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一章 出会いと魔女の本領発揮

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「どういうことだ……っ!?」
恐怖に戦く顔はまさに、人ならざるものの力を見た人間の表情だ。ダニエルは血反吐を吐きながら、自分を探しに来たであろうヴィンスを薄目に見た。はて、今日は遠出じゃなかったのか。
 そんな日常的な思考に戻る前に、青髪の人外から逃げ出さねば。しかし隙が見えず、ひたすら攻められ続けている。右手から抜け出した武器を、奴がヴィンスに気取られているうちに手に取る。それは以前、人間相手には殺傷能力のありすぎて使うことのないだろうと懐に忍ばせていた、飛び道具だ。なくなったら弾をこめなくてはいけないという多少の不便はあるが、使い勝手はとてもいい。
【現代人ならマシンガンと言う。】
しかしどんなに弾を打ち込んでも、正体が泉だからか、当たったところが水のようになり吸い込まれ、次の瞬間奴のてのなかに集まっている。
(くっ、やりがいがありませんネ……っ!!)
ガチャリと弾を入れ換え連射するが、奴に居場所を気づかれてしまった。
ヴィンスも剣を取り出し助けようとしてくれているが、無駄足なようだ。水を斬っても……。
(水……本体は泉なら……!そうデス!ヴィンス!そのまま気を逸らしておいてくださいネ……!!)
懐から大きな炎を出せる機械を取り出し、
【これもまたマシンガンみたいな形】
泉へ向ける。
「うっかりしてましたヨ!過去のワタシに感謝デス……!!これで蒸発させられマスヨ!!」
指に力を込め、蒸発させようとした瞬間。
黒猫がちょこんと、炎を出せる装置の目の前来た。
「……ネコサン、すこぉしずれてくれませんカネ?」
そう言ってもツンとした表情で動こうとしない。
「にゃー、にゃー。」
「そんなことしても構ってられないンデスヨ!!このままじゃヴィンスもワタシも死にますヨ……!!」
するとこちらを見据えた黒猫の耳や尻尾に蒼い焔が灯る。いやぁぁとワタシが叫んだと同時に、黒猫の冷たい視線がこちらを見る。
「……もしやこの子、女神サンの使い魔デスカ……?ワタシの敵……?アッ、すごく解せなさそうな顔っ。そうですヨネ、人間ごとき相手じゃありませんヨネっ!」
「にゃーにゃー」
黒猫さんは当然だというように胸をはると、足元から見たこともないような紋章を浮かび上がらせ、それは青く美しく光っている。それはヴィンスの足元も同様でなんだこれはっ!!?と大音量で耳に流れた。そう言えばいつのまにやら奴も攻撃をやめたような……。
「ウワァァァ!?……って、ここは……。」
「あのときと同じなようだな……城に強制的に送られたようだ……いや、今回は助けられたというべきか。」
門の前に現れたワタシたちを見て、どうやら偶然馬から降りようとしていたアーサーは悲惨なことに驚きながら馬からずり落ちた。



『あいつら死にたいんか?というかえらい惨事やな、あいつがみたら卒倒するで。にしても、おもろい感じになっとんなぁ。いつのまに衣替えしたん?似合っとるけどあのことお前がおそろは気に食わんなぁ。』
「申し訳ございません。」
『絶対思っとらんやろ。悔しいから我もする』
ふわりと蒼い光りが辺りに広がったと思うと、そこから黒髪をひとつにくくり(ポニーテール)、チャイナ服をまとい、その上からファーを着た、どこぞの金持ちの裏社会のような美形が現れた。
「似合わないと思います。」
(似合わないと思います。)
「おうおう、ずいぶん喧嘩腰やなぁ?逆やで逆。しかも我心読めること忘れとるん?いや読んでみても同じって正直か。
ええんやで時間はたっぷりあるから相手しても。」
「精霊王がそんなに心狭くていいのか?」
「精霊王の我によくそんな口聞けるな?最初の従順だったのは猫かぶりかいな。我よりうまいんやないの。」
「お褒めいただき光栄です。」 
(皮肉に決まってンやろ!!)
ぜーはーと肩で呼吸する自分とは裏腹に、シアンはとても涼しげな表情だ。
「に、しても。なんで人間相手に戦っとるん!?我が帰さなかったらあいつら死んでたんとちゃうのか!?お前容赦なかったもんな!」
「侵入してきたのはあいつらです。あの方も処分しろと。」
「ほんまかいな?」
(そんな極悪非道っぽいことあのこにできるかぁ?)
「きっとなにかを勘違いしたんやろ?早合点はいかんよ。」
「いいえ、間違いありません。自分にはきちんと伝わりました。」
(うーん……やっぱなんか誤解があるきはするなぁ……まぁ、いまのところそこまで被害あるわけやないし、いいか。)
これが彼の間違いの第一歩である。
いや、シアンはかなり妄信的なためこの時誤解を解こうとしても頑なに信じなかっただろうから無駄なのだが。
ファントムは煙に包まれたかと思うと、黒猫へと変化する。
『それじゃ、この辺りの護衛は引き続き頼むわー。くれぐれもやりすぎるのはNGよー。』
「えぬ……?」
『やりすぎるんはだめやでー。』
たったっ、と軽いステップを踏み、ファントムは愛しの彼女のもとへ向かうのだった。

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