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6巻
6-1
1
大学生の俺、一ノ瀬陽翔は、異世界にあるグレスハート王国という小さな国の第三王子フィル・グレスハートとして転生した。
束縛だらけだった前世から、気楽な末っ子王子になった俺。
国にいては目立つので、平穏を求め鉱石屋の息子フィル・テイラとして、ステア王国の学校に留学することにした。
精霊と契約していることは一部の生徒にばれてしまったが、伝承の獣ディアロスを召喚獣にしていることは幼馴染のアリスと従者のカイルしか知らないし、動物や妖精と話せることは二人の他には仲の良い友人であるレイとトーマとライラにしか教えていない。
入学してから何かと目立ってしまっているから、少し気をつけないと……。
この学校で鉱石や召喚獣のことをたくさん学び、のんびり悠々自適な生活を送る予定なんだから。
と、思っていたんだけど……。
召喚学の課外授業で、ウォルガーと召喚獣契約をした結果、再び先生や同級生に注目される事態になってしまった。そのウォルガーは仲間に置いていかれ寂しがっていたので、俺の家族として迎えたのだが、空を飛ぶ姿が都市伝説になるほど希少な動物だったのがまずかったらしい。
学校の長期休みで二ヶ月空いたから、その間に皆の俺への関心が薄まってくれていることを願おう。
新学期から気を引き締めて、また新たな気持ちでのんびりスクールライフを目指すぞっ!
そんなわけで、冬の長期休みに実家であるグレスハート王国でのんびり過ごした俺は、新学期に間に合うようアリスとカイルと共に学校へ向かっていた。
移動はもちろん里帰りの時と同様、ウォルガーのルリに乗ってだ。
速いので日程が短くて済むし、休憩を好きな時にとれるため体の負担も少ない。モフモフのルリの上にいるんだから、衝撃が少なく最高なフライトである。
【フィル様、急げば今日中にステア王国に着けそうですけど、どうしますか?】
ルリの問いかけに、俺はその背中を撫でながら言った。
「いや、ゆっくりでいいよ。無理してもきっと夜になっちゃうだろうし、ルリも疲れるでしょう? まだ学校が始まるまで日数があるんだから、寄り道しながら行こう」
【はい! 私はいっぱい飛べるので、嬉しいです。コクヨウさんは乗り心地いかがですか?】
【うむ。馬車での移動より、空で移動したほうが景色が良い】
子狼姿になっているディアロスのコクヨウは、ルリの頭の上にちょこんと座り、優雅に辺りを見回す。
まるでお殿様であるかのような口ぶりだ。
【ありがとうございます!】
ルリはそれを褒め言葉ととらえたのか、嬉しそうな声でお礼を言った。
「景色がいいことには同意するけど、落ちないように気をつけてよ」
ルリには、専用の鞍がついている。俺たちは鞍に乗って安全ベルトをつけているから落ちる心配はないが、コクヨウにはそれがない。突風が吹いたら、ルリの頭からすべり落ちるんじゃないかとひやひやする。
すると、コクヨウは俺を振り返ってフンと鼻息を漏らした。
【落ちるほど間抜けではないわ。だいたい、落ちたとて問題ない。大きな姿に戻れば良いのだ】
軽い口調で言われ、俺は呆れる。
「大きくなったらダメなんだってば」
確かにコクヨウは小山ほどの大きさになれるかもしれないけど、そんなに巨大な狼が出現したらさすがに騒ぎになるだろう。
希少種であるルリは目立つため、街道や大きな町を外れて高いところを飛んでもらっている。そうやって人目を避けているというのに、大きなコクヨウが現れては元も子もない。
このグラント大陸では伝承の獣ディアロスを知らない人が多いとはいえ、空から突然巨大な黒い狼が降ってきたら恐怖で大パニックだよ。
すると、ルリと並走している精霊のヒスイがクスクスと笑う。
【フィル、大丈夫ですわ。コクヨウが落ちたら、大きくなる前に私が助けますから】
「お願いね。コクヨウは落ちたら本当にやりそうだからさ」
俺は脱力気味に言う。それから、アリスを振り返った。
「アリスは大丈夫? もうルリに乗っていても怖くない?」
普段は大人しいルリであるが、もともとは高速飛行やアクロバット飛行を好む性格だ。俺が初めてルリに乗った時、アリスも一緒にその高速アクロバット飛行を味わっていた。
俺の召喚獣となった今、ルリは『人を乗せている時は安全飛行』という約束を守っているのだが……。アリスはあの時の恐怖を忘れられなかったらしく、旅の初日はひどく緊張しているようだった。
だが、今は顔に少し余裕が感じられる。飛行三日目にして、ちょっと慣れたのだろうか。
「飛ぶ速度を落としてもらっているからかしら? この程度なら大丈夫みたい。初めは高いことも怖かったのだけど、慣れたら景色を見る余裕が出てきたわ」
アリスの微笑みは無理を言っている様子でもなく、俺は安心する。
「僕も大自然を一望できるから、この空からの景色が好きなんだ。でも、良かった。途中で『怖いからここからは馬車で行く』って言われたら、どうしようかと思ってたんだ」
そんな万が一を想定し、余裕をもった日程を組んではいたが、途中から馬車移動となると結構ギリギリの到着になってしまう。
俺がホッと息をつくと、アリスは口元を押さえながら笑った。
「あら。そんなこと言わないわよ。ふわふわの雲には触れないって知ったのはちょっと残念だったけど、空から見る風景がこんなに綺麗だなんて思わなかったわ。ライラもきっと気に入ると思う」
「そうだといいな。あ! ならレイやトーマも、慣れればルリに乗れるかな?」
俺が期待して聞くと、カイルとアリスは困った表情で唸った。
「二人とも相当怖がっていましたし、どうですかね?」
「そうね。慣れる以前に、そもそも乗ってくれるかどうか……」
「ダメかな? 皆で一緒に空を旅できたら、楽しいと思うんだけどなぁ」
カレニアからステアまで寄り道しなければ二日の行程だが、今回はアリスも楽しめるよう滝や花畑に寄って、のんびりと観光しながらやってきた。
ライラやレイやトーマも、参加すればきっと楽しんでくれると思うのだが……。
「なら、駄目もとで誘ってみる? 私も皆と一緒に、旅を楽しみたいもの」
「そうですね。これから何度か帰省する機会がありますから」
アリスとカイルの優しい言葉に、俺は微笑んで頷く。
その時、ふとヒスイが何かに反応した。
コクヨウも同様に、ヒスイが見ている方向を注視している。
「どうかした?」
【強い力を感じるな】
「力?」
コクヨウの呟きに首を傾げると、ヒスイが嬉しそうに前方を指す。
【フィル、あの辺りに精霊たちの気配を感じますわ!】
そちらには、頂上が平らな高い岩山があった。まるで高層ビルのようだ。その岩山の頂上に茂る木々には、色とりどりの花が咲いている。
季節は春といえども、あの場所にだけ花が満開なんて不思議だな。
精霊たちがいると言われれば、確かに溢れんばかりの植物の生命力を感じる。
「精霊たちってことは、精霊が複数いるの?」
俺が聞き返すと、ヒスイは笑顔でコクコクと頷く。
精霊は自然を司り、妖精の上位に位置する存在だ。古い時代は多くいたそうだが、今はあまり見かけなくなったという。俺もヒスイ以外の精霊には、まだ会ったことがなかった。
グラント大陸は広いから、精霊もどこかにいるかもと思ったが、それでも一ヶ所に集まっているって相当珍しいことじゃないだろうか。
「精霊。そう言えば……」
俺の『精霊』という言葉で、アリスは何かを思い出したらしい。
「私、ライラや他の女の子と一緒に、馬車でゆっくり街を観光をしながら里帰りしたでしょう。その時に街で聞いたんだけど、岩山の上で精霊がお祭りをするって言い伝えがあるらしいの。ここから話を聞いた街は近いから、もしかしたらそのお祭りじゃないかしら」
「精霊の祭り?」
カイルが驚いて聞き返す。アリスは間違いないと、コクリと頷いた。
「そう。この付近の森の精霊は、数年に一度、集まってお祭りをすることがあるんですって。岩山の上から楽しげな音楽が聞こえてきたら、その年は森の恵みが豊かになるって聞いたわ」
つまり豊穣をもたらす祭りということか。へぇ、それは楽しそうだな。
アリスの説明に、俺たちは感嘆の声を上げる。
すると、ヒスイが俺にズイッと顔を寄せてきた。
【フィル! 私、仲間に会ってみたいですっ!! 学校に向かわなくちゃいけないのはわかっていますけど、でも、ちょーっとだけ寄り道しませんか?】
ヒスイは指を組んで祈るポーズを作ると、うるうるとした瞳で俺を見つめる。
数年に一度と言っていたし、確かにこんなチャンスはそうないだろう。
「寮の到着期日まで、まだ数日は余裕があるから僕はかまわないよ。二人とも、いいよね?」
そう言いながら、アリスやカイルを振り返る。すると、二人は頷いて了承してくれた。
【ありがとうございます!】
ヒスイは嬉しそうにくるりと空中で一回転して、にっこりと微笑む。
ルリに言って岩山に近づいていくと、軽快な音楽が聞こえてきた。
静かに岩山に降り立ち、ルリに小さくなってもらった。そして鞍や荷物をひとところに置いて、木の陰から精霊たちをそっと覗く。
岩山の中央の広場には、大きくて平たい岩があって、それを舞台に精霊たちが横笛を吹いたり太鼓を叩いたりしていた。その岩の周りや空中では、精霊たちが輪になって踊っている。
誰も来ないと思っているのか、特に人目を忍んでいる様子はない。
「二十はいるでしょうか……。こんなにたくさんの精霊、初めて見ました」
カイルが精霊を見つめながら息を呑み、アリスは感嘆の息をついた。
「綺麗。まるで母さんが昔読み聞かせてくれた童話の光景みたいだわ……」
呟くその瞳は、踊る精霊たちの姿にすっかり魅入っている。
アリスの言う通り、精霊たちの祭りは幻想的でとても綺麗だ。
精霊は皆女性で、美しい容姿をしていた。ヒスイは薄く発光している以外は人間に近いが、踊っている彼女たちは浮世離れして見える。
髪はピンクやブラウン、緑や水色など、様々な色をしていた。着ているロングドレスやワンピースも、それぞれ色や形が微妙に違っているみたいだ。
「精霊と言っても、色んな見た目の精霊がいるんだね」
俺が小さな声で言うと、ヒスイは頷いて説明する。
【それは、精霊が繭であった時の、周りの環境が関係しているんです。繭の時に何の力を最も多く取り入れるかで、成熟した時の容姿が変わってくるんですわ】
精霊は幼体から繭の形態になり、百年の時間をかけて周りの力を取り込み、羽化して大人になる。ヒスイは人間である俺の力を取り込んだが、一般的な精霊は自然の力を得て羽化するのだそうだ。
おそらく頭や服に花がついている精霊は花から、木の枝を冠にしている精霊は樹木から力を得て羽化したんだろう。
すると、精霊たちがふいに踊りや音楽をやめて、こちらに視線を向けた。
【そこにいるのは、何者だ】
しまった。声をかけるタイミングをはかっていたら、その前に気づかれた。
警戒して戦闘態勢をとる精霊たちの前に、俺たちは慌てて出ていく。
「楽しくお祭りをしているところ、いきなりお邪魔してごめんなさい。僕はフィル。貴方たちに敵意はないんだ」
俺が笑顔でそう言うと、ヒスイは隣に立ち、スカートの裾を摘まんで精霊たちにお辞儀をした。
【はじめまして。私も貴方たちと同じ精霊です。私の生まれた近くには精霊がいなくて、たまたまこの岩山を通りかかったときに精霊の気配を感じ、つい来てしまいましたの】
説明を聞いた精霊たちは、少し警戒を緩めて仲間同士で囁き合う。
【確かに精霊みたいだけど、私たちとはちょっと異なるわね……】
【ええ、見たことない精霊の姿。まるで人間のようだわ】
精霊たちの中から、木の枝を冠にしている精霊が訝しげに尋ねる。
【その黒い獣から強い力を感じるけど、本当に攻撃してくるつもりはないの?】
俺はしっかり頷いて、足元にいるコクヨウとヒスイを順番に手のひらで指した。
「コクヨウは僕の召喚獣なんだ。攻撃させるつもりはないから安心して。ヒスイは貴方たちと少し違って見えるかもしれないけど、それは僕が羽化させたからで、精霊なのは間違いないよ」
あまり表情を動かさない精霊たちだったが、俺の説明にはさすがに驚いたらしい。仲間同士での囁きが多くなる。コクヨウはそんな精霊たちの前に一歩出ると、子狼姿から大きく姿を変えた。
【フィルの言う通り、こちらに危害を加える気はない。だが、お前たちがそれを信じず、攻撃を仕掛けてくるなら応じるつもりだ】
尊大に言って鼻息を吹かす姿に、俺は「こら」とコクヨウの首に抱きついた。
「コクヨウってば、何でそんな挑発するような言い方するわけ?」
【そうですわ! 私の同胞相手に、コクヨウ酷いです!】
俺とヒスイが言うと、コクヨウは煩いとばかりにフイッとそっぽを向いた。
【攻撃を仕掛けてくればの話だ。先にそう言っておかねば、甘くみられる】
【それでも酷いです!】
ヒスイは頬を膨らませて、コクヨウを睨む。
精霊はそんな俺たちの様子に呆気にとられていたが、しばらくして一人の精霊が近寄ってきた。
【どうやら貴方は、信用できる人間みたいね。それにしても、驚いたわ。精霊や獣の言葉がわかるばかりか、契約を交わしているなんて……】
【本当ね。人との契約は精霊の中でも稀だというのに、ましてやこんな小さな子供なんて……】
後に続いて集まった精霊たちも、興味ありげにヒスイとコクヨウと俺を見る。
「あの、もし良かったら、ヒスイだけでもこのお祭りに参加させてもらえないかな? 仲間と会えてとても嬉しいみたいなんだ」
俺が精霊たちにそう言うと、ヒスイは顔を綻ばせ、ぎゅっと抱きついてきた。
【ありがとうございます、フィル!】
「ヒスイ、まだ精霊たちから許可は貰ってないよ。気が早いって」
いきなり抱きつかれたので慌てると、ヒスイは少し腕を緩め、瞳を潤ませて俺を見つめた。
【フィルのその心遣いが嬉しいんですわ】
そう言って、再び俺を抱きしめる。精霊たちはそんなヒスイを見て、小さく笑った。
【人間によって羽化した精霊は、これほど喜怒哀楽が激しいものなのね。とても面白いわ】
それから、精霊たちはお互いの顔を見合わせて頷く。
【本来は精霊だけで行う祭りだけど、貴方たち全員を特別に招待しましょう】
「フィル様だけでなく、俺たちも祭りに参加していいんですか?」
カイルが驚いて尋ねると、精霊たちは頷いた。
【ええ、貴方からは闇の妖精の力を感じるわ。妖精に好かれている人間に、心根の悪い者はいないもの】
【この女の子も、とても綺麗な気を纏っていて気に入ったしね】
そう言って花をつけた精霊が、アリスの首に花飾りをかけた。
「ありがとう」
言葉がわからないながらも、アリスが花飾りに対してお礼を言うと、精霊は微笑を浮かべる。
【さあ、ようこそ精霊の祭りへ】
精霊に手を引かれ、笛の音とともに祭りは再開された。
精霊は食事を取らないのだが、俺たちのために色々な果物を用意してくれた。中にはこの季節に採れないものや、見たことのないものもある。
【精霊の用意した果物だけあって、なかなか美味だな】
【美味しいですね!】
口元を果汁だらけにして食べるコクヨウとルリに苦笑し、俺は岩の舞台に目を向ける。
そこでは花の精霊が花吹雪を散らし、ヒスイを含めた精霊たちが音楽に合わせて踊っていた。
「とっても綺麗ね! フィル!」
アリスが流れてきた花びらを、手のひらで受けながら微笑む。そう言うアリスの黒髪には、花びらがたくさんついていた。
いつもしっかりしているアリスだけど、こうしてはしゃいでいる姿も無邪気で可愛い。
「アリス。髪についた花びらが、花飾りみたいで可愛いよ」
思ったことを素直にそう告げると、アリスは恥ずかしそうに頬を赤らめ、俺を上目遣いで見た。
「フィルだって頭についてるわ」
指摘されて自分の頭を触ると、確かに花びらがついていた。とはいえ、花吹雪は絶えず舞っているから、今払ったところでどうにかなるものでもない。
花びらを落とすのを諦めてアリスと笑っていると、闇の妖精のキミーが俺たちのもとへ飛んできた。
カイルの傍には仲の良い闇の妖精たちがいて、キミーはその中でも社交的だ。
普段はカイルの影に隠れているが、たまに出てきて俺に話しかけたりするのは、キミーだけだった。
そんなキミーは俺の目の前で、腰に手を当てて頬を膨らませる。
【フィル様たちはまだいいじゃない。似合うんだもの! カイルは似合わないのよ!】
そう言って、カイルの方を指さす。
俺がそちらを見ると、ピンク色の花びらを頭につけて困っているカイルがいた。
クールなカイルには、ピンクの花は確かにあまり似合わないな。だけど、カッコイイ少年の背景に花が舞っているのは、少女漫画にありそうなシーンでもあった。
思わず噴き出し、キミーの姿も声もわからないアリスに、カイルの方を指さして教える。
アリスは口元に手を当てて、小さく笑った。
「花がついてると、カイルも何だか可愛く見えるわね」
「だよね」
「アリスもフィル様も、笑わないでください」
カイルは恥ずかしいのか、少し拗ねた口調で言った。
そんな精霊の祭りは夜まで続いて、俺たちはそのまま岩山の上で野宿することになった。
祭りは夜通しで行うらしいが、俺たちが眠気に耐えられずうとうとしていると、精霊たちが蔦で造った簡易テントや、柔らかな干し草のベッドを用意してくれた。
干し草のベッドの上に、俺の召喚獣で袋鼠のテンガが出してくれたシーツを敷いて、ダイブする。
ボリュームのある干し草は意外にも寝心地が好くて、干し草の香りもホッとするものだった。
「眠気でベッドに吸い込まれる……」
「いつもフィル様がお休みになる時間から、大分夜更かししていますからね」
カイルの言葉に、欠伸をしながら頷く。
それに精霊の祭りは歌って踊って騒いでと賑やかだったので、ほとんど見ているだけだったとはいえ、自分が思っているよりも疲れてしまったらしい。
テントの衝立の向こうでは、アリスの寝息が聞こえた。
再び欠伸をする俺に、ヒスイとコクヨウがテントの出入り口から声をかけてきた。
【おやすみなさい、フィル。私は、踊り明かしますわ!】
【我も寝る前に、もう少し先ほどの果物を摘まんでくる】
ヒスイは興奮気味に言い、コクヨウも足取り軽やかに出て行く。
俺と比べてはいけないのはわかっているが、ヒスイもコクヨウも元気だなぁ。
テントの外から聞こえる曲は、いつの間にかゆったりとした曲調になり、精霊たちの歌声が加わっている。まるで子守唄のようなそれを聞きながら、俺は気づくと寝てしまっていた。
次の日の朝、また賑やかになった笛や太鼓の音で俺たちは目が覚めた。
祭りのことをすっかり忘れていたから、何事かと思ったよ。
ともあれ、初めて参加した精霊の祭りは、とても楽しかった。
人間と関わりを持つことの少ない精霊にとっても、今回の出会いは刺激的だったようだ。
【人間との祭りも楽しかったわ。もう一日くらい祭りに参加していっても良いのに】
引き止める精霊たちに、俺たちは笑う。
祭りは楽しかったが、精霊のタフさを考えたら、ついて行ける自信がない。
「何年か後にやる時に、また参加させて」
そう言って、俺たちは精霊たちに別れを告げたのだった。
2
思いがけず精霊の祭りに参加した俺たちは、帰寮をさらに一日遅らせてドルガドの温泉でまったりした後、ステアに戻った。
ステア王立学校は二ヶ月の冬休みの間に、随分様変わりしていた。
出立する時は雪が積もっていたのに、今は青々とした芝が生え、花壇には花が咲いている。
アリスと別れて男子寮に入り、俺とカイルはまず寮母さんに帰寮の挨拶をした。
「あらあら、随分ゆっくりだったわね。男子寮では多分貴方たちが最後よ。はい鍵」
寮母さんはにっこりと笑って、二つの部屋の鍵を差し出した。カイルはそれを受け取って、軽く頭を下げる。
「ありがとうございます」
俺の部屋の鍵を受け取ろうと手を差し出すと、カイルはそのままポケットに二つの鍵を突っ込んだ。
「フィル様の部屋は通り道ですから、後で渡しますよ」
「……そう?」
別に今渡してもそう変わらないと思うのだが……。
首を傾げつつ部屋に向かおうとすると、俺に気づいた同級生や先輩方が、わらわらと集まってきた。
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