俺、明日から異世界で女騎士になるらしい。

５話 作戦決行

晃はテントに籠り、一人で頭を抱えていた。
晃は馬に乗ったこともなく、剣を使ったこともない。

どうやったら騎士団の先頭を務めることができるって言うんだよ。
無理ゲーすぎる。

「アメリア将軍、我々騎士団の準備は出来ました。」

黒髪ショートの美しい女性が呼びに来た。
優男が彼女のことをサマンサと呼んでいた。
副団長らしい。

晃は頭を抱えたまま固まっている。

「アメリア将軍どうしましたか？」

「いや…、なんでもない。今行く。」

「承知しました、では外でお待ちしています。」

晃は、意を決してテントの外へ出る。
テントの前には馬が用意されている。

はぁ、見事な馬だなぁ。

晃は、気品あふれる白馬に一瞬見とれる。

いやいやそうじゃない。
現実逃避しても意味がない。
しかし、単なる引き込もりには荷が重い。
はぁ、まずいなぁ。
部下たちの視線が辛い。

仕方ない、もしかすると体が覚えている的な展開もあるかもしれないし…、やってみるしかない。
こうなりゃ一か八かだ。

晃は勢いよく馬にまたがる。

あ、あれ？これはいけるかも、普通に乗れちゃったよ。

なぜか、晃にはどうしたら良いのか頭にイメージが浮かび、その通りに体が動く。

おぉ、身体が覚えてるってやつかなぁこれ。

(そんなわけないでしょ。こっちがキミを手伝っている。)

晃の頭の中に突然女の声が響き渡る。

この声、アメーデだ。

(どういうことだ？補助してくれてるってこと？)

(そうだ。キミを戦える状態にしてやった。)

(なぜそんなことをしてくれる？)

(……、今死なれると困るから。じゃあこっちは忙しいので、後はご勝手に。)

一方的に会話を切られる。
まだ聞きたいことはあったが、とりあえず助かった。
ご都合主義な気はするけど大歓迎だ。
戦えるなら問題ない！

晃は戦えると知って俄然元気になる。
騎士団を先導し、予定の位置で待機する。
もうすぐ作戦決行の夜明けだ。

アレク軍陣営の空中に、何やら巨大な魔法陣のようなものが展開されている。
そして巨大な魔法陣が消えると同時にクレル森林全体が一気に炎に包まれる。

これ、魔法だよな。
想像以上の威力だなぁ。
まさか本当に森を焼き尽くすほどの威力が出せるとは。

「すごい威力だなぁ…。」

晃が思わず呟くと、横に控えていたサマンサが答える。

「はい。しかし、これで魔法師達は最低１週間は魔法を使うことが出来ません。この作戦は必ず成功させなければならないですね。」

え？そうなのか。
まぁそりゃそうだな。
あんな威力連発できたら歩兵とか騎馬隊なんてなんの価値もなくなっちゃうし。

晃は、目前に迫る騎士団の出陣に備える。
想定通りわらわらと敵が炎を逃れるように森から出てくる。
敵は完全に統率を失っており、散り散りに投げまわっている。

無事想定通りの動きをしてくれている。
よし、行くか！

「アメリア騎士団の諸君、出番が来たぞ！」

晃が声を上げる。

オォォォォーという大勢の雄たけびと共に火から逃れてきた敵兵の集団に騎士団が突進する。
先頭を晃が担う。
敵との接触が間近に迫り、晃が剣を抜く。

え？なにやら剣から重い雰囲気を感じる。
黒いオーラのようなものも見える気がするが、気のせいか？
しかし今は気にしている余裕はない、とりあえず敵を倒さねば。

晃には、敵と完全に肉薄する前になぜか剣を振り抜くイメージが頭に浮かぶ。

どういうことだ？
もしかして、範囲攻撃ができるってことか？

晃がイメージ通り剣を振りぬくと、前面に強力な風が巻き起こり敵が吹き飛び刻まれていく。
予想していた通り範囲攻撃が繰り出されたことに驚き、晃は手に持つ剣を見る。

信じられない。
一度の攻撃で５名程度倒すことができた。
やはり範囲攻撃ができるようだ。
これは剣の力なのだろうか。

晃の攻撃を見てサマンサが近づいてくる。

「お見事です。以前よりも威力が増していますね。」

「あ、ああ…、そうか。」

晃は自分の力に驚き、抜けた答え方をする。

統率を失った王国ブリジラ軍は、アメリア騎士団や歩兵に難なく撃破され敗走、帝国アレク軍が勝利した。