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三章 魔神の過去世界『傲慢』

القصة الثالثة عشرة(十三個目の物語)

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「おい嘘だろ……あいつ、ナーなのかよ……じゃあ、師匠の選択は正しかった……?僕らがカーミルを連れ出したから、師匠が囚われてんのか……!?」

勝手に文字が追加されていく本を読み進め、師匠の状況を知る。師匠は、いつから虎がナーなのだと知っていたのだろうか。

「だが……女神さまはそんな人殺しのようなことを平気でするだろうか?」

確かに、師匠はそんなことをするような外道ではない。親切な人だ。シアンの疑問はもっともである。

「……もしや。わざとか?わざと勘違いされるようなことをしてナーの手を引っ張ったのか?俺たちが勘違いしてカーミルを連れ出すように。そしたら、自分が囚われても、ネックレスについとる発信器の魔法で向こうへの道が出きるからな。」

そう言い終わると、ジェイさんをみて、シアンは口の端を上げた。

「……ジェイ・ジャック、お前の発信器の魔法、見事に利用されたな?」
「まさか、すべて見通していたということですか!?囚われることさえ?だからネックレスをそのままに?それならば、虎さんと出会ったときから、いえネックレスを渡したときからそれを予知していたということになるではありませんか!」
「それすらも、彼女の策だったのだろう。」

ほとんど全員息をのむ。一人を除いて。ファントムは、飄々と、いいや、こんなことすら思い当たらないのかと呆れるような顔でこちらをみている。

「どうやろな……?」

遠くを見つめ、思考するファントム。悔しいが、やつもまた、彼女と同じなにかを見通しているのだろう。

「あなたも人が悪い。はっきりといえばいいと言うのに。
しかしなぜ戻る必要が……まさか、あの世界にまだ囚われているアーサーさんたちを助けるために?」
「まぁ、あのこは助けたいと思うやろな。」

ごと、と鈍い音を図書室に響かせ、飲み物をおき立ち上がる精霊王。手から、まばゆい光を出しており、その手を本にかざした。

「とはいえ、俺の大切な彼女を閉じ込めんのはいささか癇に触るな。ちゅうことで、魔人退治にいくでー!俺、実は干渉できるんや。神経使うからしたなかったけどな……。あのこが捕らえられてると知って、助けないほど外道やないし。」
「ならなんで最初っから僕らと行かなかったんだよ!??」
「がんばるぞ、おー!」

僕の言葉を見事に無視しやがった。そして、目の前は白くなって行く。次の瞬間、僕らが目を開くときには、周囲の風景は変わり、見たこともない場所にいた。
……まるで、魔神が作ったのではない、本当の過去に来たみたいな。




なぜそんなところに来たのか。それは少し前に遡り、本のなかで。

「……どうして分かったの、と言われても……。」
(知らなかったのよ!?)

唖然と言えば、頬を撫でていた手が止まる。

「……俺ごときじゃ、きみを欺くことは出来なかったんだねぇ。きみ、洞察力鋭いだろうし。」
「私をなんだと思ってるの……??」
「俺には分かるよ、きみは美しいだけじゃない。どこまで未来を読んでいるのかな。どこまで見据えてるのかな。油断ならない女性だ。精霊たちが言ってたよ。「魔法」、っていうのが使える、「魔女」っていうやつなんでしょう?いままでだれも訊いたことなんてない、摩訶不思議な、ミステリアスな職業を持つ女性。」
(魔女って職業だったの……?)

それにしては仕事をした記憶がない。もしや、イスハークくんに魔法を教えていることが仕事になるのかしら。しかし私は、そんなことより、なにかすれ違いが起きているような気がしてならない。
だけど気のせいだと言い聞かせる。なぜならなにがどうすれ違っているのか分からないからよ。

「ねぇ、俺に教えてよ。なんでも分かるんだろ?俺は分かんないんだよ、覚えてないんだよ!ねぇ、ねぇ、なぁ!!教えてよ!
俺がどうして魔人になったのか!!」

頬を撫でていた手を下ろし、私の手を強く掴む彼。すると、手からまばゆい光が発せられる。

「えっ!?」

私の困惑の叫びは、その声を上回る、
なにこれーー!?というナーくんの声にかきけされた。







"ねぇ、どうして俺がナーだと分かったの。"
心からの疑問だった。どうして、俺がナーだと思ったのか。精霊王を除いて、他の奴らはみんな、俺をカーミルだと思っているようだった。

あの本に、魔神について書かれている本を読んだから、いくつかの記憶は取り戻せた。地頭がいいのか、才能か。ある程度のことを、一般的な子供、いや大人より優秀にできた俺は、完璧な神の贈り物と誉められ、愛され、生かされたーーーー出来損ないと言われたカーミルと違って。愛されず育ち歪んだカーミルが、いや、俺もどこか歪んでいたのだろう、カーミルに哀れみを感じると共に、優越感を感じていた。俺はやつより優秀なのだと。その優越感を察したのだろうか。いつからか、カーミルは、本当に優秀なのは自分で、神の贈り物は自分で、出来損ないは俺の方だと思い込むようになった。周りの大人はそんな態度に、苛立っているようだった。だけど、俺は我慢し許した。だって、カーミルは可哀想なやつだから。

そんなろくでもない記憶を思い出した。
だけど、どうして魔神になったのかだけは、思い出せない。精霊王が言っていた、俺が人間を虐殺したかった、だなんてことも意味が分からない。なぜなら、《生け贄が俺じゃなくてよかった》、と思うほど予想以上に冷酷で、子供とは思えないほど現実を見ていたからだ。

憐れみ、人間が残酷だと思っても……人類を憎むことなど出来なかった。そんな現実味のない願いなど、俺は願えなかった。記憶が欠けているとはいえ、俺の性格は一番分かっている。たしかに昔と性格は違うだろう。魔神として人の願いを叶えているうちに、どうしたら人間が心を許すのかを知った。処世術を学んだ結果出来上がったのは、自分を守るための仮面だった。
しかし、なぜこんな私利私欲に溺れる人間どもの面倒を見るなんていう苦労を俺がしなくちゃいけないのか。

なんどそう思ったことか。

そして、俺の正体を見破られたときに、思った。

『目の前の女性ならば、それを知っているのだろう』……と。

そう思えば、口を閉じることなど出来なかった。いままでの苦労が呪詛のように流れ落ちたかのように感じた。

「ねぇ、俺に教えてよ。なんでも分かるんだろ?俺は分かんないんだよ、覚えてないんだよ!ねぇ、ねぇ、なぁ!!教えてよ!
俺がどうして魔人になったのか!!」

その口調は、まるで責めているようで、でもなにを責めているのか、自分でも分からなかった。

いつのまにか、彼女の手を握っていた。その手から、光が現れる。彼女の思惑はなんだろう。なんの魔法だ?いろんな感情が鬩ぎ合い、ひとつの言葉を叫ばせた。

「なにこれぇーーー!?!?」

と。
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