悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

望百千もち

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本編

55.傷つけた責任

「千秋······?」

「律花様、近づいてはいけませんよ」



楼透は同じく傷だらけの千秋をその場に投げ捨てると、俺の前に来て守るかのように背中を向け片腕で俺を制止した。まだ華奢な背中が大きく見える。

「楼、透」
「遅れてすみませんでした」

俺は楼透が来てくれたことの安心感からか、止まりかけていた涙がまた溢れる。くそ、年下に···楼透に泣いてるとこなんて見られたくないのに。
今度こそ味方が来てくれたことが嬉しい。

額から血を流す楼透の姿が蓮家でのことを想起させたが、俺を支える腕と守ろうとしてくれているその背中に死に物狂いで楼透を連れ戻しに行った自分は間違っていなかったと思った。

会長は未だ体をくの字に曲げたままだ。千秋は投げ出された衝撃でよろけながら立ち上がりこちらを見ていた。光の無い、暗い瞳。さっきまで笑って駆けていった千秋は何処へ行ったのか──。


「なんで」

先に口を開いたのは千秋だった。
今にも泣き出しそうな程に表情を歪めている。


「なんでなんでなんでなんでなんで!!」
「なんで······!!みんなして僕の律花を取らないでよ!」
「僕は······僕は律花が欲しいだけなのに!」
「僕じゃだめなの···?僕が近くにいちゃだめ?」
「嫌だよ!律花とずっと一緒に居た──」

ドガッ!!

子供がただを捏ねるように床を叩きながら泣き叫ぶ千秋を楼透が殴った。千秋の鼻からは鼻血が垂れ、殴られた千秋は何が起こったのか分からないと言った表情で鼻を抑えている。


「律花様の顔、見えます?」


こんなブチ切れた楼透は初めて見た。
千秋の髪を鷲掴みにして俺の方を振り向く。思わずビクリと肩を震わせてしまった俺。······こういうの見慣れてた筈なんだけどな、やっぱ十数年ブランクあると···。
楼透はその状態のまま続けて言う。


「千秋の気持ちも分かりますし、俺自身言えた事じゃありませんけど······今の律花様は悲しそうだと思います。泣き顔はイイけど、悲しい思いはさせたくないですね」


そう言った楼透の表情は言われた千秋よりも哀しさで満ちていた。
俺は怒ればいい?感動すればいい?
悲しませたくないとか言ってる内容は嬉しいんだけど、泣き顔はイイとか俺は聞きたくなかったなぁ。千秋は楼透の言葉を聞いて黙ってしまった。何を考えてるんだろうか、諦めてくれたならいいが······。

楼透は千秋の頭を放して俺の傍に戻ってきた。
そして自分のブレザーを脱いで俺の肩に掛ける。
俺は礼を言うと、ゆっくり立ち上がって床に座り込んだ千秋と倒れている会長を交互に見てから、楼透には止められたけど千秋に近づいていった。



「千秋」

ビクリと震えて俺を見上げる。その瞳に暗い影はない。けれど、何を言われるのか怯えたような恐れるようなそんな不安感が映っていた。


「···千秋、ごめんな。俺がお前にこんなことさせたんだよな」

「ちがっ、」

「違くない。俺さ、お前たちから好かれてたのは知ってた。自意識過剰かもしれないけど俺はお前たちを友達としてしか見てなかったから恋愛対象として見られたくなくてお前たちを避けた。···そりゃ当たり前だよ。ずっと一緒に居たのに、急に避けたんだから。お前から恨まれたって仕方ないし──」

「恨んでない!違う!僕は······!!」


千秋は違う違うと首を激しく振る。
恨んでない訳が無い。例え恨んでいなかったとしても傷つけたことに違いはない。だって千秋と楼透を自分から意図的に避けてたんだから。千秋に監禁された一度目の律花としての人生、逆行してきてずっと後悔してた。


「千秋、これは楼透にも言ったことだけど···俺はお前のこと友達として好きだよ。でも俺を好きだからって人を傷つけたり、他人を巻き込むのは違うと思う。···都合のいい事言ってるけど俺たち、友達に戻れないか?昔みたいに」

「俺はお前のこと嫌いになりたくないよ」

「それに······白虎祭、一緒に出るんだろ?」


こいつらを傷つけた責任は取らないと、とは思う。勿論恋愛対象としては見れないから友達に戻るか、これから一生関わらないかの二択になるんだけど······こいつらの事だ、現状俺にベタ惚れ過ぎて何をしでかすか分からない。自意識過剰ナルシストとか言われそうだけど、つまりは前者しかないだろ?

「······律花の事が、ずっと好きだったんだ」
「うん」
「···でも、律花は僕を避けてたのに···他の奴と居たから」
「······うん」
「どうして律花は僕の思い通りにならない?僕を利用するだけの大人、僕の機嫌を取ろうとする人、僕の周りの汚い奴らとは違う······どうして律花はそんなに綺麗なの?」

利用する······?
縋るような瞳で俺を見上げながらそう言った千秋。俺は理解が追いつかない。アカソマ主人公の千秋を利用する奴がいたなんて設定は俺の記憶の範囲では無かったはず······利用させるような権力も能力も持っていない。強いていえば人を惹きつける魅力があった。

「僕はね、親しくなった人を操ってしまう力があるんだ」

俺の疑問は露知らず千秋は言葉を続ける。
生気の失せたその表情からは何も感じられない。 


「僕が三歳の時、近所に住んでたお兄ちゃんが死んだ。死因は事故だったけど、崖から飛び降りてくるくるってして着地出来るってお兄ちゃんが言ったから『やって!』···ってお願いしたんだ。そしたらお兄ちゃんの様子がおかしくなって、止めてって言ったのに崖から飛び降りて······。その事を知った本当の母さんは僕の能力に気づいて逃げた。たいして子育てに興味の無かった人だったらしいこら僕の事なんてどうでも良かったんだと思う」
「······その後、父さんの親戚だって人が僕を迎えに来て僕は小山内の家に引き取られたけど······叔父さんは知らない人の所へ僕を連れて行っては置いてって、その知らない人と仲良くなれたら褒めてくれたけど成果が無ければお仕置された。両親は僕の顔色を伺ってばかりだし······いつもつまらなかった」

「そんな日が続いてたのに、初等科で律花に出会って──僕の世界は変わった。律花達以外の友達なんて直ぐに言うこと聞き出すのに、律花はいつも自由で綺麗で可愛くて···学校からの帰り道がずっと続けばいいのにって思ってた」

「······気持ち悪いよね、こんなの」


声は小さいがゆっくり話すうちに憑き物が取れていくような千秋の様子。最後には体育座りで小さく踞まる。顔は見えないが、丸めた背中に憐憫の情がわく。
こんなことになる前はマイペースで穏やかな奴だと思っていたけど、俺はお前のことも何も知らなかった。この世界がアカソマの世界だと気づく前から一緒に居たのに、転生出来たことに喜んで周りが見えてなかった。

俺は千秋の直ぐ隣に屈んでその背中を摩る。
酷いことをされて辛いのは俺の方なのに、弱々しく震えるその背中が今にも消えてしまいそうで···何かしてやりたいが何も出来ない俺の無力さが憎い。何も言ってやれないことが屈辱の後でも悔しい。
俺が悪い、千秋がこれだけ思い詰めたのは俺のせいだ。


「千秋······俺」


俺はそれ以上言葉が出なくなる。 
会長を巻き込み、千秋自身は危ない能力を持っている。  
やり直したい気持ちもあるが罪を免れる事は難しいだろう。






「······っぅ──話は、聞かせて貰ったよ」

「会長っ!?」


振り返ると痛むのだろう、自身の体を抱きしめながら壁際まで引きづる会長の姿が見えた。···目が覚めたのか、千秋に操られていた時のような座った目はしていない。どうやらいつもの会長のようだ。
会長は申し訳なさそうに眉を歪めて、俺と目が合うとその状態のまま頭を下げた。謝罪の念の籠った綺麗な礼。俺は頭をあげるように言うものの、下げたまま俺に謝る。


「···律花君、申し訳無かった。私の精神力が弱いばかりに操られてしまったばかりか、解呪が遅れてしまった。私もまだまだ未熟だ···二度とつけ入れられる隙を作らぬよう、勉学に励もう」


会長も被害者だと言うのにどうしてここまで寛容でいられるのか。操られていたとは言え会長にされたキスを思い出し、瞬間に俺の耳は熱くなる。
俺を助ける為に楼透が放った攻撃のダメージはでかいと見える。そりゃトップでも不意打ちでそれも壁に叩きつけられたら痛いわ······。



「······やっぱり、強いなぁ。かいちょは」

「恐縮だ。ところで話を聞く限りに私は君たちの痴話喧嘩に巻き込まれた、ということで良いのかな?···楼透君、と言ったかな、中等科か?凄いね」

「······緊急とは言え申し訳ありませんでした」

「いやいや、突き飛ばして貰えてよかった。あのままでは律花君を乱暴に犯し、一生残るだろう深い傷を負わせてしまう所だった···。謝罪は要らないよ、こちらが礼を言うべきだ。有難う」


やはり会長のような人を聖人君子と呼ぶのではないだろうか、千秋に操られ楼透に吹っ飛ばされたと言うのに怒る様子もなく事情を聞いた上で冷静に話を進めている。己が撒いた種と言うだけあって申し訳ない。


「私自身としては今回の一件、見逃してあげたい所だが···千秋君、君のその力は呪いの一種とも言える。とても危険な力だ。生徒会長として学園の事を考えたならば見逃すことは出来ない」


会長は済まないと言ってそう続けた。
やっぱりな·····、それも当たり前だ。個人間の喧嘩をこっそりやるならともかく学園の生徒会長を巻き込み、尚且つ『人を操る』なんてどう考えても危険な力が使われた以上罰が当たられない筈がない。


「千秋君」
「······なに?」
「何ですかだろ?」
「なんですか」
「千秋君は間違いを正せて偉いな。時に、その『人を操る力』は君自身制御出来るのかい?例えば──操らない、思い通りに動かそうとしない、その能力の効力を完全にシャットアウトする事は?」

千秋はうーんと考える。
シャットアウトって言葉分かるか?使えないように出来るかって会長は聞いてるんだが···俺はハラハラしながら千秋の回答を待つ。だってその回答が千秋の今後に関わるかしれないのだから。

「出来るよ、出来ます!でも律花のことを思うとダメかも」

何を素直に答えてるんだ······。
思わず心の中で突っ込んでしまったじゃないか。
自分の今後がかかっていると言うのにお前ってやつは···。





「ははっ、素直で宜しい。素直な所は君の美点だ。そこで一つ、私から提案があるのだが············千秋君。君、私の従者になる気はないかい?」
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