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幕間デート? 白瀬るる編
『初めての“推し活”は、君の隣で。』
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今日は一人で、秋葉原に来ていた。
本当は事務所の後輩と来る予定だったけど、急に熱が出たって連絡があって。
それならいっそ、気兼ねなくじっくり機材見て回ろうかなって。
私、マイクとかオーディオインターフェースとか、見るのも触るのも好き。
推し活って、何もライブやアニメだけじゃない。私にとっての“推し活”は、声をよくしてくれる機材を見つけること、なんだと思う。
人混みを避けながら、端のブースにある新製品のコンデンサーマイクを眺めていたとき。
「……あれ、るるちゃん?」
え、今、聞き間違いじゃ……
振り返ると、そこには……。
「こ、コウくん!?」
ちょっと待って、嘘、なんでここに……っ!
「あはは、そんな驚く? たまたま来てただけだよ。うちのマネージャーに“勉強してこい”って言われてさ」
信じられない……いや、むしろ“嬉しい”って感情のほうが先に来たの、何?
「そ、そっか。奇遇、だね……」
視線を合わせられなくて、私はマイクのポップガードを見つめたまま言葉を紡いだ。
でもコウくんは、まるで気まずさなんて感じてないみたいに笑ってた。
「せっかくだし、一緒に回る? るるちゃん詳しいし、いろいろ教えてほしいな」
えっ……一緒に、って、ふたりで? いやいや、それって……デ、デート的な……!?
「あ、あの、うん。い、いいよ、別に」
顔が熱い。たぶん真っ赤。心臓もうるさい。私、うまく歩けてる……?
いっしょに回りはじめてすぐ、コウくんはちゃんと私の話を聞いてくれる人なんだって、改めて思った。
「へぇ、このマイク、そんなに指向性狭いんだ」
「うん、息漏れとかルームノイズ拾いにくくて、囁き声系にめちゃ強いの」
うれしい。なんか……話してるだけで、嬉しいの。
ちゃんと“私”を見てくれてる感じがして。
でも、その後。
「るるちゃんの声、ほんと透明感あるよね。なんか、耳が洗われる感じ」
……言葉の暴力だよ、それ。
わたし、今日メイク適当だし、寝癖ちょっと残ってたかもしれないのに。
それでも「声」を褒めてくれて、真っ直ぐな目で、真顔で、そんな……っ。
「……あ、ありがと。そ、そんなこと言われたら……帰れなくなっちゃう」
「え? 帰らなくていいじゃん。まだ面白そうなとこいっぱいあるよ」
……ずるい。そんな無自覚なこと、サラッと言わないでよ。
そんなとき、上階で小さな上映イベントがあるってアナウンスが入った。
「星と音楽のシンフォニー……だって。行ってみる?」
「……い、行く。っていうか、行きたい」
返事、早すぎた。恥ずかしい。けど、それ以上に、コウくんと一緒に“何か”を観たいって、素直に思ったから。
暗いシアターの中。隣の席、狭すぎじゃない?
さっきまでは大丈夫だったのに、急に距離が近く感じてしまう。
でも、始まった映像は本当に綺麗だった。満天の星と、柔らかなピアノ。
「ねえ、るるちゃん」
急に耳元で囁かれて、私はびくって肩を震わせる。
「……な、なに?」
「……さっきの話、続き。るるちゃんって、本当に声のこと大事にしてるんだなって思った。かっこいいなって」
わたし、今、完全に……息、止まった。
どくん、って音が自分の中で響いて、胸の奥がキュッと熱くなる。
だけどそのとき、映像がフラッシュして場内が真っ暗に。
反射的に、私は隣に手を伸ばしてしまった。
「……っ、あっ、ご、ごめん、コウくん!」
……つかんじゃった。しかも、コウくんの……太もも、かもしれない……。
「わ、わざとじゃないから! ほんとに、暗くて、びっくりして……っ」
「わかってる、大丈夫。るるちゃん、手、震えてるよ」
そう言いながら、彼はそっと私の手を握り返してきた。
その手、あたたかくて、優しくて。……なんか、涙が出そうだった。
上映が終わっても、手のぬくもりがずっと残っていた。
駅までの帰り道。ネオンが滲んで、ふわふわしてる。
「……ねえ、コウくん」
「うん?」
「私ね……自分のこと、推されるタイプじゃないって思ってたの。人気出るわけないって。声も、顔も、キャラも、自信なくて」
でも——
「でも、今日ちょっとだけ、思えた。……“私”でも、誰かの隣にいていいのかな、って」
コウくんは、立ち止まって、ちゃんとこっちを向いて言った。
「もちろんだよ。るるちゃんは、すごい人だよ。……俺、今日また、好きになったもん」
「す、好きって……!?」
「声が、って意味だけどね?」
……この人、やっぱり確信犯じゃない……!?
でも、不思議。そう言われて、胸がキュッてなったけど、すごく幸せだった。
「……じゃあ、次の“推し活”も、一緒にしてくれる?」
「もちろん」
その言葉を聞いた瞬間、星よりきらきらした気持ちが、胸にぱっと咲いた。
今日は、私の新しい“推し”が生まれた日。
誰かじゃない。私自身のこと。——そして、となりにいる彼のことも。
本当は事務所の後輩と来る予定だったけど、急に熱が出たって連絡があって。
それならいっそ、気兼ねなくじっくり機材見て回ろうかなって。
私、マイクとかオーディオインターフェースとか、見るのも触るのも好き。
推し活って、何もライブやアニメだけじゃない。私にとっての“推し活”は、声をよくしてくれる機材を見つけること、なんだと思う。
人混みを避けながら、端のブースにある新製品のコンデンサーマイクを眺めていたとき。
「……あれ、るるちゃん?」
え、今、聞き間違いじゃ……
振り返ると、そこには……。
「こ、コウくん!?」
ちょっと待って、嘘、なんでここに……っ!
「あはは、そんな驚く? たまたま来てただけだよ。うちのマネージャーに“勉強してこい”って言われてさ」
信じられない……いや、むしろ“嬉しい”って感情のほうが先に来たの、何?
「そ、そっか。奇遇、だね……」
視線を合わせられなくて、私はマイクのポップガードを見つめたまま言葉を紡いだ。
でもコウくんは、まるで気まずさなんて感じてないみたいに笑ってた。
「せっかくだし、一緒に回る? るるちゃん詳しいし、いろいろ教えてほしいな」
えっ……一緒に、って、ふたりで? いやいや、それって……デ、デート的な……!?
「あ、あの、うん。い、いいよ、別に」
顔が熱い。たぶん真っ赤。心臓もうるさい。私、うまく歩けてる……?
いっしょに回りはじめてすぐ、コウくんはちゃんと私の話を聞いてくれる人なんだって、改めて思った。
「へぇ、このマイク、そんなに指向性狭いんだ」
「うん、息漏れとかルームノイズ拾いにくくて、囁き声系にめちゃ強いの」
うれしい。なんか……話してるだけで、嬉しいの。
ちゃんと“私”を見てくれてる感じがして。
でも、その後。
「るるちゃんの声、ほんと透明感あるよね。なんか、耳が洗われる感じ」
……言葉の暴力だよ、それ。
わたし、今日メイク適当だし、寝癖ちょっと残ってたかもしれないのに。
それでも「声」を褒めてくれて、真っ直ぐな目で、真顔で、そんな……っ。
「……あ、ありがと。そ、そんなこと言われたら……帰れなくなっちゃう」
「え? 帰らなくていいじゃん。まだ面白そうなとこいっぱいあるよ」
……ずるい。そんな無自覚なこと、サラッと言わないでよ。
そんなとき、上階で小さな上映イベントがあるってアナウンスが入った。
「星と音楽のシンフォニー……だって。行ってみる?」
「……い、行く。っていうか、行きたい」
返事、早すぎた。恥ずかしい。けど、それ以上に、コウくんと一緒に“何か”を観たいって、素直に思ったから。
暗いシアターの中。隣の席、狭すぎじゃない?
さっきまでは大丈夫だったのに、急に距離が近く感じてしまう。
でも、始まった映像は本当に綺麗だった。満天の星と、柔らかなピアノ。
「ねえ、るるちゃん」
急に耳元で囁かれて、私はびくって肩を震わせる。
「……な、なに?」
「……さっきの話、続き。るるちゃんって、本当に声のこと大事にしてるんだなって思った。かっこいいなって」
わたし、今、完全に……息、止まった。
どくん、って音が自分の中で響いて、胸の奥がキュッと熱くなる。
だけどそのとき、映像がフラッシュして場内が真っ暗に。
反射的に、私は隣に手を伸ばしてしまった。
「……っ、あっ、ご、ごめん、コウくん!」
……つかんじゃった。しかも、コウくんの……太もも、かもしれない……。
「わ、わざとじゃないから! ほんとに、暗くて、びっくりして……っ」
「わかってる、大丈夫。るるちゃん、手、震えてるよ」
そう言いながら、彼はそっと私の手を握り返してきた。
その手、あたたかくて、優しくて。……なんか、涙が出そうだった。
上映が終わっても、手のぬくもりがずっと残っていた。
駅までの帰り道。ネオンが滲んで、ふわふわしてる。
「……ねえ、コウくん」
「うん?」
「私ね……自分のこと、推されるタイプじゃないって思ってたの。人気出るわけないって。声も、顔も、キャラも、自信なくて」
でも——
「でも、今日ちょっとだけ、思えた。……“私”でも、誰かの隣にいていいのかな、って」
コウくんは、立ち止まって、ちゃんとこっちを向いて言った。
「もちろんだよ。るるちゃんは、すごい人だよ。……俺、今日また、好きになったもん」
「す、好きって……!?」
「声が、って意味だけどね?」
……この人、やっぱり確信犯じゃない……!?
でも、不思議。そう言われて、胸がキュッてなったけど、すごく幸せだった。
「……じゃあ、次の“推し活”も、一緒にしてくれる?」
「もちろん」
その言葉を聞いた瞬間、星よりきらきらした気持ちが、胸にぱっと咲いた。
今日は、私の新しい“推し”が生まれた日。
誰かじゃない。私自身のこと。——そして、となりにいる彼のことも。
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