神様のひとさじ

いんげん

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驢馬の末路

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 驢馬は、すぐに見つかった。

 コントロールルームのドアを破壊しようと、鎌と腕で叩いていた。

 驢馬の様子は、異常だった。何かに取り憑かれているかのように、一心不乱にドアを叩いている。

「驢馬、やめろ! 抵抗するなら発砲する」
 ヘビは、拳銃を構え、警告した。しかし、驢馬は、振り向きもしなかった。

「驢馬!」
 ヘビは、一歩一歩、慎重に近づいた。何時でも撃てるように。
 しかし、近づくにつれて、不気味な違和感に襲われた。

「お前……それは……」

 驢馬は、以前と違っていた。

 人ではない、何かだ。

 驢馬ではなくなった、何かが此方を向いた。

「っ!」

 彼の首元からは、枝や、藁がとびだしていた。
 鮮度を失い乾燥した筋肉の間を埋めるように、絡みついた植物が、ザワザワと蠢いている。

 ヘビは、即座に頭を切り替えて、発砲した。しかし、撃ち抜く弾丸に手応えがない。

 近づいてくる。死した生き物が。

 咄嗟に、外のサバイバルで利用するライターを取り出して、着火して投げつけた。
 途端に火柱を上げる驢馬は、目的を諦めたのか、炎に包まれながら走り出した。

「待て!」
 ヘビは、距離を取って追いかけた。
 火災警報が鳴り響く。それと共に、ハジメが『居室に留まるように』と放送を入れている。
 廊下には煙が立ちこめ、スプリンクラーが作動した。
 前方、一メートルの視界も悪く、生理的な反応で涙も咳も止まらない。


 煤と煙を追いかけた先は畑だった。扉が開くと、中に居たアダムが歩み寄ってきた。

「ヘビ、大丈夫かい?」
「ゴホッ……驢馬……驢馬は!」
 室内は、煙いが炎が上がっている驢馬は見当たらない。

「ボーボー燃えてた人が入ってきたから、水かけて、そのダストシューターに蹴り落としたよ」
 畑内で発生した有効活用できる、落ち葉や動物の糞は回収すると、壁に埋め込まれたダストシューターに放り込まれ、収集される。

「……」
 ヘビは、外開きの鉄製のドアを開き、中を覗き込んだ。
 つい、自分も蹴り落とされるのでは、と後ろを警戒してしまう。

「ごめん、助けた方が良かった? だって何か普通じゃないし、やばそうだったから、つい」
 シューターは、五メートル以上垂直に落下し、その後なだらかな傾斜があり、最終処分場所に辿り着く。人の遺体も結局は、そこに落とされる。

「……問題ない」
「あれ、驢馬だったの?」
「ああ、恐らくだが……」

 ヘビは、扉を閉め、フラフラと歩き、乾いた地面に腰を下ろした。
 思わず深いため息が出る。
 額を押さえ、天を仰ぐ――酷く疲れた。

『最後の獣は、出入り口付近に居ます』

「分かった」
 ヘビは、膝に手を乗せて、立ち上がった。

「僕が、行くよ。コロニー凄い事になってるんでしょ、ヘビはそっちをどうにかしなよ。任せて」
「……ああ」
 胸を叩いて笑ったアダムが、畑の鍬を肩に掛けて、鼻歌を歌いながら、かけ出した。ヘビは、アダムに銃を渡そうかと、手を掛けて、やめた。


「ヘビ、大丈夫ですか?」
 入れ替わるように、イルカがやって来た。

「イルカ」
「煤だらけじゃないですか、うわー、とりあえず洗い流して来たらどうですか? 出入り口へは、フクロウさんも向かいました。問題ないと思います。あの人、戦闘になると、ニヤニヤ笑って楽しんじゃう所、どうにかなりませんかね。あ、クイナさんは、土竜と食堂で怪我人の手当に当たっています。ハジメから聞きました。驢馬は処理場にいるって、ちょっと確認しに行ってきます」
「ああ、頼んだ」

 テキパキと話したイルカは、忙しそうに去って行った。
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