イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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最終章 第一話 最後の祭りが始まる、それは恋の終わりの始まり

揺れる瞳と、それぞれの決意

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その夜のリビングは、いつもと同じ、穏やかな時間が流れていた。
俺、天城コウは大学のレポートに、ひよりは次の「ひよりとレイ」のユニット配信の企画案に、それぞれ向き合っている。

時折、ひよりが「ねぇお兄ちゃん、次のゲーム実況、罰ゲームありにしない?」なんて笑いながら話しかけてきて、俺が「お前の罰ゲームはだいたい俺が被害を被るやつだから却下だ」と返す。
そんな、ありふれた、かけがえのない日常。

だからこそ、切り出す言葉が、喉の奥に鉛のように詰まって、うまく出てこなかった。

「……ひより、ちょっといいか?」

「んー?なあに、お兄ちゃん」

スマホから顔を上げた彼女の瞳は、何の疑いもなく、きらきらと輝いている。
その光が、あまりにも眩しくて、俺は一瞬、視線を逸らした。

「……今日、事務所で……話があったんだ」

俺は、昼間の出来事を、できるだけ事務的に、冷静に話した。
大手レコード会社からのオファー。

ソロアーティストとしての、メジャーデビュー。 Vtuber《レイ》としてではなく、“天城コウ”として、世界に挑戦する権利。

「――すごいよ、お兄ちゃん!ソロデビューなんて!」

俺の話を聞き終えたひよりは、予想通り、ぱあっと顔を輝かせて、自分のことのように喜んでくれた。その純粋な祝福が、かえって俺の胸を締め付ける。

「やっぱり私のお兄ちゃんは世界一なんだ!これで、もっともっと有名になって……えへへ、自慢のお兄ちゃんだな!」

「……ああ、まあ……」

「それで、いつから?ひよりとレイのチャンネルでも、大々的に告知しないと!記念配信は、やっぱり歌枠かな?お兄ちゃんのソロ曲、ひよりが一番に聴きたいな!」

違うんだ、ひより。そうじゃない。その言葉が、言えなかった。
俺が「……これは、ソロ名義の、専属契約なんだ」と、一番言いたくなかった事実を告げた瞬間――彼女の笑顔から、ふっと光が消えた。

(ここから、ひより視点)

……え?ソロ……?専属契約?『ひよりとレイ』とは、別の……?
お兄ちゃんが、一人で……?
じゃあ、私は……?お兄ちゃんの隣で歌うのは、隣で笑うのは……私じゃ、なくなるの……?

嘘だ。そんなの、嘘だ。だって、私たちは二人で一つだったじゃん。
私が声を失ったあの日、お兄ちゃんが私の“声”になってくれた。
そこから、全部始まったんじゃなかったの?

お兄ちゃんが遠くに行っちゃう。私の知らない場所に。
私の声が、届かない場所に。
行かないで。

……なんて、言えるわけない。
だって、これはお兄ちゃんの夢なんだから。
応援、しなきゃ。
最高の妹として、笑顔で、送り出してあげなきゃ。
笑って。笑うんだよ、私。

「そっか……お兄ちゃん、遠くに行っちゃうんだね」

無理に作った笑顔。祝福したい気持ちと、行かないでと叫びたい気持ちがせめぎ合って、潤んだ瞳が痛々しいほどに揺れていた。
俺は、何も言えなかった。
どんな言葉も、今の彼女を傷つけるだけだと分かっていたから。
その夜、ひよりは一言も話さなくなった。

翌日には、その噂がLinkLiveのメンバーにも広まっていた。
事務所の共有ラウンジは、いつもよりずっと静かで、どこかぎこちない空気に満ちていた。
俺がコーヒーを淹れていると、背後から、すっと影が差した。

「――当然の結果ね。彼の才能を考えれば」

振り返ると、そこには腕を組んだ夜々先輩が立っていた。

「でも、その才能をどう使うかは、彼自身の問題よ。……あなた、試されているのよ、天城くん。本当の翼を手に入れて、どこへ飛ぶつもりなのかしら」

その切れ長の瞳は、どこか試すように、俺の心の奥底を見透かそうとしているようだった。

みなとさんは、俺が一人でいる時を狙ったかのように、自販機の前で声をかけてきた。
彼女はただ黙って俺の顔を見ると、その大きな瞳を心配そうに細めて、こう呟いた。「……少し、痩せた?」その短い一言に、彼女の深い優しさが凝縮されていた。

「コウくん!聞きましたよ!ソロデビュー!やばい!神!最高の船出じゃないすか!アタシが最高のPV作りますから、どーんと任せといてください!」

メグは、努めて明るく、いつものようにハイテンションで俺の肩を叩いた。
でも、その声はほんの少しだけ震えていて、無理して笑っているのが、痛いほど伝わってきた。

るるちゃんやいのりちゃんも、ラウンジの隅から、心配そうにこちらを遠巻きに見ている。

俺のたった一つの決断が、この愛おしい日常そのものを、根底から変えてしまう。
その重圧に、俺自身も答えを出せずにいた。
事務所の空気は重く、誰もが先の見えない未来に不安を感じている。

俺のせいで、みんなの笑顔が曇っている。
それが、何よりも辛かった。俺の“声”は、誰かを笑顔にするためにあったはずなのに。今は、一番近くにいる大切な人たちから、笑顔を奪おうとしている。

こんな未来を、俺は望んだんだろうか。
答えの見えない問いが、秋の冷たい空気と共に、俺の胸に重くのしかかっていた。
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