白紙の未来と再会のヒロイン ~君と綴る、運命のページ~

のびすけ。

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第五章 時の神殿と、裏切りの守護者

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「――小賢しいわ!」

源十郎の怒号と共に空間が震えた。 
彼が掲げた杖の先から墨汁をぶちまけたような漆黒の闇が溢れ出す。 

それは形を変え、巨大な狼のような姿――『時喰らい』の式神となって俺たちに襲いかかった。 
その数、十体以上。

「来るよ!」 

蓮が叫ぶ。

「『時喰らい』に触れちゃダメだ! 時間ごと存在を削り取られるよ!」

「させない!」 

莉緒が前に出る。 
覚醒した彼女の体から放たれる黄金の光。 
彼女が拳を突き出すと、光の衝撃波が走り先頭の式神を消し飛ばした。

「すごい……!」 

俺は息を呑む。 
今の莉緒はただの人間じゃない。
世界を書き換えるほどのエネルギーの塊だ。

だが、敵は無限に湧いてくる。

「くっ、キリがないわね!」 

莉緒が次々と敵をなぎ倒すが、源十郎は冷酷に杖を振り続ける。

「無駄だ。この領域において私は『時』そのもの。貴様らがどれほど足掻こうと結末は変わらん」

源十郎の背後に時計の文字盤のような巨大な魔法陣が展開される。 
カチリ、と秒針が進むたび、俺たちの足元の石畳が砂になって崩れ落ちていく。 
フィールドそのものを消滅させる気だ。

「カズ、どうする!? このままじゃジリ貧だよ!」 

蓮がクナイで式神を牽制しながら叫ぶ。

俺は『運命の書』を握りしめた。 
ページは激しく発光し俺の指を焼くほど熱くなっている。 
書くんだ。 
この絶望的な状況を覆す起死回生の一手を。

だが、何を? 
『源十郎が倒れる』? 
『俺たちが勝つ』? 

ダメだ。そ
んな単純な記述じゃこの強大な「理(ことわり)」には勝てない。 

もっと具体的で、論理的で、そして物語として「必然」性のある展開じゃなきゃ運命は書き換わらない。

「……クロノ! 解析できるか!」 

俺は叫んだ。

「あの爺さんの魔術、隙はないのか!?」

「解析中……完了」 

クロノが即答する。
彼女の瞳には高速でデータが流れている。

「源十郎の術式は、この神殿の『大時計』とリンクしています。彼が最強なのはこの空間の時間供給を独占しているからです。……ですが」

クロノは空中に浮かぶ無数の歯車の一つを指差した。

「あの大時計へのリンクを物理的に遮断すれば彼の防御障壁は0.5秒間だけ無効化されます」
「0.5秒……」
「十分だ」

蓮がニヤリと笑った。 

「ボクの一族の術だ。遮断のポイントはわかる。……でもあそこまで辿り着くにはあの式神の群れを突破しなきゃいけない」

「私が道を作る」 

莉緒が言った。 
彼女は俺の方を向き力強く頷いた。 

「カズは最後の一撃を準備して。……信じてるから」

言葉はいらなかった。 
俺たちは、七年前の約束の日からずっと繋がっている。 

俺は頷き、ペン(実際には指先だが、書く意志)を構えた。

「作戦開始!」

俺の号令と共に少女たちが動いた。

「――フルバーストモード、起動」 

クロノが両腕のデバイスを展開する。 

「未来兵器の火力、見せてあげます!」 

青白いレーザーの雨が降り注ぎ、空中の式神たちを撃ち落とす。

「どきなさい邪魔よッ!」 

その弾幕の中を莉緒が光の弾丸となって突っ込む。 
彼女は防御を捨てていた。 

多少の攻撃を受けても即座に時間が巻き戻ったように傷が癒えていく。 

「不死身の特攻隊長かよ……!」 

俺は戦慄しながらも彼女が切り開いた道を走る。

「お祖父様、覚悟!」 

蓮が跳躍する。 
彼女は空中で身をひるがえし、莉緒が作った一瞬の隙を突いて源十郎の頭上――大時計とのリンクを繋ぐ「霊脈」へとクナイを投じた。

「小癪な!」 

源十郎が杖で迎撃しようとする。 
だが、その動きはクロノの重力制御によってコンマ数秒遅れていた。

ザシュッ! 

蓮のクナイが見えない霊脈を断ち切る。 

バチバチバチッ! と火花が散り源十郎の周囲の障壁が揺らいだ。

「今だ、カズッ!!」 

三人の声が重なる。

俺は『運命の書』を開き、叫びながら文字を刻みつけた。 
インク代わりの俺の血と、想いが、ページに吸い込まれていく。

『――断ち切られた鎖。老いた王は、若き獅子たちの「未来への意志」の前に膝を屈する』

『その一撃は、物理法則を超え、因果律すらも貫通する』

『決定打:橘莉緒の拳が、過去の呪縛を粉砕する!』

書き終えた瞬間、本から目も眩むような光の柱が立ち昇った。 
その光は莉緒へと収束し、彼女の右腕を巨大な光のガントレットへと変える。

「うおおおおおおおッ!!」

莉緒が跳ぶ。 
源十郎が驚愕に目を見開く。 

「馬鹿な……運命を書き換えただと……!?」

「これが! 私たちの! 未来だぁぁぁぁッ!!」

莉緒の拳が、源十郎の杖ごとその顔面(の寸前にある障壁)を打ち砕いた。 

パリーンッ!! 

ガラスが割れるような音と共に絶対防御が崩壊する。 
衝撃波が神殿を揺るがし、源十郎の体は砲弾のように吹き飛ばされ神殿の柱に激突した。

「が、はっ……」 

老人が崩れ落ちる。 
勝った。 
俺たちは運命の管理者に勝ったんだ。

「やった……!」 

蓮がガッツポーズをする。 
クロノが安堵の息を吐く。 
だが。

ゴゴゴゴゴゴゴ……。 

勝利の余韻に浸る間もなく、神殿全体が不気味な地鳴りを上げ始めた。

「警告。空間維持システムが崩壊。……この領域自体が消滅します」

クロノが無機質な声でしかし焦りを滲ませて告げた。

見上げれば、空の歯車が次々と落下し、地面の石畳がガラガラと崩れ落ちていく。 
源十郎を倒したことでこの空間を支えていた力が失われたのだ。

「脱出ゲートは!?」
「閉じています! エネルギーが足りません!」

俺たちは集まった。 
足場がどんどん狭くなっていく。
下の闇は虚無だ。
落ちれば存在ごと消える。

「……私のせいだ」 

莉緒が呟いた。 
彼女の体の光が弱々しく明滅している。

「私が『楔』としての役割を放棄したから……世界がバランスを崩してるんだ」

彼女は俺を見た。
その瞳には、壮な決意が宿っていた。

「カズ、みんなを連れて逃げて。私が……ここに残って代わりの柱になる」
「はあ!? 何言ってんだ!」
「そうすればゲートは開くはずだよ。私は元々一度死んだ身だし……」

「ふざけんな!!」

俺は莉緒の胸ぐらを掴んだ。

「お前を助けに来たんだぞ! お前を置いて帰るくらいなら一緒にここで消えた方がマシだ!」

「でも、このままじゃ全員……!」
「諦めるな! 俺にはまだこれがある!」

俺は『運命の書』を掲げた。 
まだページは残っている。 

だが、もう俺自身の力(運命力)は残っていない。 
何かを……何か、巨大な代償を支払わなければこの崩壊は止められない。

『代償:運命の書、その全ての記述と権限』

脳裏に本の声が響いた気がした。 
俺の未来を知る力。 
奇跡を起こす力。 
そして、この本を通じて得た「特別な主人公」としての特権。 
それら全てを差し出せば道は開ける。

「……上等だよ」

俺は笑った。 
迷いはなかった。 
俺が欲しかったのは特別な力じゃない。 
莉緒と、みんなと笑い合える「普通の日々」だ。

「カズ、まさか……」 

蓮が気づく。

「それをやったら、キミはもう……!」

「いいんだ。俺の物語は俺自身で書く」

俺は本を空に投げた。 
そして叫んだ。

「持ってけ! 俺の全財産(みらい)だ! その代わり……道を開けろォォォォッ!!」

空中で本が激しく燃え上がった。 
黄金の炎となり、その炎が渦を巻いて崩壊する空間に巨大なトンネルを穿つ。 
七年前の公園へと続く帰還の道だ。

「行こう!」 

俺たちは走った。 
崩れる足場を飛び越え光のトンネルへと飛び込む。

背後で時の神殿が完全に崩壊し、虚無へと飲み込まれていく音がした。 
そして、俺たちの意識は再び白い光の中へと溶けていった。

***

「……おい、起きろ。風邪引くぞ」

誰かに肩を揺すられた。 
目を開けると、そこは夕暮れの公園だった。 
蝉の声。 
錆びたジャングルジム。 
そして、目の前には心配そうに俺を覗き込む莉緒の顔があった。

「……莉緒?」

俺は飛び起きた。 
自分の体を見る。
高校生の姿だ。 
莉緒も、蓮も、クロノもいる。 
全員、無事だ。

「戻って……きたのか?」
「うん。戻ってきたよ、カズ」

莉緒が涙目で笑う。 
俺は彼女の腕を掴んだ。 
温かい。 
すり抜けない。 
脈打つ鼓動が伝わってくる。

「体は……消えてないな?」
「うん。なんかね、体が重いの。……普通に戻ったみたい」

彼女はもう光っていない。 
傷もすぐには治らないだろう。 
ただの人間の女の子に戻ったのだ。

「よかった……」

俺は安堵で力が抜け、ベンチに座り込んだ。 
そして鞄の中を探る。 

……ない。 
あの重厚な革表紙の本はどこにもなかった。 

代わりに一冊の古い大学ノートが入っていた。 
中を開くと、全てのページが真っ白だった。

『青葉一樹年代記』は失われた。 
俺はもう、明日の天気も、テストの山も、誰かの死も知ることはできない。 
俺の未来は、完全に「白紙」になったのだ。

「……後悔してるかい?」 

蓮が隣に座り、缶ジュース(どこで買ったんだ)を差し出してきた。

「世界の理を知る力を捨てて、ただの高校生に戻ったことを」

俺はジュースを受け取り一口飲んだ。 
ぬるいコーラの味がした。

「まさか。……せいせいしたよ」

俺は空を見上げた。 
茜色の空に一番星が光っている。 

ネタバレのない人生。 
何が起こるかわからない明日。 
それは、なんてスリルがあって楽しみなんだろう。

「さて、帰るか。……腹減った」

「あ、私も! 今日はカズの家で食べる!」

「またかよ。母さんに連絡しとくか」

「私はエネルギー充填が必要です。ポン・デ・リングを所望します」

「ボクも行こうかな。如月の家に帰るのも気まずいし」

「お前らなぁ……」

俺たちは歩き出す。 
影が四つ、長く伸びている。

七年前の約束は形を変えて守られた。 
俺たちは大人になったわけじゃないし、夢を叶えたわけでもない。 
でも、俺たちは「今」を勝ち取った。

隣を歩く莉緒が、そっと俺の手を握ってきた。 

俺は握り返す。 
言葉はいらない。 

俺たちの新しい物語は、この白紙のページから自分たちの手で綴っていくんだ。
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