イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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第9章『きょうも、なんでもない一日。』

『すっぴん革命』

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朝。目覚まし時計の音が鳴ったのは、とうに登校30分前だった。



「う、そでしょ……!? なんでっ……!?」



ひよりは毛布を蹴飛ばしながら跳ね起きた。

寝坊した理由は、昨夜つい読みふけってしまった少女漫画の一気読みだ。

ヒロインが初めて彼氏にすっぴんを見せるシーンで胸がきゅっとなり、そのまま気づけば2時半――。



「あと15分で出なきゃ……顔、顔っ!」



急いで洗面所へ。鏡を見た瞬間、ひよりの脳内に警報が鳴り響いた。



《これは……マズい! いや、まずいどころじゃない!!》



いつもの“配信用ぱっちり顔”とは程遠い、むくんだ頬にバラバラの前髪、そして……なんとも素朴な素顔。

最低限、日焼け止めとリップくらいは塗りたい。だが、時間がない。



「ちょっとだけ、コンビニでお茶買うだけだし……い、いける、よね……?」



自分を鼓舞し、適当なパーカーとスカートを身につける。

髪を結ぶ間も惜しみ、キャップを目深にかぶった。



こうして“戦闘力5”のひよりは、自宅をそっと出発した。



◇ ◇ ◇



朝の街角は、妙に視線が気になる。



(いやいや、だれもわたしのことなんて見てないってば!)



ひよりは心の中で叫ぶ。

コンビニまでの道のりが、こんなにも長いと感じたのは初めてだった。



──だが。



「……ん?」



すれ違いざまに、ちらりと目が合った男性がいた。



キャップにマスク、パーカー姿。

その立ち姿に、どこか見覚えがある。



(ま、まさか……いや、違うよね? まさか、あのお兄ちゃんがこんな時間に?)



ふと、彼がスマホを取り出す。その動作までが妙に見慣れていた。



(嘘でしょ!?)



すれ違ったあと、ひよりはその場で立ち止まり、そっと振り返った。



けれど、彼の姿はもう角を曲がって見えなくなっていた。



「……え、今の、絶対そうだよね……?」



キャップの下で顔が真っ赤になる。

ひよりはそのまま、コンビニにも寄らずに走って帰宅した。



◇ ◇ ◇



リビングで座り込む。



(見られた……絶対見られた……部屋着ですっぴんで……。終わった……わたしの女子力、マイナスだ……)



膝を抱えて震える。



(っていうか、なんでこのタイミングで出会うの!? 世の中そんなに厳しいの!?)



スマホの画面が通知で光ったのは、そんなときだった。



『今日、どこか出かけてた?』



差出人:お兄ちゃん(天城コウ)



(うわあああああ!?)



思わずスマホを投げかけて慌てて受け止める。



手が震える中、返信はせずにそのまま様子をうかがう。



そして、数分後――



『さっきの、可愛かったぞ』



画面に浮かんだその一文。



「……へ?」



ぽかんとして、それから顔が一気に熱くなる。



「な、なななな、なに言ってんのよアイツはあああああ!!?」



顔を真っ赤にして叫び、クッションに顔をうずめる。



バクバクと音を立てる鼓動がうるさい。



(ばっ……かじゃないの!? なんでそんなこと言うの!? い、今のわたし、可愛くないでしょ!?)



布団にくるまりながら、画面をもう一度見返す。



『さっきの、可愛かったぞ』



短いその一言が、まるで呪文みたいに、心にじんわり染みていく。



「……ほんと、ばか……」



でも――口元は、なぜかゆるんでいた。



◇ ◇ ◇



その日の夜。

いつも通りの配信準備を終え、メイク道具を手に取る手が一瞬止まる。



鏡の前で、ひよりは自分のすっぴんをじっと見つめた。



「……うん。悪くない……かな?」



ほんの少しだけ、自信が芽生える。

そしてそのまま、優しくリップを引いた。
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