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書籍5巻該当箇所 (第12の3分の2~第14章)
車輪 (里帰り中・タルソ村山神祭り後の話)
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「疲れる前に楽したいって……、フィル様って子供らしくない事言いますよね」
呆気にとられた顔のカクさんに、俺はギクリとする。
「それを言ったら、もともと子供らしくない考え方される方だろう」
今更だと言って笑うスケさんに、俺はさらにギクリとする。
やはり端々に子供らしくないところが出てるのか…。
でも、仕方ないよなぁ。中の年齢は子供じゃないし。
とはいえ、周りにその事実を言えるわけもない。
俺は体験者だから、信じるけどさ。転生の存在を知らない人に「俺は転生者だ!」って宣言したら、まず「どうしたお前、大丈夫か?」ってなるもんな。
これ以上、父さんに悩みの種を増やしてはならない。
俺は話を逸らすべく、口を尖らせて拗ねてみせた。
「僕は普通の子供だよ。こういう面倒くさがりな性格なの」
すると、カクさんは困り顔で言った。
「あの…、ディアロスを召喚獣にしてる時点で、フィル様は普通の定義からははずれるかと……」
スケさんやカイルも深く頷くので、俺は『その指摘は受け付けない』とばかりに顔をプイと逸らす。
そのやり取りに、アリスがくすくすと笑った。
「それにしても、このキックボードってとても面白そうね。乗り方にコツはいらないのかしら?」
「興味ある?難しくないよ。もし欲しいなら、アリスにも作ってあげる」
俺がにっこりと微笑むと、アリスは目を輝かせた。
「本当?嬉しい!」
「それなら、レイやライラやトーマにも作ってあげようかな。作ってあげる前に、少し本体を改良してからにはなるけど……」
俺がそう言うと、カイルが少し不安げな顔で首を傾げた。
「改良って……何か問題ありましたか?滑っている状態は、問題なかったと思いますが……」
一緒にキックボードを作ったカイルとしては、改良すべき問題点が気になるのだろう。
俺はそんなカイルに首を振って、小さく笑った。
「動きは問題ないよ。ただ、本体をもっと軽くしたいだけ。持ち運んだり、上り坂を押していくことを考えたら軽い方が良いから。疲れたくないのに、キックボードのせいで疲れたら意味ないでしょ」
俺が肩をすくめて言うと、スケさんが澄んだ瞳でパチパチと手を叩く。
「さすがです!楽したい気持ちに、揺るぎがないですね!」
スケさん……。心から感心しているらしいが、その言い方だと軽くディスられてる気分になるのだが……。
俺はひとつ息をつくと、気を取り直してキックボードに視線をやる。
「とりあえず、もっと軽くて丈夫な材木に変更して、強度を確保しつつ薄くしようかと思ってる。まぁ、作業としてはそんなに難しくはないよ」
俺が笑うと、アリスも嬉しそうに頷いた。
「ライラ、こういうの好きだから、喜ぶと思うわ」
そうだろうな。もともと活発な性格だし、根っからの商売人である彼女は、新しい物にとても敏感だ。学校にいる時も、新しい商品を見つけると、自分で試して実家に報告したりしていた。
俺の開発した石鹸も、ライラの推薦だもんな。おかげで売れ行きは大変好調である。
「ライラにあげたら、このキックボードの商品化を希望しそうですね」
カイルはライラの反応を想像してか、小さく笑う。俺は眉を寄せ、腕組みして唸った。
「やっぱり、そう思う?でも、これはあくまでも別の物を作る過程で、試しに作ったようなものだからなぁ。商品化は、するつもりないんだよね」
アリスはキョトンとした顔で、首を傾げた。
「別の物って?」
「身近なところでは、台車や車いすの車輪。トカゲの親分の皮は、他のノビトカゲの皮より分厚いでしょ。衝撃が軽減できると思うんだ」
俺が言うと、皆感嘆の息を漏らす。
「それって、とっても素晴らしいわ!」
アリスが俺の手をぎゅっと握り、スケさんたちが微笑んで頷く。
「俺もいい考えだと思います」
「そのアイディアは、国王陛下にもお話されたんですか?」
カクさんに尋ねられ、俺はしょんぼりと肩を落とした。
「あ…うん…。父さんにもダグラス宰相にも話した…。協力してくれるって言ってた…」
アイディア出していなきゃ、俺今頃どうなっていたか……。
俺はその時のことを思い出して、遠い目をする。
祭りが終わり、村長が父さんに祭りの詳細を報告しに来た後のことだ。俺は一人、父さんとダグラス宰相のいる執務室に呼び出された。
執務室に呼び出される時って、いい記憶があまりない。
「村長の話では、洞窟で儀式が終わる頃、山神の御使いが現れ、虹の柱が出現したと聞く。まさに奇跡の光景であったと……。その奇跡の場に、お前が居合わせたのは偶然か?」
父さんに尋ねられた俺は、「偶然だ」と首ふり人形みたいな動きで頷いた。そしてトカゲの親分の皮の使い道を提案することで、話題をそちらへすりかえたのだった。
だけど、あれ……99パーセント確信して聞いてたよな。それ以上聞かなかったのだから、見逃してくれたのだろうが…。
村長たちには気付かれていないし、おかげでトカゲの親分の皮をゲットできたのだから、掘り下げなくてもいいのになぁ。
俺は深くため息を吐く。
トーンダウンした俺に、皆は何かあったのだと察したのだろう。
カイルは明るめの声で、話題を変えた。
「洞窟の奥には、運びきれなかったあのノビトカゲの皮がまだ残っていますし、ノビトカゲは年に六度脱皮しますから、たくさん作れそうですね」
俺はその気遣いに、小さく微笑む。
「うん。だけど、他にも使いたい物があるんだ。馬車の車輪とか」
「「「「馬車の車輪?」」」」
皆の声が、綺麗に揃った。
「今使われている木製の車輪では、耐久性がないでしょ。木製の車輪の外側に、鉄の輪をつけて耐久性をあげたものもあるけど、それよりはこっちの方がいいんじゃないかと思って」
カクさんは感心したのか、大きく息を吐いた。
「なるほど……あのノビトカゲの大きな皮なら、馬車の車輪も覆えますし、一枚で幾つかとれますね」
「それに皮なら車輪に合うように切るだけですし、取り付けるのも楽だと思います」
カイルが顎に手をあてて言い、アリスはにっこりと微笑む。
「そんな車輪がついていたら、とても嬉しいわ。ゆっくりの移動でも、やっぱり馬車はガタガタして大変だもの」
そう。学校に行く時辛かった馬車の旅で、馬車の改造は不可欠だと思ったんだよね。
街道は舗装されていても、街から離れるとだんだん整備が行き届かず、荒れていることが多い。ゼンじいの素晴らしい手綱捌きでも、結構な衝撃なのだ。
「出来れば、馬車にサスペンションも取り付けたいんだよなぁ。そうしたら乗り心地も段違いだと思うし……」
俺が腕組みしながらブツブツと言うと、スケさんは眉を寄せる。
「さ、さすぺ……?また、フィル様が俺の理解できないこと仰ってる」
俺がハッとして見れば、他の皆も似た顔付きで俺を見ていた。
「え、えっと~、ガタガタ軽減の装置だよ。車輪が上下に動いても、乗ってる部分にその振動が伝わりにくいっていう……」
俺が簡単に説明すると、スケさんはこれでもかと言うくらい目を見開いた。
「ええっ!!すごいじゃないですかっっ!!あ…いててて」
大きな声で叫んだかと思うと、すぐさま頭を抱える。自分が二日酔いなのを忘れていたようだ。
俺はそんな彼に小さく息を吐いて、話を続ける。
「加工のボイド先生に、板バネを作れるか試してもらってはいるんだけど……」
休み前に話をしたら、快く引き受けてくれた。「面白い発想だね!是非協力させてくれ!」とプレゼントを貰った子供みたいにはしゃいでいたな。
成功してくれているといいのだけど。
俺がそんなことを思っていると、カクさん達がジッと俺を見ているのに気が付いた。
「ん?何?どうしたの?」
何でそんな、何とも言えない表情してるの。
「やはりフィル様は、普通の子供じゃないと思います……」
その指摘は受け付けないって、さっき意思表示したじゃない……。
呆気にとられた顔のカクさんに、俺はギクリとする。
「それを言ったら、もともと子供らしくない考え方される方だろう」
今更だと言って笑うスケさんに、俺はさらにギクリとする。
やはり端々に子供らしくないところが出てるのか…。
でも、仕方ないよなぁ。中の年齢は子供じゃないし。
とはいえ、周りにその事実を言えるわけもない。
俺は体験者だから、信じるけどさ。転生の存在を知らない人に「俺は転生者だ!」って宣言したら、まず「どうしたお前、大丈夫か?」ってなるもんな。
これ以上、父さんに悩みの種を増やしてはならない。
俺は話を逸らすべく、口を尖らせて拗ねてみせた。
「僕は普通の子供だよ。こういう面倒くさがりな性格なの」
すると、カクさんは困り顔で言った。
「あの…、ディアロスを召喚獣にしてる時点で、フィル様は普通の定義からははずれるかと……」
スケさんやカイルも深く頷くので、俺は『その指摘は受け付けない』とばかりに顔をプイと逸らす。
そのやり取りに、アリスがくすくすと笑った。
「それにしても、このキックボードってとても面白そうね。乗り方にコツはいらないのかしら?」
「興味ある?難しくないよ。もし欲しいなら、アリスにも作ってあげる」
俺がにっこりと微笑むと、アリスは目を輝かせた。
「本当?嬉しい!」
「それなら、レイやライラやトーマにも作ってあげようかな。作ってあげる前に、少し本体を改良してからにはなるけど……」
俺がそう言うと、カイルが少し不安げな顔で首を傾げた。
「改良って……何か問題ありましたか?滑っている状態は、問題なかったと思いますが……」
一緒にキックボードを作ったカイルとしては、改良すべき問題点が気になるのだろう。
俺はそんなカイルに首を振って、小さく笑った。
「動きは問題ないよ。ただ、本体をもっと軽くしたいだけ。持ち運んだり、上り坂を押していくことを考えたら軽い方が良いから。疲れたくないのに、キックボードのせいで疲れたら意味ないでしょ」
俺が肩をすくめて言うと、スケさんが澄んだ瞳でパチパチと手を叩く。
「さすがです!楽したい気持ちに、揺るぎがないですね!」
スケさん……。心から感心しているらしいが、その言い方だと軽くディスられてる気分になるのだが……。
俺はひとつ息をつくと、気を取り直してキックボードに視線をやる。
「とりあえず、もっと軽くて丈夫な材木に変更して、強度を確保しつつ薄くしようかと思ってる。まぁ、作業としてはそんなに難しくはないよ」
俺が笑うと、アリスも嬉しそうに頷いた。
「ライラ、こういうの好きだから、喜ぶと思うわ」
そうだろうな。もともと活発な性格だし、根っからの商売人である彼女は、新しい物にとても敏感だ。学校にいる時も、新しい商品を見つけると、自分で試して実家に報告したりしていた。
俺の開発した石鹸も、ライラの推薦だもんな。おかげで売れ行きは大変好調である。
「ライラにあげたら、このキックボードの商品化を希望しそうですね」
カイルはライラの反応を想像してか、小さく笑う。俺は眉を寄せ、腕組みして唸った。
「やっぱり、そう思う?でも、これはあくまでも別の物を作る過程で、試しに作ったようなものだからなぁ。商品化は、するつもりないんだよね」
アリスはキョトンとした顔で、首を傾げた。
「別の物って?」
「身近なところでは、台車や車いすの車輪。トカゲの親分の皮は、他のノビトカゲの皮より分厚いでしょ。衝撃が軽減できると思うんだ」
俺が言うと、皆感嘆の息を漏らす。
「それって、とっても素晴らしいわ!」
アリスが俺の手をぎゅっと握り、スケさんたちが微笑んで頷く。
「俺もいい考えだと思います」
「そのアイディアは、国王陛下にもお話されたんですか?」
カクさんに尋ねられ、俺はしょんぼりと肩を落とした。
「あ…うん…。父さんにもダグラス宰相にも話した…。協力してくれるって言ってた…」
アイディア出していなきゃ、俺今頃どうなっていたか……。
俺はその時のことを思い出して、遠い目をする。
祭りが終わり、村長が父さんに祭りの詳細を報告しに来た後のことだ。俺は一人、父さんとダグラス宰相のいる執務室に呼び出された。
執務室に呼び出される時って、いい記憶があまりない。
「村長の話では、洞窟で儀式が終わる頃、山神の御使いが現れ、虹の柱が出現したと聞く。まさに奇跡の光景であったと……。その奇跡の場に、お前が居合わせたのは偶然か?」
父さんに尋ねられた俺は、「偶然だ」と首ふり人形みたいな動きで頷いた。そしてトカゲの親分の皮の使い道を提案することで、話題をそちらへすりかえたのだった。
だけど、あれ……99パーセント確信して聞いてたよな。それ以上聞かなかったのだから、見逃してくれたのだろうが…。
村長たちには気付かれていないし、おかげでトカゲの親分の皮をゲットできたのだから、掘り下げなくてもいいのになぁ。
俺は深くため息を吐く。
トーンダウンした俺に、皆は何かあったのだと察したのだろう。
カイルは明るめの声で、話題を変えた。
「洞窟の奥には、運びきれなかったあのノビトカゲの皮がまだ残っていますし、ノビトカゲは年に六度脱皮しますから、たくさん作れそうですね」
俺はその気遣いに、小さく微笑む。
「うん。だけど、他にも使いたい物があるんだ。馬車の車輪とか」
「「「「馬車の車輪?」」」」
皆の声が、綺麗に揃った。
「今使われている木製の車輪では、耐久性がないでしょ。木製の車輪の外側に、鉄の輪をつけて耐久性をあげたものもあるけど、それよりはこっちの方がいいんじゃないかと思って」
カクさんは感心したのか、大きく息を吐いた。
「なるほど……あのノビトカゲの大きな皮なら、馬車の車輪も覆えますし、一枚で幾つかとれますね」
「それに皮なら車輪に合うように切るだけですし、取り付けるのも楽だと思います」
カイルが顎に手をあてて言い、アリスはにっこりと微笑む。
「そんな車輪がついていたら、とても嬉しいわ。ゆっくりの移動でも、やっぱり馬車はガタガタして大変だもの」
そう。学校に行く時辛かった馬車の旅で、馬車の改造は不可欠だと思ったんだよね。
街道は舗装されていても、街から離れるとだんだん整備が行き届かず、荒れていることが多い。ゼンじいの素晴らしい手綱捌きでも、結構な衝撃なのだ。
「出来れば、馬車にサスペンションも取り付けたいんだよなぁ。そうしたら乗り心地も段違いだと思うし……」
俺が腕組みしながらブツブツと言うと、スケさんは眉を寄せる。
「さ、さすぺ……?また、フィル様が俺の理解できないこと仰ってる」
俺がハッとして見れば、他の皆も似た顔付きで俺を見ていた。
「え、えっと~、ガタガタ軽減の装置だよ。車輪が上下に動いても、乗ってる部分にその振動が伝わりにくいっていう……」
俺が簡単に説明すると、スケさんはこれでもかと言うくらい目を見開いた。
「ええっ!!すごいじゃないですかっっ!!あ…いててて」
大きな声で叫んだかと思うと、すぐさま頭を抱える。自分が二日酔いなのを忘れていたようだ。
俺はそんな彼に小さく息を吐いて、話を続ける。
「加工のボイド先生に、板バネを作れるか試してもらってはいるんだけど……」
休み前に話をしたら、快く引き受けてくれた。「面白い発想だね!是非協力させてくれ!」とプレゼントを貰った子供みたいにはしゃいでいたな。
成功してくれているといいのだけど。
俺がそんなことを思っていると、カクさん達がジッと俺を見ているのに気が付いた。
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