魔法の華~転移した魔女は勘違いされていても気づかないわよ?~

マカロン

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五章 王道学園にてマリモ在中『怠惰』

七時限目

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「おは…よ…。きょ、うの…ごはん…。」
「おはよう、和久くん。今日の朝食のメニューはなんと!今朝校庭にある池でファントムさんが釣ってきてくれたお魚よ~!」
「え…これ、魔物……。なんで…池で…釣れる、の……??という…か…悪食……?」
「けったいなこと言うなら俺がお前の分の、彼女の愛情こもった手料理食べてやるで?」

眠気眼を擦りながら起きてリビングへ顔を出した和久くんは、机に置かれた大きな角の生えた青い魚とそれを顔色を変えずに食べているお風呂後のホッカホカファントムさんを二度見し、青ざめている。

私も今朝起きてキッチンに行った途端満天の笑みで角のある大きな魚を抱えているファントムさんを見て驚いたわ。意外と普通の魚と捌きかたは一緒みたいで、息の根もしっかり止めてくれているらしかったから大変豪華で作りやすい朝食となった。ファントムさんが返り血だらけだったのは見なかったことにしたけれど。

ちなみにファントムさんは魚を渡した途端すぐにお風呂にはいっていった。

「魔物……でも、!……手、料理……。っ……たべ、る……。」

苦虫を噛み潰したように顔をしかめ絶望しきっていると言うのに食べると宣言するその顔はまさに、料理下手な奥さんのご飯を残さず食べようとする勇気ある旦那のような表情だった。

若いこにそんな風な苦労をかけさせてしまう等申し訳ないが、味見したときに普通に美味しかったため取り越し苦労といわざるを得ない。

目を強くつぶり、フォークを魚に突き刺す和久くん。口に勢いよく放り込むと、ゆっくりと咀嚼し始める。

「ど、どう……?お魚苦手なら、無理しないでいいからね…?」
「これ……魚、判定…なんだ……?意外と……絶、品……!」

ガツガツとお米と一緒に魚を食べ始め、食べ終わりなんてもう目を輝かせていた。よほど美味しかったらしい。ファントムさんに、魔物の釣り方を今度教えてほしいと頼み込んでいた。ファントムさんは師匠、と憧れの目で見つめられて満更でもないらしい。

そうこうしていれば、あっという間に登校の時間が近づいてきている。今日もまた変装をして、教室へと向かうのだった。





「おはようございます。」
「よォ、早起きできて偉いなァ…イッテェ…。」

レンブラントさんと怜先生が、教室へ入ろうとするところに出くわした。あちらも私にすぐに気がついたらしく、にこやかな挨拶をくれた。私を撫でようとした怜先生は怖い笑みへと早変わりしたレンブラントさんに手を叩かれていたが。

「おはようございます!レンブラント…先生、怜先生!」
「今日も貴方が元気そうでよかっ……怜、先生ですと?」

キッ、と怜先生を睨み付け始めるレンブラントさん。怜先生はおっかねェ、とケラケラ笑っている。

「この淫乱猥褻犯罪者!未成年淫行且つ屑な最低変態不純阿婆擦れ教師!僕の愛しい甥には人指足りとも触れさせはしません!」
「生徒に下の名前呼ばせただけの教師に対してよくそこまでの罵倒が出てくるもんだなァ……?」

私を守ってくれようと前に立ちはだかり怜先生に罵声を浴びせるレンブラントさん。頭の回転が速いのかボキャブラリーがすごいのかわからないが、怜先生引いていることだけは手に取るようにわかる。怒りを通り越して呆気に取られている。まさか名前ごときでそんなに言われるとは思わなかったのでしょう。私も予想してなかった。

レンブラントさんは言いきってスッキリしたのか、晴れやかな笑顔で私の手をひき教室へ入っていく。生徒たちはレンブラントさんの声が聞こえたのかこそこそと話をしていた。

「も、もしかしてレンブラント先生に一宮先生もう手を出したの……?」
「いや、未成年淫行とか言ってたから、レンブラント先生の甥の転校生じゃない…?なんであんなこが……。」
「転校生に初恋を教わる不器用なホスト教師×顔のいい男を弄ぶ魔性の転校生、そして甥だと言うのに思いを寄せる腹黒清廉副担任の禁断の三角関係だと!?!?けしからん、もっとやれ!!」
「ねぇうざいこいつ。僕たち転校生嫌いって言ってたつもりなんだけど。」
「およよ!?なぜこんな素晴らしい光景を作り出してくれた転校生を嫌う必要がッ!!?」

どうやら一部以外からは嫌われているようだった。もとの世界でも腐男子、というのは聞いたことはあるが、まさかこの世界でもいるなんて……そうよね、この世界女性少ないんだから男性同士の恋愛もあるわよね。

どうやら転校生である私に好感を持ってくれていそうな……というより睨んでこない生徒は、お腐った発言をした彼と似たようなギラギラとした肉食獣のような目付きをしていた。これはこれで少し怖い。

怜先生とレンブラントさんはまたもや口喧嘩をはじめようとしていたが、そのような生徒たちの、主に視線での活躍により静かに授業へと移った。





何事もなく授業が終わり、レンブラントさんに微笑まれながら居残りを告げられる。ダンスパーティーの練習のためだ。ダンスは基礎らしく、それが私にはできないことなどしらないお金持ちの生徒たちは、不思議そう、または睨み付けて寮へと帰っていく。静みかえった教室のなか。唯一残っており、目を見開き青ざめた怜先生は、カツカツときれいな足音を響かせながら私の傍へ来て……レンブラントさんの前に立ちはだかった。

「……っ!!お、おまえ、俺に未成年淫行だとか変態だとか言っておいて……っ!血族となんて大罪中の大罪だぜェ……⁉」
「なに考えてるんです、ド屑。」

怜先生にレンブラントさんは恐ろしく冷ややかな目線を突き刺した。

「このあと転校生にダンスの基礎を教える予定なんですが。二週間後がホストパーティーなので。」
「……ダンス?」

パチパチとまばたきを繰り返し、背を向けていた怜先生がチラリと私を見た。

「ええ、そうなんです。私、実は田舎者で……ダンスの基礎を知らないんです。」
「とんだ田舎者だなァ……。」

ほっとしたのか呆れたのか、彼は詰めていた息をゆっくりと吐いた。そのとき、レンブラントさんの眉が上がる。

「……私?」

どうやら私の一人称が気になったらしい。他の人の前では基本的に僕、と言っていたからだ。勘のいいレンブラントさんは、すぐさま怜先生に性別がばれたことに気づいたらしい。威嚇する犬のように歯軋りをし睨み付けていた。

「……ファントムさんと雲……こほん、華嵐さん……会長、会計、書記、誰が漏らしました?」
「まてまてまて、華嵐……って、食堂の料理人だよなァ?どんだけ広い範囲までばれてんだよ。ファントムは兄だからいいとして……俺含んだら五人にバレてるぜェ……!?もう生徒会全員にバレてるじゃねぇか…!」
「いえ、副会長のみ知らないはずです。……え、そうですよね?」
「え、あ、はい……。」

まさか潜入3日目からこんなにバレるとは思っていなかった私は情けなさに返答が小さくなってしまう。しかししっかり聞き取ったらしいレンブラントさんは、だそうですとだけ怜先生に返し、怜先生もそうか…とだけ返していた。

「と、いうことでなぜ知ったかなんてどうせ誰かが口を滑らしたのでしょうから聞きません。そんな時間を無駄にするようなことをするならば、一刻も早く愛しい彼女とくっつきたい……ダンスの練習をしなくては。」
「もろに聞こえたかんな?犯罪は許さないかんな?」
(はしもとかー○な♪)

つい日本人の精神がうずき、思ってしまった。口に出さなかっただけ偉いわ、私。
 怜先生は難しい顔のまま、私の手を優しく掴む。

「……俺も教えてやるよォ。この学園のホストパーティーに詳しいのはあいつより俺だろうしなァ。」

レンブラントさんのほうを見てから、私の目を見つめた。彼の言葉に、たしかに、とつい頷くと怜先生は満足そうに笑いながら手を離してくれた。

「このこもこう言ってることですし、俺も参加するってことでいいですね?レンブラントセンセ?」

怜先生がわざとらしい敬語でそういったのは、まるでレンブラントさんを挑発するような笑みを浮かべたときだった。


そうして、授業とダンスの練習が何日も続き、ようやく基礎を覚えてきた頃。ありがたいことにレンブラントさんの教え方がうまく、4日で基礎を覚えることができた。

「One、Two、Three 。……いえ、左足ではなく右足を後ろへ。僕の足なんて何度踏んでいただいても構いませんから、型を頑張って覚えましょうね。」

……しかし、どうしても応用の型、特にターンを覚えることができなかった。
優しく教えてくれるレンブラントさんに申し訳なく思いつつ、もう一度トライするが、見事にレンブラントさんの足を踏みつけてしまいダンスが止まる。

「……ごめんなさい。」
「いえ、これは初心者にはなかなか難しいですから……。」
「いや簡単な型だぜェ?」
「黙らっしゃいっ!!」

参加すると言いつつもずっと私たちの練習を見て口を出したりしていた怜先生にズバリといわれ、落ち込んでしまう。

レンブラントさんが気を遣ったように私を見ながらもう一度踊ろうとしてくれたが、またミスってしまい、結局美しく静かなクラッシックの音楽が独りでになるだけになってしまう。

「つまんねぇなァ……。レンブラントセンセの教え方がわりィ。キッチリしすぎだぜ?
つかこの眼鏡とヅラも視界も気分も悪くなりそうだしなァ。」

私たちのダンスを何度も座って見ていた怜先生が、立ち上がりそう言う。レンブラントさんはかちんと来たらしく裾をさわっていた。いまにも暗器がでてきそうである。前にそこからクナイ出されたことあるし。

だが、これでもこのとんでもない学校で教師……しかも担任という偉大な職を授かっている怜先生はその殺気をものともせず、上着を脱ぎポケットに入っていて使ってなかっただろうネクタイを着けた。どうやら上着の下にはベストを着ていたようで、それがまた彼のイケメンさを際立たせる。
そしてそんなホストな彼が私に手を差し出す。若干のパパ活ならぬ教師活……⁉と出費の恐怖を感じながら恐る恐る手を置けば、ギュ、と強く握られ引き寄せられた。それと同時にいつのまにか眼鏡と桂を取られ、レンブラントさんに向かって投げられる。レンブラントさんはあわててキャッチした。

「見てろよ?レンブラントセンセ。」

彼は手を引きながら私をいままで座っていた椅子の近くまで一緒に来させた。そして彼は連日持ってきていた大きな鞄からドレスを引き抜いた。いつサイズを知られたのかわからないけれど、ピッタリそうだった。そして、大きな布をとりだしレンブラントさんと布を掲げている怜先生から私が見えないようにした。着替えろ、ということらしい。

「やっぱこういうのは楽しまねぇとな。」

着てみるとやはりピッタリで、布からでてきた私を見た彼がニヤリと笑い、指を鳴らす。すると、さきほどのクラッシックとはまるで違う明るく、しかし優雅な音楽が蓄音機から流れ始めた。

聞いてるこちらが楽しくなるような曲調だ。楽しそう、と笑みがこぼれる。

怜先生はそんな私の顔をがっつり見たのか、よぉく聞いとけよ、と自信げに言った。

「俺の作ったダンスの法則 四ヶ条!
1、 頭より体を動かせ。
2、 型の順番なんて忘れろ。
3、 やるなら本番に限りなく近く。
4……思いきり楽しめ!」

レンブラントさんとほとんど反対なことをいわれ、困惑する。しかしそんな暇さえ与えないというように、彼は強引に私の手をひき踊り始めた。同時に、曲に乗りながら歌い出す。視界の端で、レンブラントさんが、ぎょっとしていた。

「口づけのように 抱くように 

優しく 愛しく 

アンタの手を引く相手は 

いまだけ愛しき旦那

思い込め さぁ 踊り出せ!」

くるくると、レンブラントさんが教えてくれていた型とは全く違う、独自で作り上げた全く新しく勝手な踊り。そう感じられるダンスは、不思議と私をワクワクさせた。

「こんな日には 踊り明かそうぜ? 

俺に全て 任せろ

跳ねて 飛んで信じられないサプライズ

呼吸合わせて ドレス揺らして 

ときめくような ターンを 捧げるぜ 」

彼がくるりと回って、つられて私も回る。転びそうになるが、彼が腰を支えてくれた。密着しているので、顔が近い。歌通り、ときめかせてきたのだ。しかしそれも一瞬で、すぐさま離れてはターンをし、それを何度も繰り返した。

「うまくなったじゃねぇか。」

間奏に入ったのか、歌ではなく言葉でそう言われはっと気がつく。いつしか、ターンがうまくなっていた。荒治療、ともいえるかもしれない。

「それに、顔も晴れやかだ。楽しそうな女、俺は好きだぜェ。」

からかうように指摘され、こちらも笑みがこぼれる。なんだか、友人のような存在だと感じ始めていたからだ。見た目での判断だけれど、年齢もアーサーさんやヴィンスさんとあんまり変わらないだろうし。

「どんどん いくぜ?

準備は いいよな?

完璧 素敵だ 美しい お見事!」

歌が再開される。
ターンから、後ろへ下がっていく動きも私が苦手だと気づいているのでしょう、彼は褒めながら突進してくる。彼にリードされながら後ろへ動けば、思ったよりすんなりと動くことができた。何を苦手だったのかわからないほど。

そうして苦手分野をクリアしていけば、曲は終わった。キメポーズ、をすれば、いままでみていたレンブラントさんが悔しげに拍手を送った。

「……未成年淫行未遂の変質者、貴女はたしかに教育者としての実力があるようですね。」
「オイ呼び方。まったく褒められてる気がしねぇんだが?」
「おや、これでも褒めてるのですよ?未成年淫行未遂のド屑腹黒変質者さん。」
「なんかさっきより少し長くなってねぇかァ⁉腹黒はアンタだろォ……。」

げんなりとしている怜先生に苦笑いしていると、扉からカチャカチャと聞こえる気がする。なにかしら、と扉をみていれば、音がやんだと同時に思いきり開け放たれる。

「せ、んせ……!副、かいちょ、が……!!」

片手に針金のようなものを持ち、焦った様子で駆け込んできたのは和久くんだった。私と目が合うと、目を見開く。

「き、れい……そのドレス……似合ってる……!」
「まてまてまて、甘。まずは扉を閉めろ。」

頭を押さえながら、怜先生は冷静にそう伝えると、和久くんははっとしたように扉を閉めた。そして、うっとりといえるような顔つきで私をじっとみてくる。

「買った、の……?俺、お金貯め、たら……もっと、高いの…買って、あげる……値段、いくら…?」
「あっ…これね、実は怜先生からもらったの。」
「その、ドレス…さい、てい……早く…脱いだ、ほうが…いいよ……。下半身、の……穢らわ…しい…呪い、かかってる、かも……。」
「変わり身早すぎるな。素直なやつ、先生嫌いじゃないぜェ……。」

一瞬でドレスをみる目が変わった。眉を取っても寄せている。

「というか、そんなことより。鍵をかけた記憶があるのですが、なぜ入ってこれたんです?」
「こ、れ……。」

手にもつ針金らしきものを私たちに見せた。

「ピッキング、した…!」

むふー、と効果音が付きそうなくらい可愛く胸を張っていた。しかしレンブラントさんは驚愕でそれどころではないらしい。

「なぜ⁉ノックでいいのでは⁉そもそもなんでそんな技術あるんですっ!?」
「本で…読んだ……実践、初めて……。」
「才能の塊ですねアナタ。」

またもや、むふー、と効果音が付きそうな胸張りを披露してくれた。

「いやいや、ますますノックでよかっただろ……それで、何があったんだァ?」
「あ…忘れ、てた……副、かいちょ…心臓、止まった……。」
「忘れちゃいけません、そういうことはっ!!」

オカンのように怜先生が叫んだ。
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