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第9章『きょうも、なんでもない一日。』
『イケボ兄貴、洗濯物に敗れる』
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「今日の洗濯、ぜーんぶお願いねっ」
ひよりが小さく手を振って家を出たのは、朝の九時前。
外は晴天。風は穏やか。干すにはちょうどいい日和だ。
「……洗濯ねえ。まあ、任せとけって」
天城コウ、十八歳。一人暮らしに義妹つき。
彼は今日、ついに“家事の壁”に挑むことになった。
洗濯機に向かって腕を組み、どこかの勇者のように呟く。
「機械ごとき、俺の敵ではないな」
フタを開け、洗濯物を放り込む。バスタオル、シャツ、ひよりの制服。そこまでは順調。
洗剤もばっちり計量した。
問題は、その次だった。
「……あれ? このボタン、なんだ?」
本体パネルには、謎の横文字がずらり。
《Speed》《Delicate》《Soak》《Eco Wash》《Whisper Mode》……。
「読めるけど、意味はわからん……!」
一つひとつ押してみる。ボタンの光が点滅し、電子音がピッと鳴った。
そして、突然──
「Welcome to SmartWash 9000!」
女の声が鳴り響いた。
「な、なんだ!? AI搭載!?」
音声案内が勝手に始まり、コウは思わず後ずさる。
「Please select your preferred mode, Master.」
「……なんか口調が若干アレじゃないか?」
完全にメイド風だ。どこの誰が設定したんだ。
「Standardモードで……いいか?」
指で押した瞬間、音声はこう返した。
《Understood. Commencing Purification Sequence. Have a blessed laundry day.》
「うわ、宗教っぽい!」
それでも、洗濯槽がゴウンと回り出す。
ようやく仕事が始まったらしい。
ふぅ、と息をついてソファに腰掛けたコウは、そのままテレビをつけ、バラエティ番組を眺めていた。
だが、数分後。
「洗濯終わったって、早っ!?」
案内音声がまた響く。
《Your clothes are reborn. You may now retrieve your divine garments.》
「だからなんで宗教……」
ぶつぶつ文句を言いながら、洗濯物を取り出す。
タオル、Tシャツ、靴下、ひよりの制服──
そして、その下から──
ふわり、としたピンク色の――
「……え」
手に取った瞬間、思考が停止した。
「これは……っ!?」
可愛らしいレースのついた、女子力1000%のアレ。
「ち、違う、これは俺の趣味じゃないッッ!ひよりのだッ!!」
全力で自己弁護するコウ。
だが、よりにもよってそのとき、玄関がガチャリと開いた。
「ただいまー、財布忘れたー」
「ッッッ!!」
本能的に洗濯物で顔を隠すコウ。
だが時すでに遅し。廊下から、ひよりの声が聞こえた。
「……お兄ちゃん? なんで、洗濯物持って正座してるの?」
無言。
「その手にあるのって……わたしの……っ!?///」
沈黙が、重い。気まずさが、空気を圧迫する。
そして──
「……変態兄、確定です」
「ちがあああああああうっ!!」
叫びは空しく、廊下の奥へと響いていった。
◇ ◇ ◇
その夜。
夕飯の食卓に並んだのは、白ごはん、味噌汁、納豆、わかめだけのサラダ。
明らかに手抜き……いや、制裁メニューだった。
「なあ、ひより。これは……?」
「バランスの取れた食事だよ?」
笑顔が怖い。
イケボで「俺は潔白だ」と言っても、ひよりはぴくりとも眉を動かさなかった。
「イケボ使えば何でも許されると思ってる? それ、配信だけだからね?」
ぐぬぬ……。
洗濯機は沈黙し、食卓にはわかめと納豆の香りが漂う。
「……せめて、音声案内を消す方法、誰か教えてくれ……」
イケボ兄貴の“主夫レベル”は、まだまだEランクだった。
ひよりが小さく手を振って家を出たのは、朝の九時前。
外は晴天。風は穏やか。干すにはちょうどいい日和だ。
「……洗濯ねえ。まあ、任せとけって」
天城コウ、十八歳。一人暮らしに義妹つき。
彼は今日、ついに“家事の壁”に挑むことになった。
洗濯機に向かって腕を組み、どこかの勇者のように呟く。
「機械ごとき、俺の敵ではないな」
フタを開け、洗濯物を放り込む。バスタオル、シャツ、ひよりの制服。そこまでは順調。
洗剤もばっちり計量した。
問題は、その次だった。
「……あれ? このボタン、なんだ?」
本体パネルには、謎の横文字がずらり。
《Speed》《Delicate》《Soak》《Eco Wash》《Whisper Mode》……。
「読めるけど、意味はわからん……!」
一つひとつ押してみる。ボタンの光が点滅し、電子音がピッと鳴った。
そして、突然──
「Welcome to SmartWash 9000!」
女の声が鳴り響いた。
「な、なんだ!? AI搭載!?」
音声案内が勝手に始まり、コウは思わず後ずさる。
「Please select your preferred mode, Master.」
「……なんか口調が若干アレじゃないか?」
完全にメイド風だ。どこの誰が設定したんだ。
「Standardモードで……いいか?」
指で押した瞬間、音声はこう返した。
《Understood. Commencing Purification Sequence. Have a blessed laundry day.》
「うわ、宗教っぽい!」
それでも、洗濯槽がゴウンと回り出す。
ようやく仕事が始まったらしい。
ふぅ、と息をついてソファに腰掛けたコウは、そのままテレビをつけ、バラエティ番組を眺めていた。
だが、数分後。
「洗濯終わったって、早っ!?」
案内音声がまた響く。
《Your clothes are reborn. You may now retrieve your divine garments.》
「だからなんで宗教……」
ぶつぶつ文句を言いながら、洗濯物を取り出す。
タオル、Tシャツ、靴下、ひよりの制服──
そして、その下から──
ふわり、としたピンク色の――
「……え」
手に取った瞬間、思考が停止した。
「これは……っ!?」
可愛らしいレースのついた、女子力1000%のアレ。
「ち、違う、これは俺の趣味じゃないッッ!ひよりのだッ!!」
全力で自己弁護するコウ。
だが、よりにもよってそのとき、玄関がガチャリと開いた。
「ただいまー、財布忘れたー」
「ッッッ!!」
本能的に洗濯物で顔を隠すコウ。
だが時すでに遅し。廊下から、ひよりの声が聞こえた。
「……お兄ちゃん? なんで、洗濯物持って正座してるの?」
無言。
「その手にあるのって……わたしの……っ!?///」
沈黙が、重い。気まずさが、空気を圧迫する。
そして──
「……変態兄、確定です」
「ちがあああああああうっ!!」
叫びは空しく、廊下の奥へと響いていった。
◇ ◇ ◇
その夜。
夕飯の食卓に並んだのは、白ごはん、味噌汁、納豆、わかめだけのサラダ。
明らかに手抜き……いや、制裁メニューだった。
「なあ、ひより。これは……?」
「バランスの取れた食事だよ?」
笑顔が怖い。
イケボで「俺は潔白だ」と言っても、ひよりはぴくりとも眉を動かさなかった。
「イケボ使えば何でも許されると思ってる? それ、配信だけだからね?」
ぐぬぬ……。
洗濯機は沈黙し、食卓にはわかめと納豆の香りが漂う。
「……せめて、音声案内を消す方法、誰か教えてくれ……」
イケボ兄貴の“主夫レベル”は、まだまだEランクだった。
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