL大好きさん、ゆりにコソッと後をつけられるんだぞ。

ん?
どこ行くんだろ。

教室に戻るのかと思いきや、タカトゥーが廊下の角を曲がる。

ゆりが続いて角を曲がると「わ!」と声がしたのでコッソリと顔だけのぞかせてみる。

「なーに? 俺に用?」

尾行に気付いていたのか。タカトゥーが振り向いていた。

「ね、ねえ、もしかして、高崎くんのこと好きだったり? あ、タカアスの方の」
「明翔? うん、好きだよ」
「やっぱり!」

途端にゆりの目が輝く。

「こないだ話聞いてもらってて、絶対に失恋の痛みを知ってる人だとは思ってたの! 高崎くん、深月のことが好きなんだもんね」
「まじでみんな知ってんだな」
「私、応援する! イケメンはイケメンとくっつくべき! ダブル高崎が付き合うとか眼福です!」
「あははっ。ありがとう。ゆりちゃんはいい子だなー」

タカトゥーが大きな手でゆりの髪をわしゃわしゃにする。イケメンだけが許されるやつ。

ここ二人がタッグか……あんにゃろ、余計なことを。

「今、高崎くんは?」
「黒板クリーナーの掃除当番っつってフィルター持ってたから、手洗い場じゃねえかな」
「行ってみよう!」

タカトゥーとゆりが小走りに進む。

「あれ? いない」
「明翔は外が好きだから、今日天気いいし外の手洗い場かも」
「行ってみよう!」

うん、俺もそうだと思う。
階段の上り下りくらい苦にならない明翔は割とすぐに外に行く。

案の定、中庭に明翔はいた。
フィルターの洗浄はすでに終わっているようで、手洗い場に腰かけてスマホを触っている。

俺のケツでスマホが震える。

「めっちゃ天気いいよ。中庭来ない? ひなたぼっこ」

うーん……明翔と日向ぼっこ超楽しそう。
けど、ここに隠れBL大好きさんが見張ってんだわ。

「ごめん。俺今超腹痛くてトイレの住人」

もっとマシな出まかせが思いつかんもんかね。
我ながら汚ったね、と呆れつつ送信する。

「あーすかっ。何してんの?」
「日向ぼっこ~」
「ポカポカだねえ」
「ポカポカだねえ」

明翔とタカトゥーが二人して並んで空を見上げる。
ゆりじゃねえが、たしかに絵になるなあ。

「明翔! ボーッとして何してるのっ?」
「颯太。日向ぼっこ~」
「いい天気だよねっ」
「うん。気持ちいいー」

颯太と一条が明翔に声をかけ、立ち去って行く。

「高崎くん、こんな所で何をしてるんだい?」
「柳。日向ぼっこ~」
「ああ、光合成できそうなお日様だよね」
「俺今葉っぱー」

ならば光合成できるな。
柳と黒岩くんが手を振り去って行く。

お前ら、俺がいないことには何の疑問も持たねえのな。

コロコロと野球のボールが明翔の足元へと転がる。
明翔が拾ってキョロキョロと見回すと、キャッチボールをしていたっぽい男子生徒が両手を上げてアピールしている。

明翔がボールを投げると、無事キャッチした男子生徒の「ありがとうございまーす!」がここまで聞こえる。

へえ、1年以上野球から離れてるのに、あの距離軽く投げれるんだ。
やっぱ明翔の身体能力はやべえ。

爽やかな秋の風に吹かれながら、明翔はキャッチボールする二人に物憂げな視線を向ける。

晩秋……明翔の誕生日が近付いてきている。
最近の明翔はちょこちょこあんな顔をする。きっと、明翔のパパを思い出してるんだと思う。

明翔……出て行って、元気付けてやりたい。

「俺今日の占いランキング1位だったんだよ。いいことありそー」
「今んとこなんもないの?」
「明翔と二人きりになれたことくらいかな」
「あはは。ウケるー」

返しが適当。
くっだらない占いの話なんかどうでもいいんだよ。
明翔の心ここにあらず。

もっと明翔が楽しい話題に変えろ、タカトゥー!

「昨日、俺コンビニで玄米茶ラテ見つけてさ。買ってみたら玄米茶が香ばしすぎてミルクとまるで合わねえの」
「想像つくー」
「明日たぶん俺風邪ひきそうな気がするんだよね。喉がいがらっぽくて」
「うがいしろー」

明翔……心の中は寂しいだろうに、こんなくだらない話にまで相づち入れてやって、優しいな。

「そろそろ教室戻ろっか」

明翔が立ち上がった。
うん、体動かして元気出そう、明翔。

校舎に入ると、ゆりが動いた。

「高崎くーん!」
「二人いるー」
「二人とも――」

ダブル高崎に駆け寄ったゆりが何もない廊下で唐突につんのめった。

「あ!」
「おっと。大丈夫?」
「大丈夫……ありがとう」

ゆりの指先が当たり、明翔が持ってたフィルターが宙を舞い、床に落ちる。
とっさにタカトゥーがゆりを抱きとめて、そっと立たせた。

「砂利いっぱい付いちゃった」

フィルターを拾ってすぐ脇にある手洗い場に明翔が向かうと、ゆりが慌てた様子で追う。

「あ! 私のせいだから私がやるよ! ごめ――」

誰かが水を撒いて放置していたらしい。
ゆりが見事に滑って体が信じられないくらいにのけぞっている。

「おっと。あっぶね、頭ガーン行くとこだよ。大丈夫?」
「大丈夫……ありがとう」

間一髪、石造りっぽい手洗い場に突っ込もうとしたゆりをタカトゥーが抱きしめて支える。

チャイムが鳴り響くと、ゆりがあ! と大きな声を出した。

「ごめん! タカトゥー! 私日直なの忘れてた! 先行くね!」
「うん。気を付けて」
「やだー、教室に戻るだけなのに何に――」

階段を駆け上がりながらゆりが振り返る。
バランスを崩したゆりの足が階段を踏み外した。

「おっと。ゆりちゃん、もしかしてかに座?」
「かに座……」

落ちてきたゆりをタカトゥーがお姫様抱っこで受け止める。

「やっぱり。今日の占い最下位だわ。大丈夫?」
「大丈夫……それでこんな次々とおっちょこちょいなことしちゃうんだ」

ゆりがギュッと閉じていた目をゆっくりと開くと、すぐそばにタカトゥーの男らしくも美しいイケメンフェイス。

「だあああ! ごめんなさい! ありがとう!」

ジタバタとタカトゥーの手から逃れ、ゆりは胸を押さえてガクガクと震える。

「あの、大丈夫?」
「大丈夫……じゃない、ドキドキがドキドキして止まらない……」

3連チャンで抱かれとるからな。そのリアクション遅いくらい。

「ゆりちゃん?」

タカトゥーがゆりの背中に手を当て、顔をのぞき込むと、ゆりが慌ててバックステップで距離を取る。

「え、俺避けられてる? 悲しー」
「違うの! ただ、私が入っちゃいけない世界に入ってしまいそうで……イケメンはイケメンと付き合うべき。イケメンを好きになってはいけない……」

ハアハアと肩で息をしながら大きな衝動と戦うゆり。

別に女子がイケメンを好きになるのはいいと思うんだけどさ、ひとつだけ言わせて。

お前、俺のことはずっと好きだったよな。
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