イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

文字の大きさ
55 / 177
第9章『きょうも、なんでもない一日。』

『女王様とカップ麺』

しおりを挟む
深夜0時を過ぎた頃、マンションの静寂を破るように、夜々のお腹が鳴った。



「………………」



キッチンの壁時計をちらりと見る。

冷蔵庫には残り物のパスタソース。だが、麺はない。冷凍ごはんもない。

代わりに、棚の奥から発見されたのは――



「おぉ……ノワール=クロエ、緊急事態用の糧を見つけたわ」



満足げにカップ麺を掲げる夜々。味はシーフード。賞味期限もギリギリセーフ。



「さあ、我が深夜の晩餐よ。湯を沸かすがいい!」



電気ケトルにスイッチを入れ、湯気が立ち始める。

すっぴんに部屋着、髪は三つ編みのまま。完璧な「オフ女王様」モードである。



「よし……注ぐわよ」



カップにお湯をそそぎ、蓋をピタッと──



……閉まらない。



「………………あれ?」



湯気で反り返ったフタが、カポカポと浮いてしまう。



「え、ちょっと待って、いやいやいや、閉じなさいよ。女王命令よ?」



言い聞かせても、紙は言うことを聞かない。



「ふた押さえ……ふた押さえ……っ!」



近くにあったものを試していく。



・コミックス第8巻(重さ不足)

・スマホ(傾いて滑る)

・箸ずれる

・ハンガー(意味不明)



「くっ……全ての民に見せられない姿すぎる……!」



最後は指で押さえる、という原始的手段に出た夜々。



そのまましゃがんでカウントを始める。



「いーち、にーい、さーん……っつー! あっつ!」



悲鳴を上げて指を引っ込める。



「なんで……! なんでこんな戦いが……!!」



女王様、カップ麺相手に敗北の危機。



ようやく3分が経過し、湯気がほどよく落ち着いた頃。

夜々は立ち上がり、カップを持ち上げた。



だがその瞬間、底がわずかに濡れていたためか――



「──ひゃっ!? や、やばっ……!」



滑った。

そして。



バシャアッ!



「きゃああああ!? 麺がぁあああっ!!」



フローリングに飛び散る、白いスープと柔らかくなりすぎた麺。



「……ぅう、せっかく……せっかく、私の夜食だったのに……っ」



床に膝をつき、しゃがみ込む夜々。

笑ってしまうほど、情けない格好だった。



「こんなとこ……誰にも……見られたくないわよ……」



その言葉が、フラグになるとは思いもせず。



◇ ◇ ◇



翌日。事務所の休憩スペース。

カップ麺の自販機を前にして、夜々は虚空を見つめていた。



(今日は大人しく、ボタン一つで済むやつにしとこ……)



だが、何かが気になった。

昨日の敗戦がフラッシュバックする。

お湯が多かったのか、スープが熱すぎたのか、蓋が裏切ったのか――。



そこへ。



「……夜々さん、昨日、夜中に叫びませんでした?」



唐突に背後から聞こえた低音ボイス。



「ッ……!?」



振り返れば、そこに立っていたのは――天城コウ。



マイペースで、どこか間の抜けた顔をしている。だが、その表情に含み笑いがあるのが気に障った。



「え、なに? どういうこと?」



夜々が眉をひそめて問い返すと、コウはスマホを取り出し、イヤホンを差し出した。



「昨日の自分の配信アーカイブ、チェックしてたらさ……これ、10分50秒あたり」



何の気なしに受け取ったイヤホンを耳に当てた瞬間。



『麺がぁあああっ!!』



夜々の叫び声が、鮮明に。



「うわああああああっ!?!?」



イヤホンを弾き飛ばし、顔を真っ赤に染める。



「な、なんで入ってるの!? 嘘でしょ!? 配信されてたの!? え、待って待って、あれ私じゃないしっ!」



必死の言い訳。だがコウは、にやにやと笑いながらコーヒーを飲んでいる。



「いやあ……夜中に何が起きてたのか、想像しちゃうよなあ……」



「やめろおおおお!!」



「たぶん……蓋が閉まらなかったとか?」



図星すぎて、夜々は椅子の陰に隠れる。



「わ、笑ったら……殺す……!」



それでも笑いを堪えきれないコウに背を向け、夜々はそそくさとその場を立ち去った。



◇ ◇ ◇



夜、自室。



こっそり配信アーカイブを開いた夜々。

イヤホンを耳に押し込んで、10分50秒に再生バーを合わせる。



──『麺がぁあああっ!!』



自分の悲鳴が、思ったよりも情けなく響いた。



「……まじで入ってる……バカ……」



毛布を頭からかぶって、しばらくそのまま動けなかった。



でも、少しだけ笑ってしまったのも事実で。



「……誰にも見せないって、決めてたのに」



誰かが、聞いてくれるだけで。

ほんの少し、気が楽になることって……あるのかも。



夜々はカップ麺のパッケージを抱きしめながら、電気を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

処理中です...